第45話 一方その頃
日向たちがボスマニッシュと戦っている頃、武功寺ふもとの町に一人の男がやって来た。
「ふぅ、やっと着いた。思ったより時間がかかってしまったな」
声の主は、日本のマモノ対策室室長、狭山誠である。
彼は中国、上海に到着後、中国のマモノ討伐チームと合流し、先遣隊を派遣、部隊の装備の準備をした後、中国政府の飛行機に乗って、討伐チーム本隊と共にこの町にやって来たのだ。
「さて、まずは例の『キノコ病』とやらを見てみようか。診療所はどこかな?」
狭山の声を受け、討伐チームの一人が狭山を案内する。
そして到着したのは、やや大きめの平屋だった。
そこの戸を開けると、多くの人々が苦悶の表情で横たわっている。
彼らはみな一様に、身体の様々な場所からキノコを生やしていた。
「これは……惨いな……」
狭山は思わず顔をしかめる。
近くにいた町医者から、キノコ病の症例をまとめたレポートを受け取り、眺める。
「ふむ……。ぱっと見、手の施しようが無いな。やはり『星の牙』を倒すのが一番手っ取り早いか」
『星の牙』には、今回のように、独自の病を振りまくマモノも存在した。そのマモノを倒すと、たいていの場合、問題となっている病はきれいさっぱり消滅するのだ。
「とはいえ、対症療法をおろそかにしていい理由にはならないな。うん」
狭山は討伐チームの隊員に指示し、チームの医療道具をこの診療所に分け与えるよう指示した。そのまま患者の様子を観察していると……。
「……ん? 彼らは、日本人か?」
狭山は、隣り合って眠っている日本人の男女を見つける。
「……身体的特徴、完全に一致。つまり彼らが北園さんと本堂くんか!」
狭山は声を上げた。
会いたいと思っていた少年少女、その三人の内の二人にようやく出会えたのだ。
「う……あなたは……?」
すると、眠っていた本堂が目を覚まし、狭山に問いかけた。
「ああ、すまない。起こすつもりは無かったんだ。……ええと、君はもしかして、本堂くんかな?」
「そうだが……あなたは何者だ……?」
「自分の名前は狭山誠。マモノ対策室室長だ。君たちが出会った、倉間さんの上司だよ。一応ね」
「倉間さんの……う……く……」
本堂は何とか身体を起こそうとするが、力が入らないようで、すぐに横になってしまった。
「っとと、無理しちゃいけないよ! マモノは自分たちに任せて、君たちは休んでいるんだ。これが『星の牙』の撒いた病なら、『星の牙』を倒すことで回復する可能性がある!」
「そ……そうなのですか……」
「そうだとも。だから、君は身体を大事に、ゆっくり養生しているんだ。それが自分たちの為にもなる」
そう言い終えると狭山は立ち上がり、本堂の元を去ろうとする。
しかしすぐに振り返って……。
「あ、すまない。起こしてしまったついでにもう一つ、聞いてもいいかな?」
「構いませんよ……何ですか……?」
「ありがとう。君たちは確か、三人で行動していると聞いたのだけれど、残りの一人、日下部日向くんの姿が見えない。彼はここにはいないのかい?」
「それは……俺には分かりません……今、どこにいるのかも……」
「そうか……。分かった、ありがとう。すぐに『星の牙』を倒して、君たちを元気にしてみせる。もう少し待っててくれ」
そう言うと狭山は今度こそ本堂の元を離れ、診療所を出た。
「ふむ。日下部日向くんはここにはいない……。この町のどこかに滞在しているのか、あるいは……」
狭山は武功寺のある山を見つめる。
この異常事態が『星の牙』によるものということは、事情を知っている者から見れば明白。ならば、一人で『星の牙』を倒しに行った可能性も……。
「……有り得るな」
そう呟き、近くにいた討伐チームの隊員に呼びかけた。
「ああ君! チーム全員に召集を。これより早速出発する。総員、山の入り口前に集まるよう伝えてくれ」
「了解!」
狭山の指示を受け、隊員の一人が駆け足で去っていった。
◆ ◆ ◆
その頃、武功寺のある山の一角にて。
「なんだこれ」
そう呟いたのは、日向と同じ剣を持つ、学ランの少年だ。
目の前には、何者かに叩きのめされ、動かなくなったマニッシュの群れ。
「オレ以外の誰かが、ここで化け物と戦った……?」
そこまで考えると、少年は走り出した。
「チッ、どこの誰だか知らないが、無事でいろよ。すぐにオレが駆け付けるからな……!」
その顔は真剣そのもの。
本気で顔も名前も知らぬ誰かを心配する表情だった。




