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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第280話 忍び寄る魔の手

 廃貨物船の食堂に集まっていた日向たち七人とテロリストたち六人。そこへ、天井のダクトから『星の牙』ラドチャックの触手が伸びてきて、日向の背後から彼の首元まで迫ってきていた。今にも日向に掴みかかりそうな様子である。


 日向が皆を見てみれば、誰もが緊迫した面持ちで日向を見守っている。日向を助けたいのは山々だが、下手に動けば即座に触手が反応し、日向を捕えてしまうだろうと、そう感じているのだろう。手を出しあぐねているのだ。


 日向は、迫る触手の嫌な気配に耐えながら、思考する。


(どうしたものかなぁ……。この状況、きっとアレでしょ。俺が後ろを振り向いた途端、一気に触手が俺を捕まえてしまうパターンでしょ? 映画とかで見たことある。つまり、ここで後ろを振り向くのは危険……)


 ならば、後ろを見ずに触手へ攻撃を仕掛けるのはどうだろうか。

 触手は不意を突かれ、上手く撃退できるのではないだろうか。


 そう考えた日向は、船に突入する前にオリガから渡されたハンドガンを取り出し、トリガーに指をかける。


(触手の気配を感じるんだ……背後に神経を集中させるんだ……いやゴメンやっぱ無理だわ……そんな達人みたいな芸当はできませんわ……だからもう当てずっぽうで……!)


 そして日向は、背後を見ずに真後ろに向けてハンドガンの引き金を引いた。短い射撃音が食堂内にこだました。



 弾丸は、触手に当たらなかった。

 ギリギリのところで外れてしまった。


(死んだ……)


 日向がそう思った瞬間、赤紫色の触手は物凄い勢いで動き出し、あっという間に日向の首を掴んでしまった。


 触手はそのまま日向を持ち上げ、子供がぬいぐるみを乱暴に扱うように大きく振り回す。そのあまりの勢いに、日向はされるがままにされるしかない。


「ひ、日向くーん!?」


 北園の悲鳴も意に介さず、触手は日向を蹂躙する。そして、天井の通気口に引きずり込もうとするが、通気口にはまだ網状のフタが設置されているままである。そのため日向はフタにつっかえ、頭から天井に激突する羽目になった。


 しかし触手は諦めず、無理やり日向を引きずり込もうとする。日向を下げては引っ張り、下げては引っ張り、その度に日向は天井に激突する。触手はかんしゃくを起こしたかのように、何度も日向を天井に叩きつける。


「ひ、日向くんが死んじゃう!」


「いや、アレはもう死んでるんじゃねぇかな……」


「致し方ない。多少手荒になるが助けてやるか」


 そう言って本堂が、触手に吊り下げられている日向に向かってジャンプした。そのジャンプの高さは驚くべきものだ。運動能力を向上させる”迅雷”も使わず、楽々と天井の日向の身体まで届いた。さすがはバスケ経験者といったところか。

 

 そして本堂は、ぶら下げられている日向の身体を掴むと、放電を開始した。


「よし日向、あれだ、十万ボルトだ」


 そう言って、本堂の身体から稲妻がほとばしった。

 稲妻は日向を伝わって、日向を掴む触手へと流れた。

 触手はたまらず日向を解放し、日向は鉄の床に落下した。

 恐らく死んでしまっているだろう、日向は倒れたまま起き上がらない。


「ひ、日向くん!」


「待ちなさい、北園。まだ終わっていないわ!」


 倒れる日向に駆け寄ろうとした北園を、オリガが制止した。

 その彼女の言葉の通り、触手が引っ込んだダクトから、さらに多数の触手がフタを破って飛び出してきた。その先端をくねらせながら、残ったメンバーを捕らえにかかる。


「ぱ、発火能力パイロキネシスっ!」


 北園が天井のダクトに向かって炎を発射した。

 触手の群れは根元から炎に焼かれ、引っ込んでいった。


「や、やったの!?」


「ぎ、ぎゃあああ!?」


「えっ!? なに!?」


 テロリストのメンバーのものと思われる悲鳴が聞こえた。

 見れば、塞いでいたはずの別の通気口から触手が伸びてきて、男の首を捕まえている。通気口のバリケードが破られたのだ。


 男を捕まえた触手はそのまま、男を通気口へと引きずり込んでしまった。ガッシリした体格の男は、一度通気口の端に身体がつっかえ、しかし触手は無理やり男を引っ張っていった。


