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第373話 脱走

 こちらの味方となってくれたテロリストの二人から受け取ったカギで、日向はホログラート基地の牢屋から脱走した。


 牢を出て、その先のドアから部屋を出て、基地内の通路に侵入した日向。さっそく近くのロッカールームへと駆け込んだ。このロッカールームの空きロッカーに、これから役立つ道具を先ほどの二人が置いておいてくれたのだという。


「たしか、左から二番目……いや、三番目だっけ……ああ、あった」


 ロッカーに入っていたのは、四つの道具。


 一つ目は、変装のための黒いバンダナだ。これを顔に巻いたり、頭に巻き付けたりしておけば、少しはテロリストっぽく見える……かもしれない。


 二つ目は、スタンガンだ。もしこの先、テロリストのメンバーとばったり鉢合わせしても、これで多少は戦える。非常にありがたい道具だ。


 三つ目は、ハンドガンだ。全体的に黒いパーツが使われている、漆黒のトカレフ。スタンガンより殺傷力があるが、日向としては人を殺す気は無い。人に向けて使うことがないことを祈るばかりである。


 そして四つ目は、ガムテープだ。気絶させたテロリストを、これでふんじばってしまえとでも言うのだろう。


「さて、準備完了……」


 黒いバンダナで口元を覆い、日向は再び通路へと出る。

 なるべく見張りの者と出会わないように、気配を殺しながら。


 申し訳程度の変装はしておいたが、『赤い稲妻』のメンバーと日向を比べると、日向は若すぎる。身長も小さい。少し怪しまれれば、すぐにバレてしまうだろう。


「ええと……ここを右に曲がって……」


 二人の味方から貰った簡易マップを見ながら、日向は通路を歩く。


 日向の目標は、この基地の兵士たちを解放し、外に逃がすことだ。これが上手くいけば、後から来るであろう日影たちが動きやすくなるはずだ。


 北園を助けるのはその後だ。彼女はきっと、オリガのすぐ側で捕らえられているはずだ。いきなり助けに行くのは難易度が高い。まずは難易度が低そうな、兵士たちの解放を優先させる。


 日向がいるこの通路は、基地の地下一階にあたるらしい。どおりで先ほどから窓が見当たらず、どことなく閉鎖的な空気が漂っているように感じた。


 と、その時だ。

 日向が差し掛かった十字路の天井に、球体の装置が張り付いている。

 監視カメラだ。


「おぉ怖い」


 きっとあのカメラの先で、テロリストのメンバーがモニタリングしているのだろう。アレに見つかれば、一発で脱走がバレるに違いない。


 そこで日向は、監視カメラに、()()()から向かって行った。

 逃げも隠れもせず、真正面からだ。

 それはもはや、見つけてくださいと言わんばかりの蛮行。


 ……だがきっと、日向は見つからないのだろう。

 なにせ、彼は今、鏡やレンズに映らない身体なのだから。


「よもや、この特性が役に立つ日が来るとは……」


 日向は『太陽の牙』を手にしたことで、己の影が日影として分離した。そして影が身体から消失した日向は、鏡やレンズなど、光の反射を映すものに映らなくなってしまった。それは今まで不便でしかなかったが、ここにきて活躍の機会に恵まれた。


 ところで、日向は現在、捕虜になっている兵士たちの解放を目標としているのだが、日向の足は、兵士たちが捕まっているであろう牢屋とは全くの逆方向を行っている。彼が目指しているのは、下水道だ。


 当然、日向が下水道に向かうのにはワケがある。


 日向は、捕虜の兵士たちを逃がすルートとして、この基地の下水道を通ることを考えている。この基地の下水道は水路のようになっており、それを辿れば基地の外の川へと出ることができる。


 この下水道のルートは、本来は最初の作戦にて、日向たちがこのホログラートミサイル基地に侵入するために利用しようとしていたルートだ。それを、今回は脱出のために使うつもりなのだ。


 そして、捕虜となっている兵士たちの中には、最初の襲撃で怪我をしてしまった人も大勢いるに違いない。そんな人たちを引き連れたまま、テロリストの見張りに見つかり、戦闘になったらと思うと、目も当てられない。


 だから日向は、先に下水道までのルートを下見し、邪魔そうな見張りはいないか、障害はないか、安全を確保しておこうと考えたのである。


 そして日向の懸念通り、使用予定のルート上に、一人の見張りが立っていた。この狭い空間でずっと見張りとして立っていたのか、すごく退屈そうにしている。


(安心しなされ、すぐに忙しくしてやんよ!)


