第3話 謎の剣
全力で自転車を漕いで、日向は自宅の裏山を目指す。
空から落ちてきた「何か」を確かめるために。
(何が落ちてきたのだろう……。やっぱり隕石か? それとも別の何かか? それが何であろうと、今の自分を変えるきっかけになりそうな気がする……!)
そう思いながら、日向はただひたすらに自転車を漕ぎ続けた。
その後ろから、北園が自転車を漕いでついてくることに気付くことなく。
「ちょ、ちょっと、何あれ……。日下部くん、メチャクチャ速いんだけど……。つ、疲れた……」
尾行されていることにも気づかず、日向は北園を振り切ってしまった。
◆ ◆ ◆
学校に行くときは下りた坂道を、今度は上って自宅に向かう。
自宅に着くと自転車を止め、すぐ側の裏山に入っていく。
坂を上り、山を登り、日向は既にヘトヘトだが、それでも歯を食いしばって走り続ける。あの空から落ちてきたものが何なのか、誰よりも早く知りたいと思いながら。
「この山に登るのは久しぶりだけど、道は意外と覚えているもんだな」
一時期、この裏山を探検するのが日向の中で密かなブームだったことがある。あまり山の深いところまで行くと危ないが、近場であれば我が庭のように歩き回ることができる。
「確か、学校の窓から見たときはあの辺に落ちたから、あっちに行けば見つかるかな?」
草木をかき分け進んでいく。その時、近くの茂みがガサガサと揺れた。
「っ!?」
驚き、思わずその場から飛び退く日向。
ここはまだ下の住宅街に近い。野生の動物など、滅多に下りてくることはない。
(なんだ? 何がいる? ノラ猫とかなら可愛いんだけど……。タヌキって線もあるな)
茂みを凝視しながら、ソロリソロリと後ずさる日向。
しかし、いつまで経っても茂みから何かが飛び出してくることはなかった。
「……気のせいか? それとも逃げたか? ……とにかく、焦ったぁ……」
緊張を解き、肩をだらりと下す日向。
「っと、こんなことしてる場合じゃないな。急がないと!」
そう言って、再び走り出した。
山の気温は低い。冷たい汗をかきながら走り続ける日向。
すると、やがてひらけた場所に出た。
その中心に一本の剣が地面に突き刺さっている。
一見、何の変哲もない両刃の剣だ。
「あれは……剣? あれが落ちてきたのか?」
―――剣? なんで空から剣が?
ファンタジーじゃあるまいし……。
宇宙からやって来たのか?
いやでも、あの剣の見た目は地球の文明の産物だろ。
宇宙から来たという線は無いはず……。
だいたい、そんなの非現実的だ。
他に考えられる理由があるとしたら……。
飛行機の積み荷が落ちてきたとか?
いやでも、学校の窓から見たあの時、飛行機なんて飛んでいたっけ?
様々な憶測が日向の頭を駆け巡る。
しかしどれも「違う気がする」と判断し、頭から消していく。
時間にしてわずか数秒。
その短い時間で頭をフル回転させた結果、日向が出した結論は……。
「……とにかく、拾ってみるか」
結局、直接確かめてみることにした。
誰に向けるでもなくそう呟き、おもむろに剣の柄を握りしめる。
瞬間、物凄い勢いで剣から炎が噴き出した。
「うおわっ!? びっくりしたぁ!?」
炎のあまりの勢いに、日向は思わず尻もちをついてしまう。
炎を噴き出したその剣は、今は静かに佇んでいる。
「え、なんだこれ? 何で剣から炎が……?」
正解を導き出すには、あまりにも手がかりが少なすぎる。
現状、彼はこの剣が何なのか、知ることはできない。
考えていても仕方ないので、日向はもう一度剣を手に取ってみる。
「また、火を噴き出したりしないだろうな……? 火傷なんて嫌だぞ俺は……」
祈るように剣の柄に手を伸ばす。
今度は炎が発生することも無く、すんなりと剣を手に取ることができた。
「あ、掴めた……。さっきのあれは何だったんだ……?」
早速、日向は手にした剣を調べ始める。
「銘柄などは無し。鞘とかも落ちてなさそうだな。刃に破損は無し。あれだけの高さから落ちてきたのに、マジかよこの剣……。ええと、大きさは俺のつま先から顎くらいまで。結構デカいな。それに、厚みがあってかなり重い……」
その剣は両刃の刀身を持っており、こちらの背丈に近い長さを持っている。いわゆる両手剣が形としては一番近いか。人によっては大剣に分類するかもしれない。
剣を両手で持ち上げながらしげしげと見つめる日向。
その時、不意に背後から嫌な感覚が走った気がした。
「……え、何だコイツ……?」
振り返ると、そこには真っ黒な人影が一つ、佇んでいた。
肌が黒いとか、服装が黒いとか、そんな比喩ではない。
本当に、真っ黒なシルエットがそのまま浮き出てきたかのような、尋常ではない存在がそこに立っていた。