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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第244話 師弟組手

「せりゃあッ!」


 シャオランが師であるミオンに向かって攻撃を繰り出す。

 纏う気質は”地の気質”。


 今回は人間が相手ということもあってか、一撃を重視するマモノとの戦いと比べて、牽制の突きや蹴りなどの小技も仕込み、休ませることなく攻撃を繰り出している。


「ふふふ……」


 しかしミオンは、繰り出されるシャオランの拳を、肘を、蹴りを、全く無駄のない最小限の動きでさばいていく。


 突きを、肘打ちを、手のひらでずらして軌道を逸らす。

 蹴りには足を出して、飛んでくる前に阻止してしまう。


「くっ……!」


 こちらの攻撃が全く通用しない。

 そこでシャオランは、攻め手を変えた。


 シャオランは、攻撃を捌いてくるミオンの両手を叩き落すかのように、引っ掻くような動作でミオンに迫る。八極拳の技の一つ、猛虎硬爬山もうここうはざんだ。相手のガードを崩し、その隙に掌底を叩き込むつもりなのだ。


「良い判断ね~! でも、惜しむらくは力の差よ~!」


 そう言うとミオンは、シャオランが振るう手を、それより早く手を振るって、逆にすべて叩き落としてしまった。


「ま、マズい……!」


 技を防がれたことで、シャオランが無防備になってしまう。

 なんとかミオンから距離を取り、体勢を立て直すべく、苦し紛れに蹴りを放つ。


 しかしミオンは、その蹴りを右足で食い止めて阻止する。そしてシャオランの足ごと、自分の足を地面に突きつけた。

 シャオランの足は、まるでミオンの足にくっついたように離れず、シャオランは前のめりになって体勢を崩してしまう。


「うわわっ!?」


「それっ!」


「うぐっ!?」


 シャオランが体勢を崩した。

 そこにミオンが膝を曲げてシャオランにぶつける。

 軽く当てただけのように見えるミオンの膝。

 しかしその膝は、シャオランをいとも容易く吹っ飛ばしてしまった。


「痛ったぁ……もうやだぁ……」


「まだ始まったばかりでしょ~? ほら、次行くわよ~!」


「わ、ちょっ!?」


 まだ倒れたままのシャオランに向かって駆け寄り、ミオンは攻撃を仕掛けようとする。


 シャオランはミオンを迎撃するかのように、倒れたまま脚を振り回す。ウインドミルか、はたまたカポエイラかのような回し蹴りだ。


 ミオンは寸でのところで止まり、シャオランの脚を避ける。

 そのままシャオランは逆立ちし、立ち上がり、再び拳を構えた。


「本当に容赦ないんだからぁぁ!!」


「うふふ、やるじゃないシャオランくん! 今のはちょっとびっくりしたわ~!」


「そりゃどうも! そのびっくりで心臓発作起こしてボクの勝ちにしてくれないかな!」


「ごめんなさいね~、この程度で発作起こしてポックリ逝っちゃうほど、ヤワな生涯は送ってないのよ~」


「だと思ったよぉ!」


 泣きが入った声になりつつも、シャオランは攻撃を続行する。

 掌底、頂肘、双纒手そうてんしゅと、技から技へと攻撃をつなげる。

 しかしミオンは、相変わらず冷静にこれらの攻撃を捌いていく。

 掌底を逸らし、肘を受け止め、突き出された両の拳を、左右に開くように受け流してしまった。


「今度はこっちの番よ~!」

「ひぃ!?」


 左右に開いたシャオランの腕の中に潜り込むように、ミオンが距離を詰める。そして拳を握り、まるで自転車のペダルが回転するように、超連続でシャオランに殴打を浴びせた。詠春拳の特徴である、縦回転の拳の連打である。


「くぅぅぅ……!」


 シャオランは素早く腕を戻し、ミオンのチェーンパンチを受け止める。ドドドドド、と鈍い欧打音が絶え間なく鳴り響く。一秒の間に七、八発は殴っているのではないかと思うほどのスピードだ。