 日向はスタンガンを装備し、見張りが後ろを向いている間に背後から忍び寄る。左右の腕と足を同時に前に出しながら。こうすることで身体の軸がブレなくなり、服ずれの音や靴の音を抑えられるのだ。


 とはいえ、しょせんは素人の忍び寄り。

 見張りのすぐ後ろまで来ると、さすがに足音で気づかれた。


「ん? 誰だ……」


「はいちょっと失礼!」


「ぐえええええ!?」


 だが日向も、すでに十分に見張りに接近できていた。見張りが日向の方を振り向くや否や、その首にスタンガンを押し当てて気絶させた。


「さて、お次はこの見張りの人を、他の見張りが見つけないように、どこかに隠さないと……」


 そこで日向は、近くの物置に見張りを放り込んでおくことにした。意識を失っている見張りの両脇を抱えて、必死の形相で引きずる。


「ぐぁぁぁ重い……! 外国の大人って、なんでみんなこんなにガタイが良くなるんだろ……!?」


 日向は、今この時ほど「身体を鍛えておいて良かった」と思ったことはなかった。一昔前の日向ならば、この見張りを引きずることさえできなかっただろう。


 気絶させたテロリストを空き部屋に隠し、ガムテープで簀巻きにする。

 無事に作業を終えた日向は、一息ついて汗を拭う。


「これで良し……と」


「何が良し、なんだい坊や?」


「え……」


 瞬間、日向の後頭部に、鈍器のようなもので殴られた衝撃が走った。


「うっ……!?」


 日向は意識が飛んで、気絶してしまった。


 日向を気絶させたのは、別の見張りの男だ。日向が最初の見張りに襲い掛かっている場面を偶然にも目撃し、尾行してきていたのだ。そして背後から銃で日向を殴りつけた。


 男は、倒れた日向の手からスタンガンを取り上げ、日向を見下ろす。


「コイツは……あのオリガって女がとっ捕まえてきた小僧だな。どうやって脱走してきたんだ……? とにかく、上に報告しねぇと……」


 そう言って、男は自身のスマホを取り出すが、直後にこの基地は電波妨害の影響下にあることを思い出した。


「そうだった、報告は直接口頭で伝えねぇといけねぇんだった。ああくそ、面倒くせぇなぁ……」


「ホント、面倒くさいですよねぇ」


「え……」


 瞬間、日向が見張りの後ろから腕を回し、チョークスリーパーの体勢を取る。そのまま見張りの背中にしがみつくように引きずり倒し、身体全体の力で首を絞め上げる。


「ぐ……が……!?」


「体格で負けている以上、正面から挑んだら、俺はこの見張りの人に勝てるかも怪しい。けれどこうやって完璧に不意を突けば、俺だって……!」


(こ、この動き、なんだ!? 素人じゃねぇ!? ダメだ、意識が……)


 見張りは必死に日向の腕を振りほどこうとするが、日向の力は想像以上に強い。やがて完全に意識が飛んで、見張りの男は泡を吹きながら気絶してしまった。


 先ほど後頭部を殴られた日向は、実は完全に気絶してはいなかった。確かに意識は飛びかけたが、ほんの一瞬のことだ。そこで狸寝入りを決め込んで、見張りを油断させたのだ。


「……うああ、でも殴られた時は凄く痛かったぞぉ……。頭が馬鹿になってしまう……これ以上馬鹿になったらどうするんだ……」


 ともあれ、これで二人目の見張りも排除した。

 ガムテープでぐるぐる巻きにしたテロリスト二人を空き部屋に放り込んで、日向は先へと進む。


 下水道への入り口は、日向がいる建物とは別の棟にあるらしい。建物同士は地下の通路で繋がっているため、地上に出る必要は無いが、兵士たちが捕まっている牢屋までかなりの距離がある。


