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第418話 達人の銃撃戦

 引き続き、ホログラート基地のミサイル管制室にて。

 ミサイル発射を呼びかける警告音がけたたましく鳴り響いている。


 日向とオリガの銃撃戦が始まった。互いに管制室内に設置されたコントロールパネルを遮蔽物にしながら、一切の容赦無しに相手に弾丸を放っている。


「そこね!」

「っとぉ!?」


 日向が身を屈めたのとちょうど同じタイミングで、彼の頭上をオリガの弾丸が通過していった。あのまま立っていたら、今ごろ眉間に穴が開いて死んでいただろう。


「ら、ラッキーだった……。いくらこっちには再生能力があるとはいえ、死亡状態から復活するのは多少時間がかかるもんな……」


 再生能力といえば、日向は少し気にかかることがあった。オリガに蹴りを入れられた時、その傷が回復される時に感じたのだが、”再生の炎”の力が弱まっているように感じたのだ。


「考えてみれば、今日一日で結構な回数、負傷してるからな……。そろそろこっちの再生エネルギーも底が見え始めているのかもしれない。ここから先は、そう易々とダメージを受けるワケにはいかないぞ……」


 さらに言えば、ハンドガンの予備の弾倉も残り少なくなってきている。この管制室に弾倉が落ちていると良いのだが。あるいは、別の銃を拾うのもアリか。


「どちらにせよ、あまり長期戦はできないな……!」


 呟きながら日向は立ち上がり、コントロールパネルの後ろから顔を出してオリガに銃を撃った。



 一方、オリガは苦い表情で歯噛みしていた。

 日向との銃撃戦で、思いのほか苦戦を強いられている。


「ちっ……意外とやるじゃないの。射撃の精度はもちろんだし、頻繁に遮蔽物から遮蔽物へ移動して、こちらに的を絞らせない。それに、私の射撃の感覚のクセまで見抜き始めているみたいね。反撃を差し込んでくるタイミングが、やたらと絶妙になってきてるわ。あの子やっぱり、剣より銃の方が強いんじゃないの」


 銃が普及していない日本で生まれ育った日向にとって、銃撃戦に触れ合う機会と言えば、せいぜいがゲームセンターのガンシューティングゲームくらいのものであるはず。射撃の精度はそれで多少は鍛えられるとして、銃撃戦における立ち回りや、相手の行動の分析まで習得しているのは、オリガから見ても予想以上、そして厄介極まりなかった。

 今のオリガは隻眼の身であるが、たとえ両目が健在だったとしても、日向は油断ならない相手だと捉えていただろう。


「あの子の銃撃戦の能力は、すでに一流に片足を突っ込んでいるレベルね……。日本の娯楽好きはミリタリーに関する知識が深いって聞くけど、それを総動員しているのかしら。なんにせよ、十年間欠かさず射撃の訓練を続けてきた私の立つ瀬が無いじゃないの」


 オリガとしては、なんとかして自分に有利な接近戦を日向に仕掛けたいところであるが、この日向の攻撃を掻い潜って彼に接近するのは、さすがの彼女といえども慎重にならざるを得なかった。


「……いいえ。確かにあの射撃能力は侮れないけど、実戦の経験が豊富なぶん、強いのは間違いなくこっちよ。私なら、彼の銃撃を避けつつ、接近できるはず」


 そう呟きながら、オリガは日向との距離を詰めるべく、動き出した。残された彼女の左眼には、揺るぎない自信が宿っていた。



 視点は日向に戻る。

 コントロールパネルの後ろに隠れて様子を窺っていた日向だったが、その向こうでオリガが顔を出し、銃を撃ってきた。


「っとと!?」


 日向はすぐさまコントロールパネルの裏に身を隠し、銃弾から身を守る。オリガの銃弾はコントロールパネルに命中し、バチバチと電子回路の故障音が聞こえた。


「危ないなぁ……!」


 オリガの射撃が止んだのを確認すると、日向は再び立ち上がり、銃を構える。

 だが、日向が銃口を向けたその先に、オリガはいなかった。遮蔽物から遮蔽物へ、次々と移動しながら日向との距離を詰めてきているのだ。


「は、速い……!」


 そのオリガの移動スピードたるや、見ている日向が撹乱されてしまいそうなほどだ。隣の遮蔽物に移る際は一瞬しか姿を見せず、時にはコントロールパネルやコンテナを軽やかに乗り越え、日向の予測と噛み合わせさせないように移動を繰り返してくる。


