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第357話 テロの一報

 土曜日の夜、日向のスマホに狭山からの電話がかかってきた。


「狭山さんから……? 何の用だろ」


 家の自室にてくつろいでいた日向は、机に置いていたスマホを取って、狭山からの電話に出る。


『ああ、日向くん。今、大丈夫かい?』


「狭山さん? えっと、はい。大丈夫ですよ。何か用でしょうか?」


『実は、大変なことが起こってしまった。極めて深刻な問題だ』


「え……? 一体何が……?」


『ロシアにて、マモノを利用したテロが発生した。実行犯は、君たちも戦ったことがある『赤い稲妻』だ。テロリストたちはすでにロシア中部にあるホログラートミサイル基地を占拠し、ミサイル発射の準備を進めている』


「ミサイル発射って……うえぇぇ!? 本当に深刻な問題じゃないですか! 

 ……あ、でも、あっちにはオリガさんとズィークさんがいるし、あの二人なら何とかしてくれるんじゃ……」


『そのオリガさんとズィークフリドくんがテロリスト側に回っているのが大問題なんだ』


「…………は?」


 日向は、己の耳を疑った。

 これまでに何度か自分たちと共闘してくれたロシアのエージェントコンビ、オリガとズィークフリドがテロに加担している、と狭山は言う。つまりあの二人は今、自分たちの敵に回っている。


『数時間ほど前に、ホログラート基地が制圧される前に命からがら逃げのびてきた兵士が、ロシア政府に今回の事件について連絡したらしい。そのロシア政府から日本政府を通じて、自分の耳にも入った』


「え、えっと、あの、なんで……? なぜあの二人が……?」


『まだ詳しい理由は不明だ。だがテロリストたちはミサイル基地に立てこもり、基地内の兵士たちと、偶然その基地の視察に来ていたグスタフ大佐を拘束し、基地に配備されているミサイルを使ってロシアの都市を攻撃するつもりのようだ』


「で、でも、現代のミサイル迎撃技術って凄いんでしょう? わざと撃たせてから撃墜……とはいかないんですか?」


『それはイージス艦などの話だからね……。今回のミサイルは、ロシアの内部から内部へと放たれる。イージス艦の出る幕が無い。陸対空のミサイル迎撃兵器も無いワケではないが、果たして今回のミサイルを百パーセント撃墜できるかと言われると……』


「失敗したら、大勢の人々が死ぬ……。とりあえずやってみよう、とはいきませんよね……」


『それに、ロシアはあまりに広い。ミサイルは一発だけとはいえ、テロリスト側はどこにミサイルを撃つかをハッキリと決めていないから、こちらは必然的にロシア全ての主要都市に軍を配備する必要がある。しかし、時間も人員もまったく足りない。よって、ミサイルを撃たせるワケにはいかないんだ』


「……それで、俺に連絡をよこしたのは……まさか……」


『……うん。君たち『予知夢の五人』には、これからロシアに飛んでもらって、オリガさんたち含めるテロリストを鎮圧し、ミサイル発射を阻止してもらいたい。ミサイル基地への潜入ミッションだ』


 その言葉を聞いて、日向は緊張のあまり、息を飲んだ。


 この任務を請け負うということは、ロシアの命運を背負うということ。

 ロシア全土の国民の命を背負うということ。

 心臓が跳ね上がった感覚を、確かに感じた。

 息が、少し乱れてくる。

 落ち着いて息を整えようとしても、さらに乱れてしまう。


「……一応聞きますけども、ロシアが自分で何とかするってワケにはいかないんですか……?」


『本来なら、向こうもそうしたいところだっただろう。けれど、オリガさんは今回の計画の実行にあたって、邪魔になりそうなエージェントたちを前もって排除してしまったらしい。今のロシアの戦力はガタ落ちの状態だ』


「で、でもだからって、なんで俺たちなんですか? 確かに俺たちはこれまで、結構な数のマモノを討伐してきましたけど、人間の敵地への潜入任務なんてやったことないし、オリガさんやズィークさんに勝てる自信もありません。もっと適役がいるんじゃ? アメリカのARMOUREDとかはどうなんですか?」


『確かにARMOUREDは対人戦闘にも秀でている。本来なら彼らに声がかかっただろう。けれど彼らは現在、南米にて大発生しているマモノの討伐にあたっている。手が離せないんだ」


「タイミング悪ぅ……」


『それと、君たちが選出されたことについても少々、厄介な問題が絡んでいてね……』


「厄介な問題……?」


『うん。今回、君たちをロシアに送るように言ってきたのは、日本の数名の政府高官たちだ。実は彼らは、自分のことをあまり良く思っていなくてね。そんな自分がこの国のエースチームとして選んだ君たちのことも、快く思っていないんだ』


