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第393話 一人、また一人

「ほ……本堂……」


「ホンドーが……やられちゃったぁ……!?」


 ホログラート基地の地下格納庫にて、ズィークフリドと交戦していた日影たちだったが、彼らの仲間の一人、本堂がズィークフリドに倒されてしまった。ドラム缶などの資材の山に埋もれ、起き上がってこない。生きているか死んでいるかも分からない状態だ。


 これまでの日影たちの戦いにおいて、本堂は多少負傷することはあったものの、意識を失うほどの戦闘不能にまで追い込まれたことは、今までなかった。故に、日影とシャオランが受けている衝撃は、極めて大きいものであった。


 そして、本堂を叩きのめした張本人、ズィークフリドが残った二人に近づいて来る。二人を金の瞳で見据えて、冷たい無表情のまま。


「ひ、ヒカゲ、逃げよう!? 本当に逃げよう!? もうボクたちじゃ勝てっこないよぉぉ!?」


「けどよ、北園がまだ捕まってる……。それに、ミサイルは……」


「ここでやられちゃったら、もうキタゾノもミサイルも何もあったモンじゃないんだよ!? たしかにボクはいま怖がってるけど、決して『怖いから逃げよう』って言ってるワケじゃないんだよ! ここで何もできずに全滅しちゃったら、完全にボクたちの勝ちは無くなる! ここは一度退いて、サヤマに助言の一つでも貰ってこようよ!」


「そうか……そうだよな。だが、本堂を置いて逃げるワケにもいかねぇだろ。オレがなんとか殿しんがりを務めてやるから、お前は本堂を連れて逃げろ」


「う、うん、わかった!」


「よっしゃ、んじゃ行くぜ……うるぁぁッ!!」


 声と共に、日影はズィークフリドに攻撃を仕掛ける。

 シャオランと本堂を守るために。


「おるぁッ! るぁぁッ!!」


 ズィークフリドに向かって、とにかく必死に斬りかかる日影。

 しかし、その攻撃に先ほどまでのキレは無い。

 ズィークフリドも、余裕を持って日影の攻撃を避けている。


「…………。」


(はぁ……はぁ……! 

 クソ、マズい……もうオーバードライヴが限界寸前だ……!)


 日影は先ほど、最後の力を振り絞ったばかりだ。”再生の炎”のエネルギーはほとんど底をつき、身体を包む炎も弱まってきている。それに伴い、日影の身体能力も落ちて、気だるさまで感じ始めているのだ。

 ここまでエネルギーを使ってしまった以上、今の日影は、もはや怪我を回復させることさえできないだろう。再生能力任せにズィークフリドを止めることも叶わない。


「だがそれでも……やるしかねぇんだよッ!」


 日影は身体を時計回りに回転ターンさせて、ズィークフリドの足を狙って逆横斬りの薙ぎ払いを放つ。その刀身からは、もう炎が消えてしまっている。


「ッ!」


 だがズィークフリドは、足を狙ってきた日影の剣の腹を、踏みつけて止めた。その衝撃で日影は剣を取り落とし、体勢も前のめりに崩れてしまう。


「ぐっ!? しまった……」


 体勢が崩れた日影を、ズィークフリドは蹴り上げた。

 真っ直ぐに、そして思いっきり。


「ッ!!」

「がふぁ……っ!?」


 ズィークフリドに蹴られた日影は、まるでサッカーボールのように宙を舞う。ダメージを受けた胸骨が音を上げてきしんだ。


 蹴飛ばされた日影は、背中からコンクリートの床に落下。

 落下の衝撃が身体中に響く。

 受けたダメージは、やはり回復しない。身体に残ったままだ。


「クソ……、来い、『太陽の――」


 日影は、取り落とした『太陽の牙』を呼び戻そうとする。

 だが、ズィークフリドがそれを許さない。

 素早く日影に接近し、その勢いのまま右肩でタックルを繰り出した。


「ぐはぁ!?」


 胴体にズィークフリドのタックルをモロに食らい、日影は吹っ飛ばされる。恐竜か何かが突っ込んできたのかと思うほどの衝撃だった。


 吹っ飛ばされた日影は、背後に立っていたコンクリート柱に背中から激突。その柱に身体を預けて、倒れまいと踏ん張る。


「ぐ……おぉぉ……!」


 震える足で立ちを維持する日影。

 今にも閉じそうな目で、正面のズィークフリドを視認。

 ズィークフリドは、日影に向かって”烈穿”の構えを取っていた。


(や、ヤベェ……!? この状態であんな技を喰らったら、間違いなくやられちまう……!)


