第28話 新年の襲撃者
「日向! これは……!」
「ええ! ……剣よ、来い!」
右手を前に突き出し、念じる。
すると日向の手のひらから火柱が上がり、例の剣が現れた。
「舞、お前も避難していろ」
「わ、分かった! お兄ちゃんも気を付けてね!」
本堂の声を受け、舞は他の参拝客たちと一緒に逃げていった。
日向と、北園と、本堂の三人は、逃げる人々をかき分けて前に進む。
そしてその先に、うねるように暴れまわるマモノを数体発見した。
「あれは、ワームか!?」
長く、光沢を放つ、ぬめりのある身体。
土色の体皮。円状に並んだ牙。
それはRPGなどでよく見るワームそのものだった。
その数、全部で六匹。
そのうちの一匹が、三人に向き直ると、物凄い勢いで突進してきた。
「は、速い!?」
突然の攻撃に、日向は足が動かなかった。
殺られる。
日向がそう思った瞬間、バンッバンッと大きな音が聞こえた。
それと同時に、飛びかかってきたワームが絶叫を上げ、倒れた。
今の音は、銃声だ。
それも、音からしてかなり威力のあるものだ。
銃声がした方を振り返ってみると
「おい、兄ちゃんたち! ここは危険だ! 早く逃げろ!」
大型の自動拳銃を構えた、細身の中年男性が立っていた。
日向たちはまだその男の名を知らないが、彼は十字市のマモノ調査のためにマモノ対策室から派遣された男、倉間慎吾である。
「おい、何やってんだ! 早く逃げろ!」
倉間がワームに拳銃を構えながら叫ぶ。
(あのおっさん、何者だろう……? 拳銃を持ってるし、警察とか?)
突然の乱入者に、日向はその正体を探るため思案する。
(……いや、あの銃はデザートイーグル。警察の装備じゃない。つまり警察ではない?)
しかし、正確な答えを出すには手掛かりが少なすぎる。
とにかく、こちらを助けてくれた。敵ではない。
そう結論付け、日向は男に返事をする。
「助かりました! でも、俺たちも一応戦えますんで!」
「はあ!? 何言ってんだお前ら!?」
しかし倉間もまた知らない。
この三人もまた、尋常ならざる存在であることを。
叫ぶ倉間を後目に、三人はワームの群れに向かって走る。
「ふふふ! 久しぶりの発火能力! いっくよー!」
北園が両手から一つずつ火球を生み出し、ワームたちに投げつける。
二体のワームが、あっという間に火だるまになった。
残り、三体。
「いやあ、やっぱり流石のメイン火力だな!」
言いながら、日向もワームに斬りかかる。
体皮は分厚いが、鱗などは無く、刃は通りやすい。
首のところを剣で思いっきり突き刺すと、ワームは苦しんで大暴れし始めた。
それを読み、距離を取る。
そこへ北園が火球を放ち、ワームにトドメをさす。
残り、二体。
うち一体のワームが本堂に飛びかかる。
「ふむ、まともに喰らえば無事では済まんな」
そう言いながら身を屈め、ワームの牙を避ける。
飛び込むように地面に潜り、再び穴から顔を見せるワーム。
その時には、既に本堂はワームに肉薄していた。
「さて、これに耐えられるか?」
本堂はワームに掴みかかり、電撃を流し始めた。
「ギャアアアアアアア!?」
ワームが悲鳴を上げる。
首を叩きつけて暴れるが、本堂はそれを避けながら再び電撃を流す。
彼はバスケ経験者だと言っていたが、それを差し引いても並外れたスピードと反射神経である。さぞ優秀なプレイヤーだったのだろうか。
電撃を受け続けたワームは遂に絶命し、動かなくなった。
残り、一体。
「キシャアアアアア!!」
最後のワームが、本堂目掛けて牙を剥く。
そのワームに向かって、本堂が右手を向ける。
親指と中指を合わせて、力強くこする。
それはいわゆる、指パッチンそのものだった。
すると、バチィ!という音と同時に、空間に稲妻が走り、ワームの口内を焼いた。
「ギャアアアアアアア!?」
「うおお!? 電撃を飛ばした!? あれが”指電”か!」
日向が驚きの声を上げる。
本堂は続けて、左手も使いながら電撃を連射する。
その攻撃はまさに、小さな雷といった感じだ。
発射から着弾までが全く見えない。
威力はともかく、速度と連射性に関しては北園の電撃をはるかに上回っている。
やがて電撃を受け続けたワームは、痙攣しながら地に倒れた。
そこに日向が頭部を突き刺してトドメを刺す。
これで、全滅。
「……いや、まだだ! あっちを見ろ!」
倉間が叫ぶ。
彼に言われた方を見ると、小型犬ほどの大きさのある白いカマキリが、何匹もこちらに接近してきていた。
「ぎゃー!? なにあれ! キモイ!」
思わず叫んでしまう日向。
彼はワキワキした虫なども苦手である。
「『ホワイトリッパー』だ! 気を付けろ! 力は弱いが、鎌の切れ味は凶悪だぞ!」
そう言いながら、倉間はホワイトリッパーに向けて銃を撃つ。膝をつき、体勢を低くしながら、弾丸がマモノを貫通するように引き金を引く。一発の弾丸で、数体のホワイトリッパーがバラバラになった。
一方の日向は、いまだに生理的嫌悪感で顔を引きつらせながら、北園に声をかける。
「うん。群体が相手なら、俺では分が悪いな。というわけで北園さん!」
「りょーかい!」
日向の声を受け、北園は両手から火球を乱射した。
ホワイトリッパーたちはあっという間に炎に包まれ、全滅した。
「……おいおい。嬢ちゃん、お前一体どうなってるんだよ……」
倉間が唖然としながら尋ねた。
「ふふー。すごいでしょー」
胸を張って答える北園。
そんな二人を余所に、
「……そういえば、少し霧が出てきたか?」
本堂が呟く。
確かに周りが、モヤがかかっているかのように白い。
霧が出てきたようだ。
「いやぁ…ホワイトリッパーは強敵でしたね」
「この霧は……! お前ら油断するな! まだマモノはいるぞ!」
「え!? 何で分かるんです!?」
「この霧と、さっきのホワイトリッパーだ! 奴らは幼体なんだ! 奴らの親が……もっとデカい奴がいるはずだ! そして、そいつがこの霧を生み出した『星の牙』だ!」
「ほ……『星の牙』?」
聞きなれない単語に、日向は思わずオウム返しで聞き返す。
話の流れから推察するに、どうやらマモノの名称のようだが。
「なんだ、『星の牙』については知らないのか? ということは、国の関係者じゃないのか、お前らは……」
日向を見ながら、怪訝そうに呟く倉間。
その瞬間。
「あ、危ねぇ兄ちゃん! 伏せろぉ!!」
「へ?」
何事かと思い、倉間の指示に反して、伏せずに後ろを振り返ってしまう日向。
ストンと、何かが日向の右肩に落とされた。
同時に、右肩がいやに軽くなる感覚に襲われた。
「……え?」
恐る恐る見てみれば、右腕の付け根から先が無くなって、地に落ちていた。