「ええ……どうして嫌われてるんですか、狭山さん。良い人なのに」


『はは、ありがとう。……で、自分が嫌われている理由だけど、自分はもともと情報庁のいち職員に過ぎなかったのが、今ではマモノ対策室の室長を任せられている。異例のスピード出世というやつだね。オマケに、見た目はそれなりに若いみたいだし』


「……ああ、それで、自分たちの椅子を横取りされるんじゃないかって、政治家のオジサンたちから白い目で見られているワケですか」


『そういうこと。それで、自分に突っかかってきたのさ。『お前が選出したエースチームなら、ロシアのテロも鎮圧できるんじゃあないか? 今のうちに、あの国に恩を売っておけ。それとも、今どきの若造ばかりのチームじゃあやっぱり無理か?』ってね。彼らは君たちの能力を信用していない』


「うわぁ腹立つ……」


『ただもちろん、この任務はあまりに危険だ。君も言っていた通り、今回は今までの任務とはワケが違う。もっと他に適役がいると思っている。だから最終的にどうしたいか、君たちの意見を聞いておきたいと思ったんだ』


「俺たちの意見を……」


『……一昔前の自分なら、君たちには危険すぎると判断し、こうやって相談することさえしなかっただろう。けれど、たまには他人を頼れって言われちゃったしね。事態を隠さず、相談することにした。もちろん、自信が無いなら断ってくれても構わない。その時は、こちらで独自に何とかしよう』


「もし……行きます、って言ったら、行かせてくれますか?」


『行かせるとも。君たちを信じて。……正直なところ、君たちならあるいは……とも考えているんだ。君たちだってここまで数多の困難を乗り越えてきた。その結果、ただの若者の集まりだったのが、日本のエースチームにまで成り上がった。戦力としては申し分ない』


 狭山のその言葉を聞いて、日向は決意した。

 ロシアに行って、ミサイル発射を阻止することを。

 オリガやズィークフリドを、止めることを。


「だったら……俺は行きますよ、狭山さん。こんな俺たちでも、戦力のちょっとした足しにはなるでしょう。それに、狭山さんに嫌味を言ってくる政治家さんたちの鼻も明かしてやりたいですしね。狭山さんの株を上げて、日頃の恩返しです」


『……分かった。君がそう言うなら、その意見を尊重しよう。

 では明日の朝、空港に集合してほしい』


「了解です! ……あ、でも狭山さん、日本からロシアって、フライトにかなりの時間を使うでしょ? その間にテロが終わったりしませんか?」


『そこはご心配なく。独自に手配した超特急便を使うから』


「超特急便……なんか、嫌な予感がする……」



◆     ◆     ◆



 そして次の日。

 日向たちは、福岡空港へと集合した。

 他の仲間たちも任務への参加を決意し、五人全員が集まっている。

 

 シャオランは最後まで任務参加を嫌がっていたようだったが、正義感の強いリンファが「ロシアを救って来るまで家には入れてあげないからね!」とシャオランを締め出してしまったらしい。


 そして日向は現在、狭山が言っていた『超特急便』とやらに搭乗しているのだが……。


「あの、狭山さん」


「なんだい?」


「これは、いったい……」


「F-35ライトニングⅡ。241キロメートルをマッハ1.2で飛行できるよ」


「要は戦闘機でしょーが! 超特急便ってこういうことですかっ!」


「はーい、それじゃあハッチ閉めるよー」


「そしてやっぱりアンタが操縦するんかい!」


 日向だけではなく、他の皆も一人につき一機、戦闘機に乗っている。

 それぞれの戦闘機には専属のパイロットが付いており、日向たち五人は後部座席に座る形だ。


「……そういえば、シャオランくんの担当パイロットは、ワイルドな飛行で有名な嵐山さんだった。きっとシャオランくんを楽しませようと、きりもみ回転や一回転などの大技を繰り出すだろう……」


「あいつ、空飛ぶ乗り物に弱いのに……シャオラン、生きろ……」


「さて、それじゃあエンジン点火。離陸開始!」


「あ、狭山さん、今さらですけど、俺もジェットコースター系の乗り物は結構苦手……って、ちょっと待って速い速い速いおわあぁぁぁ!?」



 目指すはロシア。

 空を切り裂くようなジェット音と共に、日向と狭山を乗せた戦闘機は、青い空へと飛び出した。

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