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第391話 逃げるが勝ち

 ズィークフリドが自身の最強の技、”烈穿”を解禁した。

 その威力たるや、素手で日影の胴体に風穴を開けてしまうほどである。


「ぐ……げほっ……!」


 ”烈穿”を受けた日影は、バタリと床に倒れた。

 腹に開いた穴から大量の血が流れ出ている。

 そして”再生の炎”が彼の腹の風穴を修復し始める。

 オーバドライヴの影響で、再生のスピードも増している。


「く……ぅ……!」


「…………。」


 しかし、ズィークフリドはのん気に日影の回復を待ったりなどしない。床に倒れている日影の頭を潰すべく、拳を握りしめる。


「こ……のヤロ……!」


 再生の熱と傷の痛みに耐えながら、日影はその場から逃れようとする。

 だが、やはりどうしても身体に力が入らない。

 このままでは、ズィークフリドの拳を喰らう。


「させん……っ!」

「……!」


 そんな日影をカバーするべく、本堂がズィークフリドに攻撃を仕掛けた。本堂も日影と同じく息も絶え絶えだが、まだ戦いを諦めてはいない。電気を纏う両手でズィークフリドに掴みかかろうとする。


 ズィークフリドとしては、繰り出される本堂の腕を掴んでへし折ってやりたいところだが、直接本堂の腕に触れたら、自分が感電してしまう。だから、電気が流れていない本堂の胴体を狙うことにした。電気を纏う本堂の腕を掻い潜り、先ほど殴りつけた場所をもう一度狙ってボディーブローを放つ。


「二度も食らうワケにはいかん……!」


 ズィークフリドのボディーブローは、空振りに終わった。

 本堂が素早く身を引いて、ズィークフリドの攻撃を回避した。


「…………。」


 ズィークフリドの、本堂に対する警戒の意識が強まる。

 先ほどのボディーブローは、間違いなく決まると思っていた。

 そう確信できるくらいに、我ながら見事なカウンターだった。


 だが、本堂は自分の拳を、見てからかわした。

 これは、相当な反射神経がなければできない芸当だ。

 恐らく本堂は、純粋な反応速度は自分をも上回っている。

 ズィークフリドは、そう考えた。


 本堂と入れ替わるように、今度はシャオランがズィークフリドに攻撃を仕掛ける。


「りゃあああッ!!」

「っ!」


 シャオランもまた、経穴を突かれて麻痺させられた左腕がまだ治っていない。にもかかわらず、飛び蹴りでズィークフリドの横から襲い掛かる。


 しかしズィークフリドは、飛んできたシャオランの右足のかかとに手を添えて、そのままふわりと持ち上げる。

 結果、シャオランは飛び蹴りの軌道を逸らされたかのように空中でひっくり返り、背中から床に落下した。


「げほぉ!? 痛ったぁい……」


 涙声でうめくシャオラン。

 しかし、すぐに意識を戦闘へと戻す。


 そしてズィークフリドを見てみれば、シャオランに向かって大きく足を振り上げているところだった。かかと落としだ。


「ッ!!」

「ひぃぃぃ!?」


 シャオランは、転がるようにその場から退避。

 同時にズィークフリドのかかと落としが振り下ろされる。

 コンクリートの床にズィークフリドのかかとが激突し、砕けた。

 まるで雷でも落ちたかのように深く、そして大きく。


「い、今、ボクの頭を狙ったでしょ!? 殺す気しか無いよね!? ねぇ!?」


「…………。」


 シャオランの言葉に、ズィークフリドは無表情の視線を送る。

 ちなみに、日影にトドメを刺すのは諦めた。なぜなら、仲間たちの妨害によって日影は復帰し、起き上がったからだ。ズィークフリドは、トドメを刺し損ねた。


「ぜぇ……ぜぇ……助かったぜ二人とも……」


「気にするな……。再生能力を持つお前には、まだまだ働いてもらわねば困るからな……」


「へっ、ソイツは責任重大だな……」


 再度、日影たち三人とズィークフリドが正面から向き合う形になる……しかし、日影たちは既に満身創痍だ。


 日影はオーバードライヴを長時間使用してしまい、身体の炎の勢いが弱まってきている。こうなるとオーバードライヴの維持は難しくなるうえに、再生能力にも影響が出てくる。


 本堂はズィークフリドの強打のダメージが未だに抜けきっていない。他二人と違ってスピードしか強化できない彼は、この場の三人の中で一番打たれ弱い。”迅雷”を使い続けたことによるスタミナ消費も無視できない。


