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第314話 天から降り注ぐ水の柱

「じゃあ、俺たちはこれからサテラレインを討伐しに行きますよー」


 こちらは日向、本堂、コーネリアス、そしてズィークフリドの四人のグループ。彼らは街中のビルの屋上に陣取っているシオマネキ型のカニのマモノ、サテラレインの討伐を担当する。


『天から水のレーザーを落とす能力』を持つサテラレインは、この能力でアメリカ軍のヘリを叩き落としてきた。このマモノを排除すれば、アメリカ軍は再びヘリを飛ばすことができるようになり、戦いの流れは一気に人間側に傾くだろう。


 通信機から、狭山の声が聞こえる。


『サテラレインが陣取っているビルは、どうやら大型のデパート施設のようだね。屋上には空中庭園があり、サテラレインもそこにいる。まずはビルを登って、サテラレインの元まで行ってくれ』


「了解です。さて、それじゃあ皆さん、行きましょう」


「分かった」

「Yes sir.」

「…………。」


「……分かってたけど、このグループ、会話が少ない……!」


 気を取り直して、日向は寡黙な三人を連れてサテラレインが待ち構えるビルへと向かう。


 補足だが、日向以外の三人は依然として動物化している。

 本堂がロバ。コーネリアスがワシ。ズィークフリドがチーターだ。


「日向助けてくれ。ワシとチーターが獲物を狙う目で俺を見ている」


「落ち着いてください本堂さん。二人は元からああいう目です」


 やり取りを交わしつつ、四人はビルの陰から、サテラレインが潜んでいるビルの屋上を覗き見る。

 下手に広いところに飛び出れば、空からの水のレーザーでサテラレインから狙い撃ちされる。サテラレインに補足されるのは、極力避けねばならない。


「狭山さん。どのルートから行けば、サテラレインに見つからずに奴がいるビルまで行けますか?」


『近くのビルの中を通り抜けながら、サテラレインがいるビルまで近づくルートを推奨するよ。ビルとビルを渡り歩くことで遮蔽物にするんだ。奴がいるビルの隣のビルには、地下に連絡通路が伸びている。そこを通れば水のレーザーを気にする必要もない』


「分かりました。じゃあそのルートで……」


「ブーン」


 日向の話の途中で、一匹の虫が飛来してきた。

 日向の向かいのビルの壁にピタリと張り付く。


 手の平の上に乗る程度の大きさ。

 やや四角っぽいシルエット。

 その姿はいわゆるセミそのもの。

 特に日向と本堂は、そのセミの姿に見覚えがある。

 このマモノの鳴き声のやかましさたるや、一度聴いたら忘れられない。


「そ、ソニックブンブンゼミ――――」


「ミ”ミ”ミ”――――」


「ッ!!」


「ミ”ッ!?」


 日向たちの元に飛んできた虫は、ソニックブンブンゼミというマモノだ。このセミ型のマモノは、恐ろしいほどに大音量の鳴き声を発する。

 四人の元に飛来してきたソニックブンブンゼミも、今まさしく四人に強烈な鳴き声を叩きつけようとしたのだが、ズィークフリドがサイレンサー付きのハンドガンで素早く撃ち落としてしまった。


「な、ナイスですズィークさん! 危なかった……」


「…………。」(頷くズィークフリド)


『しかし、少しだけとはいえソニックブンブンゼミの鳴き声が響いてしまったね。奴の鳴き声は、他のマモノに敵の存在を知らせる警報にもなっている。日向くん、サテラレインはまだ君たちを捕捉してはいないだろうか?』


