表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
481/1700

第460話 SIDE ARMOURED

 一方その頃、ARMOUREDの三人は。


「……なんか、私たち、ずっと同じ場所を行ったり来たりしていませんか、大尉?」


「う、む、そうだな……。私もそんな気がしていた」


 三人は吹雪に包まれる森の中で、道に迷っていた。

 とはいえ、先導するマードックが方向音痴というワケではない。

 彼は作戦前に、この森の地理をあらかた頭に叩き込んでいる。

 おかしいのは、この森そのものだ。


「あの木ヲ見ロ、二人とモ。もしかシテと思ッテ俺が付けテオいたナイフの傷ガ、そのママ残ってルぞ」


「あ、本当です……! 私たち、ずっとまっすぐ歩いてきたから、元の場所に戻るはずは無いのに……!」


「この現象は……”濃霧ディープミスト”の『迷いの森』だな。霧などで相手の方向感覚を狂わせ、範囲内に閉じ込める異能力。報告で聞いたことがあるだけで、こうして体験するのは初めてだが、なるほど厄介だな」


「日影ヲ探しニ行くにハ、この『迷いノ吹雪』を発生サセているマモノを倒ス必要ガあるナ。さテ……連中ハこの近辺ニいルのか、それトモ遠クにいるノカ」


「アカネ、あなたなら敵を探し出せそう?」


(近くにいるなら、な。まぁとりあえず代わってみろや)


「分かったわ。お願いね」


 すると、レイカの黒髪が紅く変色し、青い瞳もまた紅に染まる。

 レイカの第二人格、アカネが表層に出てきたのだ。


「さぁて……ふんふん……」


 レイカと切り替わったアカネは、何かを探るように鼻を鳴らす。

 実は、アカネはレイカと比べて、非情に鼻がよく利くのだ。

 彼女はレイカと同じ肉体を使っていながら、レイカとは異なる身体能力を発揮する。筋力などがその代表的な例だ。


「ちっ……吹雪で鼻がつめてーぜ……」


「やはりこの吹雪の中では厳しそうか、アカネ?」


「……いや、ニオったぜ。ケモノくせぇニオイだ。コーネリアス、あの木を狙撃しな。あの木の後ろに隠れてるぜ」


「了解しタ」


 アカネに言われるや否や、コーネリアスは素早く対物ライフルを構え、一秒かからずに射撃。重厚な発砲音が鳴り響いたかと思うと、銃口の先の木が真っ二つにへし折れた。


「ギャンッ!?」


 そして、その木の後ろにいた中型の白狼のマモノに弾丸が命中。

 この中型の白狼は、マモノ対策室では『フブキオオカミ』の名前で呼ばれるマモノだ。ユキオオカミの上位個体にあたり、『星の牙』でもある。白い体毛を保護色にして三人を尾行していたが、レイカの鼻によって存在を暴かれてしまった。


 フブキオオカミは、まだ死んでいないがどてっ腹に穴を開けられた。雪原がおびただしい量の鮮血で染まる。


「あっはぁ! ビンゴぉ!!」


 コーネリアスの射撃に合わせて、アカネがフブキオオカミに向かって走っていた。フブキオオカミに向かって飛びかかり、身体を横向きに倒しながら、縦回転の居合を一閃。


「超電磁居合抜刀、”サーキュラースピン”ッ!!」


 丸ノコのように回転しながら、アカネがフブキオオカミを一刀両断。

 フブキオオカミは、身体が真っ二つになって息絶えた。



 レイカとアカネが操る高周波ブレード『鏡花』。これには、レールガンの技術を応用した抜刀機構が搭載されている。この機構を利用して放たれる居合斬りこそ、名付けて”超電磁居合抜刀”。


 レイカの居合抜刀は、その場から動かず神速の一太刀を繰り出すタイプだ。しかしアカネの居合抜刀は、自分ごと回転しながら居合を繰り出し、敵に向かって突っ込んでいくタイプ、またの名を”サーキュラースピン”。


 サーキュラースピンは、レイカの居合抜刀より攻撃範囲と殲滅力に優れているが、回転の勢いを殺さなければならないため、後隙が少し大きい。とはいえ、相手が既に息絶えているならば、その弱点も意味を成さない。アカネの攻撃性を体現したかのような剣技である。


「超常の生命力を誇る『星の牙』といえど、これだけ派手にぶった切ってやったら死んだだろ」


 ニヤリと笑いながら、刀に付着した血を払うアカネ。

 同時に、この辺りを包んでいた吹雪も治まった。


「よし、よくやったアカネ。引き続き、日影の奴をニオイで追えないだろうか?」


「ソイツぁさすがに無茶ってモンだぜ、旦那。そんな芸当ができるのは、それこそ犬くらいだぜ。アタシは確かに鼻に自信はあるが、お犬サマには敵わねぇよ」


「そうか……。ではやはり、少尉の予測に頼るしかないか」


「目星ハ付いてイル。恐らク、ソコの崖下に落ちていッタと思ウぞ」


「おっと、こんなところに崖かよ。『迷いの吹雪』で隠されて分からなかったぜ。んじゃ、アタシは義足の耐久力を信じて飛び降りるけど、アンタらはどうするんだ、男性陣?」


「ワイヤーを使ッテ降りル。こレクらいの崖ナラ問題なイ」


「私も飛び降りても問題は無いだろう。そのままでも着地できるだろうが、雪崩によってこの崖下が雪原になっているなら、雪がクッションになって衝撃もさらに緩和できるはずだ」


