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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第251話 一日目の終わり 二日目の始まり

 引き続き、九重の家にて。

 昼食を取った後、日向のトレーニングが再開される。


 日向は引き続き、全方位から射出される水のレーザーを避け続け、狭山の問題に解答し、スイゲツの直接攻撃を回避し、再び狭山の問題に解答し、時には攻撃を避けきれず吹っ飛ばされ、水をかけられ、やはり狭山の問題に解答し、ひたすらスイゲツや狭山と共にトレーニングに励んだ。


 そして日が沈むころ、ようやく一日目のトレーニングは終了した。日向は今、九重の庭の縁側で身体を休めている。


「結局、一度も一分間連続回避は達成できなかったかぁ。惜しいところまでは行っていたんだけどね。最高記録は55秒。いやぁ、ホント惜しかったねー」


「も……もう一生分の水レーザー避けた気がする……疲れた……」


「コン……コン……」


 日向はもちろん、さすがのスイゲツも疲れ果てたようである。うなだれたまま、息を切らせている。だがしかし、息を切らせているということは、それだけ本気で日向のトレーニングに付き合ってくれた結果であるとも言える。そこに日向は、感慨深い思いを抱いていた。


「始めは……マモノと戦い始めた頃は、こんな風にマモノと一緒にトレーニングするなんて光景、夢にも思わなかったな……。このマモノ災害が終わって、人間に友好的なマモノだけが残ったら、世界中でこんな光景が見られるようになったりするのかな? 人とマモノが生きる世が……」


「どうだろう? マモノというのは、星の巫女の存在ありきだ。彼女の『星通力マナドライヴ』……つまり『星の力を借り受け、操作する能力』によって、初めて動物はマモノになれるのだからね。星の巫女から星の力を譲り受けることでね」


 いずれ日向たちは、星の巫女と決着を付けなければならない。その時、あの子を殺すか、それとも無力化して拘束するだけに留めるのか、どちらにせよ、彼女には二度と星の力を操作させないようにしなければならない。そうなれば、これ以上マモノが生まれることもないだろう。良くも、悪くも。


「……まぁ、今はそれを考えてもしょうがないから置いておくとして、相変わらず狭山さんは超能力に素敵なセンス(皮肉)のルビをふりますね」


「何やら言葉にトゲを感じるけど、超能力を知る者はみな、共通してそれぞれの能力を同じような名称で呼んでいるよ。『ARMOURED』のレイカさんやロシアのオリガさんもそうだっただろう?」


「言われてみれば、確かに……。超能力者はみんな揃って、能力にそういうセンスの名称をつけないといけない制約か呪いでもかかってるんですか?」


「ははは、制約はともかく、呪いとは失敬な。それを言うなら、君の”点火イグニッション”とか”紅炎奔流ヒートウェイブ”とかだって負けてないと思うよ?」


「ぎゃあああそうだった俺もそういうセンスの技名つけてた。初使用から全然使ってないからちょっと忘れてた」


「まぁ自分については、そういうセンスは好きだよ。他の皆は……『これが正式名称なんだ』と心のどこかで思ってるんじゃないかな?」


「じゃあ星の巫女……エヴァ・アンダーソンのもう一つの能力、『言葉持たぬ者と会話する能力』は、どう名付けるんですか?」


「あれなら……『星霊交信コーリングスター』かなぁ。あれの根本は『風や水の流れを通して星と会話する能力』であり、動物などと会話できるのはその延長に過ぎない……というのが自分の見解だよ」


「へぇー……。じゃあ、北園さんの予知夢は?」


「予知夢は……『予知夢』で」


「なんで!? なんで予知夢だけそのまんま!?」


「なんでだろうねぇ。不思議と、そう呼ばなくちゃならない気がしてね」


 狭山がここまで超能力に詳しい理由を、日向はまだ知らない。狭山も狭山で話そうとしない。ただ、能力の強弱こそあるが、世の中には日向が思っている以上に超能力が使える人間が多いらしい。

