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第411話 死闘の結末

 ズィークフリドは、システマの『呼吸法』によって痛覚を抑制している。そのため、胸骨を粉砕されるという致命傷を受けながらも、戦闘を継続することができている。

 この呼吸を乱せば、今度こそズィークフリドを倒せるかもしれない。そう考えた日影たち三人は、一斉にズィークフリドに攻撃を仕掛ける。


「”指電”!」

「おるぁぁッ!!」


 日影が正面からズィークフリドに突撃し、その後ろから本堂が電撃を飛ばして援護する。

 ズィークフリドは本堂の電撃を回避しつつ、日影の斬撃をも同時に避ける。二人の連携攻撃すらなんのそのだ。


「まだまだッ! だるぁぁッ!!」


 日影が三度、素早く剣を振るう。

 その全てを冷静に回避するズィークフリド。


 日影が四撃目を、右から左への斬り払いを繰り出す。

 それがズィークフリドに回避されると同時に、小ジャンプ。

 右の空中回し蹴りをズィークフリドに放つ。


「おるぁぁッ!!」


 日影の燃え盛る回し蹴りがズィークフリドに迫る。

 さらに、ズィークフリドの背後から、本堂もまた蒼雷の回し蹴りを放った。


「はぁぁ……!」


 炎と雷。

 二人の回し蹴りがズィークフリドを挟み撃ちにする。


「ッ!」


 だがズィークフリドは、左右の腕を一本ずつ使って、二人の回し蹴りを受け止めた。超人二人の同時の回し蹴りでも、この男はビクともしない。


「いかん、防がれた……!」

「んの野郎……!」


 本堂は素早くズィークフリドから離れる。

 だが、日影が少し離脱するのが遅れた。

 離れる日影の足を、ズィークフリドが逃がさず掴む。

 そして、日影の足を捻りながら床に投げ飛ばした。


「うっ!? ぐぅ……クソ、足が……!」


 床に投げ出され、叩きつけられ、転がる日影。

 投げられた際に、ズィークフリドに掴まれた足首を捻られ、破壊された。足に力が入らず、その場から立てない。


「クソ……”再生の炎”が、また弱まってきてやがる……!」


 日影は立ち上がれず、ズィークフリドに攻撃を仕掛けることができない。

 そんな彼と入れ替わるように、シャオランが攻撃を仕掛ける。


「せやぁぁッ!!」


 シャオランが纏う気質は”地の気質”。

 身体ごと弾丸のような勢いで、真っ直ぐズィークフリドに跳躍する。

 狙いは、ズィークフリドの気道……喉元に集中している。


(あと一撃……! あと一撃、ズィークの気道に拳を当てれば、この戦いも終わるんだ……!)


 その「あと一撃」という思いが、シャオランの攻撃を単調化させてしまった。たとえ弾丸のような勢いで肉薄しても、この男は容易に捕捉してしまう。


 接近してくるシャオランに対して、ズィークフリドは”縮地法”を使用。超スピードでシャオランの横を通り過ぎ、そのすれ違いざまにシャオランの喉を指拳で突いた。


「ッ!!」

「かはっ……!?」


 喉を突かれたシャオランが、苦しんでいる。

 口を大きく開けるも、呼吸がままならないような様子だ。


「あ……ぐ……!? けほっ……!?」


 ズィークフリドは、シャオランの喉の経穴を突いて、呼吸を乱したのだ。これではシャオランは練気法を使えない。ズィークフリドの呼吸を乱すはずが、逆に呼吸を乱されてしまった。


 圧倒的。

 まさに圧倒的。

 ここまで追い込んでも、まだ戦況をひっくり返す力が、この男にはある。


 身体能力、戦闘経験、会得した技術の数々……どれをとっても、ズィークフリドは日影たちのはるか上にいる。だが、ズィークフリドは決して油断などしない。なぜなら、相手も必死の想いなのだと分かっているからだ。持ちうる技術、出せる力を全て出し尽くして、自分を打ち倒そうとしてくるのだと理解している。


