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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第269話 おさかな地獄

「シャアアアアーッ」


 長いひれを持った蒼い魚が、牙を剥いて日向たちに迫ってくる。特異なのは、海の底からではなく空の上から襲ってくるという点だ。


 日向は咄嗟に構えようとするが、今は丸腰であった。まずは『太陽の牙』を呼び出さねばならないが、果たしてあの怪魚の牙がこちらに食らいつく前に間に合うかどうか。


「た、太陽の……」

「それぇ!!」


 と、北園が掛け声と共に、怪魚に向かって火球を撃ち出した。

 火球は真っ直ぐ向かってきた怪魚に直撃し、一瞬で怪魚を焼き魚にしてしまった。


「あ、ありがとう北園さん、助かった……」


「どういたしまして! それより、このマモノは一体なに!?」


「コイツは……『シーバイト』だな。牙で噛みついてくる大型の魚のマモノだ。けど、コイツに空を飛ぶ能力は無いし、ましてや『星の牙』でもない。一体どうやって空を……?」


「んー、この子がさっきの『黒い気配』の持ち主だったのかなー? いや、やっぱりちょっと違うかなー」


「……ちょっと、日向くん。あれ見て……」


「え、どれ…………何あれ」


 北園が空を指差したので、日向もつられて空を見上げたその瞬間、日向は絶句した。町の遥か上空に、巨大な魚群が渦を巻いているのだ。周囲の町人たちも異変に気付いたようで、空の上の魚群を指差して怪訝な表情を浮かべている。


 あれがイワシの群れとかなら可愛いものなのだが、優れた視力を持つ日向なら分かってしまう。あれはマモノの群れだ。あの魚群を構成する一匹一匹がマモノなのだ。


 どうにかしようにも、とても手出しできる距離ではないので、仕方なくしばらく魚群を眺め続ける日向と北園。


 まもなく魚群はバラバラと崩れていき、魚のマモノの群れが一斉に、オーレスン目指して侵攻してきた。


「……スピカさん」


 マモノたちが町に侵入する、その前に。

 日向はスピカに呼びかけた。


「なんだい、日影くん?」


「だから、俺は日向です……。それよりも、さっき倒したマモノですが、スピカさんがあのマモノの心の中を読んでいたら、内容を聞かせてほしいのですが」


「ああー、ええとね、『一人残らず食い殺してやるぞ、人間!』って言ってたよ」


「じゃあやっぱり、あれは過激派のマモノの群れ……!」


 心を読むことでマモノが考えていることが分かるスピカなら、目の前のマモノが巫女派なのか過激派なのか一瞬で判断することができる。その結果、あの魚群は過激派のマモノたちだと分かった。このままでは大変なことになる。


 そしてとうとう、先頭のマモノが空から町中へと侵入し、各所で人々の悲鳴が聞こえ始めた。戦いが始まってしまったのだ。


「と、とにかく、俺たちも戦おう! 北園さん、準備はいい!?」


「もちろんだよ!」


「それじゃ、えーと、スピカさんは……」


「言われなくてもとっくに逃げてるよー! あとはよろしくねー!」


「あ、いや、『念動力サイコキネシスとかで戦えるなら援護してください』って言おうとしたんですけどー!? ……駄目だ、行ってしまった」


 日向が声をかけるよりも早く、スピカは地面に置いていた旅行カバンを持って、町人たちと一緒に逃げてしまった。今この状況では、少しでも戦闘員の頭数が欲しかったのだが、もはや仕方ない。


「もういいや、スピカさんは諦めよう。さっそくマモノたちを攻撃して、町の人たちを守るぞ!」


「りょーかい! ……あ、ところで他のみんなには連絡する?」


 北園はそう言うものの、今回は戦闘を想定してはいなかったので、皆と連絡を取る通信機も、オペレーターの狭山に状況を伝えるコンタクトカメラも持ってきていない。スマホ片手にマモノと戦いながら通信、というのも危険だろう。仲間たちとの連絡は、諦めた方が良い。


「この騒ぎなら、向こうだって間違いなく気づいてるハズ! 俺たちは目の前の戦いに集中しよう!」


「わかった!」


 そして日向は、近くの人々に襲い掛かっていた蒼い怪魚の群れに向かって走る。先ほど北園が仕留めたマモノと同じ『シーバイト』だ。


「シャアアアアーッ」


 宙を泳ぐように、シーバイトは日向に向かってくる。その軌道は直線ではなく、下から上へ緩やかな曲線を描くように。そして日向の足元まで到達すると、一気に浮上して顎を開き、日向の首筋を狙ってきた。


