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第445話 動く鎧の中身

「アンタ……行方不明になっていたテレビ局の人間だよな? 名前は確か、白崎っていったか」


 引き続き、亜暮館の個室にて。


 行方をくらましてしまった北園を探していた日影とシャオランだったが、その途中で当初の救助対象の人間の一人である女性、白崎を発見した。彼女は地元テレビ局の新人アナウンサーで、この亜暮館にはホラー番組の取材に来ていたらしい。


「あ……あの……あなたたちはいったい……?」


「オレたちはマモノ討伐チームの人間だ。アンタらを助けに来た。ここに隠れていたのはアンタ一人か?」


「は、はい……。大きなネズミや、動く鎧に襲われて、他の皆さんとはぐれちゃって、一人でここに隠れてました……」


「そうかい……とにかく、アンタだけでも無事で良かった。もう一つ尋ねたいんだが、この館で見たマモノにどんな奴がいたか教えてくれねぇか? 少しでも敵の情報がほしい」


「えっと……大きなネズミと、動く鎧と……それから、小型犬くらいの大きさの蟲を見たような気がするんです……」


「蟲? ソイツはまだ見たことがねぇな……」


「それと……どんな姿かはよく分からなかったのですが、すごく大きな化け物もいるみたいなんです……。ここに逃げ込む前に、廊下でチラッと見かけて、怖くなってこのクローゼットの中に駆けこんで……」


「デカい化け物……ソイツが今回の『星の牙』か……?」


「あの……ところで、今は何日の何時何分でしょうか……。ずっとこのクローゼットに隠れていて、スマホの充電も切れて、時間の感覚が無くなってたんです……」


「あー、こりゃ相当消耗してるな。この女を連れながら北園を探し回るのは厳しいぞ。どうしたもんかねぇ……」


 頭を掻きながら悩む日影。

 彼の言うとおり、消耗している白崎を連れながら北園を探すのは白崎にとって危険だし、かと言って白崎を先に外に逃がしていると、北園の無事が危ぶまれる。


「シャオランがこの女を外に逃がしつつ、その間にオレが北園を探して回る、とかできれば良いんだが……シャオランに『この女を一人で外に送れ』っていうのもなぁ……」


「い、いや、それで行こうヒカゲ。ボクがこの人を外まで送るよ」


「……大丈夫なのかよ、シャオラン? 怖いの苦手なんだろ?」


「そ、そりゃあ怖いけど、でもキタゾノだって心配だし、このシラサキって人も、今にも倒れちゃいそうだよ。そんな人たちを見捨ててボクの恐怖心を優先させられるほど、ボクは薄情にはなれないやい」


「……へっ、良いね。見直したぜ」


「ヒカゲこそ、大丈夫? ボクと同じで怖がりなのに、たった一人で探索なんて……」


「おう、心配すんな。結局のところ、この館の怪奇現象は全部、マモノの仕業には違いねぇハズなんだ。北園もピンチだってのに、こんなビックリ屋敷にいちいちつまづいてなんかいられるかよ。それと……お前と同じで怖がりって言うがよ、お前よりはマシな自信があるぜ?」


