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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第258話 ヤドカリ大行進

 7月も下旬に突入し、日向たち学生組も夏休みが見え始めてきた頃の日曜日。ここは十字市の隣の港町。


 港町、と聞くと田舎のような雰囲気が思い浮かぶ者も多いだろうが、この町はビルも多く立ち並んでおり、そこまで田舎という雰囲気は感じられない。そこそこ大きな町といった具合だ。そしてそこでは現在、多くの人々の悲鳴が飛び交っていた。


「マモノだー! マモノが出たぞー!」

「逃げろー! 海からやって来てるぞー!」

「下手に刺激するなー! 襲われるぞー!」


 声と共に人々が逃げ惑う。

 港の方面からマモノが襲来してきたのだ。


 大人の腰あたりまでの大きさがある、ヤドカリ型のマモノが多数。背中に背負う殻の前面には、何やら先端に穴が空いた突起物のような構造がある。その突起物は太く、やや短く、ともすれば何かを射出できそうな。


 と、ここで一台の装甲車がやって来た。

 騒ぎを受けて駆け付けた、近くの陸上自衛隊のものだ。


 装甲車の中から次々と迷彩服に身を包んだ隊員たちが降りてくる。

 そして、ヤドカリ型のマモノに向かって隊列を作り、銃を構える。

 構える銃は、対マモノ用のアサルトライフルだ。


「前方にマモノの群れ発見! 識別名称、『ヘイタイヤドカリ』です!」


「よし、総員横一列に並べ! 一斉掃射でカタをつけるぞ!」


「了解!」


「撃ち方、始めーっ!!」


 隊長の号令と共に、隊員たちの銃が火を吹いた。鉄板さえ容易に貫通するとされる弾丸が、ヤドカリ型のマモノ……ヘイタイヤドカリの群れに向かってばら撒かれる。


 しかし、ヘイタイヤドカリたちは一斉に殻にこもり、銃弾を防御した。鉄板さえ貫通する弾丸が、金属音を上げてヘイタイヤドカリたちの殻に弾かれる。

 さすがに傷一つつかないとはいかず、傷くらいはつくものの、弾丸は殻を貫通していない。とてもダメージを受けたようには見えない。


「ウソだろ!? 硬すぎる! データ以上の硬さだ!」


「お、落ち着け! アサルトライフルで駄目なら重火器を……」


 隊長が隊員に声をかけるが、ヘイタイヤドカリたちが動くのが早かった。


 ヘイタイヤドカリたちは、殻の突起物を自衛隊員たちに向ける。そして、その突起物の先端の穴から、緋色に輝く物体をドン、と撃ち出した。


 緋色の物体は自衛隊員の目前に着弾すると、爆発した。


「うわぁ!? ヘイタイヤドカリが砲撃を開始してきました!」


「くぅ!? いったん下がれ! 砲弾が次々と飛んでくるぞ!」


「に、逃げろー!!」


 ヘイタイヤドカリの背中の突起物は、このように爆裂するエネルギーの砲弾を発射することができる。つまるところ、背中の突起物はキャノンであり、その殻の頑丈さと相まって、ヘイタイヤドカリは背中に戦車を背負っているとも言えるマモノだ。


 ヘイタイヤドカリの行進は止まらない。

 大通りを闊歩し、あちらこちらに砲撃を放つ。

 ビルの外壁に砲弾が撃ち込まれ、窓ガラスが吹き飛んだ。

 乗り捨ててあった自動車に砲弾が撃ち込まれ、炎上した。

 誰もいなくなった道路に砲弾が撃ち込まれ、穴だらけになった。


 そして、一時退却を余儀なくされた自衛隊員たちと交代するように出てきたのは、日向たち予知夢の五人である。日曜日を利用して、隣町である十字市から援護に駆け付けてきた。


「うひゃあ……ウジャウジャいるね……」


「うん……本当に兵隊の行進か何かみたいだ……綺麗に隊列なんか組んじゃって」


「数が多すぎるよぉ……今日はいったん出直そう?」


「お前はいつもそればっかりだなシャオラン。たまには最初ハナから覚悟を決めやがれ」


「致し方あるまい。人間には向き不向きがある」


 ヘイタイヤドカリの群れを見ながら、思い思いに言葉を発する五人。


 ちなみに五人の保護者役である狭山は自衛隊の指揮を執っており、こちらの五人の指揮は日向に一任されている。今まで狭山が宣言していた通り、日向を『予知夢の五人』の司令塔に立てる、その第一歩というワケである。