 そして”地の気質”を纏った彼女の拳は、それだけの速さで放たれているにも関わらず、硬く、そして強烈である。


「くぅぅぅぅ!!」


 たまらず、シャオランは鉄山靠てつざんこうを繰り出した。

 ミオンの連打ごと潰し、力ずくで反撃を浴びせようというのだろう。


 ……しかし、ミオンが一枚上手だった。


 そのタイミングを待っていたかのように、シャオランが鉄山靠を繰り出すと、ピタリと連打を止め、シャオランの側面に回る。


 そしてシャオランの体当たりを避けると、腕を伸ばしてシャオランを絡めとり、そのまま地面に薙ぎ倒した。


「うわぁ!?」


 成す術無く、地面に身を投げ出されるシャオラン。

 うつぶせに倒れ、すぐさま起き上がるべく、上体を起こす。

 その目の前にはミオンの手があった。


 その手は、曲げた中指を親指で押さえ、力を溜めているように見える。

 要するに、デコピンの構えだ。

 しかもそのデコピンは、赤いオーラを纏っている。”火の気質”だ。


「や、やば……」


「ぶっ飛ばしちゃうぞ♪」


 そしてミオンは、シャオランの額を、解き放った中指で打ち抜いた。


 パァン、とデコピンのものとは思えないあまりにも甲高い音が鳴り響き、シャオランが地面を転がっていった。


 五メートルほど転がったところで、シャオランは止まった。

 打ち抜かれた額を押さえ、悶絶している。


 もはやシャオランは戦闘を続行できる様子ではない。勝負ありだ。


「ぎゃああああああ頭が割れるうううううう死んだあああああああ」


「あら、結構強めで打ったんだけど、割と元気そうね~。それだけシャオランくんの”地の気質”が強くなったってことね~」


 シャオランもまた、この組手の最中に”地の気質”を纏っていた。それによって身体が強化され、ミオンのデコピンにも耐え切れたのだろう。練気法が無かったら、あるいは命を落としかねない。それほどの一撃だった。


「し、師匠……今の本当に三割ですか……? 一撃もマトモに当てられなかったんですけどぉ……」


「えーと、実はね、最初はちゃんと三割だったんだけど、戦っているうちに、シャオランくんが強くなっているのが嬉しくなっちゃって、つい興奮しちゃって……五割くらいに……」


「話が違うよぉ!! 慰謝料と治療費を請求しまぁす!!」


「……でも、デコピンなんて非実用的な技をまんまと受けちゃうあたり、まだまだ修行不足ね~。もっとも、今のシャオランくんの戦い方は、マモノ相手の一撃重視になりつつあるみたいだし、一概に悪いとは言えないかしら~」


「慰謝料と!! 治療費を!! 請求しまぁす!!!」



◆     ◆     ◆



 シャオランとミオンの戦いを、リンファや狭山と共に縁側で眺めていた日向。ミオンのあまりの強さに、開いた口が塞がらなかった。


「つっよ……。あれがシャオランの師匠、ミオンさんの実力か……。シャオランが手も足も出ないなんて……。カンフー映画の雑魚キャラみたいに軽くあしらわれちゃったぞ」


「ミオンさんが得意とする流派は詠春拳だけど、他にも様々な流派を一通りマスターしているのよ。アタシの八卦掌やシャオシャオの八極拳も、元はミオンさんから教わったものだしね」


「文句なしのグランドマスターでは?」


「ホントにね。ぶっちぎりの人類最強だと思うわよ、あの人は」


「どうだい日向くん、せっかくだから今日はミオンさんに稽古を受けてみては?」


「い、命のクライシスを感じるので止めておきます」


「命のクライシスって……普通に『危機』じゃダメだったの?」


「な、なんか、動揺したら変な言葉が出た」


 日向たちが雑談に興じるその一方。

 シャオランとミオンも組手の感想を述べている。


「シャオランくんの八極拳も、だいぶ洗練されてきたわね~。あの猛虎硬爬山もうここうはざんとか、良かったわよ~。書文ちゃんにも負けないくらい!」


「書文ちゃんって……李書文? あの人、19世紀の人でしょ? 冗談はやめてよ師匠、実際に戦ってきたかのように言っちゃって……」


「うふふ……なにせわたしは仙人って呼ばれてるからね~。こう見えても、意外と年を取ってるかもしれないわよ~?」


「そう言われると、本当にそうかもと思っちゃうから……」


「さて、それじゃあ次の鍛錬に移りましょうか~!」


「へ? 次の鍛錬?」


 組手だけで終わるかと思っていたシャオランは、予想外の一言に思わず固まる。次いで思い出されたのは、修行時代の苦しい特訓の数々。


「……あああああ!! 頭が割れるぅぅぅぅ!! さっきのデコピンが効いてきたぁぁぁ!! もう休まないとぉぉぉ!! ああああああ!!」


「元気そうね~、良かったわぁ~」


「ダメだ全然聞いちゃくれない!!」


「大丈夫よ~。次の鍛錬は、今までよりは楽だと思うし~。それに、シャオランくんのこれからの戦いにも、とっても役に立つはずよ~」


「い、今までよりは楽……? けど、何をするの……?」


 楽、という言葉に喰いついたシャオランは、かろうじてやる気を取り戻す。



 そんなシャオランに、師は次の鍛錬の内容を伝えた。


「これから、あなたがまだ習得していない、残りの練気法の基礎を教えるわよ~」

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