「そっか、それなら大丈夫そうだね。じゃあ、さっそく行動しよう。というワケで、シラサキさん、立てる?」


「え、ええ、ありがとう、ぼくちゃん……」


「ぼくちゃん……!?」


「ははっ、ぜってぇ小学生くらいの年齢だと思われてるな、こりゃ」


 決意を新たに、日影とシャオランはそれぞれ動き出そうとする。

 ……しかし、部屋の出入り口に蠢く影が複数。

 動く鎧とラージラットゾンビの連合軍だ。


「うひゃあ……また出たぁ……合わせて七体くらいかなぁ……」


「オレが蹴散らすぜ。その隙にシャオランはその女を連れて逃げろ」


「わ、分かった! ありがとう!」


「さぁて……とりあえず殴ってぶっ飛ばせるなら、テメェらなんざ怖くねぇんだよ!!」


「ヂューッ!!」


 日影がマモノの群れに切り込んだ。

 マモノも一斉に日影に襲い掛かる。

 その隙にシャオランは、満足に動けない白崎をおぶって、その場を後にした。



◆     ◆     ◆



 時間は少し遡り、北園が何者かに誘拐される前。

 こちらは、日向と本堂のグループ。

 彼らは、順調に二階の探索を進めていた。


「ここにも何も無し……と」


 個室の探索を終えた日向たちは、ドアをくぐって廊下へと戻る。個室のドアを閉めた日向が、そのドアの真ん中にマジックペンで『調査済み』と記入した。


「なるほど、調査を終えた部屋は、そうやって目印を付けていくのだな。まだ調査していない部屋と混同してしまうのを防げるのはもちろん、もし日影たちがここに来ても、あの三人が二重に調査して時間を浪費するのも防げる」


 日向の行動を隣で見ていた本堂が呟く。

 その呟きに、日向も頷いて肯定する。


「そういうことです。とにかく広いですからね、この屋敷は。もっとも、どこぞの洋館みたいに、やたらと鍵がかかった部屋が多かったり、謎の仕掛けが多かったりはしないので、探索しやすいのがせめてもの救いですが」


「そんな意味の分からん洋館があるのか」


「あったんですよ。もっとも、これもゲームネタですけどね」


「そんなことだろうとは思ったがな」


「ははは……それじゃ、次に進みましょ……」


 そして二人が振り返った、その時だった。

 二人の背後に、大きな漆黒の鎧が、戦斧を振りかぶって立っていたのだ。


「……うおぉぉぉぉ!?」


「くっ!?」


 二人はそれぞれ左右に分かれて、その場から退避。

 同時に、動く鎧が戦斧を振り下ろした。

 戦斧は、先ほど日向が『調査済み』と記入したドアを真っ二つに粉砕した。


「あっぶなぁぁ!? そしてビックリしたぁ!? 心臓が口から飛び出るかと思った……」


 震える膝に喝を入れて、どうにか日向は立ち上がる。

 鎧は本堂に背を向けて、日向を狙っているようだ。

 戦斧を構えて、ジリジリと日向との距離を詰めてくる。


「狙いは俺かぁ……。よし、勝負!」


 鎧が右から左へ、大きく戦斧を薙ぎ払う。

 その攻撃範囲外一歩手前で日向は足を止め、戦斧をやり過ごす。


「でりゃああっ!!」


 鎧が攻撃を空ぶった隙を突いて、日向は『太陽の牙』を大きく振りかぶり、勢いよく鎧に向かって振り下ろした。

 真っ直ぐ振り下ろした剣の刀身は、どっしりと構えた鎧の()に、金属音と共に弾き返された。攻撃を弾き返された反動で、日向の身体が仰け反る。


「うおぅ!? ()()()……!?」


()だけにか?」


「黙れぇ!!」


 馬鹿なやり取りをしているその隙に、動く鎧は戦斧を左から右へ逆に薙ぎ、日向を吹っ飛ばした。


「ぐっはぁ!?」


 脇腹を殴打され、日向が床を転がる。

 強烈な衝撃に悶絶し、立ち上がれずにいる。


「くぅぅ……なんて重さの斧なんだ……」


「斧で殴られ、()()()()という感じだな」


「うるせぇぇ!!」


 馬鹿なことを言っている間に、鎧が日向を仕留めるべく動く。

 ……しかしその隙を突いて、本堂が鎧の背後から襲い掛かった。


「はぁっ!!」


 本堂が、鎧の背中に手をついた。

 同時に、手の平から大放電を開始。

 鎧はビクビクと痙攣した後、床に倒れ伏した。


「仕留めたぞ、日向」


「げほっ、げほっ……。ナイス不意打ちです本堂さん……。けど、なんだったんだこの鎧は……。マモノはこの地球上の生物が変質した存在だから、こんな『さまようよろい』みたいなマモノは存在しないと思ってたけど……」


