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第407話 戦況流転

 日影たち三人とズィークフリドが引き続き戦っている。

 ズィークフリドが日影に向かって、左手の指五本を獣の爪のように立てて振り上げ、それを思いっきり振り下ろしてきた。


「ッ!!」

「うおっ!?」


 日影は後ろへ下がり、間一髪でこれを回避。

 叩きつけられたズィークフリドの五本指が、コンクリートの床に食い込んだ。


「野郎、危ねぇ……」


 だが、ズィークフリドの攻撃はまだ終わっていない。食い込ませた左手の指を支点にして、身体ごと反時計回りに回転させての下段回し蹴りを繰り出した。


「ッ!!」

「くぁ!?」


 流れるような連携、見たこともない技の繰り出し方に、日影は思わず意表を突かれた。両足を蹴り倒され、叩きつけられるように床に転倒。


 さらにズィークフリドは、倒れた日影を狙って右足のストンプを繰り出した。


「ッ!!」

「っとぉ!?」


 日影は急いでその場から退避。

 先ほどまで日影のどてっ腹があった場所にズィークフリドの足が落ちてきて、硬い床が踏み割られた。


 ズィークフリドの背後から、今度はシャオランが接近してくる。

 日影の援護が目的なのだろう。


「せやぁぁッ!!」

「ッ!!」


 ズィークフリドは即座にシャオランの接近を感知。

 振り向きざまに逆水平チョップを繰り出した。狙いはシャオランの首元。


 ……だが、シャオランは()()オーラを纏っていた。

 打撃技にめっぽう強い『水の練気法』だ。


「もらったぁ!」


 シャオランはズィークフリドの腕を取り、そのまま返し技に移行しようとする。


 ところが。

 ズィークフリドの腕がするりとシャオランの手から離れる。

 そして、逆にシャオランの腕がズィークフリドに掴まれてしまった。


「……え!? あれ!?」


 シャオランは、ズィークフリドの攻撃の『力の流れ』を読み取り、その流れに乗るようにしてズィークフリドの腕を掴むつもりだった。

 しかしズィークフリドは、そのシャオランの掴みかかりの『力の流れ』を読み取り、シャオランの腕を掴み返したのだ。つまりこれは、返し技を返し技で返した、ということになる。控えめに言って人間技ではない。


 ズィークフリドは、掴んだシャオランの腕をひねる。

 シャオランの関節が悲鳴を上げ、彼の膝からも力が抜けていく。


「……!」

「い、痛たたたたたたた!?」


 そしてシャオランの頭が下がったところに、ズィークフリドは強烈な回し蹴りを叩き込んだ。


「ッ!!」

「あぐっ!?」


 遠心力が乗ったズィークフリドの脚が、シャオランの脇腹に叩きつけられる。その衝撃で、シャオランの身体が横に折れ曲がる。


 シャオランに追撃を仕掛けようとするズィークフリド。

 それを阻止せんと、今度は本堂が攻撃を仕掛けてきた。

 迅雷状態による、猛スピードのタックルだ。


「おぉぉぉ!!」

「っ!?」


 ズィークフリドは素早く振り向き、本堂のタックルを止める。

 弾丸のような速さで突っ込む本堂と、超重量のズィークフリドが激突。


 結果は、ズィークフリドの勝利。

 本堂のタックルを、一歩も退かずに受け止めていた。


「……っ!」


 しかし本堂は、全身から放電しながらズィークフリドに突撃していた。

 電気に身を焼かれ、ズィークフリドの身体から力が抜ける。

 そのまま、本堂に体勢を崩され、仰向けに床へと倒れた。


「今だ、もう一度マウントを取る……!」


 そう言って本堂は、倒れたズィークフリドへ飛びかかる。

 引き続き全身から放電して、ズィークフリドが下手に触れることを許さない。


「ッ!」

「ぐ……!?」


 しかしズィークフリドは、本堂を止めた。

 全身から放電している本堂を、止めた。

 足を真っ直ぐ本堂に押し当てている。足で本堂を止めている。


「ぬ……そうか……! ブーツの裏を使って……!」


 多くのブーツの靴底には、合成ゴムが素材として使われている。

 ゴムということは、つまり電気を通さない。

 ズィークフリドの靴の裏には、本堂の電気は流れない。


「ならば、足首でもどこでも掴んで……!」


「ッ!!」


「うぐっ!?」


 ズィークフリドは、本堂に足を掴まれる前に、本堂を蹴り飛ばした。しかし、その蹴り飛ばすパワーがまた凄まじく、ほとんど蹴り押すような形だったにも関わらず、本堂の身体が高く宙を舞った。そのまま本堂は、背中から床に落下。


「がはっ!?」


 床に叩きつけられた本堂は、上手く受け身が取れなかった。

 ダメージは大きく、立ち上がれないでいる。


 その本堂に追撃を仕掛けようとするズィークフリド。

 だが、その横から再び日影が接近してくる。


「おい、ズィークッ!」


「……!」


 日影に声をかけられたズィークフリドは、日影へとターゲットを変更。身体ごと日影へと向き直ると、ゆらりと上体を前に倒す。


(”縮地法”の予備動作……! なら、”烈穿”が来るか……!?)


