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第465話 巨大エイ、空を駆ける

 横幅が実に120メートル以上もある巨大エイのマモノ、スピリットが空を飛んだ。自身の”暴風トルネード”の能力による強風を利用して、浮力に乗って飛び上がってみせたのだ。その横に長い身体に目いっぱい風を受けて。


「ギャオオオオオオッ!!」


 スピリットは、日向たち七人が乗る高速艇を空から追いかけながら、背中に乗せるヘイタイヤドカリたちに砲撃を行なわせる。装甲が薄めな甲板めがけて、ヘイタイヤドカリたちの砲弾が降り注いでくる。


「させるかっ! 弾幕を張って砲弾を撃ち落とす!」


「よし、では俺もそれに合わせよう」


 日向と本堂の両名が構えるガトリング式固定機銃が音を立てて回転。凄まじい勢いで弾丸を連射し、飛来してくる砲弾を撃ち落としていく。


 ……しかし、一発の砲弾が二人の弾幕をすり抜けてきた。

 甲板のど真ん中に命中する、その瞬間。


「おるぁッ!」


 日影が『太陽の牙』を振るい、砲弾を叩き落とした。

 砲弾は誘爆し、発生した黒煙は高速艇に置いていかれる。


「助かったぞ、日影」


「おう。……だが、スピリットの野郎、追撃を諦める気は無いみてぇだな」


「ギャオオオオオオ……!!」


 日影の言うとおり、スピリットは高速艇の追尾を継続している。どんどんスピードを上げてきて、とうとう高速艇の真上までやって来た。


 そしてスピリットは、突如として落下。

 巨大な暗い影が高速艇に覆いかぶさってくる。


「……す、スピリットが押し潰しに来たぞー!?」


「あんなのが降って来たら、一発でぺしゃんこだよー!?」


「と、とにかく撃つぞ日向! 今なら腹がガラ空きだ!」


「イヤぁぁぁ死にたくなぁぁい! 死にたくなぁぁぁぁい!!」


「狭山さん、早く逃げてください! 急いで! 全速力!」


『わ、分かってるとも! もうやってるよ!』


「クソ……間に合うか……!?」


「グオオオオオオオオ……!!」


 そして、スピリットの巨体が着水した。

 高速艇は、スピリットの身体の外に、ギリギリ逃れていた。

 スピリットが着水した際の大波で、船体が激しく揺れる。


「うわわわわわ……めっちゃ揺れる……」


「か……間一髪だったね……」


「皆、大丈夫? 誰も振り落とされてはいないかしら?」


「こっちは大丈夫ですよ的井さん」


「なら良かったわ。本堂くんたちは大丈夫?」


「問題ありません。しかしそれよりも、俺は目撃しました。船が揺れる際、的井さんの胸のたわわも激しく揺れた瞬間を」


「あらそう。ところで本堂くん、射的の的に興味はあるかしら?」


「ふむ。射的に興味……ではなく、射的の『的』に興味が……と来ましたか。俺を殺す気ですか」


「あるいは、藻屑とかにも興味はあるかしら?」


「海に捨てる気ですか」


「お二人さん、お喋りはそこまでだぜ。スピリットの野郎が来てるぞ」


 日影の言うとおり、スピリットが海面から顔を出してきた。鼻や口が付いた白い腹をこちらに向けている。そしてその口の前に、巨大な暴風の球を生成し始めた。


「ギャオオオオオオッ!!」


 暴風の球がある程度大きくなると、スピリットはそれを破裂させて、暴風のビームとして発射。竜巻状の強烈な風が海をえぐり、先ほどまで高速艇が走っていた場所を通過した。


「なんだ今の攻撃……!? メチャクチャやばそうな攻撃隠し持ってるぞアイツ……!」


「あ、あんなの喰らったら、この船なんか一撃で吹き飛ばされちゃうよぉぉぉ!?」


 シャオランが泣き叫ぶその向こうで、スピリットが再び暴風の球を作り出す。暴風ビーム、二発目の用意だ。


「ぎゃああああ!? 今度はガッツリこっちを見てるよぉぉ!? 今度は当たるって! 絶対当たるって! 間違いなく当たるってぇぇぇ!?」


『北園さん! ”雷光一条サンダーステラ”で迎え撃ってくれるかい!?』


「りょーかいです!」


 操縦席の狭山からの声を聞いて、北園が甲板の端に立ち、スピリットと相対する。左右の平の中で大きめの雷球を作り出し、それを一つに合体させて巨大な一つの雷球にする。作り出した雷球をスピリットに向けて、発射準備完了。


