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第361話 雪原での戦い

「こ……コールドサイス……!」

「シルルルルル……ッ!」


 オリガとズィークフリドのコンビと対峙する日向たち。


 彼女が呼び出し、日向たちの前に姿を現したのは、一か月ほど前、ニューヨークにて日向を執拗に狙ってきた氷の巨大カマキリ、コールドサイスだった。

 右の複眼が潰れているのは、日向のイグニッション状態の一太刀を受けた傷だ。あれから潰れた目は回復していないらしい。


「あの傷は、俺がつけた傷……。じゃあやっぱり、コイツはあの時の……」


「ええ、正真正銘、あの時のコールドサイスよ」


「本っっ当にしつこいなコイツは! ……ところで、配下のアイスリッパーたちは、どうやって調達してきたんですか。一緒にニューヨークから連れてきたとでも?」


「そうねぇ……これくらいなら、教えても不利にはならないかしら。このコールドサイス、必要な栄養分さえ摂取できれば、特に交尾も必要とせずに、独力で彼女の幼体を……アイスリッパーを産み出せるのよ」


「な!? それってつまり、『星の牙』としての異能……!?」


「あの時の私たちは、このマモノを”吹雪ブリザード”と”濃霧ディープミスト”の二重牙ダブルタスクだと思っていたけど、違ったみたいね。正しくは、そこに”生命ライフメイカー”も加えた三重牙トリプルタスクよ」


「どうりで、倒しても倒してもアイスリッパーが全滅しないワケだ……!」


「そういうこと。それじゃあ改めて、処刑執行よ」


 オリガが命令を下すと、日向たちの前方からヘルホーネット・クイーンが、そして後方からコールドサイスが、それぞれの配下を引き連れて一気に襲い掛かってきた。それを受けて、日向は仲間たちに指令を出す。


「き、北園さんはヘルホーネットを担当! 発火能力パイロキネシスでハチたちを近づけさせないで!」


「りょーかい!」


「本堂さんとシャオランは、アイスリッパーを蹴散らして! 隙ができたらコールドサイスにも攻撃を!」


「承知した」

「こ、怖いけど、仕方ない……!」


「日影と倉間さんは、クイーンを迎撃! 日影が前衛で、倉間さんが銃で援護! 日影はクイーンと戦ったことがあるみたいだし、行けるよな!?」


「任せとけ。ぶっ潰してやる」

「そんじゃ、おっさんは後ろで頑張りますかねぇ!」


「”紅炎奔流ヒートウェイブ”は、コールドサイスに使う。アイツは確か、電波妨害の冷気を生み出せる能力者だ。つまり狭山さんが言っていた、最優先の排除対象だ!」


 それぞれの担当が決まったところで、日向たちは攻勢に打って出る。


「ブーン……」

発火能力パイロキネシスっ!」


 北園が両手から火炎放射を放ち、飛び回るヘルホーネットを焼き払う。

 無数の小さな個体からなる、いわゆる群体のマモノであるヘルホーネットは、北園の広範囲攻撃でなければ、群れを全滅させるのは難しい。


 オマケにヘルホーネットは、一匹一匹が強力な猛毒、M-ポイズンをその身に宿す殺人バチだ。そんなハチにたかられて、全身を毒針で串刺しにされた日には、M-ポイズンは一気に致死量まで到達する。


