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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第284話 勝利を引き寄せる

「きゃああああああっ!?」

「北園さぁーん!?」


 北園がラドチャックの触手に捕まり、引っ張られていく。

 日向も咄嗟に北園へ手を差し伸べたが、間に合わなかった。

 このままでは、北園はラドチャックの腹の中に納められてしまう。


「北園ッ!!」

「あうっ」


 しかし、引っ張られていく北園を日影が止めてくれた。ラドチャックの元から撤退している途中だった彼は、ラドチャックと北園の間の位置にいたため、引っ張られる北園を受け止めるように彼女を助けたのだ。


「ひ、日影くん、ありがと……」


「気にすんな。だが……この触手、やっぱりパワーが半端じゃねぇ……!」


 触手は北園を諦めず、日影から北園を奪おうと彼女を引っ張る。北園は現在、触手に腕ごと身体を縛られ、脚にまで別の触手が巻き付いてきた。おかげで彼女は何の抵抗もできない。せいぜい、自分を守ってくれている日影に声援を送ることくらいしかできない。


「ひ、日影くん頑張って! ファイトいっぱつ!」


「クッソぉ……流石に厳しいぜ……ッ!!」


 日影もそれに応え、全力でラドチャックの触手に対抗する。可能ならばオーバードライヴを発動し、自身もパワーの底上げを図りたいところだが、ここで身体を炎上させると北園にも被害が及ぶ。オーバードライヴは使えない。


 ラドチャックの触手のパワーは、ここに来るまで見てきたとおり。一本の触手でさえ、ガタイの良い男性を小さな排水溝に無理やり引きずり込んでしまうほどである。生身の人間が対抗するには強すぎる。


 ……だが、ここで戦況が動く。ラドチャックがさらに触手を伸ばし、今度は日影の身体まで捕まえてしまったのだ。日影の身体は、もうラドチャックのパワーに耐えられない。


「や、やべぇ……!?」


「しっかり、日影くんっ!」


「わ、悪ぃ……もう限界だ……うおぉぉぉ!?」


「きゃあああああっ!?」


 とうとう力の拮抗が崩れ、日影の足が床から離れた。日影と北園は、何の抵抗もできずにラドチャックに引き寄せられていった。



 ……しかし、その引き寄せは、すぐに止まった。

 誰かが二人を引っ張り、ラドチャックから助けてくれている。


「……あ、ズィークさん!」


「ズィーク……!」


「…………。」


 二人を助けたのは、ズィークフリドだった。

 触手に包まれている二人を、抱き寄せるように引き留めている。


 二人を助けたズィークフリドは、ラドチャックの触手と綱引きを始める。触手に縛られている二人を抱えて、ラドチャックに背を向けてゆっくりと歩く。


「ヴォオオオオオオッ!!」


 当然、ラドチャックもズィークフリドを逃がすワケにはいかない。ほとんどの触手を総動員して、ズィークフリドまで捕まえてしまった。


 ……だが、ズィークフリドは引っ張られない。

 巻き付く全ての触手を引きずりながら、ズン、ズン、と歩みを止めない。


「ぶ……ブルドーザーかよコイツ……」


「ズィークさんすごい! 頑張って!」


「…………!!」


「ヴォオオオッ!!」


 ラドチャックが、さらにもう一本の触手を伸ばしてきた。

 触手はズィークフリドの背後から、彼の首を絞めにかかる。


「ッ!!」


 素早く自身の首と触手の間に右手を差し込み、ズィークフリドはラドチャックの首絞めを防御。しかし、これによって日影と北園の二人から右手を放してしまい、パワーバランスが崩れた。ラドチャックの触手を引きずる足が止まってしまった。



 後方の日向も、黙ってこれを見てはいない。

 すぐさま戦況を分析し、残る仲間たちに指示を飛ばす。


「し、シャオランは三人を助けて! 本堂さんは、三人を捕まえている触手を切断!」


「了解した!」


「い、イヤだなんて言ってられないよね……!」


 日向の指示を受け、まずはシャオランが『地の練気法』を使い、三人を捕まえている触手を掴んで引っ張る。

 『地の練気法』により人智を超えた筋力を発揮できるシャオランは、単純なパワーならズィークフリドに勝るとも劣らない。ズィークフリド一人にパワーで負けていたラドチャックは、これで完全に勝ちの目を失った。


