第425話 日向を援護する
北園とオリガが、凍り付いた管制室の扉を破壊し、吹雪が吹き荒ぶ管制室内へと突入した。コールドサイスと戦っているであろう日向の姿を探す。
「ひゃー寒い!? でも、日向くんを探さないと!
日向くーん! どこにいるのー!?」
「コールドサイスは……いたわね。あの巨体ならさすがに見つけやすいわね」
「とりあえず私たちは、コールドサイスと戦いましょう! 日向くんも、私たちが戦っているのを聞きつけて駆け付けてくれるかも!」
「私にさんざん打ちのめされたハズなのに、元気ねぇこの子は……」
やりとりを交わしながら、北園とオリガはコールドサイスのもとへと向かう。その途中、巨大な氷塊が道を塞いでいたが、北園は空中浮遊で難なく跳び越える。
「私は登れたけど、オリガさんはどうですか?」
「舐めないで。どうということは無いわ」
北園にそう告げると、オリガは氷塊に向かってダッシュ。氷塊の窪みに足をかけ、一気に飛び上がり、氷塊を殴りつけて腕を突き刺すことで転落を阻止。そのまま頂上へと到達した。この氷塊の上は、起伏が少なく平らだ。オリガはしばらく、この氷塊の上に陣取ることにした、
「ふぅ……この重武装で氷山登りは、堪えるわ……」
「……あ!? オリガさん、あれ見て!?」
北園が指差すその先には、日向がいた。コールドサイスの左右の鎌の先端で挟まれ、持ち上げられ、下半身の大口へと運ばれている最中だ。
日向もまた、北園とオリガがやって来たことに気付いて、声を上げる。
「き、北園さーん!! オリガさーん!! ヘルプミー!!」
「……あれだけカッコつけといて、結局負けそうになっているあたり、やっぱり流石だわアナタ」
「そ、それよりオリガさん、日向くんを助けなきゃ!? このままじゃ、コールドサイスの今日のご飯にされちゃう!」
「仕方ないわね、私に任せておきなさい。北園、アナタは日下部日向を助ける準備!」
「りょーかいです!」
そう言うとオリガは、背負っていた無反動砲……カールグスタフを肩に担ぎ、引き金を引いた。発射された榴弾にはロケットモーターが付属しており、想像以上の速度でコールドサイスの右腕に直撃、大爆発を巻き起こした。
「ギギャああアあア”ア”ア”ああアッ!?」
上下に分かれた右腕、その下の腕の付け根あたりに榴弾が撃ち込まれ、その右腕が千切れ飛んだ。この対マモノ榴弾は着弾の際、爆風が極端に前方に巻き起こるようになっており、この『前に飛ぶ爆風』がマモノの肉体を抉るのだ。
「あら、結構良い威力ね、コレ。気に入ったわ」
そして、千切れ飛んだこのコールドサイスの右腕は、日向を挟んで持ち上げていた腕の一本だった。よって日向も解放されて、右の鎌ごと床に落ちた。
「ぐぇ!? 痛ったぁ……結構な高さから落ちたぞ、いま……」
「日向くん! だいじょうぶ!?」
「き、北園さん……」
落ちた日向の元に、北園が駆け寄ってきた。そのまま日向に肩を貸して、二人揃ってコールドサイスから距離を取る。
コールドサイスは二人を追撃しようとするが、そこにオリガが二発目の榴弾をコールドサイスに撃ち込み、動きを止めた。
「このへんなら大丈夫かな……って、うわぁ!? 日向くん、お腹からすごい血が出てるよ!?」
「ああ……さっき、コールドサイスにぶった切られたから……。”再生の炎”もとうとうガス欠みたいだし……」
「わ、私が治癒能力を使うよ! しっかりして!」
そう言って、北園が日向に治癒能力を行使する。
青白い光が日向の傷を照らし、傷はみるみるうちに塞がっていった。
「……今この瞬間ほど、北園さんの治癒能力を『助かった』と思ったことは無かったなぁ……。今までは”再生の炎”のおかげで、自力で回復できてたから……」
「役に立ててよかった! 日向くん、立てる?」
「うん、なんとか……おっとと……!?」
「わわ……本当に大丈夫、日向くん?」
「ご、ごめん、やっぱりちょっと厳しい。足腰に力が入らない。ダメージを受け過ぎた……」
「ギジャアアああアあア”あ”ア”アアッ!!」
日向と北園に、コールドサイスの上半身が迫ってくる。
三本になった大鎌で二人を引き裂こうと、腕を振り上げる。
「黙ってなさい!」
そのコールドサイスの顔面に、オリガが対マモノ榴弾を撃ち込んだ。榴弾は直撃し、爆風を巻き起こすが、コールドサイスは止まらない。抉れた顔を日向たちに近づけてくる。
「ギジャア”アああアあアアアあ……ッ!!」
「止められなかった……! そっちに来るわよ、二人とも!」
「りょーかいです、オリガさん! 私が押し返しますから!」
「で、でも北園さん、この吹雪の中じゃ、発火能力は十分な威力を出せないんじゃ? 凍結能力や電撃能力じゃ威力不足かも……」
「だいじょうぶ! 今の私の電撃能力は、すっごくパワーアップしてるから!」
「パワーアップ……? そういえば、オリガさんと一対一で対決していた時、なんか強そうなビームを天井に撃っていたような……」
「それそれ! 見ててね日向くん……!」
すると北園は、両手を左右に開き、その手の平の中心に雷球を生成した。その雷球がある程度の大きさになると、両手を合わせて合体させる。
