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第379話 ワンマンアーミー

「グルオォォンッ!!」


 巨大なオオカミ型のマモノ、ジェネラルウルフが鳴き声を発すると、周囲の金属物がジェネラルウルフの近くへ引き寄せられていく。このマモノは磁力を操ることができるのだ。


「ヤバい、俺の銃も取られた!」


「うわぁぁぁ!? 盾ごと持ち上げられたぁ!?」


「まだ銃を持っている奴は、とにかく撃ちまくれ! 奪われる前にダメージを与えるんだ!」


 銃を持っているロシア兵たちが、ジェネラルウルフに一斉射撃を仕掛ける。磁力で銃を奪われないように、ジェネラルウルフから距離を取りながら。


 しかし、ジェネラルウルフの周囲に浮いている金属物が盾となり、ジェネラルウルフに弾丸が当たらない。

 それでも数発の弾丸は金属物をすり抜けてジェネラルウルフに命中するのだが、ジェネラルウルフの周囲に渦巻いている磁力が、弾丸の勢いを弱めてしまう。


 さすがに音速の弾丸を止めるような磁力は無いようで、弾丸はジェネラルウルフに命中するが、命中する頃には威力がすっかり死んでいる。ジェネラルウルフの分厚い毛皮を突破できず、床にポロポロと弾丸が落ちた。


「グルオォォンッ!!」


 ジェネラルウルフが鳴き声を発した。

 周囲に浮いていた金属物が、一斉にロシア兵たちに向かって発射される。


「痛っ!? ハンドガンが頭に当たった!」


「危ねぇ!? 金属のコンテナまで投げつけてきやがった!」


「め、メチャクチャだ! 銃もコンテナも棚も弾丸も手当たり次第に投げつけてくる!」


「なんて激しい攻撃だ!? マーシナリーウルフと一緒の時より、コイツ一匹の方が強いじゃないか!?」


「イーゴリ! さっきのお前の射撃テクで何とかしてくれよ!」


「む、無理だよいくらなんでも!? だいたい僕、そんなに大暴れしてたの!? 覚えてないんだけど!?」


「ああコイツ、豹変した後は記憶に残らないタイプかよ!?」


 小さな金属から大きな金属まで次々と飛んできては、床に叩きつけられて轟音をまき散らす。かと言って、近づいて反撃しようとしたら、銃を奪われる。


 ロシア兵たちは、先ほどの勢いはどこへやら。ジェネラルウルフの攻撃の激しさに、すっかり気圧けおされてしまっていた。


 だがそんな中でも、日向は諦めの表情を見せない。

 この程度の修羅場、もう何度も潜り抜けてきた。


 日向は、自分が持っている『太陽の牙』に目をやる。


(この剣は、一見するとシンプルな鋼の両手剣に見えるけど、狭山さんの話では、実際には謎のエネルギーの結晶体だって話だった。つまりこの剣は、金属のように見えて金属じゃない。俺がジェネラルウルフに接近しても、磁力で剣を奪われることはない……)


 であれば、この場面において日向は、やはり前に出るべきなのだろう。日向はロシア兵たちを庇うように、ジェネラルウルフの前に出る。


「日下部、危ないぞ!? 下がるのだ!」


「下がったところで袋のネズミですよ、シチェクさん。ここはビビらずに、攻めないと! 俺がジェネラルウルフを引きつけますので、その隙に出口から脱出してください!」


「お、おい、待て!」


 シチェクの静止を聞かず、日向は剣を持ってジェネラルウルフに駆け出した。刀身には、燃え盛る炎を宿している。


「グルオォォンッ!!」


 ジェネラルウルフも、黙って日向を接近させはしない。

 鳴き声と共に、宙に浮かべている金属物を投げつけ始めた。

 銃器、コンテナ、アーマーウルフの死骸などを次々と。


「うわっと!? おわっ!? うわぁ!?」


 飛んでくる金属物を必死に避ける日向。

 足元に銃器が叩きつけられ、アーマーウルフの死骸が傍を飛んでいく。

 そして身を屈めると、その上をコンテナが通過していった。


「あっぶなぁ!? あんなのマトモに食らったら、一瞬で意識が飛ぶぞ……!」


「ウルオォォンッ!!」


 再びジェネラルウルフが磁力を操作し、周囲の金属物をかき集める。そして再び、それらを日向に向けて発射し始めた。


 正面から銃器が飛んできたと思ったら、横からコンテナが叩きつけられる。手前のアーマーウルフが飛んでくるかと思えば、奥から銃器が雨あられのように降ってくる。極めて不規則な物体操作に、日向は翻弄されそうになる。


