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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第294話 艦上の攻防

 嵐の中を航行する黒の戦艦エクスキャリバー。


 そのエクスキャリバーに対して、二足歩行する大きな魚のマモノのディーバイトと、大きな左爪を持つカニのマモノのソルビテ、そして”テンペスト”の星の牙であるクラーケンが一斉に攻撃を仕掛けてくる。


「おりゃりゃりゃりゃーっ!!」


 そんなエクスキャリバーの上を日向が駆け回り、”点火イグニッション”を発動させた『太陽の牙』を振り回している。すれ違いざまにディーバイトやソルビテを斬りつけ、艦に巻き付こうとしてくるクラーケンの触手に切っ先を突き刺した。

 

 一回斬りつけられただけで雑魚マモノたちは絶命し、巨大な触手はたまらず海へと引っ込む。それほどまでに日向の剣の炎は強力なのだ。


「イグニッションの炎は……まだ保つな! よしゃー、どんどんかかってこーいっ!」


 紅蓮の炎を纏う剣を振りかぶり、日向は次なるマモノの群れへと突撃していった。



 甲板の中央部では、本堂がマモノたちと交戦していた。

 群がるディーバイトやソルビテに向かって”指電”を連射している。

 ソルビテもまた電気を弱点としており、本堂の電撃の前には自慢の甲殻も意味を成さない。


 とはいえ、”指電”だけで倒れるほどこのマモノたちもヤワではない。身体を振るわせながら、なおも本堂に襲い掛かろうとしている。


 しかし本堂とて”指電”だけでマモノたちを倒そうなどと思ってはいない。マモノたちの足を止めれば、それで十分なのだ。


「レイカ、任せたぞ」

「今のアタシはアカネだぜぇぇ!!」


 本堂の言葉に返事をしたのは、勝気極まる女性の声。レイカ・サラシナはアカネへと切り替わり、本堂の電撃によって動きを止めていたマモノたちに斬りかかった。

 動かないマモノなど、彼女にとっては稽古台けいこだいにさえならない。まとめて機械仕掛けの刀によって斬り払ってしまった。


「おい優男! アタシゃ目に入ったものを片っ端からぶった斬るタチだからよぉ、間違えて斬っちまったら勘弁だぜ?」


「ふむ。『ARMOURED』の刀の使い手というのは、間違えて味方まで斬りつけてしまう程度の腕前なのか?」


「……言うじゃねぇかメガネ。せいぜい背中に気を付けな」


「なるほど、冗談は通じない性格か」 


 アカネは相当に気性が荒いようで、本堂の物言いもかんさわるようだ。今にも本堂に斬りかかりそうな勢いである。

 とはいえ、流石に彼女とて今はそんな場合ではないと理解している。すぐさま標的を目の前のマモノに変更して斬りかかった。


 アカネは次から次へとディーバイトたちの首をはね飛ばし、足元へ近づいてくるソルビテは鋼鉄の足で踏み潰す。


 両の脚が戦闘用の義足となっているアカネは、人間離れした脚力を生み出せる上に、彼女のパワーはレイカよりさらに強い。身体は同じでありながら、アカネとレイカでは筋力が違うのだ。『一つの身体に二人の人間』とはレイカの言だが、言い得て妙とはこのことか。


 本堂も負けじと”迅雷”を発動し、両手に二本の高周波ナイフを装備する。本堂の身体の電気が、ナイフの刃にも伝わってくる。

 そのまま襲い来るディーバイトの喉元を切り裂き、同時に傷口を感電させる。ソルビテにはナイフを突き立てて食い込ませ、そのまま電気を流して絶命させる。


 紅い髪をたなびかせるアカネと、蒼い稲妻を身に纏う本堂。

 両者は縦横無尽に甲板を駆け回り、次々とマモノたちを屠っていく。


 そして二人の周りのマモノたちが全滅すると、アカネは突如、本堂に向かって斬りかかった!


