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第321話 鉄骨上の立体戦闘

 日向たちはサテラレインを追って、隣のビルへと飛び移った。コーネリアスだけは前のビルの屋上に残って狙撃を担当する。


 飛び移った先のビルはまだ建設中のようで、日向たちがいる上層部分は、まるでアスレチックのように鉄骨が組み立てられているのみである。その鉄骨の上や、床として設置された鉄板などが日向たちの足場となる。


「これ……下手すると落ちるな……」


 そう呟いて、日向はチラリとビルの外を見下ろしてみる。

 停まっている車が、豆のように小さく見える。

 すぐに「下なんか見るんじゃなかった」と後悔した。あまりの高さに、足がすくむ。


 ちなみに、本堂とズィークフリドは涼しい顔をしている。地上数十メートルという高さをものともしない。もはや肝っ玉が据わっているというより、恐怖という感情が欠落しているのではないかと思うほどの冷静さである。


「ギギギ……!」


 一方、サテラレインは改めて戦闘態勢を取る。

 巨大な右爪をガチガチと鳴らし、鉄骨に脚を引っかけて上から日向たちを見下ろしている。


 サテラレインが脚を動かす度に、鉄骨から甲高い金属音が鳴り響く。

 そして右爪を引いて、日向たち目掛けてストレートパンチを繰り出した。


 日向たちは散開して、右爪の一撃を避ける。

 巨大な右爪は日向たちが立っていた足場に直撃し、その足場を崩してしまった。大きくへこまされた鉄板がビルの下へと落ちていく。


「うわっとっとぉ……!?」


 日向が逃げた先は、ビルの骨組みとなっている鉄骨の上。

 鉄骨の幅は、せいぜい日向の肩幅程度。

 お世辞にも広いとは言えない足場である。


「こ、こんなの、バランスとるのが精いっぱいで、とても戦闘どころじゃないんですけどぉ……!?」


「それは大変だな」


 泣きわめく日向を尻目に、本堂とズィークフリドは鉄骨から鉄骨へと飛び移る。鉄骨の上を走り抜け、とび職のように上から下へ。サテラレインの右爪を回避しつつ、飛びかかって攻撃を加える。


 サテラレインに一撃を与えたら素早く離脱し、別の鉄骨へと着地する。

 それこそ本当にアスレチックのように、二人は鉄骨の上で縦横無尽に動き回っていた。


「これくらい動き回れるようにならねばな」


「なんですかその動き……。忍者かなにかですか……」


「伊賀、甲賀、風魔、そして本堂と言えば、日本でも有名な四代忍者として……」


「またそうやって息をするように嘘をつく! なにさり気なく自分を入れてるんですか!」


 日向と本堂が声をかけあうその向こうで、サテラレインも動き出す。

 鉄骨から脚を外し、一階ぶん下へ。

 再び鉄骨に脚をかけ、ガシャンと音を立てて着地した。

 下に移動したことで、日向を右爪の射程圏内に捉えた。

 日向を挟み潰そうと、サテラレインが右爪をガチガチと開閉させている。


「ギギギ……!」


「いかん、日向! 狙われてるぞ! そこから逃げろ!」


「逃げろと言われましても! 俺はアンタら忍者と違って一般ピープルなんですよ!」


 そう言う日向の足取りは、まるで綱渡りでもしているかのように不安定で、見ていてとても心配になる。それに、移動のスピードもとても遅い。このままではサテラレインから逃げられない。