「”雷光一条サンダーステラ”っ!!」


 叫ぶと同時に、北園の両手の平から巨大な電気のビームが発射された。ビームは真っ直ぐ、物凄いスピードでスピリットに迫る。


「グオオオオオオオッ!!」


 スピリットも暴風ビームを発射してきた。

 巨大な光線と竜巻が、海の上でぶつかり合う。

 エネルギー砲の撃ち合いは、能力バトルの醍醐味だ。


「北園さん、負けるな! 頑張れ!」


「ううう……うりゃあああーっ!」


「グオオオオオオオ……ッ!!」


 壮絶な大砲の撃ち合いの結果は、相殺。

 北園の”雷光一条サンダーステラ”と、スピリットの暴風ビームは、互いの激突部分で大爆発を起こし、かき消えた。


「お……押し切れなかったぁ……頑張ったんだけどなぁ……」


『いや、あの凶悪な攻撃を防御できただけでも大助かりだ。よく頑張ってくれたね、北園さん』


「わーい褒められた!」


 アナウンス越しに狭山から褒められて、はしゃぐ北園。

 その一方で、シャオランが日向に声をかけていた。


「ねぇヒューガぁ!? もうさっさと”紅炎奔流ヒートウェイブ”撃っちゃって、この戦い終わらせちゃおうよぉぉ!? 今回のボク、直接戦うことができずにただ耐えるしかないから、いつも以上に恐怖を感じてるんだよぉぉぉ!?」


「気持ちは分かるけど、まだだシャオラン。スピリットは、海の中を出たり潜ったりしている。もし下手にヒートウェイブを撃って、スピリットに海の中へ逃げられたら、また五分間の冷却時間クールタイムを待たないといけなくなる。戦闘が五分長引くんだ、それはいやだろ?」


「絶対イヤだ!!」


「もう顔からしてメッチャ嫌そう。だから、確実に当てることができるタイミングまで待つんだ」


「けど、確実に当てることができるタイミングって、もう見当はついてるの? スピリットも、ここまでで色々な動きを見せてきたけど……」


「……うん。実は一つ、これならいけるかもって動きがあった」


「うひゃあ、もう見つけたの!? さすが! じゃあ信じてるからね! ヒューガは間もなく、ばっちりヒートウェイブを当ててこの戦いを終わらせてくれるって!」


「ぷ、プレッシャーだなぁ……」


 やり取りを終えたところで、日向たちは再び構える。

 スピリットは海から飛び出し、再び空へと舞い上がった。


「ギャオオオオオオッ!!」

「シシーッ」


 スピリットが空から高速艇を追尾しながら、背中のヘイタイヤドカリたちが砲撃を仕掛けてくる。日向と本堂は再び弾幕を張って砲弾を撃ち落とし、的井が狙撃でスピリットを攻撃。北園が電撃のビームで、背中のヘイタイヤドカリたちを薙ぎ払っていく。


「グオオオオオオオ……!!」


 スピリットが高速艇の真上を通過。

 離れたところで旋回し、再びこちらに戻ってくる。


「引き返してきた! もう一回弾幕を張ってやる……!」


 再び日向が固定機銃を構えて、引き金を引く。

 ……しかし、弾丸が発射されない。

 ガトリング式の銃身が虚しく回転するだけだ。


「……しまった、弾切れだ! だいぶ撃っちゃったからなぁ……!」


「日向! 俺の機銃を使え! お前ほど撃ってはいないから、こっちの機銃には弾が余っている! やはり俺よりお前の方が命中精度は上だ!」


「わ、分かりました本堂さん!」


「スピリットたちが仕掛けてくるわよ! 気をつけて!」


 的井の言うとおり、スピリットが再び高速艇に接近し、ヘイタイヤドカリたちが砲撃を仕掛けてきた。日向が弾幕を張って砲弾を撃ち落としていくが、やはり機銃が一門使えなくなったことで、弾幕が薄くなっている。日向が撃ち落とし損ねた砲弾が降り注いできた。


「ひ、日影! カバー頼む!」


「やってやるが、さすがに全弾は無理だぞ! お前ら、砲弾に当たらねぇように注意しろ!」


「私たちも、船を守ろう! 本堂さん、シャオランくん、いけそう!?」


「承った。やってみよう」


「ま、守るったって、ボクはどうしよう……。生身で受け止めるのは痛そうだし……って、砲弾が飛んできたぁぁぁ!?」


 甲板に飛来してくる砲弾を、日影が『太陽の牙』で叩き落とす。日影だけでなく、本堂も”指電”で砲弾を誘爆させ、北園も念動力サイコキネシスのバリアーで船を守る。シャオランは修理用の鉄板を盾にして砲弾を防いでいる。全員が一丸となって船を守っている。


