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第444話 怪奇現象

 日影やシャオランと共に行動していた北園だったが、物置として使われている部屋を一人で探索しているところに日向と出会った。彼は本堂と共に洋館の反対側を調べていたはずだが、霧の中から突然現れたのだ。


「日向くん、なんでここにいるの!? 本堂さんは!?」


「北園さん、ちょっと大変なんだ、手を貸してほしいんだ!」


「え? あ、うん、わかったよ! でもその前に、日影くんたちも呼んで……」


「北園さん一人いれば大丈夫だよ。それより、急いでるんだ! ささ、早く!」


「う、うん、りょーかい……」


 日向に急かされ、仕方なく北園は彼について行く。後ろ髪を引かれるような思いで部屋を出ていった。


 灰色の霧が立ち込める廊下を、グングン進んでいく日向。

 北園は小走りで移動しなければ、日向に置いていかれそうだ。


「ちょ、ちょっと待って日向くん。進むのが早いよー。だいたい、いったいどこに向かうつもりなの?」


 前を行く日向の背中に呼びかけてみる北園だが、日向は返事をしない。振り返ることすらせずに、廊下を進んでいく。


「どうしちゃったんだろ、日向くん……」


 日向に声をかけることを諦め、北園は歩き続ける。

 ……だがその時、北園の動きが止まった。


「わっ!? な、なにこれ、身体に何かが張り付いて、動けない……!?」


 廊下のど真ん中で、北園は何かに身体を絡め取られたようだ。身体が何かに引っかかったように、その場から動くことができない。まるで、無色透明の網が、罠のように。


「ひ、日向くん、助けて! 何かに引っかかって動けないの!」


 北園は前方の日向に呼びかける。

 ……が、既にそこに日向の姿は無かった。


 代わりに霧の中から現れたのは、黒光りする八つの球体。

 これは恐らく、眼だ。


「な、なに……? 何がいるの……んむ!?」


 その時、北園の顔に、何かが吹きつけられた。白く、ネバネバした、糸状の何かが。そのネバネバが北園の視界と口を塞ぐ。


「んー!? んーっ!!」


 糸はさらに北園の腕を包み、足を包み、全身を包んで縛っていく。それは鋼線のように頑丈で、北園が全身に力を込めても全く引きちぎることができない。


 気が付けば、北園は詰んでいた。これでは発火能力パイロキネシスを使って糸を振りほどこうにも、糸に炎が燃え移って自分の身体まで焼いてしまう。もはや成す術無く、糸に巻かれるしかない。


(やだっ、やだやだ! 誰か助けてー!)


 仲間たちに助けを求めるべく、北園は手当たり次第にテレパシーを使い始めた。



◆     ◆     ◆



「おいシャオラン、北園はどこだ?」


 物置部屋の探索を続けていた日影が、いつの間にか北園の姿が見えなくなっていることに気付き、背後のシャオランに声をかけた。


「へ? いや、知らないよ? ヒカゲと一緒じゃないの?」


「ざっとこの部屋を探してみたが、どこにもいねぇぞ。どうなってんだ?」


「この部屋も霧が深くなってきたからね……どこか目立たないところを探索していて、ヒカゲが見落としただけなんじゃないかなぁ?」


「……嫌な予感がするぜ。三人で固まらずに部屋を探索していたのは失敗だったか?」


 日影が苦い表情をしながら呟いた、その瞬間。


(日影くん、シャオランくん、助けてー!)


「っ!? 今の声……!」


「ボクも聞こえたよ! キタゾノの声だった!」


 二人の頭の中で、北園の声が響いた。

 咄嗟に周囲を見渡す二人だったが、すぐに今の声がテレパシーだったと気付く。


「北園のヤツ、助けを呼んでいた! この部屋から北園が消えたことと、間違いなく関係があるぞ! 急いで北園を探すぞ!」


「さ、探すって言っても、どこに行っちゃったんだよ、キタゾノは!?」


「分からねぇ! けど、ここで立ち止まってるワケにもいかねぇだろ! ともかく、この部屋にいないのは確定だ! すぐにここから移動するぞ!」


「わ、分かった!」


 すぐにこの部屋から出ようとする二人。

 しかし、その出入り口を、一体の西洋甲冑が塞いでいた。

 剣を杖にして、部屋と廊下の境目に立ちはだかっている。


「え……えぇぇぇ!? なんでこんなところに鎧がぁ!?」


「もう理由なんざどうでもいい! 邪魔だぁ!!」


 叫び、日影はダッシュの勢いそのままに、西洋甲冑に飛び蹴りを仕掛けようとする。


 ……だがその時、西洋甲冑が動いた。

 素早く剣を握りしめ、日影に向かって振りかぶる。


「な、何だと!?」


「ひ、ヒカゲっ、危ない!」


「ちぃ……!」


 日影の身体は、飛び蹴りを仕掛けるべく、既に宙に浮いてしまっている。これでは後退できない。剣の攻撃範囲に、黙って飛び込むしかない。


「……上等ッ!」


 すると日影は、咄嗟に飛び蹴りのターゲットを、動く鎧の胴体から、鎧が振りかぶる剣に変更。鎧が剣を振り抜くと同時に、日影は剣の根元に蹴りを食らわせ、剣の威力を殺した。着地と同時に後ろへと下がる。


