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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第279話 気荒な生存者

 テロ組織『赤い稲妻』の根城とされる廃貨物船にて、謎の赤紫色の触手の襲撃を受けた日向たち五人とロシアのエージェント二人。合わせて七人は、体勢を立て直すために船内の食堂に逃げ込んだ。しかしそこには、『赤い稲妻』のメンバーと思われる男たち六人が既に立てこもっていたのであった。


「お、お前はロシアの……!」


「あなたが『赤い稲妻』のリーダーさんね? こうして直接会うのは初めてかしら」


「それにそっちのガキどもは、以前俺たちの商売の邪魔をしやがった日本のマモノ討伐チームか! 今日は厄日かクソッタレ!」


 一触即発の緊張感が、がらんとした食堂内に満ちる。


 テロリストたちは全員が銃を所持している。ここで乱戦になれば、こちら側が一斉射撃を受けることは疑いようが無い。

 それでもきっとオリガやズィークフリドは生き延びることができるのだろうが、日向の仲間たちはほとんどが銃撃戦に不得手だ。穏便に済ませたいところである。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて……。ほら、あんまり騒ぐとマモノに察知されちゃうかもしれないから……ね?」


 シャオランがリーダー格の男をたしなめるが、男はなおも興奮しながら不満を吐き散らしている。


「『ね?』じゃねーよ! これが落ち着いていられるか! せっかくバリケードを築いてドアを封鎖していたのに、このチビはバリケードごと吹っ飛ばしやがって! ヤツの触手が侵入してくるだろうが!」


「ご、ごめんなさぃぃ……」


 萎縮してしまうシャオラン。

 それを見たリーダーは少し腹の虫が治まったのか、不満を言うことを止めた。


 リーダーが大人しくなったのを見計らって、今度は日向がリーダーに質問をする。


「結局、あの触手は何だったんですか? やっぱりこの船には『星の牙』が?」


「ああそうだよ。お前らがここにやって来ると思って、お前らと戦わせようとした俺たちの秘密兵器だった! だが奴は、あまりにも気性が荒い。だから普段は薬を使って眠らせていたんだが、お前らにぶつけるための調整をしていた時に暴走し、俺たちに襲い掛かったんだ!」


「自業自得じゃないの」


「うるせぇ! テメェらが俺たちのことを嗅ぎまわらなければ、こんなことにはならなかった!」


「と、とにかく、その『星の牙』について、知っていることを教えてください。俺たちが何とか退治しますから。このままじゃ皆さん、一生この船から出られませんよ」


「……ちっ、いいだろう、教えてやるよ」


 そう言って、リーダーの男は、自分たちを襲っている『星の牙』についての説明を始めた。



 その『星の牙』の名前は『ラドチャック』。

 伸縮自在の触手を持つ、イソギンチャクのマモノである。


 能力は『霧の中の獲物の位置を正確に把握する能力』に加えて、『食べれば食べるほど身体が成長する能力』を持っている。つまり”濃霧ディープミスト”と”生命ライフメイカー”の二重牙ダブルタスクである。


『赤い稲妻』は、海の底に潜んでいたラドチャックを、麻酔弾などを駆使してなんとか捕獲した。その後、専用の飼育コンテナをトラックに乗せてラドチャックを管理していた。トラックのコックピットを操作することで、コンテナ内のラドチャックを眠らせたり、食事を与えることができる機能を持っていたのだ。


 しかし、日向たちとラドチャックを戦わせようとして、いったんラドチャックの睡眠を解いたのが間違いだった。


 ラドチャックは目覚めた瞬間に暴れ出し、組織のメンバーを数人喰ってしまった。そしてラドチャックは、獲物を喰らえば喰らうほど強くなる。

 組織はすぐさまラドチャックを処分しようと応戦したが、次から次へとメンバーが喰われ、その度にラドチャックは強くなってしまう。


 とうとう生き残った者たちはラドチャックと戦うことを諦め、逃げ出した。


 しかし、テロリストのメンバーを喰いまくったラドチャックは、この船全域に触手を張り巡らせることができるほどに成長してしまった。よって生き残りたちはこの船から出られず、ここに立てこもっていたというワケである。



