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第348話 対人訓練 日向VS本堂

 ニューヨークでの戦いが終わって数日後。日向たちの夏休みも残り数日というところ。マモノ対策室十字市支部の庭には、日向と本堂の姿があった。


「さぁて、今日は本堂さんとか……」


「こうしてお前と、何かで直接競い合うのは初めてかもしれんな、日向」


「そうですね、言われてみればそうかも」


 日向の手には両手剣の模造刀が、本堂の両手にはゴム製のナイフが握られている。殺傷能力皆無の、訓練用の武器である。二人はこれからその武器を使って、模擬戦を行うのだ。


 突然始まった模擬戦だが、行うのには当然、理由がある。


 ニューヨークミッションの最後に現れた星の巫女、エヴァ・アンダーソン。彼女は星の力を操るだけでなく、白兵戦にも長けていることが判明した。


 日向たちとしては、エヴァは遠距離戦に特化していると考えていただけに、近接戦に持ち込めば楽に勝てると思い込んでいた。その思い込みが、一気に覆されたことになる。


 そこで狭山の提案により、今後は対人戦を想定した訓練にも力を入れることになった。日向たちはもともとマモノを専門に戦っていたため、対人戦はあまり重視していなかったが、エヴァを倒すことまで視野に入れた場合、対人戦の強化は避けて通れない課題となる。


 この数日間、予知夢の五人は総当たりで一対一の戦闘訓練を行なっている。それは、近接戦に不得手な北園も例外ではない。むしろ不得手だからこそ、訓練で克服する必要があると言える。


 模擬戦には、原則として二つのルールがある。


 一つ。異能を用いた戦闘は原則禁止。

 つまり本堂は電気による攻撃を、シャオランは練気法を、日向と日影は『太陽の牙』の能力を使ってはいけないということだ。


 これらの異能は殺傷能力が高いということもあるが、なにより異能に頼ってばかりだと純粋な白兵戦能力を鍛えられないと判断されたためである。しかし北園だけは例外的に、殺傷力を極限まで抑えた超能力で戦うことを許可されている。そうしないと、彼女は他の仲間たちと比べて身体能力のハンデが大きすぎる。