 確かに自分の肉体には、絶対の自信がある。戦闘における技能と経験も、日影たちを圧倒しているという確信がある。

 だが、その上に胡坐あぐらをかいて、相手を見下すような真似はしない。自分がこの超常の肉体を手に入れるために死に物狂いで努力したように、相手も今の力を身に付けるために努力を重ねてきたということを、ズィークフリドは知っている。


 相手への礼節を欠かさず、相手が積み上げてきた努力に想いを馳せる。その努力の中で、どんな力を身に付けたのか、どんな技を身に付けたのか、考察する。


 相手を尊敬するからこそ、最後まで全力で叩き潰す。

 だからこそ、礼節を重んじる戦闘者は、隙が無い。

 礼節を重んじる戦闘者に、弱い者など一人だって存在しない。

 それが格闘であれ、スポーツであれ、テレビゲームであってもだ。

 そこを分かっているからこそ、ズィークフリドに油断は無い。


 心・技・体。その全てが、人として究極の地点にまで達している。

 これが『人類の鍛錬の限界点にして、到達点』。

 これがズィークフリド・グスタフヴィチ・グラズエフ。

 只人の身で人を超えた、絶対無敵のエージェントだ。


 そしてズィークフリドは、今度は正面に立っている本堂に目を向ける。

 本堂は、身体に蒼い稲妻を纏っている。”迅雷”を使用しているのだ。


「行くぞ……!」


 本堂が、正面からズィークフリドに向かって駆けだした。

 迅雷状態により、そのスピードはまさしく雷の如し。

 右手には、残された最後の一本の高周波ナイフ。

 これでズィークフリドを突き刺すつもりなのだろう。


「…………!」


 ズィークフリドは、本堂のナイフに全神経を集中させる。

 どこを狙ってこようと、それを凌いで、反撃する。

 それで本堂は完全に戦闘不能に出来るだろう。


 本堂がズィークフリドの間合いに入るまで、残り三歩。二歩。

 瞬間、本堂はノーモーションでズィークフリドにナイフを投げつけた。


「ふんっ!」

「っ!?」


 投げられたナイフの狙いは、ズィークフリドの眉間。

 ズィークフリドは咄嗟に顔を逸らして、これを回避。


 本堂は、ナイフで直接斬りかかってくるものだと思っていた。

 最後のナイフを、自ら捨てるような真似はしないはずだと。

 しかしズィークフリドの予測は外れ、本堂はナイフを投げてきた。

 だから、ズィークフリドの回避行動も、大きな動作になってしまった。


 そしてズィークフリドが体勢を立て直した時には、正面から本堂の姿が消えていた。


「……!?」


 慌てて本堂の姿を探すズィークフリド。

 正面、および左右にはいない。


 その時、本堂がズィークフリドの背後から飛びついてきた。


「はぁっ!!」

「ッ!?」


 本堂は、ズィークフリドがナイフを回避して顔を背けている間に、彼の背後へと回り込んでいたのだ。迅雷状態によって超人的な速さで動ける本堂だからこそできた芸当だ。


 ズィークフリドの背中にしがみついた本堂は、そのまま両腕でズィークフリドの首を拘束。頸動脈を絞め上げた。チョークスリーパーだ。


「意表を突いての、ナイフ投げ。日向が的井さんに使っていた戦法だったが、なるほど使えるなコレは……!」


「……ッ!!?」


 本堂に首を絞められたことで、ズィークフリドの呼吸が止まった。

 つまりそれは、呼吸法による痛覚の抑制も中断されたことを意味する。

 抑えていたダメージが溢れ出て、ズィークフリドが苦悶の表情を浮かべた。


「まだまだっ! これでどうだっ!」


 ズィークフリドの首を絞め上げている本堂は、さらにそこから全身放電を繰り出した。ズィークフリドもそれに巻き込まれ、身体中を電気で焼かれる。