「ったく、なんなんだこの鎧は! コイツもマモノなのか!?」


「お、お化けだよぉぉぉ!? 生き物には見えないし、機械でもないし、勝手に動くし! 正真正銘の怪奇現象だよぉぉぉ!?」


「……いや、そんなハズはねぇぜ。ここに巣食っているのがマモノである以上、コイツも何らかのマモノのハズだ! それに……仮に本当に怪奇現象だとしても、今は北園がピンチなんだ。怖がってるヒマなんざ、一秒一瞬だってありゃしねぇ!!」


 そう言って、日影は勢いよく、動く鎧に斬りかかる。

 動く鎧もまた、両手で剣を構えて日影を迎え撃つ。


「おるぁぁぁッ!!」


『太陽の牙』を振り回し、動く鎧を斬りつける日影。

 動く鎧のパワーも相当なもので、日影と互角以上に打ち合ってくる。


「クソ、力じゃ押し切れねぇか……。だがここでオーバードライヴを使ったら、建物に火が燃え移っちまう。もうここが重要文化財とかいう問題以前に、下手にこの建物を火事にしちまったら北園が危ないかもしれねぇ……」


 動く鎧が剣をフルスイング。

 日影は、上体を屈めてこれを避ける。

 日影の後ろに積まれていた椅子が、鎧の斬撃で粉砕された。


「パワーは大したモンだが、動きは雑だな。本物の騎士サマみてぇな、華麗な戦い方はできねぇらしい。それとも、中世の騎士ってのは皆、こういう戦い方なのかよ?」


 動く鎧が、大きく剣を振りかぶる。

 みなぎる力を感じる動作だが、おかげで鎧の正中線がガラ空きだ。


「まぁ、テメェの戦い方のルーツなんざ、知ったこっちゃねぇがな!!」


 日影は、ガラ空きになった鎧の首元……兜と胸当ての間に、剣の切っ先を突き刺した。動く鎧の兜が吹っ飛ばされ、金属音を立てて床に落ちた。


「よっしゃ、やったぜ!」


 首を落とし、勝利を喜ぶ日影。

 ……だが、動く鎧はお構いなしに、振りかぶった剣を振り下ろしてきた。


「くッ!?」


 慌ててバックステップを繰り出し、斬撃を避ける日影。

 完全には避けきれず、鎖骨から胸筋の表面を浅く切り裂かれた。それだけでも胴体から大きく出血する。


「ちぃ……! 首を落としても倒せねぇのか。いったいどうなってやがる……。それとも本当にマモノじゃなくて、もっと別の存在なのかよコイツは……?」


 日影の傷が火を吹き始める。”再生の炎”の回復が始まった。

 一方、動く鎧は、いわゆる霞の構えで日影との距離を詰める。

 剣を顔の側面の位置で構え、切っ先を日影へと向ける。

 いつでも、最大の勢いで日影を貫くために。


「ああいう手合いを黙らせるには、動けなくなるまで鎧を破壊するか、腕や脚をもいでしまうのが一番だな。だが、俺の『太陽の牙』じゃ、あの鎧を丸ごとぶった切るには威力が足りねぇ。なら……シャオラン!」


「こ、怖いけど、仕方ないよね……キタゾノが危ないんだもん……!」


 日影に呼ばれたシャオランが、日影と動く鎧の間に割って入るように移動してきた。動く鎧もそれに反応し、シャオランを突き刺しにかかる。


「『水の練気法』! せいやぁッ!!」


 シャオランは、動く鎧の突き刺しを掻い潜り、鎧の腕と胴を掴みつつ、突き刺しの勢いを利用しながら動く鎧を投げ飛ばした。鎧は空中に放り投げられ、背中から床にガシャンと落下。


