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第302話 ニューヨークミッション、開始

 戦闘準備を整えた日向たちは、いざニューヨークの街中へ。

 大通りにて、さっそくアメリカ軍とマモノの群れが対峙している。


 アメリカ軍はジープ型の軍用車両でバリケードを作り、一列になって一斉にアサルトライフルを発砲している。


 対するマモノたちは、様々な種類が入り乱れている。地上にはマーシナリーウルフ、ラビパン、マンハンター、トウテツ。空中にはワイバーンやバレットバードが飛び交い、ダンガンオオカブトが真っ直ぐ突っ込んでくる。


 中には、日向たちが今まで見たことの無いようなマモノも混じっている。日本などでは見られないマモノなのか、あるいはこの事件で突如発生した新種なのか。


「すごい戦闘だな……。本当に戦争って感じがする」


『ここは米軍の皆さんに任せて、自分たちは迂回しよう。ARMOUREDとの合流を優先して考えるんだ』


「り、了解」


 狭山の指示に返事をして、日向たちは戦闘が行われている大通りの脇を抜ける。

 その途中、マモノたちの群れを越えて、空から白い巨大な鳥が飛来してきた。


「ホーゥ!」


「あ! あの白いフクロウ、前に私たちも戦ったことあるよね!?」


「うん。フォゴールだ。『星の牙』が当たり前のように出てくるなんて」


 アメリカ軍の前に姿を現したフォゴールは、さっそく自身の能力で白い霧を発生させる。『電波妨害』の能力を持つ霧だ。近くを通る日向たちの通信機にもノイズが混じってきた。


 アメリカ軍の隊列の後ろから、深緑の装甲を持つ大きなロボットが三機、前線に躍り出た。

 先ほど、前線基地で見かけたタクティカルアーマーだ。両腕のガトリング砲でフォゴールに射撃を開始する。


「へぇ、やるな。あれなら確かに、放っておいても大丈夫そうだ」


「俺たちはARMOUREDの元へ急ごう」


 やがて日向たちは大通りを逸れて、路地に入る。

 フォゴールが発生させた霧から抜け出したことで、狭山との通信も回復した。


『その先にマモノの反応アリだ。数は七。注意してね』


「りょーかいです! ……それにしても、狭山さんがオペレーターだと、なんか安心感が段違いだなぁ」


「マモノの出現報告とか、他のオペレーターよりも早い気がするよね。ボクも緊張が少し和らぐよ」


「仲良く話をしてる場合じゃないぞ二人とも。敵が来るぞ」


 本堂の言葉を皮切りに、横道から、建物の中から、マモノが出現した。

 青白い小型のカマキリのマモノが三体ほど建物の壁に張り付き、さらに三体の四つ腕のサルのマモノが自動ドアから出てくる。そして、大柄な牛のマモノが一体、建物の外壁を破壊して飛び出してきた。


「うわぁ、虫だぁ……。やっぱり虫は苦手だよ俺……」


『あのサルのマモノは、君たちも中国で戦ったことがあるヨツデザルだね。牛のマモノはブルホーンという。迫力満点の見た目だが、星の牙ではない。普通のマモノだ。あの小さいカマキリは……自分も初めて見るね。新種かな。ホワイトリッパーとそっくりの見た目だが……』


