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第310話 アンダーグラウンド・レイド

 ニューヨーク地下鉄の線路を辿り、ユグドマルクトの根元まで向かうため、日影とレイカとオリガの三人は、ユニコーンを引き連れて地下鉄駅の改札口を進んでいたのだが、その途中で妙な光景を見つけた。


 床や壁が水浸しになっている箇所がある。

 どうやら天井のスプリンクラーが作動したらしく、床や壁が一部焦げている。


「一応聞くけど、アナタの仕業じゃないわよね、日影?」


「ちげぇよ。どっかのマモノの仕業じゃねぇのか?」


「けれど先ほどのマモノの群れの中には、火を使うようなマモノはいませんでしたね」


「この地下鉄にゃまだまだマモノが潜んでいるってことか。油断ならねぇな」


 焦げ跡と水浸しの場所を通り過ぎ、三人はユニコーンを連れつつ、階段を降りて地下鉄のホームへ出た。


 そして、飛び込んできた目の前の光景に、思わず絶句した。

 上の改札口以上の数のマモノが、ホームにすし詰めになっているのだ。

 その数、ざっと数えても五十は下らない。


「これはまた……すごい数ですね……。ちょうど通勤ラッシュの時間帯を直撃してしまったかのような……」


「ったく、誰だよこの地下ルートを提案したヤツ」


「はいはい、私が悪かったわよ。それで? ここまで来ておいて、今さら怖気づいて逃げるのかしら?」


「はっ! まさか。当然、蹴散らして進むだけだ」


「どの道、この街に巣食うマモノたちを野放しにするワケにはいきません。あとで倒すか、今倒すかの違いだけです」


 マモノたちも、三人の存在に気付いた。

 牙を剥き、毛を逆立て、一斉に襲い掛かる。

 様々なマモノの鳴き声が入り混じった咆哮が、地下空間にこだました。


「再生の炎……”力を此処に(オーバードライヴ)”ッ!!」


「この数なら、あなたの出番ね。お願いね、アカネ」

「任せときな。片っ端からなますにしてやるよ」


「蹴散らしなさい、ユニコーン」

「ヒヒィン!」


 日影たち三人と一匹もまた、正面からマモノたちに攻撃を仕掛ける。


 オーバドライヴ状態により身体能力が向上した日影は、片手で『太陽の牙』を振るって次々とマモノたちを斬り捨てていく。


 足元に噛みつこうとしたラージラットは、燃え盛る右足で踏み潰した。


 イタチ型のマモノ、マンハンターが飛びかかってくる。


 日影は逆に自分からマンハンターに飛びかかり、首を掴んで地面に叩きつけた。

 叩きつけと同時に大爆炎が撒き散らされ、周囲のマモノたちが吹っ飛ばされた。

 爆炎を直接受けることになったマンハンターは、当然燃え尽きた。



 アカネは自身の刀『鏡花』を抜刀し、マモノの群れに切り込んでいく。


 鏡花の切れ味とアカネの腕力が合わさり、マモノたちはなで斬りにされるだけで真っ二つにされていく。紅く変化したアカネの髪が、マモノたちの返り血でさらに赤く染まる。


「シャーッ」

「キエアアアアアッ!!」

「グオオオッ!!」


 アカネを止めようと、さらに大勢のマモノが押しかけてくる。

 その種類はディーバイト、ガチュラ、トウテツ、さらに複数。


「しゃらくせぇぇぇっ!!」


 アカネは鏡花を納刀すると、居合の構えを取る。

 鏡花の鞘口から、彼女の髪色に合わせるように紅い稲妻が迸った。


 一拍置いて、アカネは鏡花を抜き放つ。

 身体ごと大きく一回転しつつ、居合を放ちながらマモノの群れに突っ込んだ。

 アカネに襲い掛かろうとしたマモノたちの首が、顔が、胴体が、まとめて斬り飛ばされてしまった。


 これもまた、先ほどレイカが見せた『超電磁居合抜刀』だが、レイカとアカネでは居合斬りの方法まで違うらしい。レイカは居合を反撃カウンターとして使ったが、アカネは居合を殲滅のために使っている。



 そしてオリガは、前線でユニコーンを暴れさせつつ、自分は後ろから銃で日影たちを援護する。

 時々チラチラと日影のがら空きの背中を見るのがやや不穏だが、ちゃんとマモノたちに狙いを定めて、的確に急所を撃ち抜いていく。


 近くの天井の通気口が音を立てて破られた。

 次いで、鮮血の体色をした小さなコウモリの群れが飛び出してきた。

 吸血コウモリ、ブラッドバッドだ。

 不意を突いていきなり現れた。

 肝っ玉が小さい人間なら飛び上がって怖がっていてもおかしくない。


 しかしオリガは声一つ漏らさず、ハンドガンで的確にブラッドバッドの群れを撃ち落としていった。


「ゲコォォッ!!」

「ちょっと、またカエルなの?」


 オリガの側面から、ビッグトードがオリガを押し潰そうと飛びかかってきた。

 オリガは素早く背中からショットガンを取り出し、ビッグトードに向けて発砲、撃ち落とした。


 ビッグトードは下顎に散弾を喰らい、もんどりうって頭から落下。

 ポンプアクションにより空薬莢を排出。

 倒れたビッグトードの腹に、ショットガンの銃口を向ける。

 何のためらいもなく引き金を引き、ビッグトードの息の根を止めた。



 前線では、相変わらず日影とアカネが各々の得物を振るって暴れている。そんな中、アカネが日影に声をかけた。


「あっはは! やるねぇアンタ! 良い突撃っぷりだ! そういう男は嫌いじゃないよ!」


「そりゃどーも。興奮して背中から斬りかかったりしないでくれよ? 本堂の時はマジで斬りかかったって聞いたぞ」


「あれはまぁ、悪かったよ。アタシも気が高ぶってたんだ。けれどあのメガネも大したモンさ。アタシが寸止めすると分かってて、最後まで避けようとしなかった。スカしたツラして腹立つのは変わらないから、本人の前では言えないけどね」