「くっそぉ、何か弱点は無いのか、あの能力に……!」


 矢継ぎ早に飛んでくる金属物を回避しながら、日向はジェネラルウルフを観察する。反撃の糸口を見つけるために。


 ジェネラルウルフの磁力操作は、かなり複雑なコントロールも可能らしい。多くの物体を宙に留めたまま、一つの物体を投げつけるといった芸当も難なくこなす。

 つまり、引き寄せる時は全て引き寄せ、反発させる時は全て飛ばすといったような、イチかゼロかみたいな極端性が無い。思いのままに磁力で浮かべた物体を操っている。


 能力行使の際に、特別な手順も代償も必要としている様子は無い。一声鳴くだけで能力が発動する。これは、勝負を覆す隙とは言い難いだろう。


 次に日向は、マモノ対策室のデーターベースで閲覧したジェネラルウルフのデータを記憶から掘り起こす。


 データによると、ジェネラルウルフは、マーシナリーウルフに命令を与えつつ、連携して獲物を仕留めるのが得意なマモノと記録されていた。


 『星の牙』としての能力は、個体ごとに大きく変わるらしく、今回の磁力操作のジェネラルウルフは、記録に載っていない新種だった。つまり、先人がどうやってこの磁力を操る大狼を倒したか、知恵を借りることができないというワケだ。


「目立った隙が無いなコイツぅ……。俺が一番苦手な奴じゃん……」


「ウルオォォンッ!!」


 再びジェネラルウルフが一声鳴く。

 今度は、補給兵ウルフの死骸から、残っていたミサイル弾を引っ張り出してきた。


「うぇぇぇ!? まさかそれ投げつける気か!?」


「グルオォォンッ!!」


「うわぁぁ本当に投げつけてきやがったぁ!?」


 磁力で投げられたミサイル弾が、日向の近くの床に着弾する。

 ミサイルは爆発を起こし、日向を吹っ飛ばした。


「ぐぅぅぅ!?」


「ウルオォォンッ!!」


「くそ、またミサイルを……!」


 ジェネラルウルフは、ミサイルやコンテナを日向に向かって飛ばしてくる。日向はもはやなりふり構わず、ジェネラルウルフに背を向けて、それらの攻撃から逃げ回る。


「アイツ、自分の能力でミサイルを飛ばせるなら、もうランチャーも補給兵もいらなかったんじゃないか!? なんでわざわざランチャーなんか持ち出して……」


 その時だ。

 日向は、自分が吐いたその言葉を、もう一度反芻(はんすう)するように呟く。


「なんで、わざわざ……?」


 なぜジェネラルウルフは、最初は己の能力を封印してまで、マーシナリーウルフと連携して戦闘に臨んだのか。


 能力を封印していた理由については、簡単に分かる。きっと、周囲のマーシナリーウルフたちを巻き込んでしまうからだ。宙に浮かべる物体をぶつけてしまうかもしれないし、武装したマーシナリーウルフを誤って浮かべてしまう可能性もある。


 分からないのはその先だ。なぜジェネラルウルフは、マーシナリーウルフと連携する必要があったのか。現在、己の能力でこれほどのワンマンアーミーぶりを発揮しているジェネラルウルフが、何故。


「ワンマンアーミーならぬ、ワンワンアーミー。犬だけに」


 ……激寒ギャグは置いておくものとする。


 始めから単独で挑んでいれば、ジェネラルウルフは部下たちの損害を出さずに済んだのだ。彼らが高い知能を持っているのは、ここまでの戦闘で見てきたとおり。ならば、異能より連携を優先させたのは、何か理由があるはずだ。


「その『異能より連携を優先させた理由』が、反撃の糸口になるような気がするんだけど……」


「グルオォォンッ!!」


「うぐっ!?」


 思考に気を取られていた日向は、右から飛んできた金属製の棚に気付かなかった。棚に跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「ぐ……しまった……」