「と、とにかく戦闘開始! 本堂さんはカマキリ! 日影はサル! シャオランは牛!」


「承知した」

「任せとけ」

「ボクがあの一番ヤバそうな牛と戦うのぉぉぉ!?」


 シャオランの訴えはともかく、日向たちはそれぞれ戦闘態勢を取る。

 まずは本堂が、壁に張り付く青白い小型のカマキリに向かって”指電”を発射した。


「そらっ」

「シャーッ」


 だがカマキリは、本堂の動きを見切って、電撃を避けてみせた。

 しかし、その回避した隙を日向がハンドガンで狙い撃ちにする。


「喰らえっ!」

「ギャーッ」


 三発ほど弾丸を撃ち込むと、カマキリは地面に落ちた。

 いかんせん小柄なマモノだ。銃弾三発でも十分に致命傷なのだろう。

 続いて本堂が二体目のカマキリに電撃を浴びせ、地面に墜とす。

 そして三体目のカマキリが、一気に日向に向かって飛びかかった。


「シャーッ!」

「うわわわっ!?」


 慌てて飛びかかってくるカマキリにハンドガンを連射する日向。

 氷のように透き通った鎌は、日向の首を刈る一歩手前で空振った。

 鎌が届く前に、カマキリが弾丸を受けて力尽きたのだ。


「あ、危なかった……」


 安堵し、日向は強張こわばっていた肩を降ろした。


 一方、シャオランは大柄な牛のマモノ、ブルホーンと向かい合う。

 シャオランは『地の練気法』を使って、砂色のオーラを身に纏っている。


「ブルルルル……」

「ど、どうすればいいのコレ……?」


 ブルホーンは地面を蹴って、シャオランを威嚇している。

 一方のシャオランは、ブルホーンの威嚇を受けたい放題だ。眼に覇気がない。


 両者、睨み合ったまま動かない。

 いや、一方的にブルホーンが睨みつけているだけなのだが。


 ……やがて、ブルホーンがシャオラン目掛けて突進を開始した。


「ブモォォォォォ!!」

「ひぃぃぃ来たぁぁぁぁ!?」


 悲鳴を上げるシャオラン。

 ……だが、その脚は思いっきり地面に根差し、踏ん張っている。

 そしてそのまま、ブルホーンの突進を真正面から受け止めた。


「ブモォォォォォ!!」

「くぅぅぅぅ……!!」


 後ろに押し込まれながらも、シャオランはブルホーンの角を掴んで突進を受け止める。するとやがて、ブルホーンの動きが完全に止まった。


「せぇぇぇいッ!!」

「モォォォォ!?」


 ブルホーンの突進を止めると、シャオランはその体勢のまま、角を掴んで一気にブルホーンをぶん投げた。ブルホーンの身体が横に倒れる。


「やぁッ!!」

「ブモォ!?」


 倒れたブルホーンに飛びかかり、シャオランは両足でその脇腹を踏みつけた。

 アスファルトを軽く陥没させるほどの震脚を繰り出せるシャオランの踏みつけ、その破壊力は下手な拳銃など勝負にならない。


「モ……オォォォォ!」


 だがブルホーンは、まだやる気だ。

 口からよだれを垂らしつつ、立ち上がってシャオランを睨む。


「キタゾノ、今だ!」


「りょーかい! 発火能力パイロキネシス!」


 シャオランの声を受けた北園が、ブルホーンに炎を放った。

 ブルホーンはあっという間に炎に包まれ、熱さに苦しみ悶える。


「モギャアアアア!?」

「おまけっ!」


 そう言って、シャオランが燃え盛るブルホーンに外門頂肘がいもんちょうちゅうを叩き込んだ。

 吹っ飛ばされて壁に激突したブルホーンは、やがて火だるまになりながら力尽きた。


「一丁あがり……と。はぁぁぁ怖かったぁぁぁぁ……」


「大きなステーキになっちゃったね。日向くんなら完食できるかな?」


「いやぁさすがにヒューガでも……いや、可能性はあるかも……?」


「いや流石に無茶だから」


 気の抜けた会話をするシャオランと北園の間に、日向が割って入ってツッコんだ。

 そして残った日影の方を見てみれば、やはり流石と言うべきか、難なくヨツデザル三体を仕留めていた。『太陽の牙』を肩に担いで、息を吐いている。


「終わったか。こっちも片付いてるぜ」


「よくその重い剣で、そのすばしっこいサルを三体も倒せたな……。俺なんか、中国ではほとんどマトモに攻撃を当てられなかったぞ」


「今さらこの程度のマモノに遅れなんか取っていられるかよ。それに、お前もあれから強くなってるんだ。今なら結果は違うかもだぜ?」


「そうだといいなぁ。さて……」


 先を急ぐ前に、日向は先ほど倒したカマキリのマモノを見る。


 狭山ですら見たことがないという、恐らくは新種のマモノ。

 青白い甲殻は、見るだけで冷たさを感じさせる。

 氷のように透き通った鎌は、本当に氷で出来ているらしい。

 日向の眼に装着されたコンタクトカメラにより、オペレーターの狭山も日向の視界情報を共有できる。


『氷の鎌を持つカマキリか……。ならば、このマモノはアイスリッパーと名付けよう』


「シンプルですね。それじゃ、先に進みましょう」


 新たなマモノも観察し終えたところで、日向たちは再び進軍する。

 路地を抜け、再び広い道路に出た。

 上空から、一体のワイバーンが飛びかかってくる。


「ギャオーッ!」


「ふんっ」


「ギャーッ!?」


 牙を剥いて飛来してきたワイバーンだったが、逆に本堂がその口内を”指電”で狙い撃ちした。ワイバーンはたまらず、地面に墜落する。


「おりゃっ!」

「ギャアアア……」


 そして墜ちたところを日向が『太陽の牙』で首を突き刺し、ワイバーンにトドメを刺した。しかし上空を見てみれば、さらに多くのワイバーンたちが渦を巻いている。


「か、数が多いな……。ワイバーンほどの大きさのマモノが一斉に襲い掛かって来たら、立て直しは困難だ……」


『そんな日向くんたちに、嬉しい援軍を用意したよ』


 狭山からの通信が聞こえたと同時に、どこからかミサイルが射出され、ワイバーンの群れへと飛んでいく。ミサイルは次々にワイバーンたちに着弾し、面白いように次々と墜ちていく。