「これが私の第二の必殺技! 名付けて、”雷光一条”っ!!」
瞬間、北園の両手から、極太の蒼い光線が発射された。その光線は、迫ってきていたコールドサイスの上半身に直撃。北園の宣言通り、コールドサイスを押し返していく。
「グ……ギ……ギギャアアああ”あ”アアア”ア”ッ!?」
「やあぁぁぁぁぁ……っ!!」
「う、うわ、すごい迫力……」
北園の”雷光一条”を受けたコールドサイスは、大きく後ずさり、そのまま体勢を崩した。三本の鎌を杖にして上半身が項垂れている。
「北園さんが、どんどん人間を辞めていっている……」
「ふぅぅ……初めて全力で撃ってみて分かったけど、この技、燃費が悪すぎる! これを一回撃つ間に、普通の電撃能力が百回は撃てるよ! あんまり気軽には使えなさそう!」
「さすがに美味しい話ばかりとはいかないか。けれど、これでまた色々な戦術が使えそうだぞ……」
「ググ……ギシャアアあ”あ”アアアアッ!!」
コールドサイスがダメージから立ち直り、咆哮を上げた。同時に、周囲から多数のアイスリッパーが現れて、日向たちに襲い掛かる。
「日下部日向っ!」
「おっと!?」
氷塊の上に陣取っているオリガが、日向に向かって対マモノ用アサルトライフルを落としてきた。いきなり落とされてきたそれを、日向は慌てつつもなんとかキャッチ。
「疲れて立てないみたいだけど、銃を撃つくらいはできるでしょ! しっかり働いてもらうわよ!」
「うへぇ容赦無い……。まぁ、いけますけど!」
「それと、座りながら銃を撃つなら、胡坐をかきなさい! 下半身がどっしりと固定されて、立っている時より銃がブレにくくなるから!」
「り、了解! さすがプロ……!」
日向たちは迎撃態勢を整え、アイスリッパーたちを仕留めていく。日向はオリガに言われた通り、胡坐をかいた体勢でアサルトライフルを射撃。アイスリッパーを撃ち抜いていく。北園は電撃能力のビームや念動力のエネルギーボールを発射し、オリガはハンドガン・トカレフで氷塊の上から援護する。
「キシャーッ」」
氷塊の上にいるオリガに向かって、背後からアイスリッパーが飛びかかってきた。氷塊をよじ登って、オリガに不意打ちを仕掛けてきたのだ。
だが、この程度の不意打ちで仕留められるほど、オリガもヤワではない。
「動くなっ!」
「キシャッ!?」
オリガが素早く振り向いて、金の瞳でアイスリッパーを一睨み。
アイスリッパーの動きが、ピタリと止まった。
「良い子ね。弾を節約したいから、アナタは勝手に自害しといて」
「キシャッ」
オリガの命令を受けたアイスリッパーは、何のためらいもなく自身の鎌で自身の首筋を切り裂き、自害した。
「ギジャアアああアあア”ア”……ッ!!」
三人がアイスリッパーと戦っている間に、コールドサイスも動いてくる。三本の大鎌を振り上げて攻撃の姿勢を取る。
しかしそのアイスリッパーの右の複眼に向かって、オリガが手榴弾を投擲し、直撃させた。
「せやっ!!」
「グギャアアあ”アッ!?」
爆撃を叩きつけられ、コールドサイスが大きく仰け反る。その拍子に、ムカデ状の胴体が無防備にひけらかされる。
「まだまだっ!!」
そのムカデ状の胴体に向かって、オリガがさらに手榴弾をぶん投げ、炸裂させる。オリガの膂力から放たれる手榴弾は、速度もコントロールも人並み外れている。まるでミサイルのように次々と、コールドサイスの胴体に命中する。
「ギジャア”アああ”アあア”あ”ああ”ああッ!!!」
コールドサイスは、左右二本の大鎌を大きく振り上げる。その二本の大鎌の刃は、強烈な冷気を纏っている。そして二本同時に思いっきり振り下ろした。瞬間、巨大な縦一文字の冷気の刃が発生し、物凄い勢いで飛んでいく。その冷気の刃が飛び行く先には、氷塊の上に立っているオリガの姿が。
「っと……!」
オリガは素早く氷塊から飛び降りて、冷気の刃を回避。先ほどまでオリガが立っていた氷塊が、冷気の刃の直撃を受けて粉々に粉砕された。
氷塊から飛び降りたオリガは、そのまま見事な五点着地を決めて、日向たちのもとへとやって来た。
「まったく、派手にやってくれるわね、アイツ」
「オリガさん、さっきは助けてくれてどうもです。ズィークさんはどうなりました?」
「とりあえず一命は取り留めたわ。今は大佐と日影が安全なところに運んでくれているはずよ」
「グスタフ大佐と日影が? 途中で会ったんですか?」
「まぁね。詳しい話は後よ。今はあの、生意気にも私に刃を向けた虫ケラの息の根を止めるわよ。女帝は二人もいらないもの。ズィークの仇も討たなきゃだし」
「あー、もう完全にいつものオリガさんに戻った。まぁ、見た目通りの子どもみたいにメソメソされるより、こっちの方がオリガさんらしくて安心しますけどね」
「あ、あれは忘れなさい。我ながら、みっともなさすぎて死にたくなるから。ともかく、コールドサイスはここで仕留めるわよ。二人とも、構えなさい!」
「「りょーかいです!」」
「……ホント、仲良いわねアナタたち……」
改めて、コールドサイスに向かって構える三人。
この狂い果てた追跡者との戦いも、いよいよ終わりの時が近づいてきた。




