第31話 ロックワーム
十字神社にて、ロックワームと対峙する四人。
倉間は、空になった弾倉を捨て、新しい弾倉をデザートイーグルに込める。
――残り、九発か。
元々、ここまで激しい戦闘は想定していなかった。
ましてや『星の牙』を相手にするなど。
弾が足りなくなるのは仕方ない。
この九発でロックワームを仕留めきるのはまず不可能。
この、超能力者の若者たちに頼るしかないか。
北園は、両手に炎を発生させ、集中させる。
――たぶん、頼りにされてるよね?
私から見ても、この中で一番攻撃力があるのは、恐らく私。
だったら、期待に応えないとね。
私の最大火力をぶつけて、あのマモノをやっつける!
本堂は、自身の右腕から電気を発する。
――これは、現実なんだよな。
北園の予知夢の話。信じるとは言ったものの、まだ実感としては薄かった。
しかし、現にマモノは出現し、自分はそれと戦っている。
……世界を救う予知夢とやら、無視できる話ではないのかもしれんな。
日向はロックワームに向かって真っ直ぐ剣を構える。
――俺が絶対、一番役に立たないよな、これ。
オートマグナムに電撃に、北園さんの発火能力。
こんな大火力が揃う中、剣一本でどうしろと。
……まぁ、傷は再生するし、囮くらいにはなるかな?
それぞれの思いと決意を胸に、ロックワームとの戦いが始まった。
「ガアアアアアアアッ!!」
ロックワームが吠える。
「やあっ!!」
それと同時に、北園が大きな火球を放つ。
火球はロックワームに命中し、大爆発を起こす。
「ゴアアアアアアアアッ!!」
しかし、爆炎はロックワームの甲殻の表面を焼くだけに止まり、大きなダメージは与えられていないようだ。
「そんな!? 効いてない!?」
「落ち着いて、北園さん! 一発でダメならもっとぶつけてやれ! それと、ああいう手合いは口の中が弱点であることが多い! そこを狙ってやれ!」
「わ、分かった!」
北園に声をかけると、日向もまたロックワームに向かって走り出す。
そんな日向に向かって、ロックワームは頭を真後ろにもたげる。
テレビゲームでのワームとの戦いを想起する。
(あの動きは……恐らく、頭部の叩きつけ!)
走る方向を真横に切り替え、日向はロックワームの攻撃から逃れる。
読み通り、ロックワームはもたげた頭を思いっきり振り下ろしてきた。
ズガン、という音と共に、神社の石畳が陥没した。
「あ、危ねぇ……。あんなの喰らったら即死だぞ……」
いくら死んだ状態からでも蘇り、即死の方が傷を焼かれる痛みを感じないとはいえ、やはり死ぬ瞬間の痛みはある程度感じるし、決して気分の良いものでもない。死ぬのは、可能な限り避けたいものだ。
攻撃を外し、振り下ろした頭を持ち上げるロックワーム。
そこへ倉間が一発、銃撃を放つ。
口内に向けた銃弾は、しかし狙いが逸れ、口元の甲殻を削るのみに終わった。
「くっそ、堅ぇな! 何喰ったらそんなになりやがるんだ!」
悪態をつく倉間に、ロックワームが狙いを定める。
ロックワームは身を屈め、倉間に向かって突進してきた。
「おっとぉ!?」
地面を削りながら突っ込んでくるロックワーム。
その突進を、倉間は真横に飛び込むように避ける。
突進を避けきり、地面を転がって受け身を取る。
そして、突進を止めたロックワームに、本堂が接近する。
「さて、喰らってもらおうか……!」
右手に電気を集中させ、ロックワームの身体に触れる。
先ほど、ワームを死に至らしめた高圧電流だ。
……しかし、ロックワームは全くの無反応だった。
「何……!? 電撃が全く効かないだと……!?」
驚く本堂。
電気に抵抗がある、どころではない。
流れた感覚さえ全くなかった。
(ヤツの、岩か土のようなこの甲殻。触った時の感触は、本当に岩か土そのものだ。これは、まさか本当に土が固まってできているのか?)
「ガアアアアアッ!!」
本堂を振り払うように、ロックワームは素早くとぐろを巻き始める。
「ぐあっ!?」
凄まじい速度で動く身体に、岩のように頑強でささくれ立った甲殻。
それらが近くにいた本堂を引き裂き、吹っ飛ばした。
長い体を纏めたロックワームの全貌が明らかになる。
並の一軒家など、余裕でぐるぐる巻きに出来そうなほどに巨大な体躯だった。
「本堂さん!」
「く……大丈夫だ! 自力で動ける!」
駆け寄る日向に返事をし、本堂はロックワームから距離を取るため走る。
「うおおおっ!!」
日向はロックワーム目掛けて剣を振り下ろそうとする。
しかし、ロックワームが日向を迎撃するように素早く噛みついて来た。
「ガアアアアッ!!」
「うわっ!?」
日向は身をよじって横に飛び退く。
何とか丸かじりは免れたものの、口周りの甲殻に突き飛ばされる。
そのロックワームの口内めがけて、北園が火球を放つ。
「そこだぁー!!」
「ゴアアアアアッ!?」
火球はロックワームの口内に直撃した。
身体を逸らし、今までとは違う声音を上げるロックワーム。
それは、口内を焼かれた痛みと衝撃による悲鳴だった。
「やった! 日向くんの言う通り、口の中なら効くみたい!」
「だが、奴はまだまだ健在のようだな……」
ガッツポーズを取って喜ぶ北園の言葉に、怪我を治してもらうために寄ってきた本堂が呟く。
彼の言う通り、ロックワームは怯みこそしたものの、ダメージはそこまで大したものではない。既に体勢を整え、北園たちに牙を剥いている。
圧倒的防御力。
圧倒的生命力。
これまで対峙してきた、どんなマモノたちよりも。
今にも北園たちに飛び掛からんとするロックワーム。
そこへ、ロックワームの付近にいた日向が斬りかかる。
「おりゃああ! やぶれかぶれを喰らえーっ!!」
どうせ斬撃は弾かれる。せめて皆から気を逸らせれば。
そう思いながら振るった刃は、ロックワームの甲殻を深々と切り裂いた。
「ガアアアアアアアアアッ!?」
「え、何!?」
突然のロックワームの咆哮に、思わず日向は距離を取る。
しかしすぐに、今の咆哮が悲鳴だったと気づいた。
それも、北園の火球を受けたときよりさらに大きな。
見れば、斬りつけたロックワームの身体から血が流れ出ている。
「もしかして、効いているのか? この剣……」
五七五。
……いや、一句読んでいる場合ではない。
ロックワームが体勢を整え、日向に向かって噛みついてくる。
その予備動作を見切り、ロックワームの攻撃から逃れる。
地面にかぶりつくように突っ込んできた頭部に、再び手に持った剣を振るい、切り裂く。
「グアアアアアアアアアッ!?」
頭を大きくもたげ、悲鳴を上げるロックワーム。
「間違いない、効いてる! いける! いけるぞ、この剣!」
日向は剣を握りしめ、一気にロックワーム目掛けて突撃した。




