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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第236話 虫マンション探索完了

「……という感じだったんですけど、どうですかね、狭山さん?」


 マモノ対策室十字市支部のモニタールームにて。

 モニター前の席に座りながら、日向が狭山に尋ねた。

 シルフィードラゴニカを倒すために立てた作戦を明かし、狭山に感想を求める。


「……うん。さすがだよ日向くん。自分の眼に狂いは無かったようだ」


「もっとも、狭山さんがいたからこそ、好き放題に作戦を立てることができたんですけどね。狭山さん、途中から静かになってたあたり、シルフィードラゴニカの対抗策を既に考えていたんでしょう? それで、有事の際は自分で指揮を執るつもりだったのでは? あのスピードを見ても、終始余裕の表情でしたし」


「はは、そこもバレてたのか。けどね、自分の作戦と君の作戦は、ほとんど違いは無かったんだ」


「え? そうだったんですか?」


「うん。自分の場合、足止めには日影くんを使い、本堂くんに隣の部屋から高周波ナイフを投げさせて、壁越しにシルフィードラゴニカを切り裂く作戦だった。日影くんの”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”と比べると命中率に不安が残るけど、決まればまず確実に仕留めきれる」


「あー、たしかに日影の”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”で仕留めきれるかどうかは、かなり不安でしたね……。なにせ壁越しでしたし」


「まぁ、そこは本堂くんが上手くカバーしてくれて、結果的に君の作戦で正解だったのかもね。……最後に日向くん、一つ聞いてもいいかい?」


「いいですよ。なんですか?」


「わざわざ北園さんに、精神感応テレパシーで本堂くんへ起爆タイミングを教えさせたのは、何か理由があったのかな?」


 そう聞かれた日向は、なぜそんなことを聞かれたのか疑問に思いながらも返答。


「あー、アレですか……。いや、シルフィードラゴニカって、気流を読んで攻撃を避けるんでしょ? それだけ鋭い感覚を持っているなら、下手するとこちらと本堂さんの通信の音も、ヤツなら拾えるんじゃないかと思いまして。そうしたら情報が漏洩して作戦がパーになってしまう。だから、音漏れの心配が無い北園さんの精神感応テレパシーに頼りました。……ちょっと心配性かもしれませんけどね」


「ほぉ…………」


 日向の答えを聞いた狭山は、押し黙ってしまった。

 それを見た日向は、間違ったことを言ってしまったかと不安になり、狭山に声をかける。


「……さ、狭山さん? どうしたんですか黙り込んで……」


「……驚いた。正直、想像以上だったな……」


「へ?」


 それは、本心から出た言葉だった。

 狭山もまた、その可能性を考慮し、同じように北園に頼るつもりだった。


「まさか、そこまで考えていたとは思わなかったよ日向くん。君の観察力やひらめきが優れているのは分かっていたが、その実力を計り違えていたかもしれない」


「い、いやその、まぁ、調子が良かったんでしょう!」


 謙遜する日向だが、これは紛れもなく彼の実力。

 この少年、戦闘における発想力は、既に自分に迫りつつあると狭山は思った。


 この才能を突き詰めていけば、一体どこに行き着くのか。

 狭山は、それが楽しみで仕方なかった。


「……さて、日向くん。今回、君には一日、オペレーターを体験してもらったワケだけど、これには『マモノの動きを集中して見てもらい、観察力を鍛える』狙いと、作戦前に少し話したとおり『仲間たちの動きをよく見て、的確に指示を出す能力を鍛える』狙いがあったんだ」


「まぁ、そんなところだろうと思いました」


「そこまでは分かってるようだね。……それで、この二つの要素が重要になるチームの役割と言えば、何だと思う?」


「え? えーと……あー……『チームのリーダー』とか?」


「おお、正解。つまり『司令塔』だね」


 狭山の答えを聞いた日向は、一瞬だけ固まった。

 それから恐る恐る、狭山に尋ねてみる。


「……あの、それってつまり、俺を司令塔に仕立て上げようとしてます?」


「うん。そうだよ」


「『そうだよ』って……そういうのは年長者の本堂さんとか、行動力のある日影とかにやらせるべきでは……? なんで俺が……?」


「日影くんは、考えるより先に突撃するタイプだ。彼は人を動かすよりも、自分から突っ込んでいく方が性に合っていると思う。状況に応じて皆に指示を出してくれることはあるみたいだけどね」


 確かに今回の討伐において、三人の中心となって皆を引っ張ったのは日影だった。しかしそれ以外の戦いでは、彼は大抵の場合、我先にとマモノに突撃していく。マモノを仕留める策というのも、あまり皆に提案したことはない。彼の適任は、司令塔というより切り込み隊長だ。


「本堂くんは……確かに彼も、その気になれば見事なリーダーシップを発揮し、君たちをまとめ上げてくれるだろう。しかし対マモノ戦において、作戦立案の精度とスピードは君に分があると自分は見ている。今回の戦いじゃないけれど、戦闘においてスピードは大きな強みとなる。よって自分は、本堂くんより君を推したいね」