「……ッ!!!」


 ズィークフリドは、これ以上無いほどに必死の形相だ。

 首を絞める本堂の腕を掴み、振りほどこうとする。

 その際、ズィークフリドのあまりの握力によって、本堂の腕にズィークフリドの指が突き刺さった。


「ぐぁ……っ! この……いい加減にくたばれ……!」


 ズィークフリドの指が自身の腕に突き刺さりながらも、本堂は拘束を解かない。彼もまた、今まで見せたことが無いほどに必死な表情で、ズィークフリドにしがみついている。


「……ッ!!」


 それでもズィークフリドは倒れない。

 今度は、本堂にしがみつかれたまま、勢いよく背後へと下がっていく。

 その後ろには、一本のコンクリート柱が。

 そのコンクリート柱に、押し潰すように本堂を背中ごと叩きつける。


「ッ!!」

「がふっ……!?」


 ズィークフリドの背中とコンクリート柱で板挟みにされる本堂。

 強烈な衝撃によって圧迫されて、腕から力が抜けかける。


「ぐ……まだ……だ……っ!!」


 だが、本堂もなんとか耐えている。

 もはや、気合と気力だけでズィークフリドに食らいついている。


「…………ッ!!」


 ズィークフリドは、本堂に首を絞められて、さらに強烈な電撃を流されている。そんな状態からズィークフリドは、なんと本堂を背負ったまま前宙を繰り出し、本堂を下にして背中からコンクリートの床へと落下した。


「が……は……!?」


 硬いコンクリートの床と、ズィークフリドの超重量に押し潰される本堂。先ほどの柱への叩きつけよりも、さらに強烈な衝撃を受けた。

 ここまで粘った本堂も、ついに力尽き、ズィークフリドの首から腕を放してしまった。本堂から解放されたズィークフリドは、素早く立ち上がる。


「……ッ、……ッ!」


 痛覚の抑制を解除されただけでなく、大量の電撃まで浴びせられ、そのうえ酸欠寸前まで追い込まれた。ズィークフリドは立ち上がったものの、上体は大きく項垂うなだれて、呼吸も乱れている。まさに疲労困憊といった様子だ。


「だるぁぁッ!!」

「っ!」


 そんなズィークフリドに向かって、日影が『太陽の牙』を投げつけてきた。燃え盛る刀身がブーメランのように回転しながら、ズィークフリドに迫ってくる。


「ッ!!」


 ズィークフリドは足を真っ直ぐ振り上げて、飛んできた剣を蹴飛ばした。

 その剣を追うように、日影がズィークフリドに接近する。


「ッ!!」


 ズィークフリドは、日影を迎撃するべく、右の拳を突き出した。


「っとぉ!!」

「っ!?」


 しかし日影は、ズィークフリドの拳を正面から受け止めた。

 両手の平を使って、ガッシリとズィークフリドの拳を止めている。


「へへ……ついに、テメェの拳を止めてやったぜ、ズィーク……!」


 日影は以前、オリガに殴りかかろうとして、ズィークフリドに拳を止められたことがある。それも、ポケットに片手を突っ込んだ状態で、という余裕そのものな体勢で。


 しかし今回は、日影がズィークフリドの拳を止めた。

 不敵に笑う日影だが、その笑みには「ざまぁみろ」といった感情は、実はほとんど込められていない。


 あの日、拳を止められた時。

 その日から、日影にとってズィークフリドは、いずれ追い抜きたいと思う目標になった。その時は、拳を止められた復讐といった念も少し入っていた。


 だが、このズィークフリドという男を知れば知るほど、日影は彼への認識を改めざるを得なくなった。

 寡黙だが、どこまでも鍛錬に妥協が無くストイック。そして、凄まじいまでの強さを誇っている。それでいて、その心は高潔な武人そのもの。ズィークフリドは、日影の理想像のような男だった。