「えらく素直じゃねぇか。こう言っちゃなんだが、もっとアクの強い性格をしてるかと思ってたぜ」


「ま、アンタにゃなんつーか、シンパシーを感じてるからねぇ。話しやすいように心がけもするさ」


「シンパシーだ?」


 マモノを蹴散らしつつ、日影が疑問の声を上げる。


 日影とアカネには、これまであまり接点が無かった。接点が無かったということは、相手のこともよく知らなかったということ。そんな彼女が、一体自分のどこに共感シンパシーを見出したというのだろうか。


「アタシもアンタも、一人の人間から分かたれた、もう一つの人格だ。きっとアンタも、『自分はオリジナルの別人格ではなく、れっきとした一人の人間だ』って思ってんだろ? アタシもそういうクチでねぇ。ちゃんと自分の身体を持っているアンタのことは、ちょっぴり羨ましいのさ」


「羨ましい、か。そんな良いモンじゃねぇぞ。この身体は結局、まだ借り物の域を出ていねぇしな」


「するってーと、アレかい? もしかしてアンタたちも、どちらが『本物』になるのか争ってんのかい?」


「お前、なんでそれを……」


「アタシとレイカも、そういう時期があったのさ。一つの身体に二つの人格はいらない。どっちがこの身体の持ち主に相応しいか、決闘でハッキリさせてやろうって時期がね」


「いやお前ら、身体は一人分じゃねぇか。どうやって決闘なんて……」


「ま、言ってしまえば脳内で、だ。イメージの中のような、あるいは夢の中のような世界で、アタシとレイカは勝負したのさ。まぁその結果、こうやって『共存』ってカタチで落ち着いたんだけどね。アンタたちは、果たしてどんな選択をするのかねぇ……?」


「……チッ、その質問は後だ。気が散っちまう。それと、このことはあまり他の奴にはバラすなよ。説明が面倒だ」


「あいよ。レイカの耳も塞いでるから、彼女もアタシたちの会話の内容は分からないはずさ」


「そりゃ気が利くことで」


 話し込んでいる内に、マモノの群れはほぼ壊滅した。

 生き残ったマモノたちも、日影たちには敵わないと見て逃げ始める。

 これ以上襲い掛かってくるマモノはいないか、日影たちは周囲を警戒する。


 ……だがその時、オリガの背後の壁が音を立てて崩れた。

 その壁の向こうから現れたのは、大型の黒いアリのマモノ。


「キエアアアアアッ!!」


「ガチュラか!? オリガ、危ねぇ!」


「ちっ……!」


 ガチュラが大顎を開いてオリガに襲い掛かる。

 前に出ていた日影たちは、オリガの援護に間に合いそうにない。

 開かれたガチュラの大顎が、オリガを射程圏内に捉えた。


 オリガはガチュラを正面から睨みつける。

 瞬間、なぜかガチュラの動きが止まった。


 その隙を逃さず、オリガは腰のホルスターから大型の拳銃を取り出す。

 オートマグナム、デザートイーグルだ。

 それをガチュラの額に向けて発砲。

 最高威力の拳銃は、ガチュラの甲殻も易々と貫通する。

 弾丸は一発、二発と命中し、ガチュラが大きな悲鳴を上げた。


「ギャアアアアアア!?」

「くたばれっ!!」


 その間に日影がガチュラに駆け寄って、剣を縦に振り下ろす。

 刀身がガチュラの額にめり込み、ガチュラは絶命した。


「怪我は無ぇか?」


「ええ。あなたに助けられたのはしゃくだけど、礼は言っておくわ」


「けっ、素直じゃねぇ奴。……それより、さっきは何をした?」


「何って、何のこと?」


「お前がガチュラを睨んだ時、ガチュラの動きが止まったじゃねぇか。どんなカラクリを使ったんだよ。精神支配マインドハッカーは、ユニコーンに使っているから今は使えねぇはずだろ?」


「気にすることは無いわ。たぶん、殺気か何かを感じ取ったんじゃないかしら」


「……ま、そういうことにしとくか」


 釈然としない回答だが、日影としても深入りしてまで知ろうとは思わず、それ以上は聞かなかった。そんなことより、もっと気になるものを発見してしまった。


 いや、「発見した」というより、「耳に入った」と言うべきか。

 ガタンゴトン、と線路の上を何かが走る音。

「プオォォーン」という、電車独特の警笛の音。



 線路が続くトンネルの向こうから、長い車両が現れた。

 日影たちがいる地下鉄のホームに、列車がやって来たのだ。

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