「おらぁぁぁっ!!」

「む……!」


 身構える本堂。

 アカネの太刀筋は本気で殺す気だ。


 ……だが、刀は本堂の目と鼻の先のところで止められた。


 刀を振るったアカネを見てみれば、彼女の髪は黒に、瞳は青に戻っている。今の彼女はレイカだ。


「……ふぅ。あ、危なかった……。ごめんなさい、本堂さん。アカネがとんだ失礼を……」


「いや、問題ない。少し驚かされたが」


「彼女には後でよく言って聞かせますので……」


「む、待てレイカ、右だ!」


 本堂が声を上げる。


 見てみれば、右の海からクラーケンの巨大な触手が現れて、ゆらゆらと揺れていた。叩きつけ攻撃の前触れだ。


「く……あの大きさ、俺の”指電”では止めきれん……!」


「ここは私にお任せください!」


 そう言うとレイカは、刀を腰の鞘に収め、居合の構えを取る。

 吹き荒れる雨を一身に受けつつ、射抜くような眼差しでクラーケンの触手を注視している。


 やがてクラーケンの触手が動き、艦に向かって振り下ろされた。

 その真下にはレイカがいる。

 レイカは素早く刀の柄を握りしめ……。


「せやぁっ!!!」


 凛とした掛け声と共に抜刀。


 鞘の口から一瞬、電気がほとばしったかと思うと、刀は恐ろしいほどのスピードで振り抜かれ、なんとクラーケンの巨大な触手を斬り飛ばしてしまった。切断された触手の先端は、艦の反対側の海にドボンと落ちた。


 レイカは愛刀『鏡花』を上から下へと一振りし、刃に付着したクラーケンの血を払った。


「……とまぁ、こんな具合です」


「いや、見事だった。ところで今の、鞘から発生した電気は……?」


「この鞘にはちょっとした仕掛けがあって、レールガンと同じ仕組みで、内蔵した電気の力で居合抜刀の速度を爆発的に高めることができるんですよ。高周波機能とあわせてハイネが勝手に改造しました」


「なるほど、そんな仕掛けが……」


「それより、戦いはまだ続いています。このままマモノたちを攻め立てましょう!」


「了解した」


 レイカと本堂は次なる標的を見つけると、互いに凄まじいスピードで駆け出した。



 一方、船尾ではコーネリアス少尉がマモノたちを相手に立ち回っている。近づいてくるディーバイトやソルビテを、自慢の対物ライフルで一体、また一体と仕留めていく。その絶大な貫通力の前には、ディーバイトの鱗はもちろん、ソルビテの甲殻であろうとぶち抜かれる。


「ギ……シャアアアーッ!」


 しかし、対物ライフルの銃弾を受けて倒れていたディーバイトのうちの一体が、血だまりの中から起き上がってコーネリアスに襲い掛かった。胸に風穴が空いているというのに、恐るべき生命力である。


「シッ」


 コーネリアスはディーバイトの爪を屈んで回避し、左手で高周波ナイフを取り出してディーバイトの喉元を一閃。さらに返す刃でディーバイトの首を突き刺した。ディーバイトは再び血だまりに沈み、息絶えた。


 今度は船の後方の海から触手が現れた。ゆらゆらとその先端をもたげ、艦を殴りつけようとしている。

 コーネリアスは素早く触手に向かって対物ライフルを構えるが、そこに北園も合流した。


「手伝いますよ、コーネリアスさん!」

「助かル」


 北園の声に短く返事をしたコーネリアスは、そのまま触手に狙撃を開始した。ジャックの銃とは比べ物にならないほどの銃声を上げて、直径およそ13ミリの巨大な弾丸がクラーケンの触手に撃ち込まれる。


