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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第246話 練気法の謎

 シャオランとミオンの特訓も終わり、日向たち五人は、シャオランたちが住む家の縁側でお茶を飲んでいた。


 日向が今飲んでいるお茶は、ミオンがこの家の台所を借りて淹れた烏龍茶だ。彼女はどうやらお茶を淹れるのにちょっとした自信があるらしい。ほかほかの湯気が立ち上り、見るからに身体が温まりそうである。


 この7月にもなった時期に熱いお茶はどうか……と思っていた日向だったが、飲んでみると意外と爽やかな喉ごしで、熱さが暑さを感じさせない。なるほど、ミオンの「お茶を淹れるのには自信がある」という言葉はこういうことなのだろう。


「はぁ……ひどい目に合った……」


 お茶を飲んで一息入れると、シャオランがそう呟いた。確かに今日は、ミオンが来るなり殴られ、投げられ、デコピンで吹っ飛ばされ……シャオランにとっては散々な一日だったかもしれない。


「けど、これで他の練気法を習得する準備は整ったんだろ?」


「うーん……そう言われても、まだどんな呼吸をすればいいのか、どういう風に心を保てばいいのか、そのあたりが全然分からないから、使える自信は全然無いよ……。準備が出来ている感覚さえ無い……」


「それはそうよ~。だってまだ概要部分しか教えてないからね~」


「概要の段階で殴りかかるの止めてくれないかなぁ……! けど、それじゃあ基礎の部分はこれからどうやって習得したらいいの? 師匠、明日には帰っちゃうんでしょ? 教える暇も無いんじゃ……」


「え? そんなこと一言も言ってないわよ~?」


「え? それじゃあ……」


「一週間くらいはここに留まる余裕があるから、しばらくここにお世話になって、その間にシャオランくんを鍛えようかな~って」


「……リンファ、ボク今から旅に出る……一週間は帰らないかも……」


「じゃあわたしもついて行くわ~」


「それじゃあ旅に出る意味ないでしょおおおお!?」


「遠慮しないで~。旅は道連れ世は情けって言うものね~」


「だから意味ないって言ってるでしょおおおおお!?」


 とりあえず、これで一週間はミオンがこの家に滞在することが決まった。シャオランからしたら、決まってしまった、と言うべきだろうか。


 シャオランとミオンの会話が終わったのを見計らって、日向はミオンに一つの質問を投げかけた。


「ミオンさん、聞きたいことがあるんですけど」


「あら、何かしら~、日向くん?」


「練気法って、俺でも使えたりするんですかね……?」


 以前、シャオランは言っていた。練気法はあくまで技能であり、鍛錬を積めば誰でも習得できる可能性があると。しかし、習得にはある程度の適性が必要らしく、結果として人を選ぶ技となっている。


 日向はまだ、自分に練気法の適性があるかどうかは聞いていない。シャオランでは他人の適性を計ることはできないらしく、ミオンならそれが分かるというが……。


「うーん……見た感じ、日向くんじゃ難しそうなのよね~」


「……まぁ、そんな気はしてました……」


 ダメだったようである。


 もしも日向も練気法を習得できていれば、さらなる戦力アップが期待できただろうが、その理想も水の泡となって消えた。


「そもそも、練気法を使う適正って何ですか? 身体がどうなってたら練気法が使えるんです?」


「練気法というのは、呼吸と瞑想を組み合わせて、己の気質をコントロールする力のことよ~。気質とはすなわち精神、あるいは魂。練気法というのは、言ってしまえば魂をコントロールして自分の武装にするようなものなのよ~」


「魂のコントロール……精神面での適正が必要なワケですか……」


「そういうことね~。これはこの星の人間にとっては極めて希少な才能で、もともとシャオランくんにも教えるつもりは無かったんだけど、ちょっと教えてみたらすぐに習得しちゃった。あの子には才能があったのよ~」


「なるほど……ちなみに、自分の他の仲間たちで、練気法を習得できそうな人っていますか?」


「あなたのお仲間さんで言えば、あの北園ちゃんって子が一番適性があるかしらね~」


「え、北園さんが? なんか意外だなぁ……」


「チラリと聞いたんだけど、あの子っていわゆる超能力者なんでしょ~? 超能力もまた魂に起因する力だから、超能力者っていうのは基本的に、魂のコントロールが大得意なのよ~。……もっとも、あの子は武道に関する才能が無さそうだから、習得には数年かかっちゃうでしょうけどね~」


「へぇー……ところで、なんか超能力者に詳しいですね、ミオンさん」


「え、あー、えっと、それはー……」


 今の日向の発言は、何気なく述べた感想だったのだが、なぜかミオンは痛いところを突かれたかのように狼狽えている。


 そしてその横から、狭山が口を開いた。


「超能力者と練気法には、同じ『魂』を扱う能力として、何かしらの関係があるのではないか……という見解が、この二つの能力を知る者たちの間で密かに語られているんだよ。だからその二つを知るミオンさんも、練気法の修練を積む傍らで超能力の研究もしている……そうですよね、ミオンさん」