「させるかっ!!」


 日向はバックステップしながら剣を横に振り抜き、シーバイトの頭を斬り飛ばした。頭部を失ったシーバイトは、宙に浮くことなく地面にビタンと落下する。


 日向の目の前に残っているシーバイトは、二匹。

 すると日向たちの背後から、さらに新手のシーバイトの群れがやって来た。


「北園さん、後ろは頼んだ! 周りに人はいないから、思いっきり爆炎をぶちかまして!」


「りょーかい! まとめて焼き魚にしてやるー!」


 日向の指示を受け、北園が背後のシーバイトの群れに大爆炎を発射し始める。これで日向は、目の前のシーバイトたちに専念することができる。


 二匹のシーバイトは、ゆっくりと宙を泳いで日向の様子を窺っている。日向もまた、二匹のシーバイトに向かって剣を構え、注視する。

 その際にシーバイトをよく観察してみたのだが、彼らの身体の周りには、うっすらと緑色のオーラがかかっているように見えるのだ。


「もしかしてアレが、シーバイトたちが空を飛べる原因なのか……?」


 だが、考えている暇はない。

 シーバイトたちがしびれを切らし、日向に向かって泳いできた。

 二匹同時に左右から迫り、日向に向かって牙を剥く。


「シャアアアアーッ」

「キャシャアーッ」

「せいやっ!!」


 だが、左右から同時に迫れば、いずれは日向が立っている場所あたりで交わるのは道理。その交わる瞬間を狙って日向は剣を一閃。シーバイトたちはまとめて斬り伏せられた。


 シーバイトたちが接近してきた瞬間、日向はシーバイトたちの周りで風が吹いているのを感じた。この『風』こそが、シーバイトたちが空中で活動できる要因なのだろうか。


 思考に集中したいところだが、また新手のマモノがやって来た。小魚のような大きさの魚のマモノだ。

 しかし、その胸ひれ、背びれは刃のように鋭く、光沢まで放っている。このマモノの名は『エッジフィッシュ』という。


 現れたエッジフィッシュは、一体だけではない。無数の群れとなって襲い掛かってくる。あの群れで獲物を呑み込んで、すれ違いざまに切り刻んでやろうという魂胆なのだろう。エッジフィッシュの魚群が日向に向かって迫ってくる。


「き、北園さん! あの魚の群れを焼き払って!」


「りょーかいだよ!」


 日向の『太陽の牙』では、あの群体のマモノとは相性が悪い。”紅炎奔流ヒートウェイブ”を使おうにも、この町中では周囲に被害を及ぼしかねない。ならば、ある程度攻撃範囲に調整が利く北園の大火力で、面制圧するのが効果的だ。


 日向の声を受け、北園は素早く振り向き、エッジフィッシュの群れに向かってド派手な爆炎を放った。炎に巻き込まれ、エッジフィッシュが燃えながらパラパラと落下していく。


「ナイス、北園さん!」


「ありがと! ……って、まだ来るよ日向くん!」


「くそ……次から次へと!」


 再びシーバイトとエッジフィッシュの群れがやって来た。

 エッジフィッシュを北園に任せ、日向はシーバイトを対処する。

 

 シーバイトたちと戦いながら、日向は思考する。

 なぜ、この魚のマモノたちは宙を泳げるのか。

 この能力の正体は何なのか。


 まず、先ほどから魚のマモノたちが纏う、うっすらとした緑色のオーラ。アレに近づいた瞬間、日向は確かに『風』を感じた。あの風が浮力を生み出し、魚のマモノたちを宙に浮かべているのだとしたら。


 また、通常、魚というのはエラ呼吸をする。だから水の外では呼吸ができないはずだ。そこであの緑色のオーラが、魚たちに直接空気を送っているのだとしたら。


 そして、シーバイトもエッジフィッシュも『星の牙』ではない。だから自力で空を飛ぶことはできない。そのはずなのに、周りを見れば、魚たちは自由に宙を泳いでいる。


 この状況を整理するに、あの魚たちが纏っている緑色のオーラは付与エンチャントなのだ。あの魚たちを浮かべている、張本人たる『星の牙』が存在しているはず。

 そして『風』を操る以上、その『星の牙』は”暴風トルネード”か、あるいは”テンペスト”だ。たとえ相手が二重牙ダブルタスクであろうと、それだけは間違いない。


「つまり、この能力を行使している『星の牙』を仕留めれば、雑魚マモノたちのエンチャントが解除されて、一気にまとめて無力化できるかもしれない……」


 と、一通り結論付けるとともに、日向は最後のシーバイトを斬り伏せた。何度かシーバイトの体当たりを喰らい、エッジフィッシュに切り裂かれたが、大した傷ではなかった。すでに”再生の炎”で塞がっている。


「そうと決まれば、さっそくこの『風のエンチャント』を使っているヤツを探さないと! 北園さん、ここから移動しよう!」


「……ちょっと待って日向くん。あれ見て……」


「え? どれ…………何あれ」


 北園が空を指差したので、日向もつられて空を見上げたその瞬間、日向は絶句した。このリアクションを取るのは本日二度目だが、どうか許してほしい。なにせ、町の上空にとんでもない存在を見つけてしまったのだから。



 そのマモノの体つきは、先ほどのシーバイトよりもさらに大きい。もはや日向の体躯では勝負にならない大きさだ。


 背中は灰色で、腹は白い。背中の背びれもまた大きく立派で、仮にあのマモノが海で泳いでいたら、あの背びれが海面を滑っているように見えていただろう。


 顔の付近には深いエラが刻まれている。

 だがそんなものよりももっと注目すべき部分がある。それは口だ。

 大きく開けば人ひとり呑み込んでしまいそうな大きさで、中には鋭い牙がビッシリと生え揃っている。


 その見た目の凶悪さたるや、シーバイトなどとは比べ物にならない。だというのに、あのマモノは、元になった動物と比べると見た目にさほど変化が無いというのだから、驚くしかない。


「サメが……空飛んでやがる……!?」

「グアァァァァーッ!!」


 現れたのは、サメのマモノだ。

 しかもこのサメ、『星の牙』なのだ。

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