 その中には、余所の国でマモノ討伐チームなどに所属している者もいて、狭山もそういった人物たちと何度か接触しているのだという。彼が超能力に詳しいのは、この辺りが関わっているのかもしれない。



 その後、九重老人が作った夕食を食べ終えると、日向は持ってきたゲームで遊んだり、楽な姿勢で横になったりと、ほぼ全く身体を動かすことなくとことん休息した。

『休憩する時はガッツリ休憩する』が、狭山のトレーニングの指針の一つである。彼は、休憩もまたトレーニングの一環だと考えている。質の良い休息は、次のトレーニングの質を高めてくれる。


「今さらですけど、マモノ討伐に行った皆は大丈夫ですかね?」


 居間のテレビのニュース番組を眺めながら、日向が狭山に声をかけた。狭山も、日向の言葉に返事をする。


「あっちには的井さんがオペレーターとして付いてくれている。それとせっかく日本に来てくれたのだから、万が一に備えてミオンさんにも同行してもらってるよ」


「圧倒的安心感……!」


「ミオンさんも張り切ってたよ。『シャオランくんの成長と戦いぶりが生で見れるわ~』ってね」


「……でもシャオランなら『師匠が戦ってよぉ!!』とか言いそうだなぁ」


「あっはははは、絶対言うだろうね」


 歓談を交わす日向と狭山。

 と、ここでテレビのニュースが速報を伝えた。

 四人の少年少女たちが街中に現れたマモノの群れを討伐した、という内容だった。



◆     ◆     ◆



 そして次の日。


 朝食を食べ終えた日向は、さっそくスイゲツとのトレーニングを始める……と思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。狭山が、九重の家がある場所からさらに山の上の方へと日向を連れて行ったのだ。スイゲツは自宅待機である。


 木々に囲まれた山道を歩く二人。

 道はなかなかに急で、険しい。

 一歩一歩踏みしめる度に、体力がすり減らされていくようだ。


「狭山さん、一体どこまで登るんですか?」


「もう少しで到着だよ。……いやしかし、この辺りまで登れば日向くんは息も絶え絶えかと思っていたんだけど、しっかりついて来てるね。日頃のトレーニングでスタミナが鍛えられてきたようだ。やはり人間の努力が実る瞬間を見るのは良いものだなぁ」


「人の努力が好きなのも相変わらずですね」


「ははは、誉め言葉として受け取っておくけど、構わないよね?」


 軽い調子で受け答えする狭山。


 ところで彼は、この7月の半ばという暑い日に、相変わらずの白黒コートを羽織っているが、汗こそかけど息を切らしている様子は全く無い。

 汗をかいているので『涼しい顔』とは言えないものの、山道を歩くその表情はたっぷりの余裕を保っている。つまりこの男、相当なスタミナを持っているということだ。


(以前、スイゲツと戦った時、狭山さんが乱入してきた場面があったけど、狭山さんは流れるような動きでスイゲツの攻撃を回避してみせた。研究畑の人間に見えるけど、狭山さんも実は相当強い人なのかもしれない……。ボール投げるのも上手いし……)


 日向がそんなことを考えているうちに、やがて山の開けた場所に出てきた。周囲に木は無く、明るい砂色の土が、見上げるほど高さの崖となって反り立っている。ここだけ木々ごと山が抉られてしまったのかと思えるような、そんな場所であった。


 そして狭山が日向に振り返り、声をかけた。


「さぁ着いたよ。ここが目的地だ」


「ここは……? ここで一体、何をするんです?」


 ともすれば、少し殺風景でもの寂しく感じるこの場所で、何を始めるのか。日向が首を傾げていると、狭山は少しニヤリと笑って、口を開いた。



「今から日向くんには、君の新しい技である”紅炎奔流ヒートウェイブ”を、とにかくひたすら撃ちまくってほしいんだ」

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