 オマケに、監視カメラもそれなりの数がある。日向単独ならばカメラに映らないため、脱走がバレることはそうそうないだろうが、兵士たちを引き連れるとなると話は別だ。


 兵士たちは普通の人間なのだから、当然監視カメラに映る。人数も多いと聞いているし、脱走の途中で確実にバレてしまうだろう。カメラを破壊しても、異変に気付かれる。


 監視カメラの映像が映っている管制室を制圧できればいいのだが、地上にはきっと見張りの兵士がウジャウジャいるはずだ。現状、上の階に上がるのは、リスクが高い。


 ゆえに、兵士たちを脱走させたら、一気に基地の外へ脱出させるのが望ましい。だからこそ、日向はこうやってルートの安全を確保しているのだ。


「地道だけど、大切な作業だからな……」


 そして、ルートの安全の確認が終わった。

 見張りは、最初に排除した二人だけのようだった。


 日向はさっそく、捕まっている兵士たちを助け出すため、彼らが入れられている牢屋に向かうことにした。


 先ほども記述したが、牢屋から下水道までのルートはかなりの距離がある。それに、気配を殺して動かなければならないため、移動それ自体にも時間がかかる。目的の牢屋まで到着する頃には、すでに30分近くが経過していた。


「時間っていうのは、どうして俺が急いでいる時に限って流れるのが早くなるんだろう? ともあれ、急がないと……!」


 牢屋がある部屋の前に到着した日向は、少しだけドアを開いて、中の様子を覗き見る。どうやら、二人の見張りが捕虜の兵士たちを監視しているようだ。


「二人かぁ……さてどうしようかな……」


 自分より十センチ以上も身長が高く、体格にも恵まれている男二人を相手に、正面から挑んで勝てるほど日向は強くない。何らかの策を講じる必要がある。


「……よし、イチかバチかだ……!」


 やがて策を練り上げた日向は、変装のために巻いている黒いバンダナをしっかりと締め直した。次いで、スタンガンとハンドガンを即座に抜けるように確認する。


 そして、コンコンとドアをノックして、自然体で部屋へと入った。


 日向のノックに気付いた見張りの一人が、入ってきた日向に声をかける。


「なんだ? どうしたんだ?」


 男は、日向の正体に気付いていないようだ。

 そしてこれは、日向の計画通りである。


 味方となった二人のテロリストから聞いた話では、この基地を占拠しているテロリストたちは、各地に潜伏していたメンバーや、今までメンバーでなかった有志まで混ぜ合わせて構成されているらしい。

 

 つまり、ここのメンバーたちは、それぞれ面識が薄いということ。

 ならば、日向が顔を隠して自然体で接すれば、少しの間ならバレないというワケだ。


 日向は、声をかけてきた男に早足で近づきながら返事をする。


「大変だ! ロシア軍の連中が攻めてきやがったんだ!」

「ぎゃああああああっ!?」


 日向は返事をしながら、見張りの一人の首筋にスタンガンを押し当てた。見張りはブルブルと痙攣しながら、床に倒れた。


 異変に気付いたもう一人の見張りが、即座に反応する。


「な、なんだお前……!?」

「動くなっ!」


 だが、もう一人の見張りが攻撃の姿勢を整える前に、日向は左手に持った銃を見張りの眉間へと突きつけた。見張りの顔色が青くなる。


「う……!?」


「よし、俺の方が速い! さぁ、銃を捨てて床に伏せて、両手を頭の上に!」


「く、くそ……」


 残った見張りは悔しそうに、日向の前で降伏の姿勢を取った。

 日向は、床に伏せている見張りに近づくと……。


「でも起きてると面倒だから寝ててね」

「ぎゃあああああっ!?」


 がら空きになった首の後ろにスタンガンを押し当て、気絶させた。



 部屋に牢屋は複数あり、それぞれの牢屋からロシア軍の兵士が日向を刮目している。日向のすぐ側の牢屋の中にいる、ひときわ体格が良い男が、日向に声をかけてきた。


「やるではないか、少年! ……ところで、お前はいったい何者だ?」


「日本から来たマモノ討伐チームで、ただの高校生ですよ」

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