「はぁぁッ!!」


 鎧が落下したと同時に、シャオランが”地の気質”を纏いつつ、ジャンプして鎧を思いっきり踏みつけた。踏みつけられた鎧の胴体は陥没し、その下の床まで粉砕された。


 鎧はまだ動こうとしているが、自分ごと粉砕された床にハマって動けないようだ。シャオランの攻撃が効いたのか、先ほどよりパワーも落ちているように見える。


「今のうちに、ここから逃げちゃおう! キタゾノを助けるのが優先だよ!」


「分かった、ナイスだぜシャオラン! ……けど、あんなに床を壊しちまって、後で怒られたりしねぇかな……」


「ま、マモノのせいってことにしとこう! ねっ!?」


 二人は部屋から廊下に出て、先へと進む。

 北園がどこに連れ去られたかは分からないが、手当たり次第に探すしかない。


「手分けして効率よく探したいところだが、あんなに音もなく北園を連れ去った相手だ。闇討ち、不意打ちにはそうとう長けているに違いねぇ。単独になるのは危険だぜ……」


「そ、そうだね。ボクだって一人は怖いし……!」


「しかし……ああクソ、オレがついていながら、なんてザマだ。北園はもちろんだし、日向や本堂にも合わせる顔が無ぇぜ……」


 廊下のドアのいくつかはバリケードで封鎖されており、とても北園が通っていったとは思えない。それらのドアは無視して、先へ進み続ける。


 そして二人がやって来たのは、先ほどの物置部屋から四つほど隣のドアの部屋。中に入ってみると、殺風景な縦長の空間。その奥に、一つのクローゼットが置かれている。


「……なんか、怪しい雰囲気だな。このデカい部屋に、家具はあのクローゼット一つだけ。あの中に何かあるのか?」


「し、調べてみる?」


「そうだな……そうしてみるか。生存者にしろ、北園にしろ、ここに潜むマモノにしろ、なにか手掛かりがあるかもしれねぇ……」


 恐る恐る、部屋の奥のクローゼットに近づく二人。

 二人とクローゼットの距離がおよそ二メートルほどに縮まった時。


 突然、クローゼットがガタン、と揺れた。


「っ!?」

「ひっ!?」


 日影がギョッとした表情で足を止める。

 シャオランは、素早く日影の背後に隠れて彼を盾にする。


「な、なな、中になにかいるよぉぉ!? ヒカゲ、ちょっとあのクローゼット開けてきてぇ!?」


「は、ハァ!? イヤだよなんでオレが!? お前が行けよ!?」


「無理無理無理無理!? ボクだってイヤだよぉぉ!? 怖いもんんん!!」


「だからってテメ、何のためらいもなく他人に押し付けやがって……!」


「だってボク、ああいうタイプのドッキリ、一番苦手だし!!」


「オレだって一番苦手だよ! ドキッと来る奴が大嫌いなんだ!」


「で、でもさ、もしかしたら、キタゾノが隠れてるのかもよ!?」


「クソ……後で覚えとけよ、この野郎……!」


 このままでは埒が明かないので、日影は観念して自分がクローゼットを開けることにした。右手の震えを気合いで止めながら、クローゼットの取っ手に手をかける。


「それじゃ、開けるぞ……」


「ぼ、ボクはいつでも準備オーケーだよ!」


「って、テメェ! ドアのところでいつでも逃げ出せる準備してるんじゃねぇ!!」


「だ、だって、クローゼットからいきなり化け物とかが飛び出してきたりなんかしたら、ボクはきっと心臓ショックで死んじゃうよぉ……!!」


「今すぐこっちに戻ってこねぇと、オレがテメェを死なせるぞ……!」


「そ、そんなぁぁ!? ボクはどうすればいいんだよぉぉぉ!?

 ……あ、あれ? ヒカゲ……クローゼットが……」


「え……な、なんだよ。クローゼットがどうした……」


 日影が振り向くと、先ほどの日影たちのやり取りに反応してか、クローゼットの戸がゆっくり、キィィ……と、少しだけ開いた。


 クローゼットの戸の隙間から見えるのは、底の見えぬ闇。

 日影は、その闇の中に浮かぶ黒い瞳と、目が合った。


「…………おああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「きゃあああああああああああああああああ!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 日影が尻もちをついてクローゼットから全力後退する。

 クローゼットの中の何者かが、日影の悲鳴を聞いて悲鳴を上げる。

 空気が割れんばかりの二人の悲鳴に、シャオランもつられて悲鳴を上げる。


「はっ……はぁ……誰だ……?」


 恐怖でいまだに立ち上がれない日影だが、なんとか冷静さを取り戻して、クローゼットの中に隠れていた者の正体を確認する。


 クローゼットの中にいたのは、女性だ。ただし、北園ではない。全体的にラフな服装だが、どことなく清楚な雰囲気がある。例えば、ニュースキャスターなどがこういった格好を好むのではなかろうか。


「だ……誰ですか……あなたたち……?」


 女性が、震える声で日影たちに尋ねた。

 一方の日影は、女性の顔に心当たりがあるようだ。


「アンタは確か……行方不明になったテレビ局の関係者だよな? この館に入る前に顔写真を見たぞ。名前は……白崎だったな?」

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