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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第283話 馳走の時間

 引き続き、廃貨物船の自動車積載エリアにて。日向たちは『星の牙』ラドチャックとの交戦を続けている。


「ヴオォォォォッ!!」

「ちいっ!」


 ラドチャックが日影に向かって一斉に触手を伸ばす。

 日影一人を集中的に狙っているようだ。


 日影も負けじと剣を振るい、襲い来る触手を斬り払うが、日影の剣はラドチャックの触手に傷をつけることはできれど切断するまでには至らない。


「クソ、コイツの触手、今までより明らかに頑丈になってねぇか!? 『太陽の牙』でも切断できねぇ!」


「俺のナイフでもなかなか切断までには至らないな。さっきまではところてんか何かのようにあっさり切断できていたのだが」


「あの野郎、食堂からここに移動するまでの間で、急激にパワーアップしやがったっていうのか!?」


「恐らくは、途中の食堂で捕えたテロリストたちを食ったのがトリガーになったか。あるいは船内のどこかに他の生き残りもいて、そいつらも食ってしまったのかもな」


「なるほどな……。ここまで近づいたら、もうヤツの能力は気にすることはないと思ってたんだがな。触手の再生が”生命ライフメイカー”の能力に由来するなら、『太陽の牙』で再生を封じることができる。だが『太陽の牙』でもそう簡単に触手を切断させてくれない。厄介な野郎だ!」


 愚痴を吐き捨てながら、日影が『太陽の牙』を薙ぎ払った。

 日影を捕まえようとした触手を一本、斬り飛ばした。

 同時に、別の触手が槍のように日影の顔面目掛けて襲い掛かる。

 日影は顔を逸らしてこれを回避。かすった頬に血がにじんだ。



「皆、日影の援護を!」


 この状況をマズイと見た日向が、仲間たちに指示を出す。日向自身もハンドガンを取り出し、日影を襲う触手に向かって発砲している。

 日向の『太陽の牙』は現在、冷却時間クールタイムの途中だ。そのため『星の牙』に対する特効が失われている。ならば銃の方がまだ威力がある。


「援護だね、りょーかい!」

「…………!」


 日向の指示を受けた北園とズィークフリドが日影を援護する。

 北園は電撃能力ボルテージで触手を攻撃し、ズィークフリドはあえてラドチャックに接近戦を仕掛けることで注意を引く。


「ヴオォォォォ!」


 ラドチャックの注意が日影から逸れた。北園の電撃を受けて触手を引っ込め、攻撃してくるズィークフリドを煩わしそうに触手で追い払う。


「もらったぜッ!!」


 その一瞬の隙を突いて日影がオーバードライヴを発揮、あっという間にラドチャックとの距離を詰め、燃え盛る『太陽の牙』で斬りつけた。波のような炎が剣閃と共に奔る。


「ヴォアアアアアアッ!?」


 悲鳴を上げるラドチャック。日影の攻撃は効いている。

 すぐさま日影にターゲットを戻し、触手を薙ぎ払って追い払う。

 日影は後ろに跳んでこれを避けるが、別の触手が日影を追撃するように殴りかかってきた。


「っと!」


 日影は左腕でこれをガードする。

 オーバードライヴによって身体能力が向上している今なら、ラドチャックにも負けないパワーを発揮できる。背後に身体を流されながらも、ラドチャックの一撃を受けきった。



 ここまでラドチャックと戦い続けて、分かったことがある。

 それは、ラドチャックの弱点部位についてだ。


 やはりラドチャックは、触手に関してはあらゆる攻撃がよく効くようだ。電撃に限らず、炎や氷、斬撃や銃撃でも十分にダメージを与えることができる。

 ただし触手は再生し、ラドチャック本体には大した痛手を与えることはできないようだ。ラドチャックを倒すには、本体を攻撃する必要がある。

 

 しかし逆に、ラドチャック本体には攻撃がほとんど通用しない。ピンク色の岩のようなゴツゴツとした身体は、あらゆる種類の攻撃に耐性を持っている。唯一まともにダメージを与えられるのは、日向と日影が持つ『太陽の牙』くらいか。だからこそ、ラドチャックもさっきから日影を集中的に攻撃しているのだろう。


 だが『太陽の牙』の特効をもってしても、ラドチャックの体力は相当なものだ。日影はオーバードライヴを駆使しながらラドチャックにダメージを与えて続けているが、このままでは日影のガス欠の方が先に来てしまう。オーバードライヴもまた、何度も使えるような代物ではない。そこに再生エネルギーの消費がさらに激しい”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”も加えたらなおさらだ。


(だったら、ヤツの弱点を突く……)


『星の牙』は大抵の場合、何らかの弱点を持っている。そこを突くことができれば、戦況を覆すほどの大ダメージを与えることができるはずだ。防御に優れた岩のような身体のほかに、もっと狙うべき箇所が存在するはずだ。


