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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第37話 武功寺ふもとの町を目指して

「着いたぁーっ!!」


 北園が元気いっぱいに叫ぶ。


「元気だなぁ」


 その様子を眺める日向。

 とはいえ、今回は北園のはしゃぐ気持ちも分かる。

 三人は無事に中国、湖北(フーペイ)省に辿り着いたのだ。


「ではさっそく、武功寺を目指すよー!」


「いきなりか。せっかくの中国、観光とかしなくてもいいのか?」


 本堂が北園に尋ねる。

 しかし北園は、首を横に振る。


「それは用事が終わった後で! まずはやるべきことをやっちゃいましょう!」


「そうか。まぁ、そうだな。俺もその方が性に合う」


 北園の答えに本堂も頷き、さっそく三人は歩き始めた。


「さて、ここからは俺たちと倉間さんが立てたスケジュールの出番だな」


 日向が口を開く。

 円滑に旅行を進めるため、昨日、倉間と北園の三人で予定を立てたのだ。

 

「まずは15時30分のバスに乗る。現在時刻が15時だから、ちょうどよく乗れるはず……」


「15時30分のバスか。一時間以上余裕があるな」


「えっ」


 本堂の、予想外の一言に固まる日向。

『一時間以上』の余裕なんて、そんなはずはない。

 あと三十分そこらでバスは来るはずなのだ。


「本堂さん? 何言ってるんですか? だって、俺の時計は確かに15時ジャストを……」


「……なぁ日向。時差って知ってるか? 中国は、日本より時間が一時間ほど遅れてるんだぞ?」


「あっ」


 本堂の言葉を受け、自身の……いや、昨日の三人の致命的な見落としに気付いた日向。


(なんで、誰一人として気付かなかったんだ。俺のバカ。ドアホ。死ななきゃ治らないなこの脳味噌スッカスカ具合は……いやもう何回か死んでたわ。治らなかったわ)


 異国の地で、さっそく自己嫌悪に陥る日向であった。



◆     ◆     ◆




 同時刻。東京都、羽田空港にて。

 飛行機の待合室で、狭山さやまのスマホの着信音が鳴る。


「ん? 的井まといさんからか。どうしたんだろう」


 狭山はスマホを取り出し、電話に出る。


「はい狭山です。どうしたんです? 的井さん」


「狭山さん。中国の武功寺にて『星の牙』が出現したそうです」


「なんだって……?」


 狭山の目つきが変わる。

 普段の朗らかな表情が、一瞬で仕事人の表情に切り替わった。


「武功寺と言えば、あの三人の目的地だったね? これも何かの因果か……いや、それよりマモノだ。すぐに中国政府に連絡を。自分も現地で手を貸すよ」


「そう言うと思い、すでにそう伝えています。頼りにしている、と言っていましたよ」


「ナイスだ的井さん! では、あちらの対マモノ部隊の、現在準備できる装備のリストアップ、それから出現した『星の牙』の詳細を頼む」


「それもすでに準備済みですよ。今からPDF形式でメールに送ります」


「凄いぞ的井さん女神か」


「誉めても何も出ませんよ?」


「いやいや、何も期待していないよ。心からの賛辞と感謝だとも」


「そうですか。なら、ありがたく受け取っておきますね」


「ああ。受け取っておいてくれ。ではメールの方、頼むよ」


「分かりました。いつも通りタブレットに送りますね。では」


 その言葉を最後に通話が切れる。

 そしてすぐに、的井からのPDFメールが狭山のタブレットに届いた。


「さて、自分は自分なりにできることをやる。その一方で、あの三人はどうするのかな……?」


 狭山は、リストが届いたタブレットを眺めながら一人、呟いた。

 その表情は、先ほどの真剣な表情とは打って変わって、どことなく楽しそうだ。


 


◆     ◆     ◆



 日向たち三人は、無事にバスに乗ることができた。

 結局、本堂が一番早いバスを調べ上げてくれて、それに乗ったのだ。


「すみません、さっそく頼ることになっちゃって……」


「気にするな。俺も付いてきた甲斐があった」


 謝る日向に、返事をする本堂。


 目的のバス停まで到着したので、バスを降りる。ここからさらに三十分ほど歩けば、武功寺のふもとの町に到着する。そこのホテルか民宿を借りて、明日も合わせて武功寺を探索していくつもりだ。