 二つ。模擬戦は、北園が立ち会える時のみ行うこと。

 何かの事故で大怪我をした時のため、治癒能力ヒーリングが使える北園が十字市支部にいる時のみ、模擬戦を行うことが許可される。


 以上。

 これ以外なら基本的に何をやっても許される、ルール無用のデスマッチ。それがここの戦闘訓練である。


 庭の真ん中で、互いに向かい合う日向と本堂。

 十字市支部のベランダでは、北園に狭山、シャオランと日影が観戦している。


「日向くんと本堂さん……どっちが勝つかなぁ?」


「いや間違いなく本堂だろ。運動神経に差があり過ぎるぜ」


「ヒューガも最近はかなり鍛えてるよ。打ち合いに持ち込めば、分からないかもだよ」


「ふむ……そろそろ始まるみたいだよ」


 狭山の視線の先で、日向が模造刀を構えた。

 彼の模造刀はカーボン製で、中に少量の重りが仕込まれており、『太陽の牙』の重さを再現している。模造刀といえど、これで殴られたらかなり痛いだろう。


「なるべく寸止めするようにしますけど、殴ってしまったらゴメンなさい」


「遠慮はいらんぞ、思いっきりかかってこい」


「では……遠慮なく!」


 日向が模造刀を構えて本堂との距離を詰める。

 真っ直ぐと、猛スピードで。


「おりゃああああ!」


「”指電”」


「ぎゃああああ!?」


 本堂が”指電”を放った。

 日向は電撃に焼かれて、倒れてしまった。

 先述したとおり、この模擬戦は異能を使ってはいけない。ルール違反である。


「ほ……本堂さん……”指電”は禁止です……最初に言ったでしょ……」


「そうだったか? すまん、忘れてた」


「しっかりしてください……じゃあ気を取り直して、行きますよ!」


 日向が本堂に向かって、模造刀で突きを繰り出した。

 本堂はそれをヒラリと避けて、日向の背後に回り込む。

 そして日向の背中にそっと手を当てると……。


「電撃。」


「ぎゃあああああ!?」


 手の平から、電撃を発して日向を焼いた。

 高圧電流をマトモに食らい、日向は地に倒れる。

 もう一度言うが、異能の使用はルール違反である。


「ほ、本堂さん……なんで電撃使うんですか……」


「”指電”は駄目だと言われたから、普通の放電を使った」


「”指電”に限らず、全ての異能が禁止ですっ! ”迅雷”も”轟雷砲”もダメですからねっ!!」


「そうだったか。すまんすまん」


「く……ケガさせたらどうしようとか思ってたけど、考えを変えます。ぶちのめしてやるからなこのメガネぇ……!」


「最初に言ったろう、遠慮はいらんと。……来い」


 そう言って、本堂がゴム製のナイフを右手に一本持って、構えた。

 深く腰を落とし、左手を柄頭に沿えている。

 鋭い目つきで日向を睨み、ジリジリと間合いを測っている。


「む、思った以上に本格的な構え……。これは油断できないぞ……」


 日向も気を引き締め直して、模造刀を構えた。

 もしかしたら、先ほどの本堂のおふざけは、遠慮がちな自分に本気を出させるためかと考えた日向だったが、すぐに「考えすぎか」と結論付けた。


 まずは相手の出方を窺う二人。

 模造刀の日向とナイフの本堂では、当然ながら模造刀を持つ日向の方が、間合いが広い。日向は自分の間合いをキープして、本堂の間合いに入らないように意識する。


「本堂さんのスピードなら、近づかれたら最後、一気に勝負を決められる。こっちに近づけないようにしないと……」


「ふッ!」


「っとぉ!?」


 いきなり、本堂が大きく踏み込んだ。

 反射的に、日向が突きを繰り出して迎え撃とうとする。


 しかし本堂は、踏み込んでいながらも、その場から動いていない。

 日向の動きを誘うためのフェイントだ。

 日向の突きを悠々と避けて、本堂が日向に接近する。


「うおぉ!?」

「むっ……」


 しかし日向は、素早く模造刀を振り払いつつ、後ろに下がった。

 これにより、再び日向と本堂の間合いが開く。

 本堂の間合いから、再び日向の間合いに戻った。


「逃がさん……!」


 だが、本堂がダッシュで日向との間合いを詰めてくる。

 姿勢の低いダッシュだ。下手な迎撃は、下から掻い潜られるだろう。


「せりゃっ!」


 日向は迫ってくる本堂に、左脚でソバットを繰り出した。

 本堂は寸でのところでブレーキをかけ、日向の蹴りを避ける。

 だが、日向の攻撃はまだ終わっていない。


「おりゃあっ!」

「ぬっ……!」


 日向は、繰り出した左の蹴りでそのまま踏み込み、身体を時計回りに回転させて左から右に模造刀を薙ぎ払った。

 本堂のナイフとは比較にならないほどの広範囲攻撃。本堂は後ろに下がるしかない。


「せいッ!」


 一度、後ろに下がった本堂だったが、すぐにまた日向に飛び掛かる。

 ナイフを真っ直ぐ構え、日向を突き刺すつもりだ。


「このっ!」


 日向は、剣を振りかぶって柄頭を振り下ろす。

 日向の腕と本堂の腕が激突し、腕による鍔迫つばぜいの形となった。


「む……意外とパワー持ちじゃないか……!」

「そっちこそ、どういう腕力してるんですか……!」


 全力で身体を押し付け合う両者だが、本堂の方がパワーが勝っている。身長差もあり、徐々に本堂が日向を押し潰していく。


「くそぅ、パワーじゃ勝てない……だったら!」


 日向は本堂から腕を離すと、即座に身を屈めて足払いを仕掛けた。

 この超近接戦では、模造刀による攻撃は隙が大きすぎる。

 スピード自慢の本堂には、逆に攻撃のチャンスを与えかねない。


 今までは、素手の攻撃など全く通じなさそうなマモノが相手だったから、格闘戦など二の次、三の次だった。しかし、人間である本堂が相手なら。


「せいっ!」

「うわっ!?」


 しかし本堂は、日向の足払いをなんとバク宙で避けた。

 同時に日向に対してサマーソルトキックを仕掛ける。

 日向は咄嗟に左腕を使って、本堂のキックをガードした。


「ちょ、”迅雷”とか使ってないんですよね今の!?」


「ああ。素の身体能力だぞ……っと!」


 本堂が、手に持っていたナイフを日向目掛けて投げつけた。

 ナイフの軌道は真っ直ぐと、日向の喉仏のどぼとけを狙っている。


「ひえっ!?」


 慌てて頭を低くして、ナイフを避ける日向。

 その間に本堂が接近してきている。

 右手には、既に二本目のナイフが握られている。


「させるかっ!」


 日向は、剣の腹を右から左に大きくスイングする。

 本堂を迎え撃ち、ぶっ飛ばす算段だ。


「はっ!」

「うわっと!?」


 だが本堂は、日向のスイングに自身の右回し蹴りを合わせてきた。

 強烈な勢いで振り抜かれた本堂の足は、見事に日向の剣の腹に命中。

 剣を蹴られた日向は、大きく体勢が崩れる。


 そして、その隙に本堂が日向との距離を詰めてきた。

 日向は慌てて剣を振るおうとするが、その剣を持つ腕を、本堂の左手に差し押さえられる。そして……。


ももっ!」

「いてっ」


 本堂のナイフが、日向の太ももを突いた。

 ナイフはゴム製の訓練用。突き刺された日向に、痛みは無い。

 本堂は、さらにナイフによる連撃を繰り出してくる。


「腹っ! 脇っ! 鳩尾みぞおちっ! 首っ!」


「ぐ……俺の負けです……」


 もしこれが実戦だったなら、今の攻撃で急所を四度突き刺されたことになる。日向は潔く敗北を認め、手に持つ模造刀を放棄した。





「腹っ! 腹っ! 腹っ! 腹っ! 腹っ!」


「だーかーらー、俺の負けですって! いつまで腹を突いてるんですか!」

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