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第318話 大雨と吹雪

「キシャアアアアッ!!」


 甲高い咆哮が響き渡る。”吹雪ブリザード”と”濃霧ディープミスト”の星の牙、氷のカマキリ、コールドサイスのものだ。標的である日向を追って、このサテラレインとの戦いの場に乱入してきたのだ。恐らくは、ビルの外壁を登ってここまで来たのだろう。


「この野郎、またお前か!」


 罵声を浴びせつつ、日向はコールドサイスに斬りかかる。

 このマモノとの対決も、これで三度目だ。


「三度目の正直って言うし、そろそろここで決着を付けてやる!」


 日向は『太陽の牙』を振りかぶり、思いっきりコールドサイス目掛けて振り下ろした。


 一方のコールドサイスは、右の鎌を左から右へ、軽く一振り。

 それだけで、日向の剣はあっけなく弾き飛ばされた。

 マモノに絶大な威力を発揮する『太陽の牙』が、である。


「……あ、しまった。”紅炎奔流ヒートウェイブ”を撃ったばかりだから、マモノへの特効が無くなってるんだっけ……」


 コールドサイスのしつこい襲撃に、日向は頭に血が上っていた。それが日向から冷静さを奪い、この致命的な物忘れを誘発させてしまったようだ。

 コールドサイスは、収穫期の稲穂を刈り取るかのように悠々と、日向に向かって氷の鎌を振りかぶる。


「ッ!!」

「キシャアッ!?」


 だが、コールドサイスの横からズィークフリドが飛んできて、コールドサイスの側頭部に蹴りを食らわせた。コールドサイスの身体が大きく揺れ、攻撃は阻止された。


「ズィークさん、助かりました!」


「…………。」(頷く)


「日向! サテラレインは俺とコーネリアスさんが抑える! そっちはそのカマキリをどうにかしろ!」


「わ、分かりました!」


 向こうでサテラレインを引きつける本堂に、日向は返事をした。


 日向は、攻撃力が大幅に落ちた『太陽の牙』を放っておいて、懐から拳銃を取り出し、ズィークフリドを援護する体勢に入る。

 ズィークフリドもその意図を察知し、日向を守るようにコールドサイスの前に立ちはだかる。


 一方のコールドサイスもまた、ズィークフリドに向かって鎌を構える。

 光を受けて蒼く透き通る氷の鎌は、息を飲むほど美しく、恐ろしい。


「……キシャアッ!!」

「ッ!!」


 コールドサイスが右の鎌を振り抜く。

 その速度は棒切れでも振るかのように速い。

 鎌の刃は、人間の胴体など両断できそうなほどの大きいというのに。


 一方、ズィークフリドは身を屈めて鎌を避ける。

 コールドサイスは、間髪入れず左の鎌を振るってきた。

 狙いはズィークフリドの足元だ。その足首を刈り取るつもりだ。


「ッ!!」

「キシャッ!?」


 ズィークフリドは、迫る刃を右足で思いっきり踏みつけ、攻撃を止めた。止められた影響で、コールドサイスの体勢が崩れる。


 ズィークフリドはコールドサイスに向かって飛びかかる。

 空中で身体を回転させながら、遠心力がたっぷり乗った回し蹴りを放つ。

 蹴りはコールドサイスの側頭部に叩きつけられ、大きく仰け反らせた。


「シャアアアアッ!!」

「っ!」


 追撃を仕掛けようとするズィークフリドだったが、コールドサイスが体勢を立て直す方が早い。仰け反った上体を戻しつつ、ズィークフリドに鎌を振り下ろしてきた。


 その攻撃を見切り、ズィークフリドは素早く後ろに下がる。


「キシャアッ! キシャアッ!」


 コールドサイスの攻撃は続く。牽制程度の軽いひと振りを連発し、ズィークフリドを攻め立てる。

 だが先述の通り、コールドサイスの鎌は大きい。その軽いひと振りでさえ、人の身で受ければ致命的なダメージになる。ズィークフリドは下がり、しゃがみ、手の平で刃を逸らしつつ、攻撃をしのぎ続ける。