 すると、また別の通気口から次々と触手が現れてくる。テロリストたちが築いたバリケードは、ラドチャックがその気になれば何の障害でもなかったらしい。


「い、イワンがやられたぁ!?」

「うわぁぁぁ逃げろぉぉぉ!!」


 仲間が殺されたのを見て、テロリストたちはすっかりパニックになっている。そのまま二人が慌てて逃げ出そうとするが、伸びてきた触手に掴まって、先ほどの男のように通気口へと引きずり込まれてしまった。


「ひ、人が死んだぁぁぁああ!? イヤぁぁぁぁぁ帰りたいぃぃぃぃ!!!」


「落ち着けってのシャオラン! パニックになるな!」


「とにかくいったん、ここから出るわよ! ズィークは日下部日向をお願い!」


「…………!」


 日向が倒れ、冷静なオリガが一行を仕切る形となった。

 そのオリガの指示を受け、ズィークフリドが日向を背負う。


 そして六人は食堂を脱出しようとするが、触手の一本がオリガの右腕を捉えてしまった。


「あ、この!? 放しなさいよ!」


 オリガは足を踏ん張って触手のパワーに耐える。

 しかし耐えるのが精一杯で、反撃に転ずることができない。


 だがその時、オリガを掴む触手を、一発の弾丸が撃ち抜いた。

 触手はビチビチと跳ねまわり、通気口へと引っ込んだ。


 弾丸を撃ったのは、日向だ。

 ズィークフリドに背負われながら、気だるそうな半開きの瞳のまま、銃を構えている。その銃口からは硝煙が立ち昇っていた。


「……やるじゃない。助かったわ」


 オリガは短く日向に礼を言うと、他の仲間たちと共に食堂を後にした。



◆     ◆     ◆



 なんとか食堂から脱出した七人は、通路の一角で再び息を整えていた。ここは通気口や排水溝が少ないので、触手の出現数を抑えることができる。さらにその数少ない通気口や排水溝も、北園が氷で塞いだ。これでそう簡単には触手も顔を出せないはずである。


「ひどい目に合った……」


 床に横たわりながら、日向は呟いた。金属製の床のひんやりとした感覚が、”再生の炎”で火照った身体を冷やしてくれる。


 他の仲間たちも、周囲を警戒しつつ休息している。

 そこへ、オリガが日向に話しかけてきた。


「災難だったわね日下部日向。けれど、さっきは助かったわ。私としたことが、不意を突かれて反撃を忘れてしまった」


「そっちも無事で何よりです。オリガさんは、掴まれた腕は大丈夫でしたか? あの触手、凄いパワーだったでしょう?」


「ええ。ちょっとあざになっちゃったけど、北園の治癒能力ヒーリングを受けたわ。便利ねあの子。羨ましいわ」


「まぁ、そうですね。北園さんの能力にはいつも本当に助けられています」


「そう。……話は変わるんだけれど、テロリストのリーダーは、さっきの混乱に乗じて生き残ったメンバーと一緒に逃げちゃったみたい。けれど、私たちとしてはここでヤツを逃がすワケにはいかないわ。だから、私がヤツを追う。そっちにはズィークを貸してあげるから、あなたたちはラドチャックってのをなんとかしなさい」


「いやでも、危険では? たった一人でこの触手がはびこる船の中を探索するなんて……」


「大丈夫よ。さっきは不意打ちでやられちゃったけど、本来ならあの程度、私一人でも勝てるんだから」


「なんか死亡フラグくさい……。それに、単独行動ならズィークさんの方が適任では? ズィークさん、凄く強いし……」


「ちょっと話をずらすけど、ラドチャックっていうのはイソギンチャクのマモノなのよね? イソギンチャクには目が無いでしょ? だから私の精神支配マインドハッカーが効かない。私があなたたちについていっても役立たずになるわ。悔しいけどね。だから私がテロリストを追ってズィークがそっちを手伝う。適材適所ってやつよ、文句無いでしょ?」


「それならまぁ、それなら……」


 オリガに押し切られるような形で、日向はやむなく了承した。


 とはいえ、彼女がラドチャックの触手に負けないだろうという証左はある。先ほど彼女が触手に掴まれた時、彼女は触手のパワーに対して、踏ん張るだけで耐えていた。毎日のように体を鍛えている日影でさえ身体を持っていかれかけたのに、彼女は日影以上に余裕を持って耐えてみせた。


(そういえば昨日、ズィークさんが『オリガさんは見た目以上にパワーがある』みたいなことを言っていたけど、あれって本当だったのか……)


 ほとんど十代前半の少女と見紛うほどの、小柄で若々しい女性であるオリガ。しかし彼女もまた、ロシアという大国が誇る一流のエージェントということなのだろう。



 十分に休息を取った日向たちは、計画通りにオリガと分かれて動き出す。

 日向たちはラドチャックを倒すために。

 そしてオリガは、テロリストのリーダーに追いつくために。

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