 強烈な一撃を喰らい、苦しい表情を浮かべる日向。

 ”再生の炎”に身体を焼かれる痛みに耐えながら、立ち上がろうとする。


「ウルオォォンッ!!」


「え……」


 床から起き上がろうと、顔を上げた日向は、思わず絶句した。

 目の前に、大量の金属物が浮かんでいる。

 銃器、コンテナ、マーシナリーウルフたちの死骸に、先ほどの金属棚まで。


「グルオォォンッ!!」

「うわぁぁぁぁ!?」


 ジェネラルウルフが一声鳴くと、それらの金属物が日向に降り注いできた。日向は慌てて逃げ出そうとするが、逃げきれず、うつ伏せの体勢で超重量の下敷きになってしまう。


「うぐ……か、身体が、動かない……げほっ!?」


 棚やコンテナに押し潰され、日向は身動き一つ取れなくなる。

 特に、胸の辺りを潰している重量が深刻だ。

 肺が圧迫され、呼吸もままならなくなる。

 ”再生の炎”が傷を回復させるが、炎は日向を潰している金属物までは焼いてくれない。


「あ……熱……ぐぁ……!?」


 ”再生の炎”が、潰れている日向の身体を治すが、金属物は日向にのしかかったままで、日向もまた潰れたままだ。その潰れた日向を”再生の炎”が治すが、日向は潰れたままで……。


 怪我を治す熱さだけが繰り返される。

 まるで地獄の責め苦のようだ。


「く……」


 熱と痛みに苦しみながらも、日向はうっすらと目を開け、自分を押し潰している金属物の隙間から、外の様子を眺める。


 ジェネラルウルフは、この武器庫の出入り口からだいぶ引き離したはずだ。ロシア兵たちは、この隙に上手く脱出してくれただろうか。


(……けど、失敗だったなぁ。ロシア兵の皆さんは無事に逃がせても、これじゃ北園さんを助けに行けない……。俺が脱走したと知ったら、オリガさんは北園さんをさらにひどい目に合わせるんじゃ……)


 なんとかロシア兵たちと協力して、ジェネラルウルフを倒す方法を考えればよかった、と日向は後悔した。その後悔の念を胸に抱いたその瞬間。


(……ああ、そういうことか……)


 日向は、ここに至って気付いた。

 なぜジェネラルウルフは、異能より連携を優先させたのか。

 考えてみれば、単純な理由だ。


 それはきっと、ジェネラルウルフが単独で異能を使って戦うよりも、マーシナリーウルフたちと連携を取って戦う方が得意としているからだ。


 例えば多くの物語においても、小さく弱い存在が集まり、固まることで、強大な存在を打ち倒すお話はあり溢れている。強大な一より、ひとまとまりの多の方が強いのだ。そんな『多による連携』の重要性を知っていたからこそ、ジェネラルウルフは連携を優先させた。


 データにも、ジェネラルウルフは『マーシナリーウルフとの連携を得意とする』と最初に掲載されていた。異能よりも、この『連携を得意とする』習性が真っ先に載せられていたのは、そちらの方が危険度が高かったからだろう。


 ジェネラルウルフが異能を解禁したのは、本気を出したというよりも、異能を使わざるを得ない状況に追い込まれただけだ。本当は、日向たちが優勢だったのだ。


 それを見抜けず、日向はジェネラルウルフと一対一で戦ってしまった。そうなれば、地力で日向を上回っているジェネラルウルフが勝つのは当然。日向は、数の優位性を自ら捨ててしまったのだ。


(……いや分かるかこんなん……。難易度が高いわ……)


 己のミスを悔やみながら、日向は目を瞑る。

 痛みも熱さも、もう限界だ。

 まもなく日向は、意識を失うだろう。




 ……だがその時。

 日向を潰している金属物の重量が、少し軽くなった気がした。


「……く、はぁっ、はぁっ……」


 圧迫されていた肺も楽になり、大きく呼吸をする日向。

 そして、日向の視界を覆っていたコンテナが、取り除かれた。


「日下部よ、大丈夫か!?」


「あ……シチェクさん……!?」



 日向を金属物の山から掘り起こしてくれたのは、日向が逃げるように促したはずのシチェクだった。

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