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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第277話 不気味な船

 オーレスンが襲撃された、その翌日。


 昨日の晩、狭山は町中の監視カメラや衛星カメラの映像から、テロリストたちの行き先を割り出し、オーレスン郊外の海岸にて座礁している古い貨物船がテロリストたちの根城になっていることを突き止めた。宣言通り、狭山は本当に一日でやり遂げてしまったのだ。


 しかし、問題が一つある。昨日、狭山が貨物船を発見した時には無かったのだが、今朝になると濃霧が貨物船とその一帯を取り囲んでいたのだ。恐らくは”濃霧ディープミスト”の星の牙の仕業だと思われる。霧は電波妨害の能力も持っているようで、衛星カメラからでは内部の様子が分からない。


 戦力がテロリストだけならば、ノルウェー軍に対処を任せることも考えていた。しかし『星の牙』が絡んでいるならば予知夢の五人の出番だ。


 日向たちはノルウェー軍のジープに乗せられ、貨物船の近くまでやって来ていた。その傍らには、ロシアのエージェントの二人もついて来ている。


 貨物船の周りはノルウェー軍が包囲している。先ほどからノルウェー軍が、貨物船内に潜んでいるであろうテロリストに投降を呼びかけているのだが、一向に返事はない。罵声が返ってくることもなく、甲板にも人ひとり出てこないことが言い知れぬ不気味さを醸し出していた。さながら、幽霊船とでも言うべき不気味さを。



 霧に包まれた海岸にて、狭山は予知夢の五人を集め、今回の作戦について説明する。


「もし、あの船内に『星の牙』がいて、ソイツが船から脱走でもしたら、近隣の町や村が大変なことになる。自分はこの海岸でノルウェー軍を指揮して、不測の事態に備えよう。そして君たちにはこれから、ロシアの二人と共にあの貨物船に乗り込んでもらうワケだけど……」


「なんか、尋常ではない雰囲気ですね……。テロリストたちに何かあったんでしょうか?」


「軍隊の人がさっきからメガホンで呼びかけてるのに、誰も出てこないね……」


「この霧から察するに、あの船に”濃霧”の星の牙がいるのは間違いない。連中、マモノに襲われたという線もあるな」


「銃もマモノも、どっちもイヤだ……!」


「だがオレらが頑張らねぇと、ネプチューンが町を沈めちまうんだ。やるしかねぇだろ」


「先ほども言ったとおり、ここら一帯を包んでいるこの霧は、もはやお馴染みとなった電波妨害能力を備えている。あの船に乗り込んだら、自分が君たちを通信でオペレートすることはできなくなってしまう。だけどそこは、日向くんが穴を埋めてくれるだろう。こういう時のために彼を司令塔として鍛えてきたんだからね」