 本堂は、三人を捕まえている触手を切断するべく、高周波ナイフを手に持ってラドチャックに立ち向かう。

 しかしラドチャックは、残る数本の触手を本堂の迎撃にててきた。本堂まで捕まえてしまおうと触手を振るう。


「俺まで捕まえられたら、助けの手が足りなくなるか……。これは迂闊に踏み込めんな……!」



 そして日向は、離れた場所で戦闘の様子を窺っていた。

 別にサボっているワケではない。彼には彼なりに考えがある。


「『太陽の牙』の冷却時間クールタイム完了まで、残り数十秒……。あともう少しだけど、この状況がいつまでも長続きするのは良くないと思う……。だったらここは、最後の策を使ってみるしかないか……!」


 そう呟くと、日向はその場で身体を横に倒して、床に寝そべった。別に床のひんやり感を楽しんでいるワケではない。その証拠に、手にはハンドガンを構えている。そしてその銃口は、ラドチャックより少し下へと向けられている。


「……あった! あれだ!」


 言って、日向はおもむろに引き金を引いた。

 射撃音と共に弾丸が飛んでいく。

 狙ったのは、ラドチャックが乗っている潰れたトラック、その下にあるガソリンタンクだ。


 果たして弾丸は吸い込まれるようにガソリンタンクに命中し、大爆発が巻き起こされた。ラドチャックもまた、乗っていたトラックごと爆発に巻き込まれる。


「ヴォアアアアアアッ!?」


 ラドチャックが悲鳴を上げた。

 あらゆる攻撃に耐性を持つ本体はともかく、伸ばしていた触手の根元までが爆炎に焼かれたのだ。三人を捕まえていた触手も引っ込められていく。


「今です、本堂さん!」

「了解した!」


 日向が本堂にトドメの指示を出す。


『太陽の牙』の冷却時間クールタイムは、まだあとわずかに残っている。そして先ほど、日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”は阻止された。

 ならば、今この瞬間の大きな隙を逃さない本堂の”轟雷砲”の方が、ラドチャックにトドメを刺すことができる可能性が高い。そして本堂も”轟雷砲”を使うことをすでに了承している。彼に迷いは無い。


 本堂は”迅雷”を使い、身体を強化する。

 蒼い稲妻が、彼の全身を駆け巡る。


 そして、まさしく電光石火の如き速度でラドチャックに肉薄し、その岩のような身体を駆け上がってラドチャックの真上へ跳ぶ。空中で右腕を突き出し、ラドチャックの口内に狙いを定める。


「……”轟雷砲”ッ!!」


 掛け声と共に、空が破裂したかのような轟音が響き渡る。

 本堂の腕から、巨大な稲妻が光の速度で射出された。

 稲妻は、吸い込まれるようにラドチャックの口の中へ。


「ヴォギャアアアアアアア……ッ!?」


 悲鳴を上げるラドチャック。

 落雷の衝撃で、全身がひび割れた。

 全ての触手が苦しそうにのたうち回っている。


 やがて触手は力無くだらんと床に落ち、ラドチャックのゴツゴツとした身体は煙を噴きながら液状化していく。


 ラドチャックはもはや、誰がどう見ても絶命した。

 戦いは終わったのだ。



◆     ◆     ◆



 日向がトラックを誘爆させる作戦を考えたのは、テロリストのリーダーからラドチャックの情報を聞いていた時だ。


 テロリストのリーダーは「ラドチャックをトラックの荷台に積んで飼っている」と言っていた。その時点で日向は「トラックごと爆破する攻撃ができるんじゃないか」と思いついた。そのためにリーダーに「ラドチャックはまだトラックの上にいるのか」と聞いたのだ。


 唯一の懸念点は、日向はあまり車の構造などに詳しくはなかったため、ガソリンタンクの位置などが正確には分からなかった点だが、そこは車に詳しい本堂に、戦闘が始まる前にあらかじめ聞いておいたのだ。


「あの時の会話から、すでにヒントを見出していたとはな。まったく、お前のマモノ討伐に関する頭の回転には恐れ入る」


 そう言って、本堂が目の前の日向を賞賛した。

 かく言う本堂は、”轟雷砲”の反動を受けた右腕を北園に治癒能力ヒーリングで治療してもらっているところだ。


「まぁ一応、狭山さんから鍛えらえましたし。『あらゆる情報にアンテナを張っておくんだ。何が勝利を引き寄せるヒントになるか分からないからね』とよく言われてました。……けど、それよりスミマセン。俺がしっかり紅炎奔流ヒートウェイブを当てておけば、ここまで手こずることはなかったのに……」