「オリガさんは、こちらとの距離を詰めてきているな……。近づかせるもんかよ……!」


 日向はオリガに発砲しながら、その場を移動。

 弾丸はオリガには当たらなかったものの、少し動きを止めることに成功した。


 互いに撃ち合いながら、移動を繰り返す二人。

 電子機器が棚のように立ち並ぶエリアを抜け、コンテナが散乱する場所に移り、再び撃ち合う。


 そして一瞬だけ、互いの銃口が、ピタリと相手に合わさった瞬間が来た。いま引き金を引けば、間違いなく弾丸が相手に命中する。そんな確信が二人の脳裏を駆け抜ける。


「もらったわ!」


 オリガが引き金を引いた。

 これに対して、日向は……。


「とぁっ!」


 オリガが引き金を引くのと同じタイミングで、右に身体ごと飛び込んだ。しかし銃口はピッタリとオリガに向けたまま、発砲。


「くっ!?」


 結果、日向はオリガの弾丸を回避し、日向が放った弾丸は、オリガのハンドガンを左から弾き飛ばした。オリガの手からハンドガンが離れ、床を滑っていく。


「しまった……!」


 急ぎ、取り落としたハンドガンを拾おうとするオリガ。

 手を伸ばした先のハンドガンは、しかしオリガから逃げるように、再び弾き飛ばされてしまった。日向が二発目の弾丸をオリガのハンドガンに撃ち込んだのだ。先ほどの飛び込み射撃といい、日向の射撃スキルは、もはや歴戦の兵士の域にまで届き始めている。


「ちぃ……よくも……!」


「オリガさん、動くな!」


 丸腰となったオリガに、日向がハンドガンの銃口を向け、降伏を促す。しかしオリガは……。


「うるさいっ!!」

「うわっ!?」


 側にあったコンテナを、サッカーボールのように日向に向かって蹴り飛ばしてきた。日向は身を屈めてこれを回避するが、その隙にオリガを逃がしてしまった。


「あっぶなぁ……!? 自分とほとんど大きさが変わらない鉄の箱を、あんな軽々と蹴り飛ばすかよ普通……!?」


 オリガは銃を失っても、まだあの超人的なパワーがある。やはり一筋縄ではいかない相手だ。最後の最後まで油断はできない。


 「オリガさんは……見失っちゃったか……。けど、好都合だ。この間に、こっちも予備の弾倉や武器を拾わせてもらおう」


 日向のハンドガンも残弾が少なくなってきていたところだった。まだ使える武器や弾薬があるかは分からないが、日向はオリガの気配に注意しつつ、その場を見回して新しい武器を探し始める。


 日向の射撃スキルの高さを支えているのは、確かにオリガの推測通り、ガンシューティングゲームをやり込んだ経験と、ゲームや映画などのエンタメから得た銃撃戦のノウハウであるが、それらとは別にもう一つ存在する。それが、彼自身の眼力だ。


 ガンシューティングゲームや銃撃戦の映像作品が与えてくれたのは、射撃能力や銃撃戦のイロハだけではなかった。相手がどこに隠れていて、どこから攻撃を仕掛けてくるのか、どの遮蔽物に移動するつもりなのか、薄っすらと日向には予測が出来るのだ。


 特にオリガの動きは、銃撃戦のプロとして実に最適化された動きだ。一切の無駄がなく、素早く、効率的。しかし、だからこそ日向にとっても読みやすい。日向が予測する『もっとも効率的な行動』が、実際のオリガの動きとピッタリ合致するのだから。


 ……もっとも、日向本人は、自分の中でそんな大層なメカニズムが作動しているとは、これっぽっちも思っていないのだが。


「なんとなーくだけど、オリガさんの動きが分かるんだよなぁ……。そのおかげで、オリガさんともここまで戦えている。けど、油断しちゃ駄目だ。気を引き締めていかないと……おや、あれは?」