「あ、そうそう! そうなのよ~! 狭山さん、言ってくれてありがとね~」


 狭山の言葉に、ミオンは大きく頷いた。


 しかし今の狭山の発言は、苦しい状況に陥ったミオンに助け船を出したかのような言葉だった。そこに日向は違和感を感じたが、結局何がミオンにとって都合が悪いのかが分からず、納得のいく答えは出せなかった。


(そこをミオンさんに聞いても、間違いなくはぐらかされるだろうしなぁ……)


 それに、ミオンの隠し事が、彼女にとって都合の悪いものである場合、それをわざわざ暴き立てて彼女をおとしめる必要も無いだろう。日向は、そっとしておくことにした。


「……そういえば、さっきはシャオランの気質が『地と火』だって言ってましたね。そういうの、血液型みたいに皆それぞれ決まってるものなんですか?」


 日向がそう尋ねると、再びミオンは嬉しそうに答え始める。その様子は、練気法に興味を持ってくれたことに感激しているようにも見える。


「そうなの! 決まってるのよ~! その人の性格や性質に合わせて気質の属性は決定されるのよ~! そしてわたしは、他人の気質がある程度分かっちゃうの! だからこれを利用して、ちょっとした占い師の真似事みたいなこともできちゃうのよ~!」


「へぇ……そんなこともできちゃうんですか」


「ええ! 日向くんは……”火の気質”が極めて高いわね~。静かに、しかし激しく燃える、真に熱い炎の性質。もしも練気法を習得できていたら、きっと強力な『火の練気法』の使い手になったでしょうね~」


「俺が火……なんか意外かな……」


「え、そう? ボクは逆に、ヒューガって火のイメージしかなかったなぁ。『太陽の牙』を使ってるからかな?」


「名前かもしれないわよ?」


「”再生の炎”でしょっちゅう燃えてるってのもあるかもね」


「とりあえず皆さんが俺のことを火属性としか思ってないというのはよく分かりました。個人的には、光属性とかカッコいいなー、とか思ってたんですけど」


「わたしの練気法は『五輪の書』の地水火風をパク……もとい、それぞれの気質に合わせて名前を借りてるだけだから、光属性とか闇属性は無いわよ~」


「今またひっどいこと言いかけましたね? ……うん? 五輪の書……?」


『五輪の書』とは、かつて日本に生きたという大剣豪、宮本武蔵が書き記した兵法書である。その名前は密教の五輪から取られており、内容もその五輪にちなんで、地・水・火・風・空の五巻に分かれている。……と、いうことは。


「……ミオンさん。もしかして、練気法にも『空』が……『空の練気法』とかあるんじゃないんですか?」


 今までシャオランやミオンが言及してきた練気法は地水火風の四つのみ。本当に五輪の書から練気法の名前が取られたのであれば、『空』という五つ目の練気法が存在してもおかしくないはずだ。


「あら、良い目の付け所ね~日向くん。あなたの言うとおり、わたしは練気法にもう一つの属性……『空』があると睨んでるわ~。もっとも、わたしでさえそれは理論段階で、当然わたしは使えないし、どんなものなのかも想像がつかないんだけどね~」


「師匠も知らない練気法……そんなのがあったんだ……」


「別に練気法は、わたしが開祖なワケじゃないのよ~? わたしでも知らないことはまだまだあるのよ~。練気法の資料や伝承については、もうこの星には残ってないだろうから、完全に手探りで極めていくしかないんだけどね~」


 シャオランの師、ミオンでさえ知らないことがある謎の武術、練気法。この技能は一体どこからきて、どのようにして伝わったのか。疑問は深まるばかりである。



 気が付けば、皆が次々とお茶をおかわりしてしまったので、すっかり急須きゅうすの烏龍茶は空っぽになってしまった。


「あー、美味しかった。……そういえば、俺ってもともと、シャオランたちの家に何しに来たんだっけ……」


「それをよりにもよって自分の前で言うかい」


「……あ、そうだった。シャオランたちにトレーニングに付き合ってもらうんだった。……狭山さんに言われて」


「そうだったね。ボクもだいぶ体調が回復してきたし、付き合うよ」


「アタシも付き合うわよ! ふふふ、シャオシャオ以外の人と相手するなんて久しぶりだから、気合入るわぁー!」


「せっかく自分も来たんだ、横からクイズを出して日向くんの知力を鍛えよう」


「お、お手柔らかにお願いしますね二人とも……」


 シャオランとリンファ、そして狭山は一足先に縁側を離れ、庭の中央へと向かう。日向も三人を追って縁側を離れようとするが、その時、ミオンが日向を呼び止めた。


「ねぇ、日向くん?」


「え、あ、はい。何ですか?」


「あなたたちが中国に来たあの時、中国で狭山さんと再会したのは、本当に、本当に、久しぶりだったのよ」


「へぇ、そうだったんですね」


「ええ。……あの人は、とても変わったと思うわ。一時期、すごく暗い時期があったんだけど、今はかつての明るさを取り戻しているみたい」


「狭山さんが、すごく暗い時期があったんだ……」


「そうなの。……だから、ね、これからもあの人と仲良くしてあげてね?」


「……はい、分かりました」



 いつになく真剣な口調のミオンに、日向も真剣な声色で返事した。

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