第26話 また一人、集う
「……超能力も大概だが、お前の能力も凄まじいな。死なないとは、本当なのか?」
日向の能力を聞いて、本堂は驚嘆で目を見開く。
その日向の隣で、北園も嬉しそうに口を開く。
その様子はまるで、自分のことを褒められたかのようだ。
「すごいんですよ日向くん! 雷に打たれても復活したんですよ!」
「それは凄いな。というか、お前も落雷経験者か。親近感が湧くな」
「まずは親近感じゃなくて、雷に打たれた人間が同じ空間に二人いるという異常を感じるべきだと思うのですが」
三人は、自分たちの持つ能力について話し合っていた。
本堂の能力は電気を吸収し、放出すること。
全力で電気を流せば、人間だろうと無事では済まない。
また、電気を飛ばして遠距離攻撃もできるという。
本堂は小中高とバスケットボールをやっていたらしく、反射神経はかなり鍛えられている。事実、昨日のスライムとの戦いでは見事な体捌きを見せていた。
北園も電撃能力を持っているが、いくつか差別点がある。
北園は電気を圧縮してビームのようにして撃てるが、本堂はそれが出来ない。遠距離での火力なら北園に軍配が上がる。
しかし一方で、北園は相手の電撃を吸収する能力は持たない。電撃に耐性を持つのは本堂の特権だ。
(……ここまでまとめて、改めて思う。人間に対する説明文じゃないぞこれ。電撃を操るとか、吸収するとか、ビームにして撃つとか。怪獣図鑑か何かか。人間要素が「バスケ経験者」の部分しかねぇわ)
日向は、目の前の二人の超人を眺めながら、そう思った。
そして今度は、いつの間にか疲労から復活した本堂の妹、舞が興奮気味に兄自慢を始める。
「昨日見せてもらって知ってると思いますけど、お兄ちゃんの電撃は本当に強力なんですよ! コントロールの訓練を重ねたおかげで、能力発現当初より電撃の威力は格段に上がってます! 直に流せば、余裕で人が死にますよ!」
「良い笑顔でなんつー物騒なことを言うんだこの妹さんは」
「直に流すのも強力ですけど、お兄ちゃんにはもう一つ、得意技があるんです! ”指電”って言うんですけどね、指パッチンで電撃飛ばすんですよ! 一見地味ですけど、一発当たるだけで成人男性も再起不能になります! イメージ的には『強烈、巨大な静電気』みたいな? 発生の速さ、威力、連射力、どれをとっても文句なしの優秀な技ですよ!」
「か、解説の仕方がゲームの攻略本みたいだ……。ところで、”指電”とはまたカッコイイ技名ですけど、本堂さんが考えたんですか?」
「いや、舞に勝手につけられた」
「あ、さいですか。……舞さんって、もしかしてそういう二次元的な趣味がおありで?」
「てへへ。実はそうなんですよ。だから、そちらの北園さんが超能力者だって聞いて、私も見てみたいなー、なんて思ってたり……」
舞に話を振られた北園は、得意げな含み笑いを見せていた。
「ほほー、私の超能力に興味がおありですか? ……見せてあげようか?」
「いいんですか? お願いします!」
「りょーかい! じゃ、女子二人はよろしくやっておくから、男子二人も仲良くね!」
「あ、ちょ、え、マジで?」
そう言って女子二人は退席する。
テーブルには日向と本堂が残された。
…………沈黙が続く。
日向も本堂も、もともと口数は少ない方だ。
普段あまり喋らない者同士が残れば、こうなるのは必然。
(…………沈黙が苦しい。何か、何か話題を見つけなければ)
視線を泳がせながら、手ごろな話題を探す日向。
「そ、そういえば、本堂さんは俺の剣に関して何か知りませんか? あの剣によく似た伝説を持つ剣とか……」
苦し紛れの質問だったが、我ながら良い質問ができたのではと日向は思った。医学部を目指す本堂の知識量は、そこらの人間の比ではないはずだ。もしかしたら、本当に何か知っているかもしれない。
「いや、すまんが、俺には分からないな」
ダメでした。
「白状すると、俺は、いわゆるサブカルチャーにはほとんど知識が無い。伝説の剣とか怪物とか、そういう知識では役に立てないと思う」
予想以上にダメだった。
期待に反する結果に、日向は心の中で顔を覆う。
「……とはいえ、それはそれとしてあの剣には興味がある。少し見せてくれ」
「あ、でも今日は持ってきてないから……」
「ふむ? 昨日どこからともなく取り出してみせただろう。今日はできないのか?」
本堂の言葉を受け、日向は昨日の出来事を思い出す。
(そういえば昨日、来いと念じたら来たんだっけ。あの剣。ならば特に断る理由も無いな。昨日と同じように、剣が手元に来るイメージを念じよう。ささやき いのり えいしょう ねんじろー。別に誰も死んじゃいないけど)