「記念すべき復帰戦だな日向。早速だが、連中を相手にどう攻める? 見たところ、銃弾さえ弾き返すような手合いだが」


「俺と日影が持つ『太陽の牙』は、どんなに硬いマモノの甲殻でも切り裂いてきた実績があります。というワケで、日影を単独で突っ込ませようと思います」


「……一応聞くけどよテメェ、オレを死地に突っ込ませて生贄に捧げたいだけじゃないだろうな? ここはひとつ、テメェも一緒に来いよ。せっかくの復帰戦なんだからよ」


「む……ま、まぁいいよ? 付き合うよ? これはちゃんとした作戦なんだということを教えてやる。……じゃあまずは北園さん、火炎放射で連中を炙ってくれ」


「りょーかい! 発火能力パイロキネシス、いっけぇー!」


 日向の指示を受け、北園が両手から火炎放射を放つ。

 ヘイタイヤドカリたちは一斉に殻にこもり、炎から身を守る。


 そして北園の炎が止むと、日向と日影は一気に駆け出す。

 ヘイタイヤドカリたちは、まだ殻にこもったままだ。


「殻にこもったままじゃ、周りは見えないだろ! この隙に叩き斬ってやる!」


「おるぁぁぁッ!!」


 そして二人はそれぞれ、先頭のヘイタイヤドカリ一匹ずつに向かって縦一閃に剣を振り下ろした。剣の切っ先はヘイタイヤドカリの殻を砕き、刀身が食い込み、止まった。


 ……もう一度言う。止まった。止められたのだ。

『星の牙』でもないヘイタイヤドカリが、『太陽の牙』を止めてしまった。


「こ、コイツら、クソ硬ってぇな……!?」


「やばい、さっそく計算が狂った」


「シシシシ……」


 日向と日影の攻撃を受け止めたヘイタイヤドカリの群れは、すかさず反撃を開始する。眼前の二人に向かって、背中の殻から砲撃を放ってきた。


「うおっとッ!?」

「ぎゃあ!」


 日影は、野性的な勘によって、砲撃が放たれる前に回避を取り、無傷で済んだ。


 日向は、顔面に砲弾が直撃した。

 ヘビーボクサーのストレートでも食らったかのように吹っ飛んだ。

 そして、背中からアスファルトの上に落下し、沈黙した。


「ったく、ダメじゃねぇか! 仕切り直し!」


 そう言うと日影は、”再生の炎”によって上半身が燃え始めている日向の脚を引きずって、他の仲間たちがいる位置まで撤退した。



◆     ◆     ◆



「さ、さっきのは何かの間違いだから」


 復活した日向は、仲間たちに向かってそう言った。

 ついでに自分にも言い聞かせるようにして。


「ふむ、やはりこの間の虫マンションから、マモノが強化されているな。ヘイタイヤドカリのデータは俺も拝謁したことがあるが、連中の殻はあれほどの防御力を持ってはいなかったはずだ」


「実際問題、どうするんだ? オレたちの剣が効かないとなると、もうどんな攻撃でも突破できる気がしねぇぞ?」


「二人が無理なら、ボクなんか完全に足手まといだよね! というワケでボクはこの辺で……」


「ダメ」


「そんなぁ……」


 仲間たちが騒ぐなか、日向はヘイタイヤドカリの群れを突破するための方法を考える。頭に叩き込んだヘイタイヤドカリのデータと仲間たちの能力を参照し、使えそうな手札を探る。


 こうしている間にもヘイタイヤドカリたちは町への侵攻を続行している。長時間思考する余裕は無い。


 だが日向も、この日に至るまで徹底的に鍛えられている。頭脳をフル回転させて、瞬時にヘイタイヤドカリへの対抗策を弾き出した。


「ヘイタイヤドカリの殻は物理攻撃全般に強く、さらに熱や冷気にも耐性を持つ。防御を固められたら、マトモに効くのは電気ぐらいしかなかったはず……」


「じゃあ、私と本堂さんの電撃を中心にして戦うの?」


「いや、まずは北園さんの凍結能力フリージングを使おうと思う」


「へ? 凍結能力フリージングって、さっき日向くんは、ヘイタイヤドカリには冷気が効かないって……」


「大丈夫。そこは多少考えがあるから」


 そして日向は、北園に自身の『考え』を明かす。

 それを聞いた北園は、感心した様子で頷いた。


「……という作戦なんだけど、いけそう?」


「うん! やってみる!」


 日向の作戦を聞いた北園は、さっそく両手に冷気を集中し始める。


「いっけぇー!」


 そして、掛け声と共に両手から吹雪を放出し始めた。

 猛烈な冷気がヘイタイヤドカリたちを襲う。

 ヘイタイヤドカリたちは堪らず、殻にこもって防御を試みる。


「まだまだー!」


 それでも北園は吹雪を止めない。

 やがてヘイタイヤドカリたちの殻が凍り付いてきた。

 すると、殻の突起物、砲弾の射出口までも氷で覆われてしまった。


 これでは砲弾を射出できない。暴発してしまう。

 ヘイタイヤドカリたちは、慌てふためいている。


「やった! 日向くんの狙い通り!」


「ふむ、なるほど。キャノンの発射口を氷で塞いで、砲撃を封じたのか。まともに効かないはずの凍結能力フリージングで何をするかと思えば、考えたな」


「砲撃を封じられたヘイタイヤドカリは、ハサミを使った直接攻撃に切り替えてくると思います。つまり、身体を露出させざるを得ない。ここからは五人で一気に攻めて、蹴散らしてしまいましょう」


「だが、まだキャノンが無事な奴らもいるみてぇだぜ。油断するなよ!」



 これにて形勢逆転。五人の反撃が始まった。

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