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第324話 救助に向かう四人

「よし。では我々はケルビン・トリシュマンの救出に向かう。北園、シャオラン、よろしく頼むぞ」


「りょーかいです、マードック隊長!」


「ふ。元気が良いな」


「ほ、本当は怖いのはイヤだけど、人の命が危ないって言うなら、怖がってはいられないよね……。怖いけど。すごく怖いけど!」


「すまんな、シャオラン。頼りにしている」


「んじゃ、さっそく行くとしよーぜ」



 こちらは北園、シャオラン、ジャック、そしてマードックの四人のグループ。

『ARMOURED』の隊長を務め、指揮能力に長けているマードックがグループのまとめ役を買って出た。


 ちなみに、マードックを除く三人は、未だに動物化の影響を受けている。北園がネコ。シャオランがオオカミ、そしてジャックがトカゲである。


 四人の担当は、救援要請を出したアメリカのマモノ討伐チームの一員、ケルビン・トリシュマンの救助である。彼は今、ニューヨーク・セントラルスクエア・ホールという施設にいるらしい。


「狭山。セントラルスクエアまでの最短ルートを掲示してくれ」


『了解しましたよっと。ここからだと、やはりメインストリートを抜けるのが一番早そうですね。サテラレインは日向くんたちのグループが抑えてくれている。よって、狙われるのを心配してコソコソ動く必要は無いかと。堂々とメインストリートを進んでセントラルスクエアまで向かってください』


「了解した。これより行動を開始する」


 狭山の指示を受け、マードックは自身の装備、ガトリング砲と四連装ロケットランチャーを担いで動き出す。『ARMOURED』の中でも脳以外の全てを機械化した彼は、このような人の身では不可能な重武装も可能とする。


 ジャックもまた愛用の二丁の対マモノ用デザートイーグルを取り出す。両腕が義手となっている彼は、この化け物拳銃の反動をものともしない。


 北園とシャオランもマードックを追って歩き出した。

 この二人もまた、己の身そのものに異能を宿す超人である。


「マードックさん。ニューヨーク・セントラルスクエア・ホールってどんな施設なんですか?」


「いわゆる市民ホールだと思ってもらえればいい。数年前にオープンしたばかりで、中には大きな図書館や多目的ホール、さらにはオーケストラなどに使えるコンサートホールまで設置されている。私も行ったことはないが、しばらく前にニュースになっていたのは覚えている」


「つまり室内戦になるってことだな。閉所での不意打ちには注意しろよ、キタゾノ?」


「りょーかいだよ、ジャックくん!」


「……あ、ちょっと待って! 前方から獣の匂いがする! マモノが来るよ!」


 シャオランの言うとおり、道の角の先から十数体のマモノが徒党を組んでやってきた。ワイバーンにマーシナリーウルフにディーバイト。そして、北園たちは初めて見る、茶色の大きな鳥のマモノの姿もあった。


「ケェェェン!!」


「うひゃあ、大きな鳥! あのマモノは何?」


「あれは『クォールド』と名付けられている。コンドル型のマモノだ。攻撃パターンはくちばし蹴爪けづめとシンプルなものだが、どれも殺傷力が極めて高い。上空からの奇襲に注意しろ」


「なるほど……りょーかいです!」


「まずは私と北園でここから攻撃。連中の数を減らすぞ。ジャックとシャオランは、突破してきた連中を迎え撃て」


「アイアイ!」


「や……やってみる……!」


 マードックの指示を受け、シャオランは大きく息を吸って、吐いた。

 すると、シャオランの身体を砂色のオーラが包み込む。

 シャオランの『地の練気法』だ。

 これによりシャオランの身体能力は爆発的に向上し、身体そのものも頑丈になる。


 マモノたちが四人目掛けて、一斉に走り寄ってくる。

 ワイバーンやクォールドといった飛べるマモノたちは、翼を広げて空から襲来してくる。


 北園とマードックが前に出て、それぞれ攻撃態勢を取る。


「いっくよー……発火能力パイロキネシス!」

「ガトリング砲、一斉掃射を開始する!」


 北園が火球を投げつけ、ディーバイトの群れを吹っ飛ばす。

 マードックのガトリング砲が回転し、火を吹いた。

 けたたましい回転音と銃声がガトリング砲から発せられる。

 銃弾を受けたワイバーンやクォールドが次々と墜ちていく。


「ガルル!」

「バウッ! バウッ!」


「ジャック! シャオラン! マーシナリーウルフが両サイドから来る! 任せたぞ!」


「あいよ!」


「やだなぁ……でもやらないと……!」


 銃撃戦に知識があるマーシナリーウルフは、左右に大きく展開することでマードックの銃弾を回避した。そのまま四人に向かって突っ込んでくる。


 真っ直ぐ飛びかかってきた三体を、ジャックがデザートイーグルで撃ち落とした。彼の腕前からしたら、正面から来るマーシナリーウルフなど良い的以外の何物でもない。


 シャオランは、脚に噛みつこうとしてきた一体を蹴飛ばして迎撃し、首を狙って飛びかかってきたもう一体には通天炮つうてんほうをお見舞いした。下からの拳の振り上げを叩き込まれ、マーシナリーウルフがビルの五階くらいまでの高さまで飛んだ。


