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第329話 猛毒と銃弾の挟撃

 ニューヨーク・セントラルスクエア・ホールの多目的室にて。

 北園たち四人は、紫迷彩のカメレオンのマモノのフラップルと、パラサイトに操られているケルビン・トリシュマンに挟まれてしまった。一人と一体は、すでに戦闘態勢を整えている。


 ジャックが、ちらりとケルビンが構えるアサルトライフルを見やる。

 銃口の下部には、単発式のグレネードランチャーが装備されている。

 あれで四人まとめて吹き飛ばされたら、ひとたまりもない。


「厄介なモン付けてやがる……」


 怒っているというより、面倒くさそうに呟くジャック。

 フラップル単体でも手強いのに、ケルビンにも戦力を割かなければならないのだから、実際面倒である。


「……キュロォッ!!」


 まずはフラップルが飛びかかってきた。

 右前脚を振りかぶり、叩きつけてくる。


「ぬぅんっ!!」


 それをマードックが受け止めた。

 右腕でロケットランチャーを担ぎ、盾として使う。

 金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。

 フラップルの身体は、引き続き硬質化を使っているらしい。


「せいやぁッ!!」


 フラップルの懐にシャオランが潜り込み、震脚と共に拳を突き出す。

 纏う気質は”地の気質”。

 シャオランの拳は、吸い込まれるようにフラップルのみぞおちにめり込んだ。


「キュロォッ!?」


 フラップルの巨体が後ずさり、苦しそうに腹を抑える。

 シャオランの拳は効いているらしい。

 身体の外側はもとより、内側にこそ衝撃を届けるシャオランの拳は、硬質化しているフラップルにもある程度ダメージを与えることができるようだ。


「せいッ! はぁッ!」


 シャオランがフラップルに連撃を叩き込む。

 左肘を叩きつけ、右の掌底で突き飛ばす。

 しかしフラップルもまた、シャオランの攻撃を耐えきって反撃を繰り出す。


「キュロッ!!」

「ひぃ!?」


 フラップルが右前脚に大振りの刃を生やして、振り抜いてきた。

 しゃがんだシャオランの頭の上を、白刃が通過する。

 首を狙った、殺意満点の一太刀だった。


「ウォォ……!!」


 そのシャオランの背後で、ケルビンがシャオランを狙っている。

 シャオランの背中にピッタリと、アサルトライフルの射線を合わせている。


「バリアー!」


 その射線に北園が割り込んで、シャオランを銃撃から守った。

 蒼いエネルギーの障壁が、アサルトライフルの弾丸を弾いている。


「うう……思ってた以上に威力が強い……!」


 だがケルビンのアサルトライフルは、対マモノ用に設計された特別仕様だ。下手な機関銃と同程度の破壊力がある。北園のバリアーでは、そう何発とは防げない。


「任せとけっ!」


 ジャックが動く。

 ケルビンの右側にスライドし、素早く二丁のデザートイーグルを抜き放つ。

 弾丸は防弾チョッキを突き破り、ケルビンの身体に撃ち込まれた。


「グウウ……!」


 苦しそうなうめき声を上げるケルビンだが、倒れる様子は無い。

 そもそもケルビンの身体は、フラップルに踏み潰された時の傷がそのまま残っている。

 その状態で動いているのだから、ケルビンの身体を攻撃してもケルビンを止めることはできないかもしれない。

 身体に撃ち込まれた弾丸をものともせず、ケルビンはジャックにアサルトライフルを乱射してきた。


「まるでゾンビじゃねーか……やっぱ死んでるんじゃねーかケルビンの奴……?」


「ウツナァァ! オレハミカタダァァ!!」


「ちぃ! フルオートで射撃しながら言っても説得力無ぇっつーの!」


 ジャックはケルビンの周囲を全力で走り回りながら、ケルビンの射線から逃れ続ける。

 そんなジャックを助けようと、北園がケルビンに火球を放つ。


「やぁっ!」

「グウウッ!!」


 だがケルビンは北園の攻撃に素早く反応した。

 北園の火球に向かって走り出し、スライディングでその下を潜る。

 そしてスライディングしながら、北園の脚を目掛けて射撃してきた。


 北園も、スライディングで火球を潜ってきたケルビンを見た瞬間、彼から距離を取ろうと動いていた。彼女にしては、かなり早く反応した方だ。

 だがケルビンの銃弾は避けきれず、二発ほど彼女の右脚にかすってえぐられてしまった。


「きゃああ!?」


 悲鳴を上げ、倒れる北園。

 右脚から血を流し、立てずにいる。


「グオォォ!!」


 その北園に向かってケルビンが飛びかかり、アサルトライフルを振りかぶる。

 アサルトライフルを鈍器として、北園を殴りつけるつもりだ。

 あのまま射撃でトドメを刺さなかったのは、恐らく弾切れを起こしたからだろう。

 不幸中の幸いだが、北園のピンチに変わりはない。


「おぉぉっ!!」

「グァァッ!?」


 そのケルビンの横から、マードックが突っ込んできた。

 鋼の巨体でショルダータックルをぶちかます。

 ケルビンは、まるで交通事故にでもあったかのように跳ね飛ばされた。

 床に激突し、しかし素早く受け身を取って起き上がる。

 起き上がり、アサルトライフルのリロードを始める。


「グゥゥ……!」


「反撃はさせん。ここでトドメを刺す……!」


「マー……ドック……キャプ……テン……!」


「く……!」


 マードックがケルビンにロケットランチャーを向ける。

 あとは引き金を引けば、ケルビンは撃破できる。

 ……だがマードックは、引き金を引くことを躊躇してしまった。


(私から見ても、ケルビンは死んでいると思う。彼は既に死体で、背中のパラサイトが彼を操っているのだと思う。だが、まだそう断定できるだけの確たる証拠がない。証拠がない以上、まだ彼が助かる可能性を考えてしまう。ここで彼を吹き飛ばせば、その可能性を模索することも叶わなくなってしまう……)


