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第406話 超人同士の戦い

 ホログラート基地の地下兵器格納庫にて、ズィークフリドは日影に向かって”烈穿”の構えを見せる。人間の胴体を容易く貫くほどの威力を持つ、彼の最強の技だ。


 対する日影は、その場から動かず、ジッと『太陽の牙』を構えている。彼が言うには、どうやらズィークフリドの”烈穿”をどうにかする算段があるようだ。


 日影は、真剣極まる表情でズィークフリドを見ている。

 彼の一挙手一投足を、ミリ単位で観察している。


(一瞬だ……。『猶予』は、ほんの一瞬だけ。その一瞬を逃せば、オレは即座に腹をぶち抜かれる羽目になるだろうな……。だが、ヤツの動きは憶えてきたぜ……)


 場が静寂に包まれる。

 互いに、仕掛けるタイミングを見計らっている。

 嵐の前の静けさだ。

 日影の身体を包む炎も、静かに燃えている。



「ッ!!!」


 ズィークフリドが動いた。

 まばたきするよりも早く日影との距離を詰める。

 そして、引き絞った右手で真っ直ぐ、螺旋を描きながら貫手を繰り出した。


 しかし、ズィークフリドが日影の懐に潜り込むよりわずかに早く。

 日影が、向かってくるズィークフリドに『太陽の牙』を突き出した。


「おるぁッ!!」

「ッ!?」


 日影が狙っていたのは、カウンターだ。


 ”烈穿”は、確かに凶悪なまでに速い。だが、あまりにも速すぎて、ズィークフリドでもコントロールができず、真っ直ぐ突っ込むことしかできないのではないか、と日影は読んだ。横や背後に回り込まれることはなく、常に正面から仕掛けることしかできないのではないか。と。


 ズィークフリドの”烈穿”に合わせて、日影は剣を突き出す。そうすれば、後はズィークフリド自身の速度により、向こうから剣に貫かれてくれるというワケだ。あの速度では、急に剣を突き出されたら、回避することも困難だろう。


 ”烈穿”は本来、使われたら最期、と言っても過言ではない技だ。なにせ、ズィークフリドが動いたと思ったら、身体を貫かれているのだから。相手がこの技の性質を知る時には、同時に死んでいる。いわゆる初見殺し。オリガが『あらかじめ知ったところでどうしようもない技』と話していたが、納得の評価だろう。


 だが日影には”再生の炎”がある。一度や二度では死にはしない。すでにその身で二度も”烈穿”を受けた彼は、ズィークフリドがどんなタイミングで”烈穿”を放ってくるか、なんとなく予測ができるようになっていた。彼の戦闘における勘の鋭さは天賦の物がある。


 そして実行に移したカウンター戦法。

 タイミングはバッチリ。

 日影は、攻撃の命中を確信した。



 ……だが、ズィークフリドはこれにも対応してきた。


 ズィークフリドは、目の前に突き出された日影の剣の切っ先を、姿勢を低くして潜り込むように回避しながら、貫手を繰り出した。剣はズィークフリドのこめかみをかすめただけで、致命傷を与えるには至らなかった。


「ッ!!」

「ぐっ!?」


 そしてズィークフリドの貫手は日影に命中。しかしズィークフリドも咄嗟に回避行動をとったため、狙いが逸れた。貫手は日影の胴体ど真ん中を外れ、彼の脇腹を深く抉った。


 確かにズィークフリドは、”烈穿”および”縮地法”を使っている間は、軌道変更も急停止もできないらしい。だが、常人では目で追うことさえ困難なスピードで動きながらも、ズィークフリドは目の前に迫った攻撃に反応した。ある程度のコントロールを利かせることができているのだ。


「やべぇ……ミスっちまった……!」


 悔しそうな表情をしながら、抉られた脇腹の痛みをこらえる日影。横を通り過ぎて背後に回ったズィークフリドへ振り向こうとする。


 しかしズィークフリドは、振り向きながら回し蹴りを仕掛けてきた。

 蹴りは日影の脇腹をモロに捉え、彼を吹っ飛ばした。


「ッ!!」

「がはっ!?」


 日影の作戦は失敗した。

 控えて見ていた本堂とシャオランも、焦りの表情を見せる。


「いかん、日影が押されているぞ!」


「と、とにかくヒカゲを助けなきゃ!」


 日影を援護するために動く二人。

 シャオランは”地の気質”を身に纏っている。

 シャオランがズィークフリドに接近し、本堂が”指電”で援護する。


「っ!」


 即座に身を屈めて、本堂の電撃を避けるズィークフリド。

 防護コートが無くなった今、彼は電撃をガードすることができない。


 ズィークフリドが身を屈めている間に、シャオランが距離を詰めた。

 ズィークフリドに向かって大きく踏み込み、真っ直ぐ拳を突き出す。


「せやぁッ!!」


 しかしズィークフリドは、さらに体勢を低くしてシャオランの拳を回避。同時に右手で貫手を繰り出し、シャオランの脇腹に突き刺した。


「ッ!!」

「はうっ!?」


 シャオランが攻撃を仕掛ける際に大きく踏み込んだため、その勢いまでズィークフリドの貫手に加算された。カウンターを喰らった形だ。思わぬ大ダメージに、シャオランはうずくまって痛みに悶える。