「やっぱり自業自得じゃないの」


「うるっせーなさっきから! とにかく、これで知っていることは全て話したぞ!」


「あ、あの、あなたたちはラドチャックの他にも、子供のクジラのマモノを捕獲していると思うんですが、そいつはどこにいますか?」


「あー、アイツか。ラドチャックと同じ場所だ。そこで水を満たした専用のコンテナに閉じ込めてある。下手すると、もうラドチャックに喰われてるかもな」


 これは大変なことになった。急いでネプチューンの娘を救出しなければ、ラドチャックに娘が喰われてしまうかもしれない。そうなれば、ネプチューンとの対峙は避けられなくなる。もはや手遅れの可能性も捨てきれないが、それでも安否が確認できない以上は、一縷の望みに賭けて急ぐしかない。


 リーダーが言うには、そのラドチャックを積んだトラックは現在、この船の最下層にある車両の積載スペースにあるらしい。つまりラドチャックもそこにいる。日向たちが目指すべきは、この船の最下層だ。


「……もう一つ、いいですか? そのラドチャックは、専用のトラックに乗せて飼育しているって言ってましたけど、ラドチャックは今もトラックの上にいるんでしょうか? イソギンチャクのマモノであるラドチャックは、自力で動けるんですか?」


「いや、恐らくまだトラックの上に張り付いていると思うぜ。イソギンチャクっていうのはもともと自力で動ける動物だが、ラドチャックは滅多なことでは動かねぇ。動いてもメチャクチャ足は遅いんだがな」


「なるほど……ありがとうございます」


「それにしても、よく今まで襲われなかったわね? ラドチャックはこの船全体に触手を張り巡らせることができるらしいし、この部屋もドアを封鎖していようと安全地帯ではなかったでしょう?」


「当然、何度か襲われた。だが、今まで何とか撃退してきたんだ。他の通気口や排水溝を塞いで、唯一残った通気口を全員で見張ってたのさ」


「なるほど、外からの空気を極限までシャットアウトすることで、ラドチャックの結界である霧の侵入を防いだのかな……。だからラドチャックは、テロリストたちがここに立てこもっていたことになかなか気づくことができなかった」


「だが、お前らがドアを破ったせいで、それも駄目になっちまった! ここに触手が侵入してくるのも時間の問題だぞ!」


「だったら、一度甲板に出ませんか? そこで皆さんをヘリで回収してもらってから、俺たちがラドチャックを退治しに行くってのは……」


「そしたら結局、俺たちは軍に掴まっちまうだろーが! 俺はごめんだ!」


「けど、他に脱出経路はあるのかしら? 今この船は、ノルウェー軍が包囲してるわよ?」


「そこはちょっと考えがある。つーワケで、俺たちは俺たちで勝手に逃げる。お前らは約束通りラドチャックを頼んだぜ?」


「あら、逃がすと思ってるの? 必要な情報は聞けたし、もうここであなたたちを始末しても私たちに不利益は無いわよね?」


「クソチビ女が、やっぱりやる気か!?」


 再びオリガとテロリストたちに一触即発の空気が流れ始める。


 ……その一方で、日向は心配そうな表情をしていた。

 この一触即発の空気に対して、ではなく、多くの人間が一か所に集まっているこの状況に対して、である。


(パニックホラーとかの映画でよくあるけど、こういう場所で人間が一か所に集まると、決まって化け物が襲撃してきて誰か一人が犠牲になるよね……。もしかしたら、今にも触手が襲い掛かってきて、誰かが死んでしまうかも……)


 日向がそんな心配をしていると……。


「ひ、日向くん……」


「え?」


 日向の隣にいた北園が、怯えたような表情で日向を見ていた。


 ふと周りを見れば、他のメンバーも実に不味そうな表情で日向を見ている。さっきまで言い争っていたオリガも、テロリストのリーダーも、無表情な本堂やズィークフリドまでもが目を丸くして、日向の方を見ているのだ。


 ふと、日向は、自分の首の近くに、なにかネチョリとした感覚が纏わりつくのを感じていた。太く、肉々しい蛇が巻き付いてくるかのような、気色の悪い感覚が。


(これは……ラドチャックの触手……あー、俺がエサ枠かー。そっかー)



 唯一塞がれていない、天井の通気口。

 そこからラドチャックの触手が伸びてきて、今にも日向に掴みかからんとしていたのであった。

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