「いや、さすがにこの距離ですし、奴も今の鳴き声は聞こえなかったのでは……」


 そう言いつつ、日向は再びビルの陰から顔を覗かせ、サテラレインがいるビルの屋上を見てみる。

 その屋上から、茶色の岩塊のような姿のサテラレインが顔を覗かせ、巨大な右爪を日向たちに真っ直ぐ向けていた。



「……バッチリ気付かれてるー!?」


「Holy shit!(マズいなこれは!)」


「いかん、逃げるぞ!」


 四人は大慌てでビルの陰から大通りへ飛び出した。

 そして、先ほどまで日向たちがいた場所に巨大な水の柱が勢いよく降ってきた。


 日向たちが隠れていたビルの屋上の端に水がかする。

 それだけでビルの一部が破壊され、瓦礫となって地上に降り注いできた。


「あ、あっぶねぇぇぇ!? もう少し逃げるのが遅れてたら、あの大量の水でぺしゃんこにされてた……!」


「とにかく、奴に見つかってしまった以上は仕方ない! このまま奴がいるビルまで走るぞ!」


 そう言うと、本堂とズィークフリドは超人的なスピードで走り出す。

 それぞれロバとチーターが混じっている現在の二人は、人間の走力を凌駕している。 


 コーネリアスも二人ほどではないがかなりのスピードだ。

 対物ライフルを右肩に抱えて全力疾走している。


「ちょ……ちょっと待って……みんな早い……」


 そんな中、日向だけが遅れている。

 天から降り注ぐ水のレーザーも、後ろから日向を追いかけてきている。

 しかも、最初に日向たちが見た時よりスピードが速い。このままでは追いつかれる。


「くおぉぉぉ死にたくなーい!!」


 歯を食いしばって走る日向。

 ……だがその時、瓦礫に足をつまづかせてこけてしまった。


「ぎゃんっ」


 地面に飛び込むように、派手に転んだ日向。

 後ろからは、水のレーザーがアスファルトを砕きながら迫ってきている。


「ああ……死んだ……普通この場面で転ぶかよ俺ぇ……」


 全てを諦め、日向は瞳を閉じる。

 ”再生の炎”により死んでも蘇るとはいえ、痛いものは痛いのだ。



 ……だが、降り注ぐ水の柱が日向を押し潰すことはなかった。

 水の柱は、日向を潰すあと一歩手前というところでんだ。


「……あれ? なんか助かった?」


『それより日向くん、今のうちに逃げるんだ!』


「り、了解……!」


 日向は急いで立ち上がり、他の仲間たちが待っている地点、サテラレインがいるビルの一階出入口へと転がり込んだ。


「ぜぇ……ぜぇ……まさに九死に一生だった……」


「災難だったな日向。大丈夫か?」


「な、なんとか。それより、なんでサテラレインは水のレーザーを途中で止めたのでしょうか? あのままいけば俺を倒せたのに。確かに俺は死んでも蘇りますけど、限度はあります。仕留めない理由なんてないでしょ?」


『恐らくあの水のレーザーは、使用時間が限られているんじゃないかな。一度に撃てる水は一定時間、あるいは一定量まで。それからはしばらくの充填時間チャージタイムが必要となるとか。でなければ、サテラレインはわざわざ君たちを見つけてから狙いを定めたりせず、適当に狙いをつけて水のレーザーを撃ちまくればいいんだからね』


「そっか、確かにそういう使用制限が無いと、水のレーザーを数撃ちゃ当たる戦法とかが出来てしまうワケか。それをやってこない以上、何らかの使用制限がある可能性は濃厚……」


『照射時間は、ざっと十秒ちょうどといったところだろうか。それと、映像を分析して気付いたんだけど、一回目とさっきの二回目の水のレーザーとでは、レーザーの太さが違うみたいだ。二回目の方が細かった。まだ憶測の域だけど、一回目より水のレーザーの移動速度が上がっていたのはこれが原因じゃないかな』


「な、なんでそこまで気付けるんですか……。まだ二回しか見てないのに」


「個人的にハ、奴があの超遠距離でセミの鳴キ声に気付いたノモ気になルナ」


『そうだね。カニは特別聴力に優れた生き物というワケではないが、なにせあの攻撃方法だ。サテラレインというマモノそれ自体が、遠距離の索敵に秀でた身体構造を持っていてもおかしくない。今から君たちにはこのビルの屋上まで上ってもらうワケだけど、サテラレインも何らかの妨害を仕掛けてくると考えるべきだろうね』


「……それって、ちょうどあんな感じで、雑魚マモノを送り込んでくるとかですかね?」


 そう言って日向が指差す先には、多数のマモノの姿があった。

 一角の馬のマモノ、ツノウマ。

 肥大化した左爪を持つカニのマモノ、ソルビテ。

 暴れ狂う猛牛のマモノ、ブルホーン。

 日向が見たことない新顔のマモノもいる。


「シュー……」


「なんだ、あのマモノは……? エビなのか……? 前脚がすっごい丸いけど。それに、かなりデカいし……」


「アレは『シャコライカー』だナ。最近ニなって確認サれたマモノだ。モンハナシャコは知っていルカ?」


「ええと、めちゃくちゃパンチ力の強いエビでしたっけ」


『まぁ、ざっくり説明するとその通りだよ。あのシャコライカーの特性も、元になったモンハナシャコに準じている。星の牙ではないとはいえかなり危険なマモノだが、君たちなら何とかできるだろう』


「前哨戦という奴だな。それとも、顔触れに合わせるなら前菜オードブルか?」


「馬、カニ、牛、エビ。前菜にしては面子がどれもメインディッシュ級じゃないですかね」


「お前ならペロリと平らげるだろう、日向?」


「……まぁ、否定はしませんけど!」


 その言葉を皮切りに、日向がマモノの群れに向かって駆けだす。

 本堂とズィークフリドも日向に追従し、コーネリアスは対物ライフルを構える。



 目指すは屋上。

 サテラレインは、そこにいる。

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