 ズィークフリドの貫手が、シャオランの身体に食い込んでいる。

 その貫手の指をグッと丸めて、一気にシャオランに押し当てる。

 同時に強く踏み込み、ズィークフリド自身の重さも拳の押し当てに加算する。


 これは寸勁。

 ズィークフリドはその場から動かず、シャオランに強打を叩き込んだ。


「ッ!!」

「うぐぅっ!?」


 シャオランが大きく吹っ飛ばされ、床に倒れた。あまりのダメージにのたうち回っているが、まだ戦闘不能ではないだろう。このくらいで倒れるほど、シャオランの肉体と『地の練気法』はヤワではない。

 

 とはいえ、ひとまずシャオランの動きを止めることは出来た。

 次にズィークフリドは、本堂を仕留めようとする。

 しかし……。


「……?」


 先ほどまで本堂が立っていたはずの場所に、本堂の姿が無い。

 シャオランとの戦いに気を取られている間に、どこかに隠れたようだ。



 ザリ、と音がした。


「ッ!!」

「くっ!?」


 ズィークフリドが振り返りながら右腕を振り抜き、本堂のナイフを弾き飛ばした。本堂はズィークフリドの背後へと回り込み、背中から彼をナイフで刺そうとしていたところだった。しかし、ズィークフリドの並外れた反応速度により、それも阻止された。


「まだまだ……!」


 しかし、本堂は攻めの手を緩めない。弾き飛ばされたナイフを気にも留めず、新しいナイフを取り出すこともせず、素手でズィークフリドの首元を掴む。


「……ッ!?」


 その時、ズィークフリドの膝が、ガクリと崩れた。

 いきなりズィークフリドの全身の力が抜けてしまったように。

 本堂がズィークフリドに触れただけで、彼の体勢を崩した。


 カラクリは単純。

 本堂は、手から放電しながらズィークフリドに掴みかかったのだ。


 いくら超人的な身体能力を誇るズィークフリドといえど、電撃に対する耐性は他の人間と変わらない。今までは防護コートによって本堂の電撃も防いでいたが、今はそのコートも日影に燃やされてしまった。彼は今、本堂の電撃を防げない。


 本堂は、体勢を崩したズィークフリドの首周りに両腕を巻き付け、首投げを繰り出した。


「はぁっ!!」

「っ!?」


 本来のズィークフリドならば、圧倒的なパワーとウエイトにより、本堂に投げられるなどということはまず有り得ない。しかし今のズィークフリドは、本堂の電撃を受けたことにより力が抜けていた。よってズィークフリドの身体は宙に浮き、背中から床に叩きつけられた。


 床に仰向けに倒れたズィークフリド。

 本堂は、すかさずズィークフリドの上に馬乗りになる。

 この時も身体から電気を発して、ズィークフリドの身体を焼く。


「…………ッ!!」


 本堂をどかそうとするズィークフリドだが、流される電気によって、身体に上手く力が入らない。本堂の胸倉を掴もうとして、逆に本堂に手首を押さえられ、そこからも電気を流される。


 ズィークフリドを抑え込みながら、本堂はズィークフリドの顔面に電撃の拳を叩きつけた。


「ふんっ!」

「っ!?」


 本堂の拳が、容赦なくズィークフリドの顔面を直撃。

 それも一発だけでなく、三発、四発と連続して。

 ズィークフリドは、完全にマウントを取られた。


 全身から電気を発することができる本堂は、まさに人間スタンガン。異能力を全開にした対人戦での本堂は、ややもすると日影やシャオランよりさらに凶悪な戦闘能力を誇る可能性がある。


 マウントを取られた側の人間は、背の下のグラウンドが邪魔になり、思いっきり拳を振りかぶってからの打撃を繰り出すことができなくなる。さらに、相手が上から身体を押さえつけることで、腰の入ったパンチが打てなくなる。そうなれば、打撃の威力は激減する。


 よって下の人間はそう簡単にはマウントから脱出できず、上に乗られる人間に体重で抑え込まれ、滅多打ちにされる運命を辿る。長い歴史の中で格闘技の技術が発展してきたにもかかわらず、いかにも野蛮で原始的なマウントポジションが、今もなお格闘戦において最強の体勢とされる理由はここにある。