 日向自身は、ラドチャックの弱点におおよその見当をつけている。それは、生え揃った触手の中心にあるラドチャックの口だ。正確に言えば、ラドチャックの口内。例えばその口に手榴弾でも投げ入れて食べさせてやれば、ラドチャックはひっくり返るほどの痛手を受けることになるだろう。


 だが現状、ラドチャックの口に投げ入れることができるような爆発物が無い。ズィークフリドにも聞いたが、彼は手榴弾の類は現在持っていないそうだ。ラドチャックにはまた別の物を食べさせて、腹を壊してやる必要がある。


「ヤツに食べさせてやれそうなものといえば、北園さんの火球に、本堂さんの”轟雷砲”、それから……日影の『太陽の牙』とか?」


「おい今聞き捨てならねぇ台詞セリフが聞こえたぞ。オレは嫌だからなコレをヤツに食わせるとか気色悪ぃ」


「ワガママな奴め。じゃあとりあえず、北園さんと本堂さんでトドメを刺す線で行くとして……」


 問題は、あのラドチャックの無数の触手を掻い潜って接近することができるかどうか。本堂はともかく、運動能力が低い北園には厳しい芸当だろう。だからこそ現在、ラドチャックを攻撃して動きを鈍らせているワケだ。


 ラドチャックの動きも、最初に比べてだいぶ鈍ってきた。こちらの攻撃が効いて、それなりに弱ってきたのだろう。今なら北園を投入しても大丈夫だろう、と日向は判断した。勝負を決めにかかるつもりだ。


「北園さん、空中浮遊でヤツに近づいて、口の中に発火能力パイロキネシスを! 他の皆は、全力で北園さんの援護!」


 日向の指示に頷いて、仲間たちがラドチャック目掛けて一斉に突撃。北園は空中浮遊でラドチャックに接近し、前衛組は地上からラドチャックに駆け寄る。


「ヴオォォォォッ!!」


 ラドチャックも黙って人間たちを近寄らせはしない。触手を振るって迎撃を図る。特に地上から来ている日影と空中から来ている北園、二名を集中的に狙っているようだ。


「させるかっ!」

「”指電”」


 日向がハンドガンで、本堂が指から電撃を飛ばして北園を援護する。

 日向の銃弾、本堂の電撃を受けた触手の動きが止まる。

 その隙に、北園はラドチャックにさらに接近する。


 一方、日影はラドチャックから距離を取って、触手を避け続けていた。掴みかかってくる触手は『太陽の牙』で迎撃し、貫いてくる触手は素早く回避。触手は日影を傷つけられないが、日影もまたラドチャックに接近できない。


「だが良いのかよ? 接近戦における主砲はオレだけじゃねぇんだぜ?」


 そう、今の日影は囮役。

 本命は、その隙に既にラドチャックの懐に潜り込んでいた。


「……せやぁぁぁぁぁッ!!」


 凛とした掛け声と共に、ドゴンと凄絶な打撃音が響き渡る。

 シャオランの『火の練気法』を使った一撃だ。

 ラドチャックの硬い身体が、大きくひび割れた。


「ヴォアアアアアアッ!?」


 これにはラドチャックもたまらず悲鳴を上げる。

 そしてその隙に、北園がラドチャックの真上に辿り着いた。

 悲鳴を上げたために大きく開いたその口に、特大の火球を馳走ちそうする。


「いっけぇーっ!!」

「ヴォギャアアアアアアアッ!?」


 火球を口内に受けたラドチャックは、日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”を受けた時よりさらに大きな悲鳴を上げた。やはり日向の推測通り、ラドチャックの弱点は口内だった。


 このまま勢いに乗って攻撃を継続したいところだが、『星の牙』のタフネスを侮ってはいけない。人間より遥かに強大かつ強靭な肉体を誇る彼らは、大きなダメージを与えようとすぐさま体勢を立て直す。

 そこから手痛いカウンターでも貰おうものなら、人間は一撃で再起不能にされる恐れさえある。そうなれば、あっという間に形勢逆転されてしまう。


「皆、いったん退いて! 反撃に備えて距離を取るんだ!」


「りょーかい!」


 日向の指示を受け、仲間たちがラドチャックから距離を取り始める。


 そして日向の予測通り、ラドチャックはすぐさま復帰し、人間たちを逃がすまいと触手を伸ばしてきた。ズィークフリドが殿しんがりを務め、仲間たちが後退する時間を稼ぐ。


「このやろっ!」


 日向がハンドガンで触手を叩き落とし、仲間たちを援護する。

 その日向の傍に、北園が舞い降りてきた。無事にひと仕事終えて、満足そうな表情をしている。


「ただいま、日向くん!」


「おかえり、北園さん! グッジョブだったよ!」


「えへへー、ありが――――」



 だがその時である。

 素早く伸びてきたラドチャックの触手が、北園の身体を掴んだ。


「あ――――」

「しまっ……!」


 慌てて北園に向かって手を差し伸べる日向。

 その反応速度は、普段の彼からは考えられないほど早かった。




 だが、それでも間に合わない。

 無情にも触手は二人を引き離してしまった。


「きゃああああああっ!?」

「北園さぁーん!?」

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