第43話 襲い来るマニッシュ
引き続き、武功寺を目指す日向とシャオラン。
その道中で、再びマニッシュに襲われる。
今度は十体以上の群れで襲ってきた。
「この数じゃあ、シャオランを守りながら戦うのは無理だな。シャオランも、自分の身は自分で守ってね」
「え、ええー!? 道案内だけしてればいいと思ってたのに!」
「シャオランも戦えるって分かっちゃったからねぇ」
「ひ、ひどいよぉ……話が違うよぉ……」
「マニッシュは虎より弱いから大丈夫だよ、たぶん」
「『たぶん』って言った! たぶんって!」
「ほら、そんなこと言っている内に、マニッシュが来たぞ!」
「うわーん! もう当たって砕けろぉー!」
日向は表情を引き締めて、シャオランは泣き叫びながらマニッシュの群れへと立ち向かう。しかし……。
「ふんッ!!」
シャオランの肘がマニッシュを打ち抜く。
マニッシュは悲鳴の一つも上げず絶命した。
「しッ!!」
シャオランが震脚を踏む。
その時、足元にいたマニッシュが踏み潰されてしまった。
「せいッ!!」
シャオランが掌底を振り下ろす。
飛びかかってきたマニッシュの頭を叩き割り、地面に叩きつけた。
「やぁッ!!」
シャオランがマニッシュに裏拳を叩き込む。
合わせて三匹、いっぺんにどこかに吹っ飛んでしまった。
……というワケで、現状、完全にシャオラン無双状態である。
『地の練気法』を使った彼は、鬼神のごとき強さを誇る。
(なんでアレで性格が臆病なんだろう)
日向は、今世紀最大の謎にぶち当たった、という表情で、シャオランの健闘を眺めていた。
仲間たちが薙ぎ払われ、それでも立ち向かうマニッシュたち。見る人によっては哀愁ただよう光景にも見えるだろう。
マニッシュは人の膝ほどの小さな背丈で、目や腕は無く、足だけでちょこちょこいそいそと歩き回るキノコのマモノだ。分かる人にはわかる愛くるしさがある。弱いし。
しかし……。
「お、終わったぁ……」
シャオランが呟く。
マニッシュたちの健闘も虚しく、群れは全滅した。
「ああ、かわいそうに」
日向が呟く。
日向は「分かる」人間のようだ。
「もう、ヒューガ! 途中でサボってたでしょ! ほとんどボクが退治したよ!?」
「いやー、サボってたというか、手の出しようがなかったというか」
「もう戦わないからね! 道案内に集中するからねボクは!」
シャオランはそう宣言し、先に進んでしまった。
(マニッシュ……お前たちとはもっと違う形で会いたかったよ……)
蹴散らされたマニッシュたちを見ながら、日向は彼らに別れを告げた。
◆ ◆ ◆
獣道を抜けた二人は、石でできた階段の踊り場に出てきた。
「この上に武功寺があるよ」
シャオランが石段の上を指差す。
「この上って……あの……先が見えないんですけど……」
「結構高いところにあるからね、武功寺は。疲れたら休憩していいから、頑張って上ろう」
シャオランに促され、日向も意を決して石段を上り始める。
武功寺までの石段は、それはそれは長かった。
シャオランはこの石段を毎日のぼって寺に通っていると言うのだから恐ろしい。
「ヒューガ、大丈夫?」
「ぜぇ……ぜぇ……大丈夫じゃない、けど、大丈夫……ぜぇ……」
震える足に喝を入れながら、日向は石段を上っていく。
「こうしている間にも、北園さんや本堂さん、リンファさんやハオランくんはキノコ病で苦しんでいるんだ。それに比べればこれくらい……!」
「ヒューガ、危ない!」
「へ?」
シャオランの声を受け、顔を上げる日向。
その目の前に、赤い何かが飛び込んでくる。
それが大きなキノコの傘だと気づいたのは、それが彼の顔面に激突した瞬間だった。
「ぶべらっ!?」
マニッシュだ。
茂みに潜んでいたマニッシュが、ミサイルの如く日向の顔面を撃ち抜いたのだ。