 つまり、ヘルホーネットはこの中でも特に凶悪なマモノというわけだ。

 それを追い払う北園は、極めて重要な仕事を任されたと言っていい。


「ギギギギギ……!」


 子供たちが焼き殺されたのを見て、クイーンが怒りの鳴き声を上げる。

 だがそんなクイーンに、日影が斬りかかった。

 彼の身体は、激しく燃え上がっている。オーバードライヴ状態だ。


「テメェの相手はこっちだぜッ!」

「ギギィーッ!!」


 日影を迎え撃つ様に、クイーンが尻の毒針を振るう。

 日影に向かって真っ直ぐ突き、右から左に薙ぎ払い、サマーソルトの要領で下から上へ振り上げるなど、まるでサーベルのように軽々と、そして器用に振り回す。


「今さら通じるか、アホがッ!」

「ギャーッ!?」


 そんなクイーンの攻撃を、日影は全て剣の腹でガードし、燃え盛る右足でクイーンを蹴っ飛ばした。


 日影は粗暴で猪突猛進なところがあるが、記憶力は極めて高い。

 よって彼は、もう9か月以上にも前になる別個体のクイーンとの戦いを、今でもしっかり憶えているのだ。その記憶を活かして、クイーンを圧倒している。


「ギギギ……!」


「おっと、おっさんを忘れてないかい?」


「ギッ!?」


 飛んで逃げようとするクイーンに向かって、後方の倉間がデザートイーグルを射撃する。

 弾丸はクイーンには当たらなかったが、彼女の逃げ道を塞ぐように放たれたため、クイーンの動きが止まる。その隙を狙って、再び日影がクイーンに攻撃を仕掛ける。


「これでも食らってろッ!」


「ギャーッ!?」


「よし当たった! ナイスだぜ倉間!」


「おう! 任せとけって!」


 日影と倉間が声をかけあう、その逆サイド。

 そちらでは、本堂とシャオランがアイスリッパーを相手取っていた。

 シャオランが身に纏うのは、身体を鋼のように強化する”地の気質”だ。


「せりゃあッ!!」

「ギャッ」


 斬りかかってきたアイスリッパーに対して、シャオランが右腕を振り下ろす。

 これをマトモに受けたアイスリッパーは、雪原に埋まるほどに叩きつけられた。


「シャーッ」

「でやぁッ!!」


 別のアイスリッパーが、シャオランの背後から斬りかかった。

 これに対して、シャオランは振り返りながら右肘を振り抜く。

 シャオランの首を狙ったアイスリッパーの氷の鎌が、シャオランの肘を受けてバラバラに砕け散った。


「せいやッ!!」

「ギャッ」


 そしてすぐさま二連蹴りを放ち、二体目のアイスリッパーも沈黙させた。


「シシーッ」

「シャーッ」


 だが、アイスリッパーの数はまだまだ多い。

 素手で戦う為、一体ずつ相手をしなければならないシャオランでは、殲滅に時間がかかる。


「いくらなんでも数が多いよぉ!? こっちもキタゾノの手を借りたいよぉ!!」


「安心しろシャオラン。この環境なら、俺がいれば十分だ」


 そう発言したのは、本堂だ。

 彼の右手からは、バチバチと猛烈な放電が行なわれている。

 それを見て、シャオランは首を傾げる。


「この環境……雪が積もってる……あ、まさか!」


「そのまさかだ。感電しないよう、離れてろ」


「は、はいぃぃ!!」


 すると本堂は、放電している右手を、雪原に突っ込んだ。

 本堂の電撃は、積もっている雪を伝って、目の前のアイスリッパーたちを焼いた。


「ギャーッ」

「シギャーッ」


「雪とは、雨が上空で凍ったものだ。つまりは水。ならばこの雪原は、俺の独壇場と言っても過言ではない」


「すごいぞホンドー! やっちゃえホンドー!」


「やってやるとも。だからお前は日向の援護のために、コールドサイスを攻撃してやれ」


「……サラリと大物を押し付けられたぁ!?」


 とはいえ、コールドサイスは強敵だ。日向も頑張っているが、いつ切り崩されてもおかしくない。

 文句を言っている場合ではないと判断し、シャオランは日向の援護に向かった。



 そして日向は、単独でコールドサイスの相手をしていた。

 日向は『太陽の牙』のイグニッションを使い、コールドサイスを攻め立てている。


「はぁっ!!」

「シシーッ!!」


 日向が業火を纏う剣を振り抜く。

 これに対して、コールドサイスは後退して避ける。


「このやろっ!」

「シーッ!」


 日向が追撃を仕掛ける。

 コールドサイスは、これも後ろに下がって回避する。


 さっきからずっとこんな調子だ。コールドサイスは、イグニッション状態の日向とマトモに打ち合おうとしない。ニューヨークのビルの屋上で戦った時とは大違いである。


「こいつ、さっきから逃げてばっかり……!」


「キシャアアアアアッ!!」


「うおっ!?」


 日向が攻撃後の隙を見せた瞬間、コールドサイスが斬りかかってきた。

 咄嗟に日向は身をよじるも、脇腹を浅く抉られてしまった。

 すぐさま”再生の炎”が回復を開始し、日向の顔が苦痛に歪む。


「うぐ……! けど、今ので分かった。コイツ、イグニッション状態の俺との戦い方を学習したんだな……!」


「シルルルルル……!」


 前回、コールドサイスがイグニッション状態の日向と斬り結んだとき、コールドサイスの氷の鎌はことごとく破壊された。コールドサイスとしては、ほとんどマトモな打ち合いにならなかったと言っていい。