 しかしそれでも、一部の砲弾は防ぎきれず、甲板に直撃した。

 二発、三発と、次々と。

 甲板の一部に穴が開き、船の端の柵が吹っ飛ばされた。


「イヤぁぁぁ沈没するぅぅぅぅ!?」


「大丈夫よシャオランくん! 損傷は依然として軽微! まだまだいけるから!」


 パニックになりかけたシャオランを、的井が静めた。


 ……しかし、船に乗っている皆は、気付かなかった。

 先ほど、一発の砲弾が甲板のさくを吹っ飛ばしたのだが、その柵には日向が命綱のフックを括りつけていたのだ。その柵が破壊されて、日向の命綱が外れてしまった。


 そしてこのことは、日向本人も気付いていない。


「砲撃の勢いが弱まってきた! 北園さん、電撃能力ボルテージで反撃!」


「りょーかいだよ!」


「私も援護するわ!」


 北園が電撃のビームをスピリットの身体に浴びせ、的井のマグナムスナイパーライフルがスピリットの顔面や腹を撃ち抜き、炸裂弾で内部から破壊する。

 そんな二人の猛攻を耐え切りながら、スピリットは高速艇の真上まで移動してきた。高速艇に暗い影がかかる。恐らくは、また先ほどの押し潰し攻撃を仕掛けてくるつもりだ。


「さ、サヤマぁぁぁ!! 早く逃げてぇぇぇぇ!!」


 シャオランが通信機で狭山に訴えるが、一方の狭山は何やらうなっていて、船を逃がす様子が無い。


「ち、ちょっとサヤマぁぁ!? このままじゃペシャンコだよぉぉ!?」


『ふーむ……この状況……もしかして、これってチャンスなんじゃないかい、日向くん?』


「あ、狭山さんもそう思います?」


『じゃあ、後は任せていいかな?』


「ええ。やってやりますよ」


「ふ、二人とも、何の会話してるのぉぉ!?」


 泣きわめくシャオランを余所に、日向は『太陽の牙』を呼び出し、上空から落下してくるスピリットに向かって構える。そして……。


「太陽の牙、”点火イグニッション”! からの”紅炎奔流ヒートウェイブ”ッ!!」


『太陽の牙』の刀身に紅蓮の業火を宿したかと思うと、日向は間髪入れず剣を振り下ろし、その業火をスピリットに向かって発射。炎の奔流は、落下してくるスピリットのど真ん中に命中した。


「グギャアアアアアアッ!?」


「よっしゃ、直撃!」


「わ、わぁぁ! やったぁ、ヒューガが当てたぁ!」


「言ったでしょ、確実に当てるタイミングは見当が付いてるって」


「あ……そういえば言ってたね、そんなこと。そのタイミングって言うのが、あの落下攻撃だったの?」


「うん。スピリットは、腹に顔が付いていない種類のエイだった。であれば、落下中は腹の下が見えていないんじゃないかなって。それに、こっちに落ちてくるってことは、こっちに近づいてくるわけだから、単純に当てやすい」


「な、なるほどぉ……」


「グギャアアアアア……」


 ヒートウェイブの直撃を受けたスピリットは、そのまま炎に押し返され、黒煙が尾を引きながら背中から海に落下し、沈んでいった。


 ……と、その時だ。

 スピリットがひっくり返った衝撃で、スピリットの背中から何かが降ってきて、高速艇の甲板の上、日向の目の前に落ちてきた。


「シシシ……」


「……あ、ヘイタイヤドカリ……」


「シシーッ」


 日向を見るや否や、ヘイタイヤドカリは日向に砲撃を放った。


「うぎゃあ!?」


 もんどりうって倒れる日向。

 ハサミを振り上げ、勝利を宣言するヘイタイヤドカリ。

 そのヘイタイヤドカリを、横からシャオランが蹴飛ばした。


「ていッ!」

「シシシ……」


 シャオランに蹴飛ばされたヘイタイヤドカリは、そのまま海に落ちた。


「大丈夫だった、ヒューガ?」


「熱っつぁぁつつつつ……。今日は何のダメージも受けることなく帰れると思ってたのに……」


「……あ、ヒューガ。さっきのヘイタイヤドカリの砲撃で、ライフジャケットが破けちゃったみたいだよ」


「うげ、本当だ。新しいのあるかな……」


「……でも、スピリットは倒したんだから、あとは船の中で大人しくしておけば、もう海に落ちる心配も無いんじゃないかなぁ」


「ギャオオオオオオッ!!」


「…………ぅぁぁあああ、なんだよぉ今の声ぇぇ……」


「さ、狭山さん! 今のは!?」


『うん! レーダーに依然として反応アリ! スピリットはまだ生きている!』


 狭山が言い終わるのと同時に、空の様子が変わる。暗い雲がかかり、風がさらに強くなってきた。これはもはや暴風の域だ。


 そして、高速艇の目の前の海が盛り上がり、その下からスピリットが飛び出してくる。


「グオオオオオオオ……ッ!!」


 手負いとなったスピリットは、両目に怒りの炎を宿していた。

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