 ズィークフリドの行動を予測した日影は、次こそ”烈穿”に対してカウンターを喰らわせるべく、身構える。そして、ここぞというタイミングで右の回し蹴りを放った。


「ッ!!!」

「おるぁぁッ!!」


 タイミングは完璧。

 ズィークフリドが動くと同時に、日影の右脚が振るわれる。

 ……しかし。


「ッ!!」

「う……っぐ……ッ!?」


 ズィークフリドは、カウンターを仕掛けてきた日影の右足に貫手を繰り出した。結果、日影が逆にカウンターを喰らう形となった。真っ直ぐ立てられたズィークフリドの指四本が、日影のすねのあたりに突き刺さっている。


 ズィークフリドが、日影の脛から指を引き抜く。


「ッ!!」

「が……ぐあぁぁッ!?」


 日影は激痛のあまり、たまらず床に倒れた。

 貫かれた箇所を押さえながら、必死に痛みをこらえている。


 そこへ本堂とシャオランが、ズィークフリドに攻撃を仕掛けてきた。


「”指電”!」

「せやぁぁッ!!」


「っ!」


 ズィークフリドは日影への攻撃を中断し、後方へと飛び退く。

 その隙に、二人が日影を助け起こした。


「クソ……悪ぃ。また助けられたな……」


「気にするな……。しかし、これはまた苦しい展開になってきたな……。シャオランのために隙を作るどころの話ではなくなってきたぞ……」


 日影に声をかけながら、本堂は苦い顔をする。

 ここへきて、ズィークフリドが再び盛り返してきた。

 三人の連携をものともせず、決定打を与えさせない。


「俺のマウントや、シャオランの『水の練気法』にも対応し始めてきたな。このままでは、また先ほどのように三人まとめて叩きのめされるぞ……」


「ひ、ヒューガじゃないけどさぁ……ボクはこの戦いで新しい技を身に付けたよね? ボロボロだった仲間たちも復活したよね? じゃあ、あとは逆転一直線じゃないのぉぉ普通はさぁぁ!? なんで逆に追い込まれてるのぉぉ!?」


「安易な逆転フラグは許しちゃくれねぇか! 本当に、どこまでも手強い野郎だぜ!」


 足の怪我も塞がったところで、日影は再びズィークフリドに攻撃を仕掛ける。


 対するズィークフリドの表情もいたって真剣。最後まで油断なく、完膚なきまでに三人を打ちのめすつもりなのだ。



◆     ◆     ◆



 一方その頃。

 ホログラート基地の執務室では。


「はぁぁぁっ!!」

「痛っつぅ!?」


 オリガが、日向を相手に大暴れしている。

 いきなり強くなった筋力で、猛攻撃を仕掛けてくる。

 その小さな身体からは考えられないほどの馬力だ。

 日向は素手でガードを固めているが、あっという間に崩される。

 ガードを腕の骨ごと破壊され、使い物にならなくされた。


 オリガが大きく拳を振りかぶり、日向の腹部に叩きつける。


「はぁっ!!」

「うぐぁ!?」


 日向は、まるで解体用の鉄球でもぶつけられたかのように吹っ飛んだ。

 そして、その先の壁に背中から叩きつけられる。


「うぐ……げほっ……なんなんだあのパワーは……。下手すると、ズィークさんとほとんど五分だぞ……」


「日下部くん、大丈夫か!?」


「ぜぇ……ぜぇ……グスタフ大佐……ぐ、熱つつつ……!!」


 日向の近くには、いまだに縄で縛られているグスタフ大佐がいた。

 オリガに滅多打ちにされ、”再生の炎”に身を焼かれる日向を、心配そうに見つめている。


「ぐ、グスタフ大佐……アレは、何なんですか……? オリガさん、いきなりめちゃくちゃパワーアップしたんですけど……」


「恐らくは、筋肉のリミッターを外したのだと思われる……。いわゆる『火事場の馬鹿力』という奴だ。本来なら、それは無意識下で発動するものだが、オリガは自発的にそれが使えるんだ」


「そ、そんなこともできるんですか、あの人!?」


「『無敵兵士計画』の実験の過程で、手に入れさせられた能力らしい。私も直に見るのは初めてだが……」


「な、なにか、あの人に弱点とか無いんですか!?」


「そうだな……あの『リミッター解除』は、たしかオリガ自身にも相当な負担をかける能力だと聞いた。オリガの体調が安定している状態で、初めて使用が許可される技だと。だが、今のオリガは『調整』を受けていない。ゆえに体調は不安定。よって現在、あの技はオリガにとっても諸刃の剣だ。だからこそ、今までの君たちとの戦いの中でも使ってこなかったのだろう」