 だからコールドサイスは、戦い方を変えてきたのだ。

 日向と真っ向から打ち合うのではなく、日向の攻撃を回避し続け、隙を突いて攻撃する戦法に切り替えてきたのだ。


「本当に、厄介な奴だよお前は……!」


 そうと分かると、日向は途端に手を出しあぐねる。

 攻撃したら回避されて、反撃される。

 馬鹿正直に突っ込むワケにはいかない。


 どうやってコールドサイスに攻撃を仕掛けようか、考える日向。

 だがその時。


「せやぁッ!!」

「ギャアッ!?」


 コールドサイスの横からシャオランが跳びかかり、コールドサイスの脇腹を殴りつけた。

 コールドサイスはたまらず後退し、シャオランに警戒の目を向ける。


「シャオラン! 助かったよ!」


「う……うぇぇぇ……。外殻は硬いのに、中身は柔らかい……気持ち悪いよぉ……虫殴りたくないぃ……」


「おっと逃がさないぞシャオラン。せっかく来てくれたんだ、ガッツリ手を借りるからな。前門にはコールドサイス、後門には俺だ」


「な、なんで助けに来たヒューガに挟み撃ちにされてるのぉ!?」


「キシャアアアアアアッ!!」


「イヤぁぁぁぁコールドサイスも来たぁぁぁぁ!?」


 コールドサイスとの戦いに、シャオランも加わってくれた。

 そこで日向は、少しだけ集中力を思考へと向ける。

 なぜオリガがマモノを操ることができるのか、考察するために。


(オリガさんは、既にズィークさんを操っている。だから精神支配マインドハッカーの枠はズィークさんで埋まり、マモノたちを洗脳することはできないはず……なんだけど……)


 だが『星の牙』たちは、やたらとオリガに従順だ。彼女の手足となって動くことに、何の疑問も抱いていないように見える。


 コールドサイスにしても、ニューヨークにおいては、日向はもちろん、他の仲間たちにも容赦なく斬りかかってきた。人類とは真っ向から敵対しているマモノだ。それが、どうしてオリガの言うことは聞くのか。


 コールドサイスやそのほかのマモノを見ても、怪しい機械類などは装着されていない。何らかの機械で操っているという線は無いと思っていいだろう。

 

 他に思いつくことと言えば、コールドサイスは『日下部日向を殺す』。その一点でオリガと意気投合し、彼女に力を貸しているという可能性。


(……いや、それは無いな。オリガさんはこの計画のために……あくまで『ロシアへの反逆』のためにコールドサイスをキープしたと言っていた。一方で、俺がこのロシアに来ることを予想してはいなかったようだった。であれば、俺をダシに使って説得したという可能性には矛盾が生じる)


 そもそも、それならばヘルホーネット・クイーンなどはどのように交渉したというのか。そんな簡単にマモノを説得し、味方にできているのなら、日向たちだって常日頃からそうしている。人間とマモノは、基本的に和解する道など無いのだ。


(いっそ、実はコールドサイスもクイーンもまとめてオリガさんが操っているってオチなら、話は楽に終わるんだけどな…………いやちょっと待て。もしかして、それも有り得るのか……?)


