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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第36話 いざ中国へ

 東京都、マモノ対策室本部にて。


「よぅし、終わったー! 夜通し頑張った甲斐があったなぁ!」


 まるで夏休みの宿題を終わらせた達成感を思わせる声が上がる。

 声の主は防衛省情報部マモノ対策室長、狭山誠さやままことだ。


「さぁて的井(まとい)さん、飛行機の手配を! 今から十字市まで飛ぶぞ!」


「十字市までって、倉間さんの報告に出たという三人に会いに行くのですか?」


 的井(まとい)と呼ばれた女性が口を開く。

 秘書然とした雰囲気の女性だが、どこか優しさ、柔らかさを感じさせる女性だ。


「その通り! そのために頑張って仕事を片付けたんだからね!」


「しかし、彼らは今朝、中国の武功寺に向かったらしいですよ?」


「なんとぉ!?」


 狭山は驚き、的井に向き直る。

 この男、一組織のトップであるはずなのに、ノリが軽い。


「けど、倉間さんはそんな報告一言も……」


「報告しようとしたら、狭山さんが通話を切ったそうですよ」


「おのれ倉間さん……他人のせいにするとは何と卑劣な」


「ひどい冤罪えんざいじゃないですか」


「『報告は以上』って言われたら、そりゃあ以上だって思うでしょう? ……さて、冗談は置いておいて。彼らの行き先は分かるかい?」


「倉間さんは、上海(シャンハイ)を経由するルートを提案したそうです」


「じゃあ自分も上海(シャンハイ)に飛ぶか! 次の飛行機は何時かな?」


「次は二時間後ですね」


「二時間後? え、長くない?」


「今ちょうど最初の便が飛んで行きましたので」


「おおぉう……」



◆     ◆     ◆




『この度は、ひのもと航空をご利用いただき、誠にありがとうございます。当機は――――』


 1月2日、午前9時。


 日向たちは、中国、上海(シャンハイ)行きの飛行機に乗っていた。倉間曰く、上海(シャンハイ)を経由し湖北(フーペイ)に行くのが最も早く、楽に武功寺に行けるルートだそうだ。



「いやー、みんな無事に乗れたねー」


 北園が安心したような声を上げる。

 というのも、出国前にちょっとひと悶着あったからだ。


「いや、まさか金属探知機で止められるとはな」


 本堂が続けて口を開く。


 金属探知機で止められたのは、日向だ。とはいえ、別に金属を持ち込んでいたとか、ましてやあの剣を持ち込んでいたというワケではない。


「いや……うっかり忘れてたんですよ……。そういえば金属探知機も『映るもの』だって……」


 金属探知機のX線検査のカメラに、日向が映らなかったのだ。そのことを失念していた日向は、思いっきり係員に呼び止められた。大層不審がられ、幽霊とまで言われる始末であった。


 日向は、ただ旅行に行くだけだと説明したが、なかなか解放してくれなかった。まぁ実際、カメラに写らない人間など怪しさ満点、怪しさの塊だろう。係員が警戒するのも無理はない。


 しかし、途中で北園が泣き落とし(ウソ泣き)で強行突破を図ってきた。その結果なのか、最終的に日向は綿密なボディチェックを行われ、危険物を所持していないことが確認されると、ようやく解放してくれた。


(こんな、怪しいというかもはや怪奇現象な存在を、とりあえず通してくれた空港の職員さんは、たぶん相当譲歩してくれたんだと思う)


