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第211話 援軍到着

「ご覧ください! 十字市中心街は現在、マモノの襲撃を受けております! 中心街は、未曽有の混乱に陥っております!」


 テレビ局のヘリが、十字市中心街の上空を飛び回り、その中でレポーターが中心街の現状を伝えている。ビルが並ぶ街並みの、至る所から黒煙が立ち上っている。尋常ではない光景だ。



 この報道は十字市だけでなく、全国各地、さらには世界中に放映された。

 ニュースを見た者たちは、誰もが息を飲んで、この街の行く末を見守ったという。



◆     ◆     ◆



「……よし。ここまで来たら安全ですよ」



 警官隊に連れられて、生存者たちが中心街の外へと誘導されている。

 その中には、日向の母の姿もあった。


「日向……」


 街の方を、心配そうに見つめる日向の母。

 ……と、そこへ、誰かの話し声が耳に入ってきた。


「わたし、見たんですよ! 高校生くらいの男の子が、剣を持ってマモノを倒していたんです!」


「ワシも見たぞ! というか、変なウサギの群れにボコボコにされていたところを助けてもらった!」


「マモノ対策室には少年少女のチームがある、とかいう都市伝説を聞いたけど、あれってマジだったのか?」


「誰か、スマホで写真撮ってねーの?」


「アタシ、一応撮ったんだけど、映ってないのよ……。おかしいなぁ」


 人々の声を聞いた日向の母は、今にも泣きそうな表情をしていた。感動のあまり、打ち震えているのだ。 


「ああ、日向……」


 自分の息子が、こんなにも大勢の人間を救ったことに感銘を受けていた。そして、日向の母は、思わず叫んだ。


「私も! 私も見ました! 高校生の男の子が、戦っているところを!」


「やっぱりか! やっぱりいるんだな! この街を救う為に戦ってくれてるヒーローが!」


「ええ! だから皆で祈りましょう! あの子の無事を……!」


 日向の母の声を聞いた人々は、神妙な面持ちで、煙が立ち上る街を見る。この街を救わんとする勇者の、勝利を祈って。



◆     ◆     ◆



 一方、こちらは狭山と的井。

 二人は中心街の一角の路地裏にて、マモノの群れと対峙していた。


 二人は互いに背中を合わせつつ、迫りくるマモノたちを対マモノ用デザートイーグルで的確に撃ち抜く。


「いやホント、頼りになるなぁ的井さんは」


「そう言う狭山さんだって相変わらず、虫も殺さないような表情で、じつに容赦の無い狙い撃ちですね」


「まぁ、やらなきゃやられるし、取り残された人々も助けないとね。っと!」


 狭山に向かって大型のカエルのマモノ、ビッグトードが飛びかかってくる。そのビッグトードの頭部に、強烈な弾丸を叩き込む狭山。

 ビッグトードはもんどり打って地面に墜落し、狭山はさらに二発、ビッグトードの頭部に銃弾を撃ち込んでトドメを刺した。


 その狭山をカバーするように、群がるマモノたちに向かって発砲する的井。

 そんな彼女の右方向から、一匹のラビパンが耳拳を振りかぶり、飛びかかってきた。


 しかし、的井はその場でターンするようにラビパンの耳拳をいなす。ラビパンは勢い余って、的井の傍を通り抜けてしまう。


 そして逆にラビパンの背後を取った的井は、ラビパンの後頭部に銃弾を叩き込んで即死させた。


 狭山も的井も、元は防衛省情報部の人間だ。今でこそ予知夢の五人の後方支援に従事しているが、このように一定の戦闘技能くらい当たり前のように会得している。


「シャアアアアアアアッ!!」


 三つ首の植物のマモノ、トライヘッドが狭山目掛けて首を伸ばし、噛みつこうとする。


 だが、狭山はこれをいたって冷静に対処する。


 まずは半歩だけ退いてトライヘッドの攻撃範囲の外に出ると、高周波ナイフを一本取り出す。本堂が使っているものと同型のナイフだ。そして狭山は、それをトライヘッド目掛けて投げつける。