「な、なるほど……。つまり、あの技は長時間は使えない?」


「そういうことだ。オリガが力尽きるまで、なんとか君が耐え切ってくれれば……」


「お話は終わったかしら? じゃあ、刑務続行よ」


 そう言って、オリガが再び日向に襲い掛かる。

 真っ直ぐ突進してきて、真っ直ぐ右拳を突き出してきた。


「せや!!」

「うわっとぉ!?」


 慌てて左に避ける日向。

 日向がいなくなり、その後ろの壁にオリガの拳が叩きつけられる。

 コンクリートの壁に、オリガの拳が突き刺さった。


「ちょお!?」


 理解不能な破壊力を目の当たりにして、日向は動揺してしまう。

 あんな拳が自分に叩き込まれたらと思うと、気が気でない。

『太陽の牙』を呼び出すことも忘れ、オリガから逃げ続ける。


「む、無理無理無理! こんな人外の攻撃を耐えきるとか! グスタフさん、助けてーっ! 娘さんを止めて―っ!」


「こちらも今、先ほど飛び散ったコンクリート片で縄を切断中だ! しかしこれは……切断にはかなりの時間がかかりそうだ……!」


「あ、つまり期待できないパターンですね!?」


「チョロチョロ逃げてんじゃないわよっ!!」


「っとぉ!?」


 振り抜かれたオリガの拳を、日向は咄嗟に後ろに下がって回避。

 振るわれる拳の破壊力はとんでもないものだ。

 マモノだってここまでのパワーを持っている者は少ないだろう。


 今すぐこの執務室から逃げ出したい日向だが、自分がここから逃げたらグスタフと北園に危険が及ぶかもしれない。なんとか、オリガの注意を自分に引き付けるしかない。


「と、ともかく、次の逃げ道を……」


 オリガの攻撃を避けるのに十分なスペースを探す日向。


 ……と、その時だ。

 偶然彼の視界に映ったのは、モニターのスクリーンの映像。

 日影がズィークフリドに”烈穿”のカウンターを仕掛け、失敗した場面だ。


「日影のヤツ……カウンターを狙ってるのか……」


 日向から見て、ズィークフリドは、目にも留まらぬスピードで動いていながら、しっかりと相手の動きを捉えているように見える。だがその反応速度は、さすがのズィークフリドといえどギリギリだ。日影の攻撃は、あと一歩というところで当たりそうなのだが……。


「……そうか。『あと一歩』だ……」


 その時、日向には分かった。

 どうすれば、ズィークフリドにカウンターを命中させられるか。

 そして、力の限り声を張り上げる。


「北園さんっ! 日影に伝えてくれ! 『あと一歩足りない! 一歩、思いっきり踏み出せ!』って……」


「黙りなさい」


「うっ!?」


 声を上げる日向の目の前に、オリガが回り込んできた。

 そしてすかさず、ボディーブローを日向に突き刺す。


「かっ……げほぉ……!?」


 その一撃で、日向はうずくまり、動けなくなった。

 口から血がボタボタと落ちる。

 腹を殴られるだけで吐血するなど、初めての経験だった。


「う……ぐ……!」


 激痛のあまり涙目になりながらも、なんとか顔を上げる日向。

 そんな彼の側頭部に、オリガの回し蹴りが叩き込まれた。


「せいっ!!」

「い”っ……!?」


 日向の目の前が、頭の中が、真っ白になる。

 意識が、飛んだ。


(あれ……なにがおこったんだろ……なにもかんがえられない……あたまのなかがあつい……とにかく、身体を起こさないと……あれ……身体が動かない……)


 だんだんと、日向の意識が戻ってくる。

 ”再生の炎”の熱さと共に、戻ってくる。


 日向はどうやら、仰向けに倒れていたようだ。

 そして、倒れている日向の上に、オリガが馬乗りになっている。

 馬乗りになりながら、日向の瞳をジッと覗き込んでいる。


「……あ!?」


 オリガの金色の瞳が、日向の瞳を覗き込んでいる。

 瞬間、日向の意識が、再び薄れてくる。

 彼女の超能力、精神支配マインドハッカーだ。


(しまった……! 目を……離さないと……!)


 急いでオリガの瞳から目を逸らそうとする日向。

 だが、そう意識しても、オリガの瞳から目を離せない。

 日向の意識に反して、オリガの瞳を見つめてしまう。


「無駄よ。もうあなたは、私から逃れられない」


「う……くぁ……」


 こうなってしまえば、もはやどうしようもない。

 日向は、オリガの支配を受け入れるしかない。


(やっぱり……勝てないのか……この人には……)





「きゃあああああああ!?」


「え!?」


 その時、オリガが悲鳴を上げた。

 次いで、日向の身体の上から転がり落ちた。


 日向は、特にオリガに何もしていない。

 彼もまた、オリガの突然の異変に戸惑っている。



 いったい、彼女の身に何が起こったのだろうか。

 この状況、日向にとって好機か、それとも……。

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