 武功寺ふもとの町を目指し、舗装されていない道を歩く。


「ふぅ……ふぅ……」


 本堂の息遣いが荒い。

 心なしか、足取りも重く見える。疲れたのだろうか。


「本堂さん? 大丈夫ですか? 少し、休みます?」


 本堂の様子を見かね、日向が声をかける。


「そ、そうだな……。そうさせてくれ……」


 声の感じからして、どうやら相当疲れているようだ。

 三人は近くにあった岩に腰かけ、休憩する。

 本堂も岩に座ると、ぐったりしてしまった。


「本堂さん、大丈夫だろうか……?」


「少し休めば大丈夫だよ、きっと。本堂さん、運動神経良いし」


 呟く日向に、北園が答える。


 北園の言う通り、小中高とバスケットボールをやってきたという本堂は、三人の中で一番身体能力が高い。それゆえに、日向や北園が全然疲れていないのに、本堂がここまで消耗しているのが、日向は不思議でならなかった。


「もしかしたら、風邪とかも有り得るんじゃ」


「んー、そうかもしれないね……。町に着いたら、一度本堂さんを病院に連れて行こっか」


「北園さんは、体調とか大丈夫?」


「今のところは。けど、私もちょっと疲れてるかな。道が荒れているからかな?」


 そんな調子で十五分ほど休んだ後、日向は出発しようとする。

 しかし、本堂が立ち上がろうとしない。

 本堂は相変わらず息が上がっており、目には生気が無い。

 よくよく見ると、休憩する前より疲れているようにさえ見える。


(これは明らかにおかしい。間違いなく何か異常があるはずだ)


 そう判断した日向は、本堂に声をかける。


「本堂さん、大丈夫ですか? 町までもうすぐですよ。そこまで着いたら病院に行きましょう。肩を貸しますんで、もうちょっと頑張ってください」


「分かった……。だが日向、その前に、俺の首を少し見てくれないか……?」


「首を?」


「ああ……。さっきから、何か違和感がある……。自分で確認しようにも、指先が痺れてきて、どうなってるのかよく分からない……」


 本堂に言われ、彼の首を見てみる。

 すると……。


「うわっ!? 何だこれ!?」


「どうしたの? ……うわ!?」


 本堂の首を見た日向と北園は、思わず声を上げてしまった。

 本堂の首に、びっしりと、小さなキノコが生えてきている。


「なんだこれ? え、なんだこれ? あれか? 冬虫夏草か?」


 虫に寄生し、成長するという冬虫夏草。

 あれもまた中国で見られるキノコである。


 しかし、その冬虫夏草と、本堂の首に生えているキノコは、その見た目が随分違う。冬虫夏草はもっと、山菜みたいな見た目だが、目の前のキノコは「キノコ」のイメージ通りの、傘つきのシンプルな赤いキノコだ。


 このキノコが何なのかは分からないが、これは完全に異常だ。

 本堂がやたらと消耗しているのは間違いなくこれのせいだろう。


「ひ、引っこ抜けば本堂さんも回復するかな……?」


 そう思い、日向は本堂の首のキノコを引っ張ってみる。

 しかし……。


「ぐ、痛っ……!」


 痛がる本堂。

 どうやらこのキノコにも本堂の痛覚が通っているらしい。

 むやみに手を出すのは本堂が危険だ。


「と、とにかくまずは病院に行きましょう! 北園さん、左肩を頼む!」


「わ、分かった!」


「すまん、頼む……」


 二人は本堂の両側から肩を貸し、ゆっくりと町に向かった。




◆     ◆     ◆




 その後、なんとかして目的の町の入り口までやってきた三人。

 町の中を見ると、何やら人々の動きが慌ただしい。

 何かあったのだろうか?