日向はマニッシュの頭突きの衝撃で仰け反り、石段から転落する。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”~………」
哀れな叫び声を上げながら階段から転げ落ちていく日向。
転がる。転がる。まだまだ転がる。
火サスの殺人シーンよろしく、ゴロゴロと石段を転がり落ちる。
ついでに”再生の炎”に身体を燃やされながら転がっていくその様子は、まさに人間火の車。
やっとのことで身体が止まり、なんとか起き上がって見てみれば、そこは最初の踊り場だった。転がり落ちた石段の数、恐らく八十を下らない。
「ヒューガ! 大丈夫かーい!?」
はるか上段で、シャオランが手を振っている。
今からこの転がり落ちてきた石段を、再び上がっていかねばならない。
「…………泣けるぜ……」
日向は、力無くそう呟いた。
その後、なんとか元の場所まで復帰した日向は、不意打ちマニッシュに最大限の注意を払いながら石段を上っていった。
(もっと別の形で会いたかったとは言ったけど、あんな形もゴメンだっつーの)
心の中で悪態を付きながら、やっとのことで元の場所へと辿り着く。
「さっきは、災難だったね……」
「ほ、ホントにね……。やっぱあいつ危ねーわ。腐ってもマモノだわ。……そういえばシャオラン、さっき俺を突き落としたマニッシュは?」
「殴っといたよ」
「でかした」
「今度こそ、もう戦わないからね」
「そんなー」
その後もマニッシュを警戒しながら、石段を上っていく俺二人。
石段を上って、日向は改めて気づいた。
(”再生の炎”は、こちらのスタミナまでは回復してくれないんだな)
かなりの数の石段を上り、体力が限界に近づいている日向。
だが、消費した体力が回復される様子はない。
呼吸が乱れ、脚がプルプル震えても、身体が燃やされる気配は無い。
(まぁ、疲れただけで身体を燃やされてたら、こっちもたまったもんじゃないな)
とはいえ、これは”再生の炎”の弱点の一つだと思ってもいいだろう。今後、マモノとの戦いには、自身のスタミナにも注意しなければ。
そう心に刻み込んだ日向は、疲れた脚に鞭打って石段を上り続ける。
「ほら、着いたよヒューガ! よく頑張ったね!」
「はひぃ、はひぃ、し、死ぬ……」
息も絶え絶えになりながらも、二人はようやく武功寺の正門に辿り着いた。
……ああいや、息絶え絶えなのは日向一人だ。
シャオランは余裕の表情である。
(なんでこのたくましさで性格は臆病なんだろう)
日向は、300年来誰も解けない数式を前にしたかのような表情でシャオランを見つめる。
日向の目の前にそびえ立つ、武功寺の赤い正門。
これが北園の見た予知夢の光景なのだろうか。
そして、その予知夢が正しければ、日向はこの先で、宿敵に会う。
「例の巨大キノコのマモノが現れた場所は、ここから入ってすぐの広場だよ。きっと、すぐにソイツとの戦いになると思う」
「分かった。……ところでシャオラン。やっぱり、一緒に戦ってくれたりは……」
「……ま、まぁ、ここまで来たんだし、石投げて援護するくらいなら、やってあげても、いいよ?」
「もうそれで十分だよ。シャオランのパワーで石をぶつけてやれば、結構な威力が出そうだ」
「うう……『それならいてもいなくても一緒だし、もういいや』みたいな答えを期待してたのに……」
「シャオランがあまりに臆病だから埋もれがちだけど、俺も相当なヘタレでね。戦力は少しでも多い方がいいの」
「ヘタレが二人……勝てる気がしないよぉ……」
「やばくなったら逃げていいから! さ、行こう!」
二人は意を決して、正門をくぐる。
その先に、巨大なキノコのマモノを目撃した。