「ふむ……ならば調べてみるか」


「マジすか」


「マジだ」


 本堂は、どうにか立ち上がろうとする鎧を取り押さえながら、高周波ナイフで鎧の四肢を切断しつつ、鎧の胴や籠手の中身などを調べ始めた。


「俺が見たことあるネタでは、鎧の隙間に軟体生物が詰まっていて、そいつらが筋肉の役割を果たすことで鎧を動かしていた……っていうのがありますけども」


「だが、その線はハズレのようだ。鎧の隙間には何もいない」


「そうですか……じゃあいったい何が……?」


「……む? 日向、コイツを見てみろ」


 そう言って本堂が、持っていた鎧の左籠手をひっくり返して、断面を下に向けてからバシバシと叩く。すると、なんと籠手の中から黒っぽい何かが出てきたのだ。


「シーッ」


「……うわ!? なんだコイツ、蟲!?」


「そのようだ。コイツが動く鎧の正体だろうか」


 その蟲は全体的に真っ黒で、長い六本の脚を持っている、蜘蛛のようなシルエットの蟲だ。大きさはチワワなどの小型犬くらいだろうか。


 本堂は何のためらいもなく蟲を掴み上げ、その身体や脚をいじくり回す。すると、その蟲の脚が異様に伸びることを発見した。いくつにも分かれた関節を持つ長い脚を、普段は折り畳んで活動しているらしい。


「……つまりこの蟲は、鎧の籠手の部分に潜み、そこから足を伸ばして鎧の手足を動かすことにより、動く鎧を演じていた……というタネらしい」


「首や四肢をもがれても鎧が動いていたのは、本体であるこの蟲が、もぎ取った部位にいなかったから、という理由ですか。けれど本堂さんの電撃は、鎧の内部にまで流れ込み、この蟲は感電してしまった、と」


「そういうワケだな。このマモノの名前は何にする?」


「じゃあ……『ヒソミムシ』で」


「了承した。では、安らかに眠れ」


 そう言って本堂は、掴み上げていたヒソミムシを高周波ナイフで切り裂き、トドメを刺した。


「躊躇なくるなぁ、この人……。顔色一つ変えずこの不気味な館を探索するし、急な不意打ちにも冷静に対処するし、神経が鋼か何かで出来てるんですか……?」


「そんなことはない。俺だって、急に敵に襲われれば驚きもする。だが、驚いている暇があるなら、体勢を立て直して対処を急ぐべきだと考えているだけのこと」


「その理屈は分かるんですけどもね……。それを実践するのが難しいというか」


「そういうお前こそ、最初に言っていた割には随分と冷静なように感じるぞ。ホラーは意外と大丈夫だったか?」


「そんなことはありませんよ。ただ、不気味でゾクゾクくる雰囲気だけならまだ大丈夫ですけど、急にワーッ、って来るのが怖いんです」


「なるほどな。舞も同じようなことを言っていた」


 会話もほどほどに、日向たちは次の部屋へ。

 次の部屋は、どうやら書斎のようだ。

 部屋の中はかなり広く、本もまだ結構な数がそのまま残っている。

 中は屋内だというのに深い霧が立ち込めており、見通しが悪い。


「広い部屋ですね……。ここらの本、値打ちものだったりしないかな」


「ざっと見た限りだが、残念ながらそこらの図書館にでも行けばいくらでも読めるものばかりだな。古書としての価値は低いと思って良い」


「がっくし」


「……だが、部屋はこの広さだ。二人で一緒に探索するのは、いささか非効率的だな。手分けして、速やかに生存者を探そう」


「異議無しです。マモノが隠れている可能性もありますし、くれぐれもお気をつけて」


「そちらもな」


 互いに声をかけあうと、二人は分かれてそれぞれの探索へ。

 日向は、棚の後ろや机の下などに誰かが隠れていないか、痕跡に至るまで注意深く調べる。


「……あるいは、この本棚に変なスイッチが付いてたりしないだろうな……? 押したら本棚が横にスライドするとか……」


 日向がそんなことを考えていた、その時である。


(日向くん、助けてー!)


「……え!? 今の声……北園さん!?」


 日向の頭の中で、北園が助けを呼ぶ声が聞こえた。

 今のは、北園のテレパシーだ。



 北園は、霧の中から突然現れた日向を追って、何者かに捕まった。しかしこの通り、日向は現在、二階の書斎にいる。これはいったい、どういうことなのか。

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