 追い抜きたいという思いは、いつしか『憧れ』になった。

 日影は、密かにズィークフリドに憧れていた。

 その証拠に、彼はこの戦いの中で、色々な罵詈雑言をズィークフリドに浴びせたが、そのほとんどは、実は半分誉め言葉で言っているのである。


 そんな憧れの男の拳を、今は日影が止めている。

 それが、日影が笑う理由。

 日影は今、気分が最高に高揚している。


「さぁ、あの時のお返しだぜ……! おるぁぁッ!!」


 日影は、左手でズィークフリドの拳を受け止めたまま、右の拳をズィークフリドの頬に叩きつけた。オーバードライヴ状態の燃え盛る拳が、ズィークフリドの左頬に直撃する。


「っ!」


 日影の拳は、効いた。

 ズィークフリドは、日影の拳の衝撃で仰け反った。


 ……だが、その時だ。

 ズィークフリドは、仰け反りながら、口角が少し上がったように見えた。


「……え? アイツ今、笑った……」


「ッ!!」


「ぐっ!?」


 一瞬、ズィークフリドが笑ったように見えて、それに気を取られていた日影だったが、その隙にズィークフリドが右拳で殴り返してきた。

 先ほどの日影の拳とは比べ物にならないほどの威力だ。日影は大きく後ずさりながら、なんとか踏みとどまった。


「痛っつぅ……!?」


 口からこぼれ出る血を拭いながら、日影はズィークフリドを見る。

 ズィークフリドの表情は、いつもの無表情だった。

 そして、左手の人差し指をクイクイ、と曲げている。

「かかってこい」のジェスチャーだ。


「…………面白ぇ!! うるぁぁぁッ!!」


 それを見た日影は、再びズィークフリドに殴りかかる。

 その表情は、血に濡れた歯を剥き出しにした、満面の笑み。

 心の底から楽しそうな笑顔だ。


「うるぁぁぁぁぁぁッ!!」


 日影は、ひたすら必死に左右の拳をズィークフリドに叩きつける。オーバードライヴ状態で腕が燃えているのもあって、まさに炎の嵐だ。そんな拳が、ズィークフリドの顔面に、胸板に、肩に、腹部に止まることなく叩きつけられまくる。


「っ! ……ッ!!」


 そんな日影の拳をノーガードで受け止めるズィークフリド。今日一番の速度と勢いで繰り出される日影の拳に対して、ズィークフリドのボロボロの身体は、もう回避もガードも追いつくことができないのだ。


 しかし、日影の攻撃は防げないが、自分の攻撃を続行するだけの気力はある。ズィークフリドは日影の連撃を受けながらも右拳を振りかぶり、日影の顔面を殴り飛ばした。


「ぶぐぁっ!? ぐ……ッがああああああッ!!」


 ズィークフリドの拳を受けて、大きくよろめいた日影だったが、すぐさま体勢を整えて先ほどと同じく炎嵐のような拳打を放つ。


「だるぁぁぁぁぁぁッ!!!」

「……ッ! っ、っっ!!」


 ズィークフリドの攻撃動作を潰す勢いで、日影はズィークフリドを殴り続ける。身に纏う炎も暴走するエンジンのように、最後の火力を振り絞る。

 しかし、ズィークフリドの攻撃は阻止できない。日影にさんざん殴られつつも、お構いなしに拳を振るってくる。


「ッ!!」

「ッぐぅ!? クソ、舐めんなぁぁッ!!」


 このズィークフリドという男、この期に及んでなお打たれ強い。打たれ強すぎる。もはやこれ以上殴っても、この男は倒せないのではないかと思わされてしまうほどに。


 そんな疑念すら焼き尽くすかのごとく、日影は攻撃の手を緩めない。

 ただひたすらに、ただがむしゃらに拳を振るうのみ。


(攻撃を止めるなッ! ここで後手に回ったら、もう絶対に取り返せなくなるッ! 押し切れッ! 命を燃やせぇぇぇッ!!)