「俺の対マモノ戦における思考力は、東大医学部受験生より優れていると? ……うーん、実感が無い……」


 日向がマモノ災害に身を投じた、最初の頃。

 あの時は、優秀な頭脳を持つ本堂を、チームのブレインに置くつもりだった。


 しかし、そのポジションは本堂より日向が合っている、と狭山は言う。

 人生とは、分からないものである。



◆     ◆     ◆



「……あの”暴風トルネード”が負けたか」


 日影たち三人が戦った廃マンション、その一キロ以上先にある別のマンションの屋上にて。


 アンテナの上に停まり、戦いの顛末を見ていたのは、星の巫女の側近たる鮮やかな赤い鳥のマモノ、ヘヴンである。


「今回のマモノたちは、貸し与える星の力を増量させていた。しかし、それでも連中は難なく勝利したか。それも、フルメンバーではないたった三人でだ」


 先日、日向たちは十字市中心街にて、多くの『星の牙』を仕留めた。その中には、マモノ陣営の大物、キキも含まれていた。もはや、今の量の星の力では、マモノは人間に勝てなくなるかもしれない。


 そこでヘヴンは、星の巫女に直談判し、マモノたちに与える星の力の量を、実験的に増やしてもらった。今回のブラッドシザーやホワイトリッパーが妙に強かったのは、これが原因だ。


 ブラッドシザーはさらなる進化を経て、甲殻がある程度発達し、電波を弾く性質を手に入れた。ホワイトリッパーは、純粋に鎌の切れ味が向上した。



「……連中を侮っていたワケではないが、これはもう少し星の力を増やしてもらっても良いかもしれんな」


 そう呟くと、ヘヴンはアンテナの上から飛び去っていった。



◆     ◆     ◆



「よっしゃ、今回も無事に終わったな。お疲れさん!」


 日影が北園と本堂、ついでに通信機の向こうの日向に声をかけた。


 残存していたマモノたちを駆除し終えた三人は、廃マンションを出て、エントランスの前に集まっていた。これにて今回の任務は終了だ。


「さて、もう時刻は昼を回っているか。どこかで飯でも食っとくかな……」


「日影くん。私、クリームのおいしいケーキが食べたいな」


「ああ、そういえばそういう約束だったな。いいぜ、買ってやるよ」


「やったー!」


「さばぬか」


「……けどその前に、ちゃんとした服に着替えて来いよな」


「……あ、そうでした」


「つーワケで、悪いな日向。北園は借りてくぜ」


『い、いや、別に北園さんは俺のじゃないし、どうぞ二人でごゆっくり……』


「日向くん。今度は日向くんと二人でケーキ食べに行こうね」


『え!? ……あ、うん、北園さんが良ければ!』


「うん! 約束だよ!」


「さばぬか」


『日影くん。できればブラッドシザーを回収して帰って来てくれると嬉しいんだけどなー。今回の個体に何が起こっていたか、サンプルを取らねば』


「狭山お前、あのデッカイ虫の死骸を運びながら、北園のケーキを買いに行けっつーのか……? そうでなくとも、あの虫を運びながら街の中歩いて帰るだけで、悲鳴が飛び交うことになるぞ」


『やっぱりそうだよねぇ……。面倒だけど的井さんに頼んで、車を使ってこちらで回収するか……』


「ああ、そうしてくれ。ぶっちゃけ、こっちもあのキショイ虫を持って歩きたくないからな」


「さばぬかっ!!!」


「うるっせーな! 分かってるから黙ってろ本堂! 途中で見かけたら買ってやるから!」


「よっしゃ」


「ったく……戦闘の掛け声以外で本堂があんなに声出してるの、初めて聞いたかもしれねぇぞ……」


「舞ちゃんから聞いたけど、本堂さん、サバのぬか炊き大好きらしいからねー」


「限度があるだろ限度が……」


 呆れながら歩く日影。

 その隣を歩く北園。

 二人の後ろについて行く本堂。



 ……と、その時だ。

 日向から通信が入った。


『さ、三人とも! ちょっと待って! マップにマモノの反応が! 本堂さんに重なってるみたいだ!』


「はぁ!?」

「えっ!?」

「む。」


 一体それはどういうワケか。

 とにかく日影と北園は、本堂を調べ始めた。


 そして、その原因はすぐに突き止めることができた。

 本堂の背中に、一匹のソニックブンブンゼミが引っ付いている。


 三人に見つかったソニックブンブンゼミは、ミィ~と音を発し始める。

 腹部が、羽が、細かく振動し始める。



――鳴くぞ。すぐ鳴くぞ。

  絶対鳴くぞ。ほら鳴くぞ。



 日影と北園は、急いでソニックブンブンゼミを止めようとした。


 ソニックブンブンゼミが背中に引っ付いている本堂は、全てを諦めて耳を塞いだ。


 モニタールームの日向は急いでヘッドフォンを外そうとするが、時すでに遅し。


 ちなみに、狭山はもう既にヘッドフォンを外していた。



「ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ィ!!!」

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