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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第234話 シルフィードラゴニカ

 虫のマモノの巣窟と化した廃マンションにて。


 日影たちが対峙するのは、電撃をも避けるスピードを誇るトンボ型のマモノ、シルフィードラゴニカ。今は壁に止まってジッとしている。


『シルフィードラゴニカは”暴風トルネード”のマモノだ! 気流を読んで自身への攻撃を避けるだけでなく、さっきみたいに風の刃を操ることもできる! そのスピードは、アサルトライフルの集中砲火も全弾(かわ)しきるんだとか……!』


「納得だぜ。あの野郎、本堂の”指電”を、発射されてから避けやがったからな」


「ブゥゥゥゥン……」


 シルフィードラゴニカが、再び飛行を始めた。

 日影たち三人を品定めするかのように、凝視しながら滞空している。


『シルフィードラゴニカは『星の牙』だけど、身体が小さいぶん、生命力も『星の牙』としては相当低いらしい。恐らく、日影の『太陽の牙』を一太刀でも浴びせることができれば、一気に決着を付けられるぞ』


「なるほどな。だったら、ここはとにかく攻めて攻めて攻めまくるぜ! 

 ……再生の炎、”力を此処に(オーバードライヴ)”!!」


 叫ぶと同時に、日影の身体が紅蓮の炎を上げる。

 ”再生の炎”が活性化し、身体がパワーで満ちていく。


 本堂も”迅雷”を発動し、北園も発火能力パイロキネシスの火球を生み出す。シルフィードラゴニカに総攻撃を仕掛け、速攻でカタを付けるつもりだ。


「おるぁッ!!」


 日影が燃え盛る『太陽の牙』を振るう。

 長く、重量のある剣を、一呼吸の間に二度も振るった。

 紅い剣閃がバツの字を描く。

 しかし、シルフィードラゴニカにはかすりもしない。


「チッ、外した……! 本堂、カバー頼む!」


「任された。……はっ!!」


 日影の攻撃を避けた隙を突いて、本堂がシルフィードラゴニカに斬りかかる。しかし、これもまた回避される。

 初撃が避けられたと見るや、本堂は左の手で”指電”を放つ。間髪入れず撃ち出した電撃を、しかしシルフィードラゴニカは余裕で避けてしまう。


「しまった、北園、そっちに来るぞ!」


「りょーかいです! ……やぁっ!!」


 今度は北園が、シルフィードラゴニカに向かって火球を撃ち出した。爆炎による面の攻撃は、さしものシルフィードラゴニカといえど、そう容易く避けられるものではないハズだ。


「ブゥゥゥゥン……」


 ……しかし、ダメだった。

 シルフィードラゴニカは、爆炎を大きく迂回するように飛行すると、そのまま北園に接近してくる。その羽は、薄く緑色に発光している。


「あ、速い……!」

「ブゥゥゥゥン……!」


 恐るべきスピードで北園との距離を詰めたシルフィードラゴニカは、そのまま北園の足元から首元にかけて宙返りするように飛行し、『風の斬撃エネルギー』を纏った羽で切り裂いてきた。


「きゃあっ!?」

「しまった、北園っ!」


 シルフィードラゴニカに切り裂かれた北園は、背中から床に倒れてしまう。北園への攻撃を許してしまい、日影が北園の名を叫ぶ。


 ……だが、北園は手を挙げて、日影の呼びかけに応えた。

 怪我を負っているようだが、どうやら無事のようだ。


「だ、大丈夫だよ、日影くん! ギリギリのところで後ろに下がったから、かすり傷だけで済んだみたい!」


「そ、そうか、よかった……」


「……だが、服は無事じゃなさそうだぞ」


「え? ……あー」


 北園は、暴風と共に切り裂かれた。幸い、北園自身は軽傷で済んだが、衣服は無残に切り裂かれている。例えるなら、ソシャゲーの中破絵のような惨状になってしまっている。健康的な腹部が露わになり、ちょっと動くと上の下着が見えてしまいそうだ。