 だが、ズィークフリドにはその定石も通じない。

 彼の貫手は、振りかぶらずとも、真っ直ぐ突き出すだけで驚異の貫通力を発揮する。


「ッ!!」


 ズィークフリドは、自分に拳を叩きつけまくる本堂の脇腹に、右の貫手を繰り出した。本堂は攻撃に夢中になっている。決して避けられは……。


「もらった!」

「ッ!?」


 だが、本堂はズィークフリドの貫手に反応した。

 身体を上手く逸らして、ズィークフリドの貫手を受け流す。

 さらに、空ぶったズィークフリドの右腕を取って、身体ごと真横に倒れる。

 マウントポジションから十字固めに移行した。


「……っ!?」


 ズィークフリドはギリギリのところで踏ん張って、なんとか腕を折られずに耐えた。しかし本堂は引き続き全体重をかけてズィークフリドの腕を折りにかかり、さらに電撃まで流している。電気が全身を焼く痛みと脱力感が襲い来る。


 ズィークフリドにとって、これは想定外だった。

 今の本堂の十字固めへの移行は、あまりにも動きが鮮やか過ぎた。

 明らかに、高度な訓練を積んだ者の動きだった。


 普段、マモノの相手ばかりしていて、人間とは戦わないはずの本堂が、なぜこれほどまでに熟達した寝技の技術を持っているのか。軽く推測してみるズィークフリドだが、手掛かりが少なすぎる。彼ではいくら考えても分からない。


 だがこの際、理由はどうでも良い。

 重要なのは、本堂は寝技、関節技をも得意としているということ。

 であれば、こうやっていつまでも寝ているのは危険だ。

 すぐに立ち上がらなければならない。


 するとズィークフリドは、空いている左手の指を床に食い込ませる。その食い込ませた指で踏ん張って、仰向けに倒れた状態で、自身の右腕を、巻き付いている本堂ごと持ち上げた。


「ば……馬鹿な……! 並の人間なら既に致死量に達している電撃を喰らいながら、腕十字を極められている体勢で俺を持ち上げた……!? この人、どこまでデタラメな……」


「ッ!!!」


「くっ!?」


 そしてズィークフリドは、そのまま右腕を振り抜いて、本堂を払い飛ばした。本堂は床を転がって、すぐさま立ち上がる。


 本来、平地のグラウンドで、あのような形で十字固めを返すなど、いくらパワー差があってもほぼ不可能だ。なぜなら、腕にしがみつく相手の体重に耐えようと思っても、踏ん張ることができないからだ。

 だがズィークフリドは、床に指を食い込ませることで、踏ん張りを実現してみせた。人間を超えた指の頑強さとピンチ力を持つ彼だからこそできた絶技である。


 この本堂とズィークフリドの一連の戦闘の間に、日影とシャオランもダメージから復帰したようだ。三人は固まって、ズィークフリドに向かって構える。


「悪い、本堂。こっちはもう大丈夫だぜ」


「無事だったか、日影。復活して早々、散々な目に合ったな」


「まったくだ。カウンター戦法……いけると思ったんだがなぁ……」


「とはいえ、アプローチは悪くないと思うぞ。ズィークフリドさんも反応はしていたが、それでもギリギリといった感じだった。もう一工夫したら、命中するかもしれん」


「そうかよ。んで、その『もう一工夫』に心当たりはあるか?」


「いや悪いが、今のところは何も」


「そうかい……」


 一方のズィークフリドは、本堂から大量の電気を浴びせられて、息を切らせている。腕十字も効いたようで、折れてこそいないものの、痛みをこらえるように右肘をさすっている。


「……フー……」


「ズィークは……まだ倒せないのぉ……? いくらなんでも頑丈過ぎない……?」


「シャオラン、お前は先ほど『火の練気法』をあの人に当てていたな? どれほどのダメージを与えることが出来た?」


「たぶん……胸骨にヒビを入れるくらいはいけたと思う……。もう一発、同じ場所に『火の練気法』を打ち込めば、次は骨を粉砕できると思うよ」


「つまり、俺と日影でなんとかズィークフリドさんの隙を作り、シャオランに『火の練気法』を打ち込ませる。そうすればあの人を倒せる、か……」


「もう一息だぜ! ズィークだって弱ってる! あれだけ息を切らせてるんだからな! 一気に押し込むぞ!」


「承知した……!」


「わ、わかったよ!」


 

 作戦が決まったところで、三人は再び構える。

 決着の時は、刻一刻と近づきつつある。

 最後に立っているのは、果たしてどちらか。

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