 ひと悶着こそあったものの、日向は自分たちを送り出してくれた係員たちに感謝していた。



「……だが、帰国は大丈夫なのか? 中国(むこう)の職員に泣き落としが通じると良いが」


「やべぇそこまで考えてなかった」


 そんな日向の心配をよそに、飛行機は日本を飛び立った。




◆     ◆     ◆




 日向たちがちょうど日本を飛び立ったころ。

 中国、武功寺にて。


「はっ! はっ! はぁ!!」


 掛け声が聞こえる。

 下は少年少女から、上は老人までが、揃って握りこぶしを突き出す。

 武術における突きの稽古だ。


「はっ! はっ! はぁ!!」


 武功寺では、今日も多くの門下生が修行に明け暮れていた。



「やっ! はっ! せいっ!」


 その中でも、ひと際激しく拳を振るう少女が一人。


「……ふうっ! とりあえず、これでウォーミングアップは終わり!」


「精が出るねぇ、凜風(リンファ)ちゃん」


 リンファと呼ばれた少女は、自身に声をかけた師範代に振り向き、笑顔を見せる。焦げ茶色のふわりとしたツインテールが特徴的な、活発そうな少女だ。


「ええ! さっそく組み手をしようと思ってるの! 小暁(シャオシャオ)はどこかしら?」


「シャオランなら今、休憩してるよ。一時間ほど休むって」


「むむむ……アタシとの組み手を恐れて逃げたわね……」


「なーに言ってんだ、リンファちゃん。昨日だって一撃で負けてたじゃないか」


「あ、あれはちょっと油断しただけですから! 更なる功夫(クンフー)を積んでパワーアップした私には、油断も隙もありませんから!」


「昨日の今日でパワーアップは無いだろー。功夫(クンフー)は一日にしてならずって、よく言うじゃないか」


「むー。それはそうですけど……」


 リンファと師範代がやり取りを交わしていると、突如、広場の方が騒がしくなる。悲鳴のような声まで聞こえてきた。


「……何かあったのか? 普通の様子じゃなさそうだ」


「アタシ、見てきます!」


「あ、おいっ、リンファ!?」


 リンファは師範代が呼び止める声も聞かず、広場に走っていった。

 そして、広場に入ったリンファが見たものは……。



「な、なに!? コイツは!?」


「フシュウウウウウウウウ………」


 巨大なキノコのマモノだった。

 周りには多くの門下生たちが倒れている。


「み、みんな!? 大丈夫!?」


 リンファは声を上げ、近くにいた門下生の少年を助け起こす。


「うう……リンファさん……」


「どうしたの!? アイツは何!? アイツにやられたの!?」


「アイツが胞子みたいなのを撒き散らして……それを吸い込んだら、力が抜けて……」


「任せて。アタシがアイツをやっつけてあげる!」


 リンファは巨大なキノコのマモノに向き直る。

 マモノは、ちょっとした家ほどもある巨大な身体を、左右に生えた二本の、腕のようなキノコで支えている。


「……やぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 リンファは声を上げると、円を描くように両腕を振り回す。

 右の(てのひら)を叩きつけ、左の(てのひら)を叩きつけ、身体ごと回転させながら再び(てのひら)を叩きつける。


 キノコのマモノが右腕を振り上げ、リンファに向かって叩きつける。

 リンファはそれを、踊るような足さばきで避ける。

 そして再びマモノの胴体に掌を叩きつける。

 車輪の如く回転するリンファの連撃は止まるところを知らない。


 それは八卦掌(はっけしょう)

 八卦に基づいた技術理論。

 拳より掌を多用する流派。

 一見すると舞踏のようにも見える戦い方が特徴である。


「せいやぁ!!」


 数十にも及ぶ掌の乱打を浴びせ、トドメに両の掌を突き出し、マモノの胴体に叩きつけた。

 

(決まった……!)


 ……しかし、キノコのマモノはまともなダメージを受けた様子も無く、リンファを見下ろしていた。


「フシュウウウウウウ……」


「くっ……効いてないっていうの!? だったら効くまで殴るだけよ!」


 再びリンファが構える。

 その時、キノコのマモノが、頭部の巨大な傘から大量の胞子を撒き散らし始めた。


「うわっ!?」


 思わず胞子を吸い込んでしまうリンファ。そして……


「あ……力が抜ける……?」


 足腰に力が入らなくなり、その場に倒れてしまう。


「うそ……いやだ……誰か……助けて……シャオラン……」


 リンファの意識は、そこで途切れた。




◆     ◆     ◆




 それから数時間後。武功寺周辺の山林地帯にて。


「ああ……クソ……腹減った………」


 森の中を、一人の少年がフラフラと歩いていく。


 その背丈は高校生の男子の平均ほど。中国の山中には似つかわしくない、日本の高校の学ランを羽織っている。顔立ち、髪型は日下部日向と瓜二つ。


 そして彼の手に握られているのは、日向が持つ剣と全く同じ剣だった。


 そんな彼の目の前に、二匹のマモノが飛び出してきた。

 その二匹は、人の膝ほどの背丈を持つ、キノコ型のマモノである。


「へぇ? ここにも化け物が出るなんてな? やはりオレは、この化け物たちと戦う運命にあるのかねぇ?」


 そう呟く少年に、キノコのマモノが襲い掛かる。

 少年は、手にした剣を素早く振るって、あっという間に二体のキノコを両断した。


「ほい、いっちょあがり、と」


 剣を地面に突き立て、自らが斬り伏せたキノコのマモノを見下ろす。


「日本で戦った化け物と同じく、コイツらにもボスみてぇな存在がいるのかね? ソイツを倒さんことには、このキノコも延々と湧き続けるんだろうな」


 しばし物思いにふけった後、少年は呟いた。


「……とりあえず、昼飯はこいつら(キノコ)にするか。焼けば食えるだろ」



 それぞれの運命が、武功寺という地に集まり、交わろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >小暁シャオシャオはどこかしら? >シャオランなら今、休憩してるよ シャオシャオ? シャオラン? シャオシャオがニックネームなら漢字いれたら変なのでは? [一言] 日向……幽霊なら普通…
[良い点] 役者が揃ってきましたね~! [気になる点] 北園さんの泣き落とし……。 自分ならフリーパスしちゃいそう! だって絶対悪い子じゃないし!
[良い点] ついにリンファちゃん出てきたー!シャオランくんはまだかな? 日向くんにそっくりなのはもしかして日影くん……? キノコのマモノ、食べちゃうんだ(笑)
2021/07/23 21:28 退会済み
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