すると、日向の手元からゴウッっと火柱が上がる。
「うわ!?」
「む!?」
思わず声を上げてしまう二人。
気が付けば、日向の手には例の剣が握られていた。
「やっぱり来た……。こりゃ楽でいいや」
「いや全く、どうなっているんだ。本当に来るとはな」
驚いた拍子にずれてしまった眼鏡を直しながら、本堂が呟く。
この剣を遠くから呼び寄せると、やはり先ほどのように日向の手から炎が発生して、それが剣の形をとるようだ。
試しに近くに剣を置いてもう一度呼び寄せてみると、剣が燃え出してその姿を消し、次の瞬間には日向の手から炎が発生し、剣が握られていた。
それと、剣を呼び出す際に発生する炎は、どうやら周りを燃やさないらしい。日向は剣をテーブルに置いて呼び出してみるも、テーブルに焦げ跡などは全くなかった。
だが確かに、呼び出す際に周りを燃やしていれば、剣を置いていた日向の家は昨日の時点で黒焦げになっていたに違いない。つくづく不思議な剣である。
「そういえばその剣、お前以外には触れないんだったか」
「そうらしいです。他の人が触ると熱くなるらしくて。触ってみます?」
「ふむ。なら少し指先で……。あっつ」
剣に触れた指先を引っ込める本堂。
やはり彼でもこの剣は触れないらしい。
…………………再び沈黙が訪れる。
(次、次の話題は何か無いか……!? 何か無いのか……!?)
必死に話題を探す日向。
「そ、そういえば今日は予備校は休みだったんですね?」
「ああ。週に一日はこうやって余裕のある日を作るようにしている。流石に毎日勉強漬けでは、モチベーションを維持するのも大変だからな」
「なるほど。ところで、志望校はどこなんです?」
「東大医学部だが」
「最難関じゃないですか」
これはパーティの頭脳役として申し分ないぞ、と日向は思った。
電撃能力と優れた反射神経に身体能力、そして豊富な知識。
これがマモノとの戦いにおける本堂の力になりそうだ。
と、ここで北園たちが姿を見せる。
「お兄ちゃん、聞いて! 北園さんってばすごいのよ! 手から炎を出したり氷を出したり、触ってないのに物を宙に浮かべたりするの!」
「そうか、それは良かったな」
「いやー、こんなのでここまで喜んでくれるなんて、私も嬉しいなぁ」
どうやら北園と舞はすっかり仲良くなったようだ。
ちなみに舞は日向と北園の一つ下。
だが身長は北園より高めだ。160センチくらいだろうか。
傍から見ると、どっちが先輩でどっちが後輩か分からなくなりそうである。
「もっとも、周りの女子友達たちには『女の子っぽくないから』という理由で、その手の趣味を隠しているらしいがな。これからも仲良くしてくれると、舞も喜ぶと思う」
「もちろんですよ! 舞ちゃん、次はもっと面白い能力見せてあげるよ! 私の手を握ってみて?」
「お前それは、電撃バチィはやめなさい!」
「ちょっと日向くん、ネタバラシは良くないよー?」
北園の凶行を止めようとする日向。
日向たちの12月30日の日常は、騒がしくも和やかな空気に包まれていた。
◆ ◆ ◆
「次は、十字。十字です。長らくのご乗車、お疲れさまでした」
高速バスのアナウンスが流れる。
「……はぁ、やぁっと着いたか。長旅ってのは疲れるねぇ」
そう呟いたのは、バスに乗っている細身の中年男性だ。
「やれやれ、もう年末年始だというのに、こき使ってくれるよ」
男の名前は倉間 慎吾。防衛省情報部が新設した、マモノ対策室に所属するエージェントだ。今回の彼の任務は、十字市でのマモノ出現に関する調査である。
現在、マモノは世界中で目撃されており、その発見報告も毎日のように上がっている。日向たちが住む十字市は、ここ数日で何度もマモノ発生の報告が続くが、それ自体は珍しいことではない。異常なのは、それらのマモノ全てが、何者かによって倒されているということだ。
マモノは強い。
討伐には銃火器が欠かせない。
特に、マモノを統べる強大な個体―――『星の牙』と彼らは呼んでいる―――は、銃火器を使っても簡単には倒せないほどである。
それが、一般人は銃の所持すら認められていないこの国で、何者かが『星の牙』たるマモノを倒している。
一体、十字市で何が起こっているのか。
それを調べるのが倉間に与えられた役目である。
「せっかくの年末年始を潰されたんだ。何か成果があるといいんだけどねぇ」
そんなことを考えているうちにバスは終点に到着した。
倉間はバスを降り、まずは寝泊まりするホテルを目指して歩き始めた。