 急いでその場から離れようとする日影。

 ……だが。


「ッ!!!」

「ご……はぁ……っ!?」


 ズィークフリドが、日影を逃がさなかった。

 瞬間移動の如き勢いで日影に接近し、その速度を乗せて貫手を繰り出した。


 ズィークフリドの”烈穿”は日影の胴体を貫き、彼の後ろに立っていたコンクリート柱までもぶち抜いた。

 コンクリート柱に背中からもたれかかるように、血の跡を残しながらずり落ちていく日影。そのまま床に座り込んでしまった。


「…………。」


 ズィークフリドは、懐から一本のナイフを取り出す。

 本堂が使っていた高周波ナイフだ。いつの間に回収していたのか。

 そして日影の左腕を掴み、持ち上げ、彼の左手にナイフを突き刺した。


「あぐッ!?」


 ナイフの刃は日影の左手を貫通し、コンクリート柱に縫い付けた。

 これで日影は、この場から動けなくなってしまった。


 胴に風穴を開けられ。

 左手にナイフを刺され。

 力無く、血の海の中に座る日影。


(クソ……もう……駄目だ……意識が……)


 再生能力も働かず、とうとう日影は沈黙してしまった。

 日影を仕留めたズィークフリドは、最後にシャオランをターゲットに定める。


 シャオランは、資材の山に埋もれている本堂を掘り起こしているところだった。だが、いかんせん左腕が使えず、右腕一本のみでの作業なので、かなり手こずっているようだ。


「ホンドー! しっかりして……って、うわぁぁぁズィークぅぅ!?」


「ッ!」


 ズィークフリドは、前傾姿勢でシャオランに走り寄りつつ、拳を突き出す。

 シャオランは素早く後ろに下がってズィークフリドの拳を回避。

 不意打ちは回避できたが、これでシャオランも逃げられなくなった。


「ひ……ヒカゲもやられちゃったなんて……ヤダもう今すぐ逃げたいよぉ……」


「…………。」


「……でも、まさかホンドーやヒカゲを置いて逃げるワケにもいかないし、そもそもボク一人で逃げたって、ズィークを振り切れる自信が無いし……」


「…………。」


「……もう、腹をくくるしかないのかなぁ……はぁぁぁッ!!」


 するとシャオランは、気合の入った声と共に、息を吐き出す。

 そして、彼の右拳に、赤色のオーラが発生した。『火の練気法』だ。


「ボクにはまだ『火の練気法(コレ)』がある。いくらズィークといえども、コレを叩き込まれたら無事じゃ済まないはずだ……」


「…………。」


「逃げることもできないし、みんなを見捨てるワケにもいかない。だったら、ボクがズィークを倒すしかない……!」


 シャオランは、凛とした表情でズィークフリドを睨みつける。

 まだ少し怯えがあるものの、歴戦の武人を思わせるカオだ。


 シャオランは臆病な性格ではあるが、真に追い込まれた時は己の武を信じる。決して全てを諦めて戦いを放棄したりはしない。腐っても格闘家。何年間も武術に身を捧げてきた男なのだ。


「…………!」


 ズィークフリドもシャオランの励起れいきを感じ取り、油断なく構える。シャオランを徹底的に叩きのめすつもりだ。


「覚悟完了……いざ、勝負ッ!!」


「…………ッ!!」


 シャオランが、燃えるようなオーラを纏う右手を振りかぶり、ズィークフリドに飛び掛かる。ズィークフリドはその場から動かず、ジッと構えてシャオランを迎え撃つ。



 もはや、シャオランたちに後は無い。

 一発逆転、起死回生の展開に全てを賭けて。

 シャオランが、挑む。

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