「努力はしますが、プレッシャーだなぁ……」


 狭山の言葉を受けて、改めて緊張した面持ちで貨物船を眺める日向。


 ……と、そこへオリガがやって来て、日向に何かを手渡してきた。


「はい、日下部日向。コレあげるわ」


「え、これって……ハンドガンじゃないですか」


「そうよ。ノルウェー軍から拝借してきたわ。マモノがいるにせよ、テロリストがいるにせよ、あなたはそれを有効に使えるでしょう?」


「日本の高校生に、当たり前のように銃火器渡さないでくれませんかね……」


「あら、だってあなた、もう普通の高校生じゃないでしょ。銃なんて今さらじゃない?」


「ぐ……否定はできませんが……誤射とかが怖いからあまり使いたくないんだけどなぁ……」


 しぶしぶ日向はオリガからハンドガンを受け取り、予備のマガジンと共に懐にしまった。


 一方、日向とオリガのやり取りが終わると、北園がオリガに話しかけた。


「オリガさん! 今日はよろしくお願いします!」


「はいはいよろしく。足引っ張らないでね」


「あ、はい……」


 オリガは北園に素っ気ない返事をすると、さっさと自分の準備に戻ってしまった。まるで北園を避けるように。


 残された北園は、ただ茫然とその場に立ち尽くしている。

 その表情は少し悲しそうだ。


「……オリガさん、北園さんに何か恨みでもあるのか……?」


 一連の様子を見ていた日向は、静かにそう呟いた。

 その疑問の声色には、僅かながらも怒気が含まれていた。



 準備を終え、さっそく貨物船に乗り込もうとする日向たち。

 しかし、荷物の搬入口は閉ざされており、甲板へ上るタラップなども降りていない。現状、貨物船への入り口が一切見当たらない状態だ。


「これじゃ乗り込みようがないね! もう帰るしかないね!」


「嬉しそうに言うなよシャオラン……」


「仕方ない、ヘリを呼んで空から甲板に降りてもらおう。これだけ周りで騒いでもテロリストたちは出てこないし、空から攻めても撃墜に出て来られる可能性は低いだろう」


「へ、ヘリは酔うからイヤだぁぁぁ!!」


 シャオランの嘆願も虚しく、日向たちとロシアのエージェント二人組は、ヘリに乗って貨物船の真上へ。ヘリから縄はしごを垂らして、無事に甲板へと降り立った。


「無事なもんかぁ……イヤだって言ったのにぃ……うへぇ……」


「どうどう。しっかりシャオラン」


 甲板に上がって気付いたことだが、この船は打ち棄てられているにも関わらず、電気が通っている。恐らくはテロリストたちが修理し、この船をアジトの一つとして使っていたのだろう。マモノの捕獲といい、この巨大な貨物船を修理することといい、連中の技術力はなかなか侮れないものがある。


 と、その時だ。

 甲板のどこかで、何かの物音がした。

 金属製のドアが開いたような、重々しい音だった。


 日向たちが急いで物音がした場所へ駆け付けると、そこにはテロリストの一員と思わしき男が一人立っていた。


 男は酷く怯えたような様子で周囲を警戒し、日向の姿を見つけると、持っていた銃を構えてわめき散らす。


「な、なんだお前はぁっ!? あ、アイツの仲間かぁ!? そうなんだろぉぉ!?」


「や、やばい、見つかった!」


「待って、日下部日向。アイツ、なんか様子がおかしくない? あなたに、というよりは、あなたを通して別の何者かに怯えているような感じが……」


 と、その時だった。

 男の後ろ、開いたドアの向こうから、赤紫色の触手のようなものが伸びてきて、男の首に巻き付いた。


「ひっ!? あがっ、ぐええええ!?」

「え、な、なんだアレ!?」


 そして触手はそのまま男をドアの向こうへと引っ張り、連れ去ってしまった。残された日向たちは、ただ唖然とするしかない。


「な、何だったんだ今の触手は!?」


「とにかく、連れ去られた男を追いかけるわよ!」


「いぃぃぃぃ!? 追いかけるのぉ!? アレ絶対やばいヤツだよぉぉぉ!?」


「いいから行くぞシャオラン! 置いていくぞー!」


「ひ、一人にしないでぇぇぇぇ!!」


 オリガの言葉に頷き、日向たちも船内へと突入する。

 貨物船の内部は、ところどころに明かりが灯っているが、薄暗い。


 船内に入ってさっそく、異様なものを見つけた。

 通路の床付近に、通気用と思われるダクトが設置されているのだが、その周りにおびただしい量の血が付着しているのだ。


「うわ……なんだこれ……」


「ひいい……!? もう帰ろうよぉぉ!?」


「また随分とグロいなこりゃ……。北園、大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫だよ日影くん……」


「ならいいが……おっと? これは……」


 その時、日影が血まみれのダクトの中に何かを見つけた。

 拾い上げてみると、それは誰かの靴だった。

 ダクトに付着した血によって、赤く染まっている。


「この靴は……覚えてるぞ。さっきの男が履いてたヤツだ」


「さっきの男が……って、つまりあの男は、このダクトの中に連れ去られたと?」


「ぶ、物理的に有り得ないでしょ!? だってこのダクト、ボクでもそう簡単に入れないくらいに小さいよ!? それなのに、あのガタイの良い男が入るワケ……!」


「このダクトの周りの血を見るに、入ってしまったんだろ。力ずくでな」


「じ、じゃあ、さっきの男の人は、もう……」


「下手すると、人の形をしていないでしょうね、既に」


「う……うええ……」


 男を連れ去った先ほどの触手は、成人男性を小さなダクトに引きずり込んでしまうほどのパワーがあるらしい。これは、相当凶悪なマモノが潜んでいると見ていいだろう。


「あの触手……いったいどんなマモノが潜んでいるんだ?」


「もしかしたらあの触手が、ネプチューンの娘さんかも」


「いやいやいやいや北園さん……あのクジラからどうやったら触手の化け物が生まれるの」


「ともかく、この貨物船のどこかに凶悪なマモノが潜んでいて、その本体が触手を伸ばして私たちに攻撃を仕掛けている、と見ていいわね。皆、警戒を怠らないで」


 叶うのならば、今すぐにでも船を出て、中に潜んでいるマモノを船ごと爆破してしまいたいところだが、そうすると『赤い稲妻』に連れ去られたというネプチューンの娘まで危険に晒される。少なくとも娘を救出するまでは、この貨物船の探索を続けなければならない。


「面倒ねぇ……。さっきの男を洗脳して、この船に何が起こっているか洗いざらい聞き出せれば楽だったんだけど。全く、私の許可なく死ぬんじゃないわよアイツ」


「む、無茶苦茶なこと言ってるぞこの人……」


 今はもはや生きていないであろう先ほどの男に対して、ほとんど理不尽ないちゃもんをつけるオリガ。ズィークフリドが「性格に難がある」と評するだけのことはある。



 慎重に船内の通路を進んでいく日向たち七人。

 通路は狭い。人が二人、ギリギリすれ違うことができるかどうかくらいの幅しかない。日向が通路の壁に手を当てながら、日影に声をかける。

 

「なぁ日影、本堂さんから高周波ナイフを貸してもらえ」


「あん? なんでだよ。オレには『太陽の牙』があるだろ」


「お前、このくそ狭い通路であの長剣振り回すつもりか?」


「あー、そう言われれば、その通りだな……。よっしゃ本堂、一本貸してくれ」


「良いだろう、使え」


「北園さんも一本貰っておいて。この狭い船内じゃ、超能力はマトモに使うことができないでしょ?」


「う、うん。りょーかい」


「シャオランにも渡しておこう。あの伸縮性の高そうな触手を相手に、素手では困るだろう」


「そ、そうだね! いざとなったら、これで壁をくり抜いて逃げよう……!」


「いや逃げるために渡したんじゃないぞシャオラン」


 本堂が携帯している高周波ナイフは、全部で八本。それを一本ずつ日向たちに渡し、残りは四本になった。本堂もまた、ナイフを一本取り出して敵襲に備える。


「しかし改めて考えると、この船に七人一気に乗り込むのは失敗だったかな……。通路は狭いし、隊列も長くなる……」


「過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。それに、俺たちの能力はそれぞれ特色がある。いつどこで、どの能力が必要になるか分からんぞ」


 日向たち七人が、船内の通路を歩いている、その時だった

 側の壁の向こう側から、ガタンゴトンと音がする。

 壁の向こうで、何かが動き回っているような、そんな音だ。


「嫌な予感しかしねぇな……」


「皆、構えて。何か来るわよ……!」


 壁の向こうから聞こえる音は、次第に天井の方へ上って行き、日向の真上あたりで止まった。瞬間、日向の真上の天井を突き破って、触手が伸びてきた。


「うおうっ!?」


 間一髪で後ろに下がり、触手を避ける日向。

 柔軟な触手をピンと張って貫通力を高めている。

 もう少し回避が遅れていたら、あの触手の先端で脳天をぶち抜かれていたところだった。


「き、来た! さっきの触手だ!」


 叫びながら、日向が本堂から借りた高周波ナイフを振るう。

 鋼鉄をも切断する超振動の刃は、鉄板の壁を破ってきた触手も難なく斬り落とした。落ちた触手はビチビチと床を跳ね、動きを止めた。


「や、やったか!?」


「そういえば、妹の舞から聞いたことがある。『やったか』と言った時は、決まって『やってない』だそうだ」


「よ、余計なことを言って……!」


 すると本当に、今度は多数の触手が現れた。近くの通気口から、排水溝から、壁や床や天井を破ったその先から、赤紫色の触手が伸びてきて日向たちに襲い掛かってくる。



 至る所から現れた赤紫色の触手がご馳走を求めて蠢くさまは、まるで巨大な怪物の胃袋にでも迷い込んだかのような不気味さであった。

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