「はぁ……はぁ……うぅ……」


 北園の息が荒い。無理もない。

 その小柄な身体で長身の本堂をここまで運んできたのだ。


(……いや、ちょっと待て、まさか……)


 嫌な予感がした日向は、北園に声をかける。


「……北園さん、もしかしてキノコが……」


「うん……。脚の所に生えてきてるみたい……。ごめん、日向くん。私も、もうムリ…………。」


 言い終わると、北園が倒れてしまう。


「うわわわわっ!?」


 北園が倒れてしまったせいで、左肩を預けていた本堂も倒れ、釣られて日向も倒れてしまう。


「ちょ、マジか!? どうしよう……」


 二人を急いで病院に運ばなければならない。

 しかし日向には、この二人を一度に運べるほどの体力も筋力も無い。

 そもそも、この町については右も左も分からない。


 と、そこへ、一人の男の子が通りかかった。


 その子は、藍色の道着を着た、かなり小柄な男の子だ。

 髪は長めで、顔にはあどけなさが残る。

 その背丈は北園より小さい。小学生だろうか。


(よ、よし。あの子に病院の場所だけでも聞いてみよう)


 そう考えた日向は、さっそくその男の子に声をかけた。 


「そこの君! この辺に病院は無いかな!?」


「ひっ!?」


「あ、ちょっと!?」


 日向に声をかけられた男の子は、一目散に逃げだしてしまった。近くの壁の向こうに隠れると、そこから顔を覗かせて日向の様子を窺っている。


(け、警戒されている……。そう言えば俺、思わず日本語で話しかけちゃったけど、それじゃ警戒するよなぁ……)


 男の子の警戒を解くため、日向は倉間から習った中国語を使おうとした。


「え、えーと、ニイハオ! えー、アイアムヒューガ! えーと」


 状況が状況だけに、思いっきり動揺してしまう日向。

 アイアムは英語だ日向。


「……えっと、ニホンの人? 日本語でも大丈夫だよ、ボクは……」


「へ……?」


 少年が、返事をしてきた。相変わらず物陰に隠れ、こちらを覗き見しながら。なかなかに憶病そうな少年である。

 だがそれよりも、少年の口から出てきた流暢(りゅうちょう)な日本語に、日向は思わず面食らってしまった。


「え、ええと、さっきは逃げちゃってゴメンなさい。ビックリしちゃって……」


「いや、こっちこそ驚かせてごめんね? それより、この街に病院はあるかな? 俺の友達二人に、変なキノコが生えて困ってるんだ」


「キノコ!? この人たちも!?」


「へ? 『この人たちも』って?」


「え、えっと、とにかく、詳しい話は後で! まずはその人たちを休ませよう!」


 そう言って男の子は本堂に歩み寄る。

 本堂を運ぶ気なのだろうが、あまりに身長差があり過ぎる。

 具体的に言うと30センチくらい。


「あ、その人は俺が運ぶから、君はこっちの女の子(北園さん)を……」


「あ、大丈夫だよこれくらい。……スゥー……」


 男の子は、一つ大きく息を吸う。

 一瞬、日向はその男の子の身体の周りに、なにかオーラのようなものが漂ったように見えた。


「よし、それじゃ失礼して……よいしょっと!」


「え、うわ、あの本堂さんをあんなに軽々と……」



 掛け声と共に、男の子は軽々と本堂を背中に乗せ、行ってしまう。

 あの男の子、臆病な言動に見合わず相当な力持ちのようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここがなぁ、海賊王が拓いた大海賊時代だったらなぁ。 一度全身を燃やしてキノコをどうにかするのにねぇ(アマゾン・リリーでのルフィ(ォィ とりあえずキノコを熱さないと……あ、ちょうどいいところ…
[良い点] う~ん! シャオラン君、 なんて、良いキャラ! こんないい子、最初から出しちゃってもいいのに~♪
[良い点] キノコ生えてくるとか怖すぎる:(;゛゜'ω゜'): そして日向くん、落ち着くんだ(笑) ちょ、シャオランくん可愛すぎなんですが(*≧∀≦*)? 長髪で小っちゃいのに力持ちで臆病とか設定神で…
2021/07/25 06:41 退会済み
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