 オリガが洗脳できるのは、実は一人だけではないという可能性。


 有り得ない話ではない。彼女は現在、日向たちの敵だ。虚偽の情報を伝えているという可能性は、十分にある。

 そう考えてみると、ニューヨークでオリガが洗脳したマモノに命令を下す様子、そして現在のマモノたちに命令を下す様子は、なんとなく似て見えてくる。


(……でも、オリガさんが俺たちに『操れるのは一度に一人』と教えてくれたのは、オリガさんと初めて出会った時だ。オリガさんが嘘をついている場合、初めて出会った時から俺たちと……そして、ロシアと敵対する可能性を考えていた、ということになる)


 もしオリガが『この反逆はマモノ災害以前から計画していた』というのであれば、日向たちと初めて出会った時から本当の能力を隠していたことについても辻褄つじつまが合う。ロシアに隠している本当の能力を、日向たちにバラすワケにもいかないだろうから。とはいえ、そのようなことがあるのだろうか。


(……とりあえず、探りを入れてみようか)


 そう考えた日向は、コールドサイスと戦いながら、オリガに声をかける。


「オリガさん! こんなくだらない計画、いったいいつから考えていたんですか!」


「始めからよ。物心つく前から。私はずっと、この国への復讐を心の支えにして生きてきたのよ」


(あ、ビンゴ)


 オリガは、ずっと昔からロシアへの復讐を計画していた。

 つまり、日向たちと初めて出会った時から能力を隠していた可能性も、ゼロではなくなった。


(オリガさんは本当に、一度に複数の相手を洗脳できるのか……?

 もしそれが本当だとしたら、これはマズい。

 つまりオリガさんの眼を見たら、俺たちも操られるということ……!)


 もし最初の話の通り、オリガが操ることができるのが一人だけなら、彼女は既にズィークフリドを操っている。だから日向たちが彼女に洗脳される危険性は無かった。だが複数人を一度に操れるのなら、その前提が根幹から崩されることになる。


 日向は、一緒にコールドサイスと戦っているシャオランに声をかける。


「シャオラン、落ち着いて聞いて」


「落ち着けないよぉ!! 怖いもん!!」


「じゃあ落ち着かなくていいから聞いてくれ! オリガさんは、一度に複数の相手を操ることができるかもしれない」


「は……はぁぁぁ!? それじゃあ……おっと、この情報は、叫んでバレちゃったらマズいヤツだよね……。まだ知らないフリしとかないと」


「さすがシャオラン、やる時はやる」


「け、けど、どうしてそう思うの?」


「ごめん、詳しい説明は後で。でもこれが本当なら、オリガさんと目を合わせるのはマズいということになる」


「そ、そうだよね。ボクたちは、オリガがズィークを操っているから、今はあの人の眼を見ても大丈夫なんだ、って思ってたんだから……」


「そこで計画を変更する。俺たちは電波妨害の元であるコールドサイスを真っ先に倒そうと思っていたけど、やっぱりオリガさんを優先して倒す」


「そうか……ヒューガの推測が本当なら、このテロは、オリガが全ての人員とマモノを操って、全てを一人で計画した、っていう線も有り得る。だったらオリガを倒せば、全てが終わる……」


「すごいぞシャオラン、話が早い」


「このことを、他の皆にも伝えないと!」


「俺がコールドサイスを足止めしておく。シャオランは他の皆に、今の話を伝えて回ってくれ」


「わ、分かった! 任せて!」


 シャオランが、日向とコールドサイスの戦闘から離脱する。

 コールドサイスが視線でシャオランを追うが、そこに日向が立ちはだかる。


「おっと、お前の相手は俺だぞ。散々俺を追い回しておいて、今さらシャオランに浮気なんて許さないぞ?」


「……キシャアアアアアッ!!」




 そして、一連の戦いの様子をオリガとズィークフリドは後方から眺めていた。


「意外と粘るわねー。そろそろ一人くらいくたばっちゃえばいいのに」


「…………。」


「……あら? あれって……」


 オリガの視線の先では、シャオランが日向とコールドサイスの戦いから離脱していく。シャオランが日向の作戦を皆に伝えるためだ。


「……あの動き、怪しいわね。何か仕掛けるつもりなんじゃない?」


「…………。」


「させないわよ、そんなこと。まったく、何のために私たちが来たと思ってるのかしら。マモノたちだけじゃ力不足と思ったからよ」


「…………。」


「私はシャオランを追うわ。ズィーク、あなたは残りの連中をお願い。

 ……遠慮は無用よ。皆殺しにしなさい……!」


「…………!」



 日向たちにトドメを刺すため、遂に二人のエージェントが動き出した。

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