 北園も電撃能力ボルテージでクラーケンの触手を攻撃する。

 やがて触手は攻撃を諦め、海の中へと消えていった。


「やりましたね!」

「あァ」


 コーネリアスは返事と共に、北園の方をチラリと見やる。

 北園の背後には、一体のディーバイトが両爪を振りかぶっていた。


「……!」


 このままでは北園が背中からやられる。

 しかし、長大な対物ライフルを構えているような余裕は無い。


「退ケ!」

「きゃっ!?」


 やむなくコーネリアスは北園を突き飛ばし、ディーバイトの前から逃がす。そうなれば当然、次に狙われるのはコーネリアスだ。

 コーネリアスが北園を突き飛ばしたのとほとんど同じタイミングで、ディーバイトは両爪を思いっきり振り下ろしてきた。


「シャアアアーッ」

「グ……!」


 コーネリアスは対物ライフルを捨て、右の義手でディーバイトの攻撃を受け止めた。


 しかし、やはり右腕一本では防御の体勢が不安定になる。

 コーネリアスのガードは崩され、顔に軽く引っかき傷を負ってしまった。


「Eat this...!(これでも食らえ……!)」


 コーネリアスはディーバイトの爪を受け止めたまま、左のナイフでディーバイトの脇腹を突き刺す。そして体勢を崩したところへ心臓を一突き、上体が下がったところへ首を一突きしてディーバイトを仕留めた。


 助けられた北園は、コーネリアスの元へと駆け寄る。

 彼の額からは、ディーバイトに引っかかれたことで少量の血が流れていた。


「ご、ごめんなさいコーネリアスさん! 私なんかを庇ったせいで……!」


「かすり傷ダ。気ニするな」


「と、とにかく治癒能力ヒーリングをかけますね!」


 そう言って、北園はコーネリアスの額に手を当てる。

 柔らかな光がコーネリアスの傷口を照らすと、傷はあっという間に塞がってしまった。


「これで大丈夫なハズ……。どうですか、コーネリアスさん?」


「……。」


「あの、コーネリアスさん?」


「……angel.(天使か)」


「へっ? て、天使? 私が?」


「……イヤ、ナんデもない。他人に親切ニさレルノは慣れてイナかったかラ、つい変な言葉ガ出タ」


「そ、そうだったんですね。とにかく、次のマモノを倒しに行きましょう!」


「アア。俺ガお前を守ろウ」


 コーネリアスは対物ライフルを拾い上げ、先に進もうとする北園の後を追った。



 そして、エクスキャリバーの主砲が納められている四角のオブジェクトの近くでは、マードックが左舷に張り付いてきている触手に向かって、右腕でぶら下げたガトリング砲で攻撃していた。

 砲筒がけたたましい音を上げながら回転し、雨あられのように弾丸が触手に降り注ぐ。排薬莢が瞬く間に甲板の上に溜まっていく。


 ガトリング砲の射撃を受けた触手はたまらず引っ込み、次いで別の触手が艦に叩きつけ攻撃を仕掛けようとしてきた。

 これに対して、マードックは左肩に担いだロケットランチャーを発射し、振り下ろされる触手に命中させた。二本目の触手もまた、ダメージを受けて海の中へと姿を消す。


「グブグブ……」

「むっ」


 触手を撃退したマードックの元へ、今度はソルビテが襲い掛かってくる。


 マードックの手持ちの重火器では、流れ弾で艦を傷つけてしまう恐れがある。

 やむなく重火器を捨てて素手で立ち向かおうとするマードックだったが、その横からシャオランがやってきて、ソルビテたちに攻撃を仕掛けた。纏う気質は”地の気質”だ。


「せいやぁッ!」

「グブブ……」


 シャオランは二匹目、三匹目と次々にソルビテたちを蹴飛ばして、海へと帰していく。海に落としてしまえば、ソルビテはもう自力でエクスキャリバーに這い上がってくることはできない。