『太陽の牙』も、先ほどの”点火イグニッション”による冷却時間クールタイムが完了していない。


「……ギッ!?」


 サテラレインが日向を挟もうとした、まさにその瞬間。

 咄嗟にサテラレインが右爪を動かし、自身の顔面を庇った。

 その直後に、岩と鋼鉄がぶつかり合ったような鈍い衝撃音が響いた。

 隣のビルのコーネリアスが、狙撃でサテラレインの攻撃を妨害したのだ。


「た、助かりました!」


 そう叫びながら、日向はコーネリアスに向かって手を振る。

 日向の声が届いたかは分からないが、コーネリアスも手を振って応えてくれた。そして、引き続きサテラレインへ狙撃を仕掛ける。


「ギギ……ギギ……」


 二発、三発とサテラレインに弾丸が撃ち込まれる。

 背中などに比べると甲殻が貧相な顔面部分や腹部を狙ってきている。

 サテラレインは引き続き右爪を盾に使い、コーネリアスの狙撃をガードする。

 だが、攻撃にも使う右爪を盾に使えば、その間は攻撃が疎かになる。

 その隙を、本堂やズィークフリドは見逃さない。


「せいっ! はっ!」

「ッ!!」


 本堂はサテラレインの脇腹を高周波ナイフで斬りつけ、離れる際にその傷口に向かって”指電”をお見舞いした。

 ズィークフリドはサテラレインの頭に跳び乗ると、握りしめた右の拳をハンマーのように振り下ろした。ヘリのプロペラを投げるほどの腕力がサテラレインに叩きつけられ、頭部の甲殻が砕け散った。


「ギギギ……!」


 このままではいいようにやられるだけ。

 そう判断したサテラレインは、無理やり攻撃を仕掛ける。

 コーネリアスの狙撃に対する防御を解いて、鉄骨の上に立つ本堂に右爪を伸ばす。その巨大なハサミですり潰すつもりだ。


「おっと」


 しかし、そんな見え透いた攻撃で仕留めきれるほど本堂はのろくない。素早くその場から退避して、サテラレインのハサミを回避した。誰もいなくなった鉄骨が、巨大なハサミでガチンと切断された。


 直後、サテラレインの顔面にコーネリアスの弾丸が命中した。

 甲殻を砕き、サテラレインから紫色の体液を噴出させた。


 しかしサテラレインは、コーネリアスの弾丸を意に介さない。

 そのまま挟み切った鉄骨を持ち上げ、なんと隣のビルにいるコーネリアスに向かって投げつけた。


「ギギィ……!」


 人間など容易く押し潰してしまうであろう鉄骨が、ビルとビルの間を飛ぶ。

 コーネリアスに向かって、真っ直ぐと飛んでいく。

 しかしコーネリアスは、一歩もそこから動かない。

 ただ冷静に、対物ライフルのスコープを覗いている。


 コーネリアスが対物ライフルの引き金を引いた。

 放たれた砲弾のような弾丸は、飛んできた鉄骨を撃ち落としてしまった。

 そのまま続いて二発目を発射。

 サテラレインの眉間に穴が空いた。


「ギギギィ……!?」


 サテラレインの巨体が大きく揺れる。

 今のはさすがのサテラレインも堪えたのだろう。

 その隙を突いて、すかさず本堂とズィークフリドが攻撃を仕掛ける。

 高周波ナイフを突き刺し、電撃を流す。

 甲殻の薄いところを、拳で砕く。

 日向もその場から動けないなりに、ハンドガンでサテラレインを射撃する。


「ギギギ……」


 と、その時だ。

 サテラレインが、その巨大な右爪の先端をゆっくりと、隣のビルのコーネリアスに向けた。


「コーネリアスさん! 水のレーザーが降ってきます!」


 日向がコーネリアスに向かって叫ぶ。

 今のは、もはや見慣れたサテラレインの水のレーザーの合図だ。


 コーネリアスもライフルのスコープ越しに確認したのだろう。

 すぐさま顔を上げて立ち上がる。

 そして助走をつけた後、なんとビルからジャンプした。

 直後、コーネリアスがさっきまでいた場所を、空からの巨大な水のレーザーが撃ち抜いた。


 コーネリアスは、背中で折りたたんでいたワシの翼を展開し、空を滑空。ハングライダーの要領で真っ直ぐ飛行し、日向たちの元に着陸した。


「着地成功ダ」


「あ、当たり前のように空を飛んできた……。本堂さんといい、ズィークさんといい、あなたといい、なんなんだこの三人……」


「飛べナイ人ハ、ただノ人ダ」


「はいはいそーですよ! どーせ俺は飛べませんよ! ただの人ですよ! 文句ありますか!? アンタらがおかしいだけですからねっ!」


「それヨり見ロ。サテラレインが動クぞ」


 サテラレインは、コーネリアスに水のレーザーを避けられたのを見ると、今度は大きくジャンプしてこのビルの上層へと上る。鉄骨から鉄骨へと飛び移り、金属音を立てて着地する。