「うわー……ありゃ絶対死んだわ」


「シャオランくんは怖がりだけど、パワーは凄いんだよ!」


「このパワーでマモノたちも怖がってくれたらいいんだけど、全然気にせず突っ込んでくるから困るよホントに!」


「ギャオオオオオッ」


「ほらまた来たぁ!」


 緑の鱗を持つワイバーンが走り寄ってきて、牙で噛みついてきた。

 それを迎え撃つようにシャオランが鉄山靠てつざんこうを繰り出す。

 岩の塊のようなシャオランの背中を叩きつけられ、ワイバーンが吹っ飛ばされた。


「ケェェェン!!」

「そらそらそらぁっ!」


 上空から襲い来るクォールドの群れを、ジャックが的確に撃ち落とす。

 クォールドの飛行速度は相当なものだ。空を滑るように迫り、くちばしや蹴爪で引き裂こうとしてくる。

 それら全てを難なく撃墜するのだから、ジャックの射撃能力、および動体視力はまさに常人離れしていると言える。


 マモノの群れをあらかた片付けた四人。

 しかし、その向こうから第二波のマモノたちがやって来ている。


「ハッハァ! ノッてきたぜ! やっぱ弾丸が潤沢って素晴らしいなー!」」


 そう叫ぶと、ジャックは我先にとマモノの群れに突っ込んでいった。


「あ、ジャックくん!? まずは私の発火能力パイロキネシスで数を減らした方が良いんじゃ……」


 慌てて声をかける北園だが、ジャックは聞く耳持たず走り去っていった。

 そんな北園の背後から、マードックが声をかけてきた。


「ああ、北園。放っておいて構わんぞ。ジャックはテンションが上がると、ああやって勝手に動く。怪我をしても、奴の自己責任だ」


「えーと、大丈夫なんですか、それって?」


「気にするな、いつものことだ。そして、無事にマモノたちを蹴散らして帰ってくるまでがいつも通りだ」


 そう言うマードックの表情は呆れ半分、そして慈愛半分といったところか。

 まるで保護者のような視線で、ジャックを送り出していた。



 マモノの群れに突撃したジャックは、ダッシュしながら左右二丁のデザートイーグルの引き金を引く。正面の半魚人型のマモノ、ディーバイトの眉間に穴が開き、絶命した。


 仰け反ったディーバイトが倒れる前に、その身体を踏み台にするジャック。

 前宙しながら飛び上がり、下にいた二体のイタチ型のマモノ、マンハンターを仕留めた。


 アスファルトの道路の上に着地するジャック。

 そのジャックの背後から、コンドル型のマモノのクォールドが襲い掛かる。地面と平行に滑空しながら、鋭いくちばしでジャックの首筋を射抜くつもりだ。


「はい残念!」


 しかしジャックは、クォールドの攻撃をすでに察知している。

 振り向きざまに左の義手で裏拳を繰り出し、クォールドを吹っ飛ばした。

 クォールドが吹っ飛んでいる間に、右の拳銃でクォールドを撃ち殺す。

 同じ方向から、別のクォールドが猛スピードで真っ直ぐ突っ込んできた。


「ケェェェン!!」

「これがアメリカンイナバウアー!」


 するとジャックは、上体を思いっきり仰け反らせてクォールドの突進を回避。その体勢のまま、通り過ぎていったクォールドの背中を撃って仕留めてしまった。空になった弾倉を捨て、腰のクイックリローダーから新しいマガジンを装填する。


