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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第39話 石暁然

 とりあえず、キノコ病にやられた北園と本堂は、診療所に安置した。あとは、今日の日向の宿を決めるだけである。


「本当に、俺にキノコ病が効かないのなら、いっそあの診療所で寝るのもアリか……? けど、やっぱり迷惑かな……」


「……もしよかったら、ウチに来る?」


「え? いいの?」


 日向と並んで歩くシャオランが、提案してきた。


「とりあえず、親に聞いてみるよ。たぶん大丈夫だと思うけど……」


 とにもかくにも、日向としては願ったり叶ったりだ。

 さっそく日向は、シャオランの家について行くことにした。




 シャオランの家は、こう言ってしまうのは大変心苦しいが、お世辞にもきれいな家とは言えない。中国映画に出てくるスラムのボロい家という感じだ。

 

 玄関をくぐると、彼の両親と思しき夫婦が日向を出迎えた。家族の中で日本語が分かるのはシャオランだけだそうで、シャオランの通訳のもと、日向はここに一晩泊めてもらうよう頼んだ。


 シャオランの両親は、雰囲気だけでも伝わるくらい良い人で、日向の滞在も快く了承してくれた。


 日向がシャオランの家に上がると、その中に一人の男の子を見つけた。

 シャオランとそっくりの見た目だから、きっと弟なのだろう。


「ニイハオ!」


「この子は浩然(ハオラン)。お察しの通り、ボクの弟だよ」


「かわいいね。歳はいくつ?」


「今年で5歳だよ。一人っ子政策が緩和された後、父さんと母さんが産んだ子で、ボクとはかなり年の差があるから、なんかもう自分の子供みたいに感じるよ」


「え、そんなに年の差があるの? 5歳くらいしか変わらないように見えるけど」


「えっ」


「え?」


 シャオランが素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。



(な、なんだ? 俺、何かマズイことを言ってしまったのか?)


 焦る日向。

 そんな彼に対して、シャオランが口を開く。


「……ヒューガ。ボクは16歳だよ」


「へ? ……あれ? じゃあ、俺と同い年!?」


 そう。16歳といえば、日向や北園と同い年。日本の高校一年生。しかし目の前のシャオランは、どう見ても小学5、6年生くらいにしか見えない。


 見れば、シャオランの瞳が遠いどこかを見ている。

 間違いなく、自身の身長が低いのを気にしているのだろう。

 それを察した日向は、シャオランに頭を下げる。


「ご……ごめん、シャオラン。まさか同い年だったとは……あ、いや、こう言うのも失礼か……」


「いや、いいんだヒューガ……慣れてるから……。それより、さっき言ってた『予知夢』って……?」


「ああ、今から説明するよ」


 診療所で北園に告げられた言葉。

 シャオランは、予知夢に出てきた仲間に似ている。

 つまり、シャオランは日向たちの四人目の仲間かもしれないのだ。


 日向はシャオランに、これまでの出来事について話し始める。


『マモノ災害』のことについてはあまり他言しないように、と倉間から釘を刺されていたが、シャオランはもしかしたら、日向たちの戦いの当事者になるかもしれない人物なのだ。何も隠すことは無いだろう。



「……というワケで、できればシャオランにも俺たちの仲間になってほしいなー、なんて……」


「イヤだ!!」


「うわー即答」


 ひどく怯えた様子で、シャオランはキッパリと、日向の頼みを断った。こうも一刀両断にされると、日向はもう攻めるに攻められない。


「そりゃあまぁ、いきなりこんな話をされて、信じられないかもしれないけど……」


「い、いや、ヒューガの話は信じるよ? ボクだって、寺であのキノコの化け物を見たし……。けど、その、マモノと戦うって、絶対に危ないよね? だったら、ボクはイヤだ。戦いたくない。痛いの怖いの大嫌い」


「筋金入りだなぁ……」


「なんなら、あのキノコ病の診療所を案内して回った時だって、ボクに移らないかビクビクしてたよ」


「筋金がダイヤモンドで出来ている……」


 シャオランは見てのとおり、ひどく臆病な性格をしている。だからこそ、マモノとの戦いという危険行為に関わりたくないのだろう。今まで北園の話を信じようとしなかった日向、本堂とはまた違った、厄介な断り方である。


「で、でもシャオラン、武功寺に通ってるってことは、戦えるんだろ? 師匠もいるらしいし、本堂さんを軽々運んでたじゃないか」


「素手で化け物に勝てるわけないだろ!」


「まぁ、おっしゃる通りで……。ところでシャオランは、なんで武道を始めたんだ? それだけ怖がりなのに武道をしてるって、純粋に興味があるなー」


「ボクが鍛えている理由なんて、痛い目に合わないように、ってだけだよ。昔は身長の小ささで周りからバカにされてて……」


「あー、ゴメン、トラウマを抉ってしまったかな……?」


「い、いや、せっかく聞いてくれたから、話すよ」



 シャオラン曰く。


 シャオランは、幼いころから周りの子供たちより身長が小さかった。

 そして、ただそれだけの理由で、いじめられていた。


 昔から臆病な気質のシャオランだったが、エスカレートしていくいじめに耐えられなくなり、強くなっていじめられない力を身に着けたいと願った。


 そこで、自分の住む町の山の上に、武術を教えてくれる寺院の存在、武功寺のことを知った。シャオランは6歳になると、そこに通い始めた。


 だが、そこで誤算が生じる。

 自分をいじめていた子供たちもまた、武功寺の門下生だったのだ。


「お前みたいなチビが、強くなれるワケないだろ」


 そう言われて、街でも寺でも馬鹿にされた。

 シャオランは悔しくなり、よりいっそう鍛錬に励んだ。

 そんなシャオランに目をつけたのが、今のシャオランの師匠だ。


 師匠の修行は、地獄のような内容だった。

 今までの鍛錬など児戯に等しいものだった。

 おかげで、シャオランはすっかり師匠がトラウマとなった。


 だが、その師匠の指導のおかげで、シャオランはいじめっ子たちに勝つことができたのだ。そのゆったりとした道着の中には、鋼のような筋肉が隠されている……らしい。


 

「へー……。シャオランは怖がりだけど、確かに強いんだなぁ。シャオランの師匠がシャオランに目をつけたのって、やっぱり特別な才能を感じたから、とか?」


「いや、単に『かわいいから』とかいう理由で……」


「ますますシャオランの師匠が分からない……」


「ボクもあの人が分からない……」


「分からんのかい……」


「いつか、もっと強くなって、この臆病な性格を克服できたらなって思ってるんだ」


「……けど、先はまだまだ長そうだね……」


「そうだね……」


 ネガティブな性格のシャオランだが、日向も相当なネガティブである。

 そんな二人の会話は、どんより暗いものだった。



 その後、日向はシャオランの両親から夕食をご馳走され、風呂に入って寝た。

 (シー)家の夕食は、味も量もそっけなかったが、とても暖かかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 素っ頓狂……ひらがなあるのにひらがなのルビ入れるのはええんでしょうか(;゜Д゜) [一言] >素手で化け物に勝てるわけないだろ! いや、ウィークポイントに気功拳とか、秘孔を突くなりした…
[良い点] シャオラン君ってば、スーパーしょた君? 可愛さだけで、師匠から気に入られた男の子なんて、 世間がほっとかないよ~!
[一言] いよいよ国の特殊機関まで巻き込んだ事態になったかと思えば、遂には国外にまで!! そこで出会ったシャオランは、仲間になるには消極的な性格過ぎて難がありそうですが……果たして、彼は決心する事が…
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