「キシャアッ!!」


 コールドサイスが鎌を振り下ろした。

 ズィークフリドは素早く後ろに跳んで鎌を避ける。

 氷の鎌が、コンクリートの床に食い込んだ。

 そして、氷の鎌が食い込んだ場所が瞬く間に凍り付いて、ズィークフリドの足を捕まえてしまった。


「っ!」


 ズィークフリドの動きが、一瞬止まる。

 この場所は、サテラレインの水のレーザーの飛沫しぶきによってひどく濡れていた。その濡れた場所をコールドサイスが凍らせたのだ。だから、床が凍り付くのも早かった。


「このやろっ!」


 両者の側面から、日向が援護射撃を仕掛ける。

 狙いは正確。弾丸は吸い込まれるようにコールドサイスの複眼に命中する。


 コールドサイスの動きが一瞬だけ止まった。

 その隙にズィークフリドは力ずくで足から氷を引き剥がし、脱出した。


「キシャアアアッ!!」


 コールドサイスはすぐさま標的をズィークフリドから日向へと切り替え、日向に向かって走ってきた。氷の鎌を振り上げ、走りながら日向に斬りかかる。


「舐めんなっ!」


 日向は、左に跳んで右の鎌を避ける。

 その日向を追うように振るわれた左の鎌を、しゃがんで避ける。

 続いて振り下ろされた右の鎌は、右にローリングして回避した。

 立ち上がると同時に、コールドサイスの複眼にもう二発、銃弾をお見舞いする。


「キシャアアアッ!!」


「もうお前との戦闘も三度目だからな! それだけ戦えば、俺だってお前の動きくらい読めてくる!」


 距離を取りつつ、日向はコールドサイスの顔に向かって銃を連射する。

 コールドサイスは日向の銃撃を嫌い、右の鎌でガードする。


「ズィークさん、今です!」

「…………!」


 コールドサイスの注意が、完全にズィークフリドから逸れた。その隙にズィークフリドは、コールドサイスの横から飛びかかる。

 コールドサイスの防御の外側から、ズィークフリドはチーターの瞬発力を以て、強烈な飛び膝蹴りをコールドサイスの側頭部に突き刺した。


「キシャアアッ!?」


 コールドサイスが左の鎌を地面について体勢を崩す。

 ズィークフリドの三倍以上の体格を誇るコールドサイスが、ズィークフリドの生身の一撃で倒れかけた。いったいどれほどの鍛錬を積めば、それほどの破壊力を生み出せるのか。疑問は尽きないが、今はそれを考えている場合ではない。


「ともかく、今のところはいい調子だ……。このまま行けば、仕留めきれるか?」


「日向! そっちにサテラレインが来るぞ!」


「……やっぱり、そう上手くはいかないか!」


 本堂とコーネリアスの攻撃を突破して、サテラレインが日向とズィークフリドの元へとやって来た。その巨大な右爪を振り上げ、二人を叩き潰そうとしてくる。


「ギギギ……!」

「うおっとぉ!?」

「……っ!」


 サテラレインの走力は思った以上に速い。振り向いた時には日向たちの目の前までやってきて、右爪を振り下ろしてきた。


 日向とズィークフリドは、急いでその場から退避。

 誰もいなくなった床に、ハンマーのような右爪がズガンと叩きつけられた。


「キシャアアアアアッ!!」

「危ないっ!?」


 さらにコールドサイスも体勢を整え、日向に斬りかかってきた。

 日向はスライディングで床の上を滑り、ギリギリ氷の鎌を回避した。


 コールドサイスは日向への攻撃を続行しようとするが、その向こうからコーネリアスが自身を狙っているのが見えた。


「Eat th(喰らえ)is……!」


 コーネリアスの対物ライフルが火を吹いた。

 狙いはコールドサイスの眉間。


 しかしコーネリアスの攻撃にいち早く気づいていたコールドサイスは、素早く身を屈めて銃弾を回避した。



 日向たち四人と、二体の『星の牙』。

 両陣営は改めて向かい合う形となる。

 事実上の仕切り直し。第二ラウンドといったところか。


「ギギギ……!」

「キシャアアアアアッ!!」


 サテラレインとコールドサイスが、同時に鳴き声を上げた。

 ただの偶然とは思えない。この二体は、同時に何かを仕掛けてくるつもりなのかもしれない。


「いったい、何をする気なんだ……?」


「…………!」


「え、どうしたんですかズィークさん。空を指差して……」


 日向が空を見上げると、灰色の渦状の雲が何やら動きを見せていた。

 次いで、何か光る物が空から落ちてきた。


 ズィークフリド目掛けて落ちてきたそれを、ズィークフリド自身が素手でキャッチする。見てみれば、それはゴルフボール大の氷の塊だった。


「氷の塊……何で空から……いや、ちょっと待て?」


 サテラレインは、空から水を降らせる”大雨レインストーム”の星の牙。

 コールドサイスは、冷気を操る”吹雪ブリザード”の星の牙。

 この二者が揃えば、何を仕掛けてくるか。

 そこに思い至った日向は、額を冷や汗が流れていったのをハッキリと感じた。


「ギギギ……!」

「キシャアアアアアッ!!」


 再びサテラレインとコールドサイスが鳴き声を上げる。

 そして、空から大量の氷の塊が降り注いできた。


「や、やばぁぁい!?」


「マズい! 早くどこかに避難しろ!」


「Holy shit……!」


「っ!」


 握りこぶしほどの大きさがある氷の塊が、ビルの屋上へと降り注いでくる。それだけで十分以上に危険、あまりにも暴力的な威力だ。屋上に設置されているステンレス製のごみ箱が、降り注ぐ氷の塊によってボコボコにへこまされていく。