 シャオランは目立った外傷は無いが、やはり左腕の麻痺が深刻だ。だらりと垂れ下がり、もうほとんど力が入っていないように見える。


「ね、ねぇ……。これ、ボクたち勝てるの……?」


 シャオランが心配そうな面持ちで呟く。

 これに対して、本堂は苦い表情を浮かべる。


「ハッキリ言って、もはや勝算は無いに等しいだろうな……。最初の全力の状態でさえ、ズィークフリドさんにはほとんどダメージを与えられなかった。そして現在、ズィークフリドさんはこちらの動きに慣れてきてしまった上に、俺たちはこの惨状だ。勝てるビジョンが欠片ほども想像できん」


「ちぃっ……だったらどうするんだ……? 北園は助けを待ってるし、ミサイルの発射も阻止しなきゃならねぇ。オレたちは、ここで負けるワケにはいかねぇんだぞ……」


「……苦肉の策だが、一つだけ案がある」


「もうこの際何でもいい! 言ってみろ!」


「……分かった」


 本堂は、ズィークフリドに聞こえないように、日影とシャオランに自分の案を打ち明ける。


 本堂が提案した案は「日影をズィークフリドの囮に使い、本堂とシャオランが基地内へ先行する」という内容だった。日影の再生能力にモノを言わせてズィークフリドを足止めし、その隙に本堂とシャオランがこの場から離脱、基地へ侵入してしまうのだ。逃げるが勝ち、というワケだ。


「俺のスピードはお前もご存じの通り。シャオランは『地の練気法』で脚力を底上げできるから、彼も足は十分に速い。二人で一気にここから逃げるぶんには、何も問題は無いはずだ。不意を突くことができれば、ズィークフリドさんが”縮地法”を使おうが振り切れるだろう」


「なるほどな……。んで、お前が危惧している問題は、オレの再生能力があとどれくらい耐えられるか……ってところか」


「それもあるが、一番心苦しいのは、お前を捨て駒に使わなければならんという点だ。お前には再生能力があるとはいえ、残酷な役割を押し付けてしまうことになる」


「……はっ。なんだそんなこと。それなら何の問題も無ぇじゃねぇか」


 そう言って、日影は再びズィークフリドに向かって構える。

 本堂の提案を飲む気なのだ。


「それで結果的に北園を助けられるなら……ミサイル発射を阻止できるなら、オレは喜んで引き受けてやるぜ。オレとしても、もうそれしか方法がないって思ってるからな」


「……そうか。お前がそう言うなら、それで行こう。シャオランも、それで良いな?」


「う、うん、わかった。気をつけてね、ヒカゲ……!」


「おうよ! んじゃ、なけなしの火力を振り絞るぜ!