「植物のマモノは、根元を狙えば一気に崩せる」


 その狭山の宣言通り、トライヘッドは投げつけられたナイフによって根元から断ち切られる。三つの頭が揃って地面に落ち、ビチビチと動いた後に、動かなくなった。


 今度は三体のダンガンオオカブトが、三匹一斉に羽を羽ばたかせる。その真っ直ぐな角は、三本とも狭山に向けられている。三匹揃って体当たりを仕掛けてくるつもりだ。


 そのダンガンオオカブトが動かぬうちに、即座に三発の銃弾を放つ狭山。ダンガンオオカブト一匹につき一発、銃弾が撃ち込まれる。


 銃弾の狙いは正確無比。

 ダンガンオオカブト三匹は、頭部を撃ち抜かれて息絶えた。


「ダンガンオオカブトは、突進する際、標的の方を真っ直ぐ向いて二秒ほど羽を羽ばたかせる。その間なら、デザートイーグルの良い的だ」


 ダンガンオオカブトたちを仕留めた狭山は、空になった弾倉を捨て、新しい弾倉を装填する。マガジンがガチャリと正しくセットされた音、スライドがジャキンと元の位置に戻る音が小気味よく響き渡る。


「これでここら一帯は片付いたかな」


「そのようですね。もうそろそろ、呼んでおいた自衛隊、およびマモノ討伐チームが到着してもいい頃でしょう。私たちは一旦後方まで退き、作戦指揮に戻るべきかと」


「異議無しだ。では早速……」


 そう言って狭山と的井がきびすを返そうとした、その時である。


「キシャアアアアアッ!!」

「おっと!」


 突然、目の前のコンクリートでできた地面が盛り上がり、その下から光沢を放つ土色の怪物……ワームが飛び出してきた。


 ワームは飛び出てきた勢いそのままに狭山へ噛みつき攻撃を仕掛けるが、狭山は「知ってました」と言わんばかりに後ろへ下がって回避する。


「大丈夫ですか、狭山さん!?」


「うん、なんとか。しかし、これはちょっと骨だね……」


 げんなりした様子で呟く狭山。

 二人の目の前では、至る所から別のワームが飛び出てきて、狭山たちの行く手を塞いでしまった。


「まだ手榴弾が残ってますが、使いますか?」


「……いや、その必要は無さそうだ」


 狭山がそう言ったその瞬間、どこからともなく銃声が鳴り響き、目の前にいたワームの群れがあっという間に蜂の巣になってしまった。


 集中砲火を受け、血の海に沈むワームたち。

 狭山が見上げれば、建物の上から特殊装備に身を包む人間たちが、こちらを見下ろしていた。


「彼らは、討伐チームの……」


「ああ。無事に駆け付けてくれたみたいだ」


 狭山たちに援護射撃を行ったのは、マモノ討伐チームの人間たちだった。彼らはワイヤーを使って建物から降りてきて、狭山たちの前に集まる。


 その中の隊長と思わしき人物が、狭山の前に歩み出て、敬礼した。


 このチームの隊長は、屈強な男たちを従えている割には、まだ年若い印象を受ける。

 背中には、先ほどの銃撃によっていまだに熱を帯びる対マモノ用アサルトライフルと、木目のストックが美しいライフル銃を背負っている。麻酔弾を装填できるタイプのライフルだ。


「狭山さん、ご無事で何よりです!」


「うん。おかげで助かったよ。これより自分たちは後方に戻り、指揮に集中する。現場は君たち実働部隊に任せた」


「分かりました!」


「目標は、一に生存者の救出。二にマモノの駆除。特に君たちには『星の牙』などの強力なマモノを優先して狙ってもらいたい。それと、例の『予知夢の五人』もこの街で戦っている。彼らを見つけた場合、必要であれば援護を頼む」


「はっ!」


「……君には、復帰早々こんな過酷な戦闘に引っ張り出してしまって、正直申し訳ないと思っている。もう、大丈夫そうかい?」


「ええ。全てを忘れたワケではないですし、忘れるワケにもいかないですけど、なんとか振り切れましたよ。それに、街と人々が襲われているんです。いつまでもクヨクヨしてはいられません」


「さすが、自分が見込んだだけのことはある。では、頼んだよ!」


「はっ!」


 年若い隊長は、再度狭山に敬礼すると、部下の男たちを引き連れて、戦場と化した街へと向かっていった。


「よし。現在時刻、十三時〇〇分(ヒトサンマルマル)

 雨宮班、これより作戦行動を開始する!!」


「「「ラジャー!!」」」



 部隊を率いる隊長は、壊滅した松葉班の唯一の生き残り、雨宮隊員であった。

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