「うわ、わ、悪い、北園、あまり見ないようにする……」


「う、うん、大丈夫だよ、日影くん。……けど、やっぱりちょっと恥ずかしいかな……」


 照れくさそうに両手で前を隠し、前かがみになる北園。


 一方のシルフィードラゴニカは、しばらくの間天井に留まると、近くのドアが開いていた個室に入っていった。今なら周囲にはマモノはいない。体勢を立て直すチャンスだ。


「ほ、本堂。その上着を北園に貸してやれよ」


「もういいのか? 北園のセクシーショットだぞ?」


「良いから貸せ馬鹿! ……ほら北園、これ羽織っとけ」


「う、うん。ありがとう、日影くん、本堂さん」


「おう。……ま、まぁ、災難だったな」


「日影に身ぐるみ剥がされた。訴訟も辞さない」


 北園も自身に治癒能力ヒーリングを使い、傷の手当てをする。

 体勢を整え終えると、三人はシルフィードラゴニカが入っていった個室へと向かう。


「野郎、ふざけたマネしやがって。地獄に叩き落してやるぜ……」



◆     ◆     ◆



「おーい日向くん、大丈夫かーい?」


「…………はっ!?」


 マモノ対策室十字市支部のモニタールームにて。

 狭山の呼びかけで、日向は我に返る。

 モニターに映っていた、あられもない北園の姿を、食らいつくように見ていた。


「い、いやあの! き、傷の具合を見てました! い、異常なーし!」


「そっかそっか。……ところで日向くん。このマモノ討伐映像のデータはね、君たちのスマホに転送することも可能なんだよ」


「え。」


「どうする? ()()()()()()()()になるかもしれないし、動画にして送ってあげようか?」


「あの、い、いや! 大丈夫です! 俺はそんなセコイ真似はしないっ!」


「健気だねぇ」



◆     ◆     ◆



 視点は戻って廃マンション。

 体勢を整えた三人は、意を決してシルフィードラゴニカが入っていった個室へと侵入する。


「……いた!」


 シルフィードラゴニカは、廊下を抜けた先、リビングの窓に張り付いていた。侵入してくる三人を見るや否や、壁から離れて風の刃を放ってきた。


「おっとぉ!」


 日影が『太陽の牙』の腹で、薄緑の風の刃をガードする。

『太陽の牙』は、星の力が生み出すエネルギーに強い。風の刃は一瞬で霧散した。


 そのままリビングへと押し入る三人。

 このマンションのリビングは、そこまで広くはない。

 三人と一匹が動き回るには、少しばかり狭すぎる。


「何の考えも無しに、三人揃って突入するのは失敗だったかね……」


「日向。何か策は無いか? 闇雲に攻撃を仕掛けても、ヤツに命中させるのは難しそうだ」


『うーん、無いことはないんですけど……』


 本堂の言葉を受け、通信機の向こうの日向が思案に没頭し始める。


 動きが極端に速い敵、というのもゲームや漫画ではお約束だ。

 そして、作品の数だけそのスピードを捉える方法がある。

 日向は、自分が知る限りの方法を、脳内に次々と羅列していく。


(散弾銃があれば、あのスピードで動くシルフィードラゴニカにも当てられるかもしれないけど、そんなものは無い。だったら、通路に罠を張って、シルフィードラゴニカ自身に突っ込ませるか? 切れ味のある細いワイヤーを蜘蛛の巣状にしてやれば……いや冷静になれ、ワイヤーはどこから持ってくるんだ。よって罠も駄目だ。じゃあ部屋ごと北園さんの”氷炎発破フュージョンバスター”で吹っ飛ばすのは……三人や周囲の住宅にまで被害が及びかねないな。論外)


 なかなか良い案が思い浮かばない日向。

 だがそれでも、なんとか一つ、策を考えついた。


(あとは、誰をどうやって動かすか、だな。日影でも本堂さんでも任せることはできるけど、あからさまに二人を動かしたら、シルフィードラゴニカにこちらの作戦を感知されるかもしれない。マモノは人間と大して変わらない知性を持つからな……)


 この作戦は、そう何度も試せる代物シロモノではない。

 バレてしまったら、もうお終いだ。

 故に慎重にならなければならない。敵に感知されてはいけない。

 異能力バトルとは、そういうものだ。


 と、その時。


「ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ミ”ィ!!」


「ぐわぁっ!?」

「きゃあああ!?」

「ぬっ!?」

『おあああああ!?』


 三人の背後から、大爆音が叩きつけられた。

 思わず耳を塞ぎ、うずくまる三人。

 部屋の窓ガラスに、ピシリと亀裂が入る。


 ついでに、三人と通信をつないでいた日向にも被害が及ぶ。

 日向の隣の狭山は、すでにヘッドフォンを耳から外していた。


 音の正体は、ソニックブンブンゼミだ。三人がくぐってきたリビングと廊下をつなぐ入り口、その近くの天井に張り付いていたのだ。そして三人がやって来たら、強烈な鳴き声を浴びせてきた。


「やかましい……!」


 すぐさま本堂が”指電”でソニックブンブンゼミを撃ち落とす。

 黒焦げになったソニックブンブンゼミが、ボトリと床に落下した。


『けど、ソニックブンブンゼミの鳴き声は、周囲のマモノたちに外敵の存在を知らせる警報になる!』


 日向の言葉を受けた三人は、すぐさまマップを確認する。

 確かに、周りから多数のマモノの反応が、この部屋目指して集まってきている。このままでは挟み撃ちだ。文字通り、虫にたかられることになる。


「ど、どうするの!? 日向くん!?」


『そ、そうだな……。まず、日影と北園さんは部屋の外に出て、部屋の外から来るマモノを迎え撃ってほしい』


「り、りょーかい!」


「任されたぜ。……それで、本堂はどう動かすんだ?」


『本堂さんは……ここでシルフィードラゴニカを一人で足止めしてほしい』


「おいおい、マジかよ!」


 日向の言葉を聞いた日影が声を上げた。本堂のスピードは大したものだが、シルフィードラゴニカはさらにその上を行く。三人相手でも捉えられない相手をたった一人で抑えるなど、相当な無茶ぶりだ。


 いくらマモノの集結を阻止するためとはいえ、ここで戦力を分散させるのは、日影から見ると愚策にしか感じなかった。


 そして、当の本堂は、日向に声をかけた。


「日向。お前のその作戦を実行したら、勝てるんだな?」


『まぁ、決着までは行けないかもですが、勝利には大きく近づくと思います』


「よし分かった。それで行こう」


 日向の言葉を聞いてすぐに、本堂は”迅雷”を発動した。やる気だ。

 全身が蒼く発光し始める。ビリビリと稲妻が走る。

 そしてそのまま、日影と北園に声をかけた。


「日影。北園。そういうワケで、ここは俺が引き受けた。お前たちは部屋の外を頼むぞ」


「日向の奴が何考えてるのかは知らねーが、分かったぜ」


「む、無理はしないでね、本堂さん!」


「承知した」



 部屋から出ていく日影と北園の背を見送る本堂。

 それが終わると、改めてシルフィードラゴニカに向き直る。

 最速対最速の戦いが、幕を開けようとしていた。

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