 ……うおぉぉぉぉッ!!」


 掛け声とともに、日影の身体が再び業火を纏う。

 先の彼の言の通り、まさしく最後の力を振り絞っているかのようだ。


「俺たちもある程度攻撃に参加する。そして頃合いを見計らって、この戦闘から離脱する。では……行くぞ!」


「っしゃあッ!」


 本堂の声と共に、三人が一斉にズィークフリドに飛び掛かる。

 まずは日影が、正面からズィークフリドに斬りかかった。


「おるぁぁぁッ!!」

「……!」


 これまで以上の勢いで剣を振り回す日影。

 さすがのズィークフリドも手を出しあぐね、回避に専念する。


「”指電”!」


 ズィークフリドが後ろに下がったタイミングを狙って、本堂が”指電”を発射。指で弾かれたように飛ばされた稲妻が、ズィークフリドの顔に襲い掛かる。


「ッ!」


 ズィークフリドは左腕を右から左に振るって、電撃をかき消す。

 さらに、その腕の振り抜きの勢いを利用して回転ターン

 正面にいた日影に、遠心力が乗った右の拳を振るう。


「ちぃ!?」


 日影は剣の腹でズィークフリドの拳をガード。

 だが、ガードの上からでも恐ろしいほどの衝撃だ。

 なんとか拳の直撃は防げたが、ガードごと大きく吹っ飛ばされてしまった。


 吹っ飛ばされた日影と入れ替わるように、今度はシャオランがズィークフリドにタックルを仕掛ける。


「てやぁぁぁッ!!」

「っ!」


 ズィークフリドもまた、正面からシャオランを受け止める。そしてそのままシャオランを掴んで、彼の脇腹に右のボディーブローを連続で叩きつける。


「ッ! ッ!」

「うぐ!? うあっ!?」


 金槌かなづちのようなズィークフリドの拳が、シャオランのあばら骨に何度も突き刺さる。


「く……うぅぅ……!」


 しかしシャオランも『地の練気法』を全開にして、これに耐える。

 それでもなお、ズィークフリドの拳は強烈だ。

 シャオランの表情が苦痛に歪む。


 そのシャオランを援護すべく、本堂がズィークフリドに高周波ナイフを投げつける。


「喰らえ……!」


 迅雷状態で投げ放たれた本堂のナイフは、弾丸さながらの速度でズィークフリドに飛んでいく。

 しかしズィークフリドは、自分に向かって飛んできたナイフを指二本で挟んで受け止め、そのまま指二本で投げ返してきた。


「ッ!」

「くっ!?」


 本堂は素早く屈んで、投げ返されたナイフを回避。

 ズィークフリドは迅雷など使っていないのに、投げ返してきたナイフの速度は、迅雷状態で投げた本堂のナイフとほとんど大差なかった。


 だがその間に、シャオランはズィークフリドから距離を取ることに成功。さらに日影が復帰し、再びズィークフリドに攻撃を仕掛ける。


「だるぁぁッ!!」

「……ッ!」


 日影のラッシュは、さらに勢いを増してきた。

 剣の斬撃に加え、スピード重視の拳と蹴りまで織り交ぜる。

 ズィークフリドに息つく暇を与えない。


 それを見た本堂が、シャオランにジェスチャーを送る。


(……今だ、シャオラン! 逃げるぞ!)


(わかった!)


 本堂は迅雷状態で、シャオランは”地の気質”を纏った状態で、一気に日影とズィークフリドの元から離れていく。計画通り、戦線離脱を実行に移したのだ。物凄いスピードで走り去っていく。


「……!」


 ズィークフリドは、日影の攻撃をさばきながら、本堂たちの離脱に気付いた。だが気付いた頃には、本堂たちとの距離は相当に広がっていた。


「へへ、引っかかったな! だが、もう遅ぇぜッ!」


 ズィークフリドに声をかけながら、日影は思いっきり剣を振り下ろす。

 ズィークフリドは後ろに大きく跳んでこれを回避。

 誰もいなくなった床に、炎の刀身が音を立てて叩きつけられた。


 日影から距離を取ったズィークフリドは、逃げ行く本堂たちの背中を見る。



 そして、懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出した。


「な……!?」 


 日影の表情が、驚愕と絶望に染まる。

 ズィークフリドは、ここまで格闘戦一辺倒だった。

 遠距離攻撃の手段を持たないからこそ、逃げ切れると思ったのに。

 あの二人なら、ズィークフリドが”縮地法”を使っても、いけると思ったのに。


 それがまさか、銃を持っていたとは、思わなかった。

 これでは逃げ切れるも何もあったものではない。

 無防備な背中を、後ろから撃たれる。


「本堂、ダメだ! 伏せろぉッ!」



 日影の必死な叫びが、地下格納庫内に響き渡った。

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