「気にするな、そういう時もある。むしろ俺としては、見せ場が作れて儲けものだな」


「その見せ場のたびに、右腕を犠牲にするのもどうかと思いますけどね……」


「全くだ。北園が回復してくれるからこそできる荒業だな」


 そう言って、本堂が現在進行形で北園から治療されている自身の右腕を見やる。治癒能力ヒーリングの青い光が、本堂の腕を照らしている。


 やがて北園は本堂の腕を回復し終えて、顔を上げた。

 長時間超能力を行使して体力を消耗したためか、額がやや汗ばんでいる。


「……ふぅ。回復終わりましたよ、本堂さん!」


「助かった、恩に着る」


「どういたしまして! ……って、本堂さん? 右腕がまだぷるぷると震えてますけど、大丈夫なんですか?」


「ああ、これは轟雷砲の怪我によるものじゃない。禁断症状だ」


「きんだんしょーじょー……?」


「そうだ。なにせ日本を離れてはや三日目。俺は三日間さばぬかを食べずにいると禁断症状が出てしまう体質なのだ」


「とりあえず、健康そうで安心しました!」


「馬鹿言え、健康なものか。早急にさばぬかを摂取しなければ、俺は身体が爆裂して死ぬだろう」


「はいはい。……それと日向くん、さっきは助けてくれてありがとう!」


「え、いや、助けたのは俺じゃなくて、日影やズィークさんじゃ……」


「それでもだよ。日向くんがトラックを爆破した時に、私たちも解放されたんだよ。だから、ありがとうね!」


「う、うん。北園さんが無事でよかった」


「どうした日向、妙に歯切れが悪いが。触手に捕まった北園を思い出して興奮したか?」


 茶化す本堂に、日向は冷えた視線を送る。


「……本堂さん、もう一発轟雷砲いっときません? あのラドチャックの死体に向かって、特に意味も無く」


「やめとけ、怪我するぞ。俺が」


「触手で興奮? どゆこと?」


「いやなんでもないよ北園さん。それと本堂さんは向こうでお話ししましょうか。これ以上純粋無垢な北園さんにふざけたこと吹き込まれたら困る」


「それは構わんが、その話は町に戻ってからにしよう。ちょうど、向こうのグループがさらわれた姫様を見つけ出したようだ」


 そう言って本堂が日向の背後を指差す。


 そこには、手を振って日向たちを呼ぶ日影とシャオラン、そして彼らの後ろについて歩くズィークフリドの姿が。


「おーい、お前ら! 見つけたぞ! ネプチューンの娘だ!」


「娘さんは無事だよー! コンテナの中でジッとしてたー!」


「…………。」(サムズアップ)



◆     ◆     ◆



 日向たちは、車の搬入口を開いて廃貨物船の外へ出た。

 そこにネプチューンもやって来ており、さっそく娘をネプチューンへと返してあげた。


「ウオォォォォォォォォン……」


 娘を返してもらったネプチューンは、大きな鳴き声を上げた。

 スピカがこの場にいない以上、彼女が何を言っているかはもはや知る術が無いが、日向たちに礼を言っていることは確かだろう。


 ネプチューン親子は、ともに海へと帰っていった。


 そしてこの日から、ノルウェーの海のマモノたちは軒並み大人しくなり、漁師などを襲わなくなったという。きっとネプチューンなりの恩返しなのだろう。


 ところで、テロリストのリーダーを捕まえるために別行動をとっていたオリガだが、リーダーにはギリギリのところで逃げられてしまったそうだ。船の浸水したエリアに高速艇を泊めていたらしく、それに乗ってまんまと逃亡されたらしい。

 ちょうどその時はラドチャックの”濃霧ディープミスト”も出ていて、能力により軍のレーダーによる追跡も不可能だった。


 気がかりなのは、オリガがその時のことをあまり多く語りたがらない点だが、相手が一枚上手で悔しがっていたのだろうか。



 なんにせよ、これにてノルウェーの騒動は一件落着。

 日向たちはその日はホテルで一夜を明かし、明日、日本へ帰る予定だ。

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