 一瞬だけ。

 ほんの一瞬だけの躊躇だった。

 だが最終的にマードックは、意を決してランチャーの引き金を引いた。

 しかし一瞬だけの躊躇が、精鋭軍人たるケルビンには決定的な隙として捉えられてしまった。


「グオォッ!!」


 ケルビンはリロードを終えて、アサルトライフルの引き金を引いた。

 放たれた銃弾は、マードックが担ぐロケットランチャーの銃口の中へ。

 瞬間、ロケットランチャーが爆炎を上げ、破裂した。

 内部のロケット弾が撃ち抜かれ、誘爆してしまったのだ。


「ぬぅっ!?」


 ランチャーの爆裂を至近距離で受けてしまったマードック。

 幸い、命に別状は無いようだが、膝をついて動けなくなってしまった。

 彼が全身サイボーグでなかったら、間違いなく命は無かった。


「ウウウ……!!」


 だが、膝をついているマードックの頭部に、ケルビンが狙いを定める。

 マードックの脳だけは生身のままなのだ。脳を破壊されれば、マードックも無事では済まない。


「させるもんか!」


 今度はシャオランがマードックを助けるため、ケルビンに攻撃を仕掛ける。

 床と平行に真っ直ぐ跳躍して、一気にケルビンとの距離を詰める。

 そしてケルビンに飛びかかり、飛び膝蹴りを繰り出した。


「グゥゥゥ!!」


 しかしケルビンは、素早くしゃがんでシャオランの膝を回避。

 ケルビンの頭上をシャオランが跳び越える。

 シャオランが着地すると、その背中に銃口を向けるケルビン。


「てや!」

「グッ!?」


 だがシャオランは、振り向くと同時に右の逆回し蹴りを放つ。

 自分に向けられていたケルビンのアサルトライフルを蹴飛ばし、射線をずらした。

 ケルビンは再びシャオランに射線を合わせようとする。

 だがその前にシャオランがケルビンに接近し、アサルトライフルを抑える。射線を自分に合わせさせない。

 ケルビンは力を込めて、無理やりにでもシャオランに射線を合わせようとするが、シャオランのパワーが勝っている。銃はシャオランに押さえつけられたままビクともしない。


「ガァァッ!!」


 ケルビンが頭を大きく振りかぶる。

 しびれを切らせて、シャオランに頭突きをかますつもりだ。


「でりゃあッ!」

「グッ……!?」


 シャオランは、ケルビンの頭突きに対して頭突きで反撃した。

『地の練気法』を使ったシャオランの額は、鉄の塊のように頑強だ。

 ケルビンの頭突きはあっさり押し負け、大きく仰け反って体勢を崩す。


「せいやぁッ!!!」


 そしてシャオランがケルビンに鉄山靠てつざんこうを叩き込み、吹っ飛ばした。

 コンクリートの壁に、ケルビンが背中から叩きつけられた。


「よし! 次は……」


 次はフラップルの番だと、シャオランはフラップルの姿を探す。

 だがその瞬間、シャオランの足元の床から何かが勢いよく突き出てきた。

 紫色で細く、鋭い、杭のような物体だ。


「うわぁ!?」


 不意を突かれ、打ち上げられるシャオラン。

 鋭い先端が、シャオランの脇腹を切り裂いてしまった。

 切り裂かれはしたが、シャオランだからこそ切り裂かれるだけで済んだのだ。

 もし『地の練気法』で身体を頑強にしていなければ、この紫色の杭はシャオランの胴体を貫通していたかもしれない。


「くぅ……今のはいったい……?」


『今のは尻尾だ! フラップルが尻尾を硬質化して、床の下から君の足元に伸ばしてきたんだ!』


「キュロロォ……!」


 シャオランに追い打ちを仕掛けようとするフラップル。

 そこへジャックがフラップルに射撃をお見舞いする。