「キエアアアアアッ!!」


「おっと、ガチュラじゃねーか!」


「シャアーッ!!」


「後ろからはマンハンターの群れか! 参ったねこりゃ!」


 ジャックの前方から巨大なアリのマモノのガチュラが、そして後方からはイタチ型のマモノのマンハンターがやって来た。ジャックを挟み撃ちにするつもりだ。


「こりゃあ、まずはこっちに逃げるか!」


 するとジャックは、たくさんの車が乗り捨てられている場所へ向かって逃げ出した。マンハンターたちとガチュラもジャックの後を追う。


 ジャックは一台の車のトランクから屋根の上に跳び乗る。

 その際に宙返りをしながら後方に発砲。マンハンターを二体撃ち抜いた。


 次の車のボンネットの上を、横から背中で滑るように乗り越える。

 その際に滑りながら後方に発砲し、三体のマンハンターを倒した。


 今度は車のボンネットの上に正面から跳び乗る。

 そのボンネットの上でロンダートを繰り出した。

 空中で身体を捻りながら、反対側のトランクの上に着地。

 その際にまたも後方に発砲し、追って来たマンハンターの息の根を止めた。


 ジャックはまるで軽業師のように軽快な動きを決めながら、追いかけてくるマンハンターたちを始末していく。


「さーて、これで残るはガチュラだけ……」


「キエアアアアアッ!!」

「シャアーッ!!」


「……おいおい、まだ来てんのかよマンハンター」


 マンハンターを全滅させたかと思ったら、また別のマンハンターが合流していた。

 今のニューヨークはまさに巨大なマモノの巣。次から次へとマモノが湧いて出てくる。


「しゃーねーなーっと!」


 マンハンターとガチュラの徒党に向かって、正面から突っ込むジャック。

 ガチュラに銃弾を浴びせて牽制する。


「キエアアッ!!」


 アリとはいえ、大きな体躯を誇るガチュラは極めてタフだ。銃弾数発ではまだまだ死なない。

 とはいえそれなりの痛みは感じたようで、ジャックの銃撃を受けて動きが止まった。


「よっしゃ、ワンマンショーだぜ!」


 するとジャックは、ジャンプしてガチュラの頭部に飛び乗り、さらにそこから前宙しつつ左右のマンハンターを撃ち抜いた。


 地面に降りるとすぐさまガチュラが噛みつきにかかったが、ジャックはガチュラの左に潜り込むようにそれを回避。スライディングしながら、ガチュラの脚と脚の間を抜いてマンハンターを射撃した。


 立ち上がったジャックは、今度はガチュラの胴体を横から横へ飛び込むように跳び越え、その先にいたマンハンター二体を撃ち抜き、ローリングして着地した。


 ガチュラの周りを飛び回ってガチュラをかく乱しつつ、マンハンターを仕留めていく。

 ジャックのアクロバティックな動きに、ガチュラもマンハンターも翻弄されている。


 やがて、ついに正真正銘、残るマモノはガチュラだけとなった。


 ガチュラが大顎を開いてジャックに噛みつきにかかる。

 ジャックはスライディングを繰り出し、正面からガチュラの真下を潜る。

 その際に、胸の上で腕を交差させながら射撃。

 ガチュラの身体の下を通過する頃には、ガチュラの左右六本の脚を撃ち抜いていた。


「ギャアアアアッ!?」

「ほい、チェックメイト」


 ジャックはガチュラの後ろから、ガチュラの背中に跳び乗った。

 そのままガチュラの後頭部に二丁の銃口を突きつけ、連射。

 ガチュラは、悲鳴を上げる間もなく息絶えた。


「殺し合いなんて、気合とテンションが全てだぜ。

 つまりは、ノッたモン勝ちっつーワケだ」




「うひゃあ……ジャックくん、やっぱり強い……」


「あれだけの数を相手に、全くの無傷で勝利しちゃったよ……」


 ジャックの戦いぶりを見ていた北園は、開いた口が塞がらなかった。

 シャオランも感心したような目でジャックを見ている。

 その隣では、マードックがどことなく得意げな表情で頷いていた。


「我々から見ても、アイツは運動神経の塊のような男だ。加えて、ジャックがまだマモノと関わりの無い普通の少年として生きていた時、アイツはパルクール動画の配信者として活躍していたらしい。ああいった動きのある戦闘がジャックの本領というワケだ」


「マードックさんの銃もすごい威力だし、これなら何が来ても負けませんね!」


「当然だ。……だが、私は君の能力にも期待しているぞ、北園。我々と違って、君は生身でも様々な属性の攻撃が繰り出せる。我々には無い強みだ。こちらには日向や日影が持つ『太陽の牙』が無いぶん、敵の弱点を広く突くことができる君を頼りにしている」


「りょーかいです! 頼りにされました!」


 ……と、ここでジャックが戻ってきた。

 しかし、彼の額はやたらと汗ばんでいる。


「ぜー……ぜー……つ、疲れたぜ……」


「む? どうしたジャック。あの程度の戦闘、普段のお前なら汗一つかかんだろうに」


「た、たぶん、俺がトカゲになっちまったから、体温調節が上手くできてねーんだ……変温動物だからな……体温が上がったまま、下がらねーんだ……」


「やれやれ、調子に乗るからそうなる。少し休むか?」


冗談ブルシット。ケルビンが待ってるんだ、ゆっくりなんかしてらんねーぜ」


「そうだな。では移動を再開するぞ。早くケルビンのもとに駆け付けてやらねばな」


 そして四人は、先を急ぐ。

 目指すはニューヨーク・セントラルスクエア・ホールだ。



 ……しかし四人はまだ知らない。

 このグループこそが、三つのグループの中で最も過酷な戦いを強いられるであろうことを。

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