 本堂は、近くのベンチの下に隠れた。


 コーネリアスは、着ていた灰色のコートを両手で伸ばして傘代わりに使った。


 ズィークフリドはチーター譲りの瞬発力で、向こうの方に落ちていたヘリの残骸の下に逃げ込んだ。


「あ、ちょっと待って、俺どうしよう」


 日向だけが逃げ遅れた。

 目をつけていたベンチの下は、既に本堂が隠れている。

 本堂を見てみれば、手の平を真っ直ぐ立てて「ごめん」のジェスチャーを取っている。


「も、もうイチかバチかだ……!」


 日向は『太陽の牙』を呼び寄せて、剣の腹を空に向けて傘にする。

 そして、空から落ちてきた氷の塊が日向にも命中し始めた。


「痛っ!? いだだだだっ!?」


 剣は多少の氷を弾くものの、やはり日向の身体のほとんどがはみ出てしまっている。日向の肩に、腕に、氷の塊が命中する。


 やがて氷の塊の衝撃に負けて、日向の体勢が崩れてしまった。

 一切の守りが無くなってしまった日向に、氷の塊が容赦なく降り注ぐ。


「痛だだだだだだだだだだだだだぁ!?」


 うずくまり、両腕で頭をガードしながら氷の塊に耐える日向。

 氷の塊が背中に落ちて、太鼓でも叩くかのようにドゴドゴドゴドゴと音を立てる。


 やがて氷の塊の雨は止んだ。

 日向は、床の上でボロぞうきんのように倒れていた。


「な……なんて攻撃を仕掛けてくるんだ……」


 ボロボロではあるが、日向は生きている。

 ”再生の炎”の熱に耐えながら、なんとか身体を起こす。


 一方、サテラレインとコールドサイスは、あの氷の塊の雨の中にいてもまったくの無傷だ。硬い甲殻を持つ彼らは、氷の塊などものともしない。


 ベンチの下から本堂が這い出てきて、日向に駆け寄る。

 他の二人も、日向の元に集まってくる。


「日向、生きてるか?」


「ど、どうにか……。それはともかく、コイツら、相性が良すぎます。さっきズィークさんを捕まえた凍結能力といい、今の氷の雨といい、互いの能力の長所を、互いの能力で引き出し合っている……!」


「何か、対抗策はあるか?」


「とにかく、あの二体のうちのどちらか一体を、早急に排除するしかありません。狙い目は、サテラレインと比べて体力が少なそうなコールドサイスですかね」


「なるほどな。それで、具体的にどう動けばいい?」


「そろそろ冷却時間クールタイムが終わるので、俺が”点火イグニッション”を使って一気にコールドサイスを仕留めようと思います。アイツはどういうワケか、俺を執拗に攻撃してくる。誰も手出ししなければ、俺を集中して狙ってくると思うんです。その間に本堂さんたち三人は、サテラレインを足止めしてください」


「お前一人でやれるのか?」


「刺し違えてでもやってやりますよ。刺し違えても、俺は復活できますし。それより、本堂さんたちもしっかりサテラレインを足止めしてください。奴の防御力や、先ほど見せた走力から判断すると、三人がかりでも突破されずに済むかどうかはほとんど賭けです。俺一人じゃ、あの二体を同時に相手取るのは厳しいと思いますし」


「……分かった。だが、無理はするなよ。死にはしなくても、死ぬほどの痛みは感じるのだろう? それに、死んだお前を瓦礫の下に埋めたり、水の底に沈めたり、何だかんだでお前を完全に封じ込める方法はいくらでもあるからな」


「……シャオランじゃないけど、聞いててやる気が削がれてきた……」


「それは悪いことをしたな。やっぱり止めておくか?」


「いえ、大丈夫ですよ。それじゃあ、作戦開始です!」


「了解した!」


 日向と本堂たちは、一人と三人のグループに分かれて散開する。

 本堂、コーネリアス、ズィークフリドの三人は、手筈通りサテラレインに攻撃を仕掛ける。

 一方、日向は空中庭園を仕切る手すりを越えてビルの端へと移動。コールドサイスを引きつける。


「こっちだ、カマキリ!」

「キシャアアアアアッ!!」


 コールドサイスも日向を追いかける。

 本堂たちとサテラレインから十分に距離を取ると、日向はコールドサイスに向き直った。


「太陽の牙……”点火イグニッション”ッ!!」


 掛け声と共に、日向の剣から凄まじい勢いで炎が噴出する。

 刀身さえ焼き尽くさんとする勢いの炎が。


「さぁ……決着を付けるか!」

「キシャアアアアアッ!!」



 業火の剣と氷の鎌が相対する。

 斬り伏せられるのは、果たしてどちらか。

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