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第207話 本堂VSカブトリビュート

「シャアアアアアアアッ!!」


 十字市中心街のアーケード街にて。

 ここで戦うのは本堂とカブトリビュート。


 カブトリビュートは刃のような触手を振るい、本堂に襲い掛かる。

 上下左右から襲い掛かる触手は、相対するものを圧倒する。

 オマケにカブトリビュートの触手には神経性の毒があるのだ。

 かすり傷でさえ命取りになるだろう。


「ふん」


 ……しかし本堂は極めて冷静だった。


 まだ”迅雷”を使っていないにも関わらず、触手の軌道を見切り、両手に持った高周波ナイフで受け止め、弾き、逆に斬り飛ばす。そしてお返しに左手に持ったナイフを投げつけるが、これは別の触手にはたき落とされてしまった。


「ちっ。そう上手くはいかんな」

「シャアアアアッ!!」


 新しいナイフを取り出しながら、ぼやく本堂。

 今度は隙を見て、遠距離から”指電”を繰り出す。

 親指と中指をこすり合わせ、塊のような電撃を発射する。

 電撃はカブトリビュートの身体に命中するも、あまり効いている様子は無い。


「シャアアアアアアアッ!!」


「ふむ……。地面にまでつながっているアイツの根っこが、アースの役割を果たしている、といったところか? 厄介な話だ……」

 

 本堂が呟いている間にも、カブトリビュートは触手を振るってくる。


 この戦いの舞台であるアーケード街は、それなりに横幅はあるものの、やはり狭い。カブトリビュートの側面に回り込みながら戦闘するのは無理がある。そのため、必然的に正面から挑むしかなくなってしまう。


 それでも本堂は、カブトリビュートと真っ向からやり合ってみせる。襲い来る触手を必要最低限の動きで躱し、いなし、斬り飛ばす。触手を切り裂くたびに、カブトリビュートの毒々しい体液が飛散する。


「シャアアアアアアアッ!!」


 怒りのためか、それとも威嚇のためか、カブトリビュートは、頭部にあたるであろう中央の花弁を開いて威嚇する。紫色の花弁の内側には、鋭い牙がびっしりと生えている。


 その口の中に、本堂は容赦なく電撃を飛ばした。


五月蠅うるさい」

「グギャアアアアアアアッ!?」


 カブトリビュートが叫び声を上げる。悲鳴とも取れる声色だ。


「……ふむ。口の中なら、電撃も効果があるということか?」


 先ほどはカブトリビュートの身体に電撃を浴びせても、動きを止めることさえできなかったが、今の電撃は確かな手ごたえを感じた。


「シャアアアアアアアッ!!」


 だが、カブトリビュートは依然として健在だ。

 再び振るってくる触手をやり過ごしながら、本堂は思案する。


(奴は植物のマモノだ。仕留めるには斬撃か、あるいは火が必要だ。だが、あの無数の触手を掻い潜りながら懐に潜り込み、斬撃で仕留めるのはいささか骨だな。……やはり北園にはこちらに残ってもらうべきだったか?)


 カブトリビュートの鋭い触手が、真っ直ぐ本堂を狙ってくる。

 それを本堂は、横に半歩ずれることで躱し、逆に触手を切断する。


(……いや。俺はコイツと互角に戦えている。このまま冷静に、慎重に戦闘を進めていけば、自ずと勝利は見えてくる。間違ってはいないはずだ)


 カブトリビュートの中央の花弁が、毒液の塊を吐きつけてきた。

 新しく見る攻撃パターンだが、これも本堂は冷静に避ける。


(……後の問題は、ヤツの異能についてだ。ヤツの毒は、おそらく異能とは関係ない。アレがトリカブト由来のマモノであれば、毒を持っているのは生来のものだ。異能ではない)


 カブトリビュートが、刃のような触手を振り下ろしてきた。

 本堂はそれを躱しつつ、ナイフを振り上げて逆に斬り飛ばしてしまった。床に落ちた触手が、ビチビチと跳ねて、動かなくなった。


 カブトリビュートの触手攻撃は熾烈を極めたが、その全てを本堂は避けきり、逆に斬り落した。その結果、最初は十本以上あった攻撃用の触手が、今では四本程度までに減少している。


(ふむ……。”生命ライフメイカー”の星の牙であれば、触手の再生機能くらいは持っていても不思議ではなさそうだが、となるとコイツは”生命”ではないのか?)


 一方のカブトリビュートは、今度は中央の花弁をすぼめて、毒液を連続噴射してきた。マシンガンのような、小粒の毒液攻撃が本堂を襲う。


「ちっ……」


 カブトリビュートの側面に回り込みながら毒液から逃れる本堂。

 その本堂の行く手を阻むように、触手が本堂の正面から、うなりを上げて襲い掛かってきた。


「おっと……!」


 本堂は上に跳んで、迫ってきた触手を避ける。

 空中で側転でも決めたかのような、アクロバティックな回避だ。


「奴め、触手での攻撃が通用しないと見て、遠距離主体の攻撃に切り替えてきたか? 実際、面倒だ……!」


 そのまま本堂はカブトリビュートの背後へと回り込む。

 しかし、残った触手が背後の本堂を牽制する。

 それも、やたらと正確に。

 カブトリビュートには、どうやら死角が無いらしい。


(さて。電撃はイマイチ、近づくのは億劫、ナイフ投げも対応される……と。どう攻めたものかな、これは。こんな時、いつもなら狭山さんや日向がナイスなアイディアを持ってきてくれるものだが…………ふむ。戦略を考えるのは、意外と難しいな)


 顎に手を当て、思考にふける本堂。

 ……と、その時、視界の端にチラリと、気になるものが映った。


「あれは……コンビニか」


 本堂の言う通り、そこにあったのはコンビニだ。

 アーケード街の一角に埋まるように軒を連ねている。


「ふむ……良いことを思いついたぞ。よし見てろ、頭脳派は狭山さんや日向だけではないということを思い知らせてやる」


 そう言うと、本堂はおもむろにコンビニの中へと入店した。


 コンビニ内は無人だ。すでに店員は避難してしまったのだろう。『いらっしゃいませ』という機械音アナウンスだけが虚しく響く。


 ……そしてその直後、本堂を追って、カブトリビュートの触手が窓をぶち破って侵入してきた。


「お前はいらっしゃらなくていい」


 本堂を捕らえようとする触手を回避しながら、本堂は目的の商品を手に取り、急いでレジまで持っていく。


「釣りはいらんぞ!」


 そう言って五千円札を一枚ポン、と置いて、急いで店内から脱出した。


 持ってきたのは、五本のスプレー殺虫剤だ。

 しかも極めて強力な。


 ちなみに、この