「はぁぁッ!」


 そのままシャオランは、残った最後のソルビテに拳を振り下ろした。

 ……だがソルビテは、ハサミで逆にシャオランの拳を挟んでしまった。


「あーっ!? いやーっ!? いやぁぁぁぁっ!?」


「やれやれ……」


 悲鳴を上げるシャオランを見かねたマードックは、シャオランを挟むソルビテを掴み上げ、その大きなハサミをもぎ取った。そしてそのままソルビテを海へと放逐する。


「怪我はなかったか、シャオランくん……む、あまり大した怪我はしていないな」


「ま、まぁ一応、地の気質で身体を丈夫にしてたから……」


「ヤツのハサミは、自動車のボディくらいなら易々と切り刻んでしまう。それだけ身体を頑丈に出来るなら、あんなに怖がることもないのではないか?」


「で、でも、怖いものは怖いんだよぅ!」


「ふむ。それが君という人間の性質である以上、そう簡単に変えられないのは仕方ないか。とはいえ、それでも君はマモノたちに立ち向かっている。その最終的な行動力はどこから来るのか……」


 と、その時だ。

 一本の触手が、エクスキャリバーの甲板に叩きつけられた。

 二人から少し離れた場所を攻撃したその触手は、そのまま二人の方に向かって薙ぎ払われてくる。ゆっくりと、しかしブルドーザーのようにずっしりと。


「このままでは主砲の充電装置までもがダメージを受けてしまう。この勢いでは、重火器による迎撃も突破されてしまうだろう。我々二人で受け止めるぞ」


「受け止めるって……うぇぇぇ!? む、ムリだよぉあんなデカい触手!?」


「私を信じろ。我々の馬力ならいける。ここで充電装置を防衛することは、この戦闘の勝敗をも左右する」


「こ、この人、励ますついでにプレッシャーもかけてくるタイプの人だ……!」


「言い方がよろしくないな。私はただ、戦況を見極め事実を述べているだけだ」


 そうこうしているうちに触手は目の前まで迫ってきている。

 もはや今さら逃げ出したところで被弾は免れることができないだろう。


「も、もう当たって砕けろーっ!」


「砕けてはいかん! 受け止めるのだ!」


「知ってるよぉぉぉぉ!!」


 そして二人は、迫りくる触手をその身一つで受け止めた。

 このチームの中で最も大柄な者と、最も小柄な者。二人が足を踏ん張って、触手の薙ぎ払いを食い止める。


「くぅぅぅぅぅぅ……!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉ……!!」


 二人に受け止められた触手は、次第にその勢いが弱まっていき、やがて充電装置の手前で完全に停止した。二人は見事、触手を止めたのだ。


「な、なんとか食い止めたか」


「け、けど、ここからどうするの……!?」


「そこは俺に任せろーっ!」


 そう言って飛び込んできたのは、日向だ。

 いまだにイグニッションが持続している『太陽の牙』を手に、二人の元へと駆け付けた。


 日向は、二人が受け止めている触手に向かって大きく振りかぶると……。


「おうっ!?」


 ……先ほどマードックがばら撒いたガトリング砲の排薬莢で足を滑らせ、前のめりにこけた。オマケに、そのこけた勢いで触手を大きく斬りつけ、触手を撃退してしまった。


「……大丈夫、ヒューガ? 派手にこけたけど……」


「大丈夫じゃない……顔面からいった……顔が熱い……」


「なんというか、すまんな」


 その時、日向の剣の炎が少しずつ弱まり始めた。恐らくはイグニッションの制限時間が迫ってきているのだろう。


「いかん、日向! クラーケンに追撃を仕掛けろ!」


「り、了解……!」


 マードックが指示を飛ばすと、日向は素早く立ち上がり、甲板の手すりに向かう。そしてそこから、クラーケン目掛けて炎の奔流を射出した。


「太陽の牙、”紅炎奔流ヒートウェイブ”!!」


 雨を、暴風を飲み込みながら、嵐の海の上を飛んでいく日向の炎。

 クラーケンに向かって、真っ直ぐと。


 クラーケンは急いで艦を取り囲んでいた触手を戻し、その全てを使って日向の炎をガードした。


「キャアアアアアアオオオオンン……!?」


 クラーケンが悲鳴を上げるが、まだ力尽きるような様子は無い。

 トドメを刺すには、あともう一押し必要だ。

 ……と、その時。



『エクスキャリバー、充電完了しました』


 というシステムメッセージが、甲板に響き渡った。

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