「させるかよ! キタゾノ、脚の回復は終わったな!? じゃあ次はシャオランを回復してやれ!」


「り、りょーかい!」


 ジャックはフラップルに射撃を続け、シャオランと北園から注意を逸らそうとする。銃口が狙うのは、フラップルの眼だ。


「さすがに眼は硬質化できねーだろ! ぶち抜いてやるぜ!」


 そう言って、ジャックは引き金を引き続ける。

 フラップルは顔を小さく上下左右に動かし、眼を弾丸から逃がし続ける。

 フラップルの顔面は硬質化しており、銃弾は弾かれてしまう。

 とはいえ、執拗に眼を狙ってくるジャックを、フラップルも放置できなくなったようだ。


「キュロロロ……!」


 フラップルがジャックに接近する。

 硬質化した両前脚で顔を覆い、眼を守りながら、後ろ足で二足歩行して近づいてくる。これではジャックもフラップルの眼を狙えない。


「ホント、小賢しい野郎だぜ……!」

「キュロロォッ!!」


 ジャックとの距離を詰め切ったフラップルは、右前脚を振りかぶる。

 ジャックの身体を両断してしまいそうな、大きな刃を足首に生やして。


「……もらったぜ!」


 フラップルが右前脚を振りかぶった瞬間、ジャックは素早くデザートイーグルで射撃。

 右前脚を振りかぶったことで防御が解かれた、フラップルの右眼を撃ち抜いた。


「キュロアアッ!?」


 フラップルが撃ち抜かれた眼を押さえながら、前かがみにうずくまった。ジャックの攻撃は効いているようだ。


「ざまーみろ! このまま脳天に全弾ぶち込んで……」

「グオォォッ!!」


 ジャックの背後から、ポンッという何かの射出音が聞こえた。

 これは、ダメージから復帰したケルビンが放った、グレネードランチャーの音だ。

 直撃しようものなら人体などバラバラに吹き飛ばしてしまうであろう榴弾が、ジャックの背中に迫る。


「ッ!!」


 ジャックは、ほとんど脊髄反射のような反応速度で振り向き、射撃。

 自分に向かって飛んできていたグレネード弾を撃ち落とし、誘爆させた。

 こぶし大のグレネード弾を、ほとんど見ずに、振り向きざまに撃ち抜く。まさに神業としか言いようのない所業だった。自身が成した偉業を見て、ジャックは口笛を一つ吹く。


「ヒュー……今のは焦ったぜぇ……。それにしても、こんだけ動くと汗かいてくるな……。今の俺はトカゲだから、体温が下がらねーんだよな……」


「ジャックくん! シャオランくんの治療、終わったよ!」


「私ももう大丈夫だ。手間をかけさせてしまったな」


「よっしゃ。これで何とか体勢は立て直すことができたか……?」


 北園とマードックが戦線に復帰した。

 ……だが、北園から傷を回復させてもらったはずのシャオランの顔色が優れないように見える。

 北園が心配になり、シャオランに声をかける。


「シャオランくん、大丈夫? まだどこか悪いの?」


「う、うん……。身体の中が熱……ごほっ!?」


 シャオランが、口から大量の血を吐いた。

 そのまま床に両膝をつき、両手もついてうずくまってしまう。

 額には、尋常ではない量の脂汗が浮かんでいる。


「し、シャオランくん!? 大丈夫!?」


『この症状は……まさか毒か!?』


「たぶん、さっきシャオランを尻尾で貫いた時に注入しやがったな。あの腐れカメレオン、やってくれるぜ……」


「キュロロォ」


 忌々しそうにフラップルを睨みつけるジャック。

 それに対してフラップルは、小馬鹿にするように一声鳴いた。

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