 その時日向が、床に何かが落ちているのを見つけた。

 この基地の兵士が使っていたであろう、対マモノ用アサルトライフルだ。



 一方、オリガは物陰に身を隠し、呼吸を落ち着けていた。

 だがその表情は、落ち着きとは程遠い怒りに満ちている。


「私が……射撃で負けた……? あんな……銃を手にして一年も経っていない青二才に、この私が……? どうなってるのよ……ああもう、どうなってるのよ、ホントに……っ!!」


 とにかく、新しい武器が必要だ。丸腰のままで銃を持った日向を相手にするのは、いくらオリガでも荷が重い。オリガは周囲を見回し、なにか武器が無いかと探してみる。

 

「……あら、あれは……」


 オリガが見つけたのは、台座に設置された大型の固定機銃だ。こんなものを持ち出すあたり、ここでは相当激しい戦闘が行なわれていたのだろうか。


「なんにせよ、好都合ね……!」


 オリガは、その固定機銃に手を伸ばす。

 だが、その名の通り、機銃はその場に固定されている。このままでは持ち運べない。……いや、それ以前に、こんな長大な銃、人間では狙い撃ちどころかマトモに射撃することさえままならないだろう。重量も反動も人間の身に余る代物だ。


 しかしオリガは、構わず固定機銃に手を伸ばし……。


「く……はぁぁぁぁ……ッ!!」


 バキリ、と音がした。

 なんとオリガは、固定機銃を無理やり台座から引っぺがしてしまった。


「ふふ……良い武器が手に入ったわ……!」


 オリガはニヤリと笑い、自分の身長より長い銃身を持つその機銃を軽々と肩に担ぎ、その場から移動した。


「私が思うに、日下部日向の再生能力も限界が近づきつつある。あと数回、アイツに致命傷を与えることができれば、もうアイツは戦闘不能になる。その後で、隠れている北園をゆっくり始末すればいい。これでもう、ミサイルを止める者は誰もいなくなる……!」



 オリガとの銃撃戦はさらに苛烈になるだろう。

 そして、彼女との戦闘のクライマックスも近づきつつある。

 日向は果たして、彼女の復讐を止めることはできるのか。



◆     ◆     ◆



 一方、こちらはホログラート基地の敷地内。

 そこでは、ロシア軍がマモノと戦闘を繰り広げていた。


 テロリストたちは、頼みの綱のマモノたち……アイスリッパーとヘルホーネットまでもが自分たちに攻撃を仕掛け始め、もう完全に瓦解していた。ほとんどの者は降伏し、今はロシア軍に連行されている。


 だが、今度はアイスリッパーの数が異常に増えてきた。せっかくテロリストたちを無力化したというのに、これではミサイル管制室まで攻め込めない。


「クッソォ! なんなんだよ、このアイスリッパーの数は!? 次から次へと湧いてきやがる!」


「落ち着け! アイスリッパー自体は、注意して戦えば大したことは無い相手だ! 手早く仕留めて、先に進むぞ!」


「……あの、ちょっと待ってください……」


「なんだよ新兵! なんか用か!」


「いや、あの、あれ見て……!」


「『あれ』ってなんだ! あれって……」


 新人のロシア兵が指差す先を見る、先輩ロシア兵。

 その視線の先には……。


「……え? ちょっと待て。なん、だ、あれ……?」


 先輩ロシア兵は、己の目を疑うような存在を見つけた。

 この基地の建物より巨大な何かが、暗闇の中に紛れているのだ。


 その巨大な何かは、もはや山をも刈り取ってしまいそうな鎌を振り上げて、ロシア軍に襲い掛かってきた。


「……う、うわぁぁぁぁ!? に、逃げろぉぉぉ!?」

「ひ、ひぃ!? ひぃぃっぃぃっぃ!?」

「せ、戦車兵っ! や、奴に攻撃を……ぎゃあああっ!?」



 その鎌の一振りで、数多の命が薙ぎ払われた。

 尊い命が、まるで草刈りでもするかのように、簡単に。

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