 ミサイルが射出された方向を見てみると、そこには二機のタクティカルアーマーが立っていた。


『あのワイバーンは自分たちが引き受けます! 皆さんは先へ進んでください!』


 タクティカルアーマーからアナウンスの音声が聞こえる。

 中の搭乗員が、日向たちに声をかけているのだ。


「あ、ありがとう! どうか気を付けて!」


 言葉に甘え、日向たちはワイバーンをタクティカルアーマーに任せる。

 二機のタクティカルアーマーは、さっそく生き残ったワイバーンたちにガトリング砲で攻撃していた。



 先を急ぐ日向たち。

 やがて、開けた広間に到着した。

 平時であれば、多くの人が行き交っていたであろう歩行者天国。

 今は、人の姿もマモノの姿も無い。酷いまでに閑散としている。


『ここを真っ直ぐ抜けてくれ。ARMOUREDとの連絡が途絶えた地点まで、確実に近づいているよ』


「了解しました」


『ところで、例のアメリカ軍のヘリを落としたマモノの能力について、新しい情報が入ったよ。目撃者の証言によれば、それはまるで衛星ビームのようだったとのことだ』


「え、衛星ビーム!? 空からビームが降ってきたんですか!?」


『まだ情報が断片的だから、詳しいことは分からないけどね……。ただ、ヘリが墜落した付近では、確かに尋常ではない破壊跡がある。光線を受けた割に、その付近であまり火災が起きていな――が不思議――――』


「あれ? 狭山さん?」


 突然、狭山との通信に雑音ノイズが走り始めた。

 通信機の向こうの狭山も戸惑っているようだ。


『これは――んな――気を付――通信――不安定――』


「狭山さん!? 狭山さーん!」


 必死に呼びかける日向だが、やがて通信機から聞こえるのは雑音ノイズだけになってしまった。


 そして周りを見てみれば、白いモヤが発生し始めている。周囲が見通しの悪い真っ白に包まれ、視界が制限される。

 濃霧かと思ったが、しかしこのモヤ、霧のようでいてそうではない。身体が触れると、ひんやりと冷たさを感じる。これは冷気だ。


「ひょっとして、この冷気が『電波妨害』の能力を持っているのだろうか……」


 氷結と霧の合わせ技。

 ならば、この冷気を生み出しているマモノは”吹雪ブリザード”と”濃霧ディープミスト”の二重牙ダブルタスクである可能性が高い。


 そこへ今度は、先ほど名前をつけた新種のマモノ、アイスリッパーまで現れた。冷気を保護色として、一気に五人の至近距離に近づいてきた。


「シャーッ!」

「キシャーッ!」


「わわっ、囲まれちゃった!?」


「けど、コイツらはただの雑魚マモノ! この冷気を生み出している『星の牙』は別にいる! そいつはどこにいる……!?」


 日向たちを取り囲むアイスリッパーを警戒しながら、日向は思考を巡らす。この状況下で、『星の牙』はどこに潜んでいるのか。


 周囲は真っ白な冷気に包まれ、見通しは悪い。

 しかし前後左右に『星の牙』らしきマモノがいないことはなんとか分かる。


 足元には、アイスリッパーの大群。

 つまり日向たちの目線は下に向いている。

 あえて言い換えるなら、下に注意を引きつけられているような。


「じゃあ……上か!?」


 そう言って日向が上を見上げる。

 まさに一体のマモノが日向の上から襲い掛かっているところだった。


「キシャアアアアアアッ!!」

「くぅっ!?」


 巨大な氷の鎌が振り下ろされる。

 日向は咄嗟に、身を投げ出すようにしてそれを避けた。

 切り裂かれたコンクリートの地面に、深い切れ込みが入った。


「あ……危っぶねぇぇぇ……!?」


「日向くん、大丈夫!? このマモノは……」


「たぶん、コイツがこの冷気を発生させている犯人なんだろうな……!」


「キシャアアアアアアッ!!」


 そのマモノは、アイスリッパーをひと際巨大にしたような容姿をしている。


 全体的なシルエットは、以前に日向たちが戦ったミストリッパーと瓜二つ。

 しかし両腕の鎌は、アイスリッパーと同じく氷の鎌だ。カキン、カキンと、まるで舌なめずりするように両の刃を擦り合わせて研いでいる。



 日向たちは知る由も無いが、そのカマキリ型のマモノは、先ほどヘヴンから『日下部日向抹殺』の特命を受けた霊獣だった。

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