 日影が鋭いストレートを繰り出した。

 それがズィークフリドの顔面にクリーンヒット。


「っ!?」


 ズィークフリドも、これには思わず仰け反って体勢を崩す。

 ……だが、その状態のまま日影の頭をがっしりと掴む。

 そして日影の顔面に、仰け反った勢いで思いっきり頭突きをかました。


「ッ!!!」

「ぶぐッ!?」


 鉄塊のごときズィークフリドの頭突きを叩きつけられ、日影もよろめいて倒れそうになる。だが、すぐにその瞳に闘志の炎を再点火させ、攻撃を続行した。


「くぉぉぉああああああぁぁぁぁぁああああッ!!!」


「――――――――――ッ!!!」


 日影の炎拳が、次々とズィークフリドを殴打する。

 ズィークフリドの下突きが、日影の腹部に直撃した。

 それでも日影は止まらない。ズィークフリドを殴り続ける

 ズィークフリドもまた日影の拳の暴風雨に耐え切り、殴る。

 まさしく、意地と意地のぶつかり合い。


 日影がこの世に生を受けて、まだせいぜい9か月。

 その短い人生の間で鍛え上げてきた力の全て。

 培ってきた経験の全て。

 それらを全て拳に乗せて、ズィークフリドに叩きつける。


 ズィークフリドもまた、それを回避せずに受け続ける。

 あの時出会った、威勢だけは良かった少年が、どれほど強くなったか。

 今日に至るまで、どのような道を歩んできたのか。

 それら全てを噛みしめるように。その成長を祝福するように。


 これはもはや、ただの殴り合いに非ず。

 戦闘者同士の、神聖なコミュニケーション。


 もはやミサイルだとか、テロだとか、そんなことはどうでもいい。

 今ここにあるのは、二人だけの闘いだ。

 二人だけの、私闘だ。



「はぁ……! はぁ……ッ!」


「……っ! ……っ、…………っ!!」


 気が済むまで殴り合った二人は、ようやく手を止める。

 互いに顔じゅう痣だらけ。

 日影は”再生の炎”の回復力が、もう限界寸前だ。


 だが、両者の瞳からは、まだ戦意が消えていない。

 相手は、まだ立っている。

 戦いは、まだ終わっていない。


「ぜぇ……さぁて……それじゃ、名残惜しいけどよ、そろそろ終わらせるか?」


「…………。」


 ズィークフリドは、日影の問いに頷く。

 そして、自身の最強の技、”烈穿”の構えを取った。

 左手の平で日影に狙いをつけて、右腕を引き絞る。

 右手は爪を立てるように、指の一本一本、先端にまで力を浸透させる。


「……へへ。やっぱりアンタ、最高だぜ……!」


 それを見た日影も、自身の右拳に炎を集中させる。

 日影の最強の一撃、”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”の構えだ。


 ”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”は日影の”再生の炎”を一気に消費する。そのため、この技を下手に使うと、再生能力やオーバードライヴにまで影響が出てくる。だからこそ日影は、確実にこの技を当てることが出来る場面まで、この技を温存しておいた。


「いくぜ、ズィーク……。再生の炎……」


「…………。」


 両者、構える。

 泣いても笑っても、この一撃で全てが決まる。




「……”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”ッ!!!」

「ッ!!!」


 二人同時に動き出した。

 日影の炎拳とズィークフリドの貫手。

 突き出された二人の攻撃が、正面から衝突する。


「がぁぁぁぁぁッ!!!」

「ッ!?」


 打ち勝ったのは、日影だ。

 大爆炎と共に、ズィークフリドの貫手を吹き飛ばした。

 ズィークフリドの鋼指が、ついに潰れた。

 拳を押し退けられたズィークフリドが、大きく仰け反って体勢を崩す。


 拳を振り抜いた日影は、踏み込みながらその場で回転ターン

 そしてもう一度、ズィークフリドに向かって拳を振りかぶる。

 その右拳には、再び炎が集束されている。

 ”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”、二発目だ。


「コイツで……終わりだぁぁぁぁッ!!!」


 回転ターンの遠心力まで乗せて、日影が再び”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”を放つ。

 ズィークフリドは、それを目で追うことはできても、もはや回避もガードもできない。


「――――――……。」


 日影の拳が直撃する寸前。

 その時、ズィークフリドは、穏やかに瞳を閉じた。



 そして、日影の拳が、ズィークフリドのみぞおちに叩きつけられた。

 大爆風と共に、ズィークフリドが吹っ飛ばされる。

 その先のコンクリート壁に、ズィークフリドは背中から激突。

 激突した壁に、巨大なクレーターが出来た。


 大きくひび割れた壁にもたれかかるようにして、ズィークフリドが背中からずり落ちていく。そして、床に座り込むような体勢で、彼は動かなくなった。



 恐るべき強さを誇った、もう一人の無敵の兵士。

 日影たち三人は、ついにこの強敵を打ち倒した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ズィークさん、優しい……( ;∀;) 日影君の事をきっとライバルと言うよりは、弟子にしたかったのかな。ストイックと言う部分では、2人は共通していますし。 身振り手振りを使って教えれば、日影…
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