「マタ逃げル気だろウカ?」


「逃がすワケにはいきませんね。追いかけましょう。ズィークさん、申し訳ないんですけど、また俺をおぶって上まで登ってくれませんか?」


「…………。」(頷き、日向を背負う)


「ありがとうございます。本堂さんは自力で行けますね?」


「登るのがめんどい」


「さっさと登らないと馬刺しにして喰っちゃいますからね!」


「お前が言うとシャレにならんな。分かった分かった」


「それで、コーネリアスさんは……その背中の翼は、滑空はできても上昇はできないんですよね? 自力で上まで登れそうですか?」


「問題ナイ」


 そう言うとコーネリアスは懐から、フックが銃口についた、変わった拳銃を取り出した。以前、クラーケン討伐の時、ジャックが持っていたものと同じ銃だ。

 その銃を上に向けて引き金を引くと、ワイヤーがついたフックが射出され、上層の鉄骨に引っかかる。その後、銃はワイヤーを巻き取って、それに引っ張られてコーネリアスも上層へと上っていた。


「対物ライフルに、ワイヤーフック。いよいよどこかで見たことあるなぁ……。具体的に言うと、某ガンシューティングのステージ1の……」


「…………。」


「うわっとぉ!? ズィークさん、いきなり動かないでー!?」


 ズィークフリドが日向を背負って、鉄骨を登っていく。

 本堂とコーネリアスも、それぞれビルの上層を目指す。

 その登攀とうはんのスピードは極めて速い。

 壁をよじ登る虫か何かのように、まったくペースを落とすことなく上へと進む。


 ズィークフリドにおぶられながら、日向は鉄骨を掴むズィークフリドの指を見てみる。

 ズィークフリドに掴まれている鉄骨が、指圧によってひしゃげるようにへこんでいた。


「ご……ゴリラだってそこまでの握力はしてないと思うんですよ……」


「…………。」


 若干引き気味な日向の言葉を聞き流し、ズィークフリドは上へと登る。

 やがて、日向たちを待ち構えていたサテラレインに追いついた。


 サテラレインに再び追いついたその場所には、広い足場が設置されている。ここなら日向も満足に動くことができる。

 サテラレインは再び足を止め、日向たち四人を見下ろしている。その上は吹き抜けの最上階となっており、これ以上逃げ場は無い。


「ギギギ……」


「もうすぐ『太陽の牙』の冷却時間クールタイムが完了する……。そろそろ決着をつけたいところですね」


「だが、奴はこの建設中のビルという戦場でも、なかなか素早く立体的に動いてみせる。むやみに撃っても避けられるだけだろう?」


「でしょうね。だからまずは、動きを止めないと」


「プランは、考えてあるのか?」


「一応は。一つは、奴の脚を狙って動きを鈍らせて、俺の”紅炎奔流ヒートウェイブ”を当てるプラン。もう一つは、奴の『弱点』を攻撃して”紅炎奔流ヒートウェイブ”に頼らず仕留めるプランです」


「『弱点』……。奴の弱点に目星がついたのか?」


「恐らく、ですけどね」


 日向は一拍置いてから、再び口を開いた。



「奴の弱点……それは『口内』だと思うんです」

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― 新着の感想 ―
[一言] ユグドマルクトの水晶化は、このマモノの厄介さがさらに増して実に面白い能力だな~と感じました! ……それにしても、この能力がただ単に人間“だけ”を識別しているなら、瘴気を吸って動物的な要素を…
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