「よっしゃ。んじゃ、派手に飛び降りるかねぇ!」


 一刻も早く日影を見つけるために、三人は迷いなく崖下へと飛び降りた。



◆     ◆     ◆



 またその頃。

 こちらは、森の近くの町、そこの病院の一室。

 ジャックが眠っている病室である。


 ジャックが眠っているベッドの近くでは、狭山がタブレットを眺めている。任務に赴いた四人のオペレートのためなのだが、現在は通信が不安定なようだ。


 狭山の隣に座っていた北園が、狭山のタブレットを覗き見る。


「通信、繋がらないですね。みんなは『星の牙』と戦い始めたのかなぁ?」


「そうかもしれないね。ジャックくんがはぐれた時も『電波妨害』の能力が働いたと聞いた。今回出現した『星の牙』が、電波妨害の能力を持っていることは確定だ」


「みんな、無事に帰ってきますように……」


「きっと彼らなら大丈夫だよ。日影くんも強くなったし、ARMOUREDの皆も猛者揃いだ。彼らが力を合わせれば、何者であろうと後れを取ることは無いだろう」


「そうですね、きっと大丈夫……!」


「……しかし、最近、電波妨害の能力者が多すぎはしないだろうか。自分、全く活躍できないのだけど」


「あははは……。まぁそこは、マモノも狭山さんを恐れてるってことで」


「辛いねぇ……。とはいえ、極めて有効な戦術ではある。通信というのは、人間の戦闘において重要な役割を果たす役割だし、数百キロ以上も離れた相手にこちらの声を届けるなど、この地球上においては人間以外に真似はできまい。通信という物は、間違いなく人類が誇る最高峰かつオンリーワンな能力だ。それを封じるのは実に合理的……」


「ぐ……うう……ここは……」


「……あ、狭山さん! ジャックくんが目を覚ましたよ!」


 狭山の話の途中で、ジャックが目を覚ました。

 気だるそうに目を開けて、ベッドから上体を起こす。

 狭山もジャックのベッドに歩み寄り、彼に声をかける。


「ジャックくん、気が付いたんだね。具合はどうかな?」


「あ、ああ……特に悪いところは無い……と思うぜ……」


「そっか。それは良かった」


「……うん? サヤマ? なんでサヤマがここに?」


「私もいるよー」


「っと、キタゾノも一緒かよ。もしかしてここ、ニホンなのか?」


「いや、アメリカだよ。実はかくかくしかじかでね」


 狭山はジャックに現状を説明した。

 自分たちは、ジャックを治療するために日本からやって来たこと。

 日影とARMOUREDの残りのメンバーが、任務継続のために出撃していることを。


「……アイツら三人と、日影が、あの森に行ってるのか……!?」


 狭山の話を聞いたジャックの顔色が、青くなった。

 そして、真剣な表情で狭山に語り掛ける。

 彼がこんな表情を見せるなど、極めて珍しい。

 つまり、非常事態だ。


「サヤマ、今すぐ森に行った連中を呼び戻せ!」


「ど、どうしたんだい、ジャックくん? そんなに慌てて……」


「俺が戦ったマモノは、アンタの……ニホンチームの活躍の報告で見たことがあるヤツだった! アイツは間違いなくゼムリア……。マモノ陣営の幹部格だ!」


「なんだって……? ゼムリアが、あの森に?」


「ああ、そうだ! 俺は、あの森の奥で皆とはぐれた時、アイツと遭遇した! そして戦った! だが……手も足も出せずに負けた……!」


 そう言って、ジャックは語る。

 自分が、どのようにしてゼムリアに敗北したか。


 ゼムリアと相対したジャックは、まずいつも通りに、二丁のデザートイーグルを連射。ゼムリアはその場から動かない。


 しかしデザートイーグルの弾丸は、ゼムリアの氷の装甲に阻まれてしまった。


 弾丸が効かないと見たジャックは、次なる手を考える。

 スピードで撹乱かくらんして、弱点を撃ち抜くか。

 あるいは、手榴弾で氷の装甲ごと粉砕するか。

 いっそ、義手のパワーでぶん殴ってやろうか。


 一方、ゼムリアは未だにその場から微動だにせず。

 ただ、ジャックを見つめていた。


 すると。

 ジャックの身体が、凍り始めたのだ。

 ゼムリアは、ただジャックを見つめているだけ。


 気が付けば、ジャックの足まで既に凍ってしまい、逃げられなくなっていた。そしてそのまま、ジャックは氷の彫像に成り果ててしまった、というワケである。その後、駆けつけてきた仲間たちに保護されて、今に至る。



 以上の話をジャックから聞かされた狭山の表情からは、いつもの余裕が失せていた。


「君ほどの兵士が……相手に傷一つ付けられずに敗北したのかい……?」


「ああ……。だから、今すぐ皆を呼び戻せ、サヤマ。アイツは……ゼムリアは、今までのマモノと比べても圧倒的に規格外だ。少なくとも、何の対策も立てずに勝てる相手じゃねぇぞ……!」


「分かった、今すぐ皆を退却させよう。まだ通信は繋がらないから……北園さん!」


「りょーかいです! 精神感応テレパシーでみんなにメッセージを送りますね!」


「よろしく頼むよ!」


 狭山は北園に指示を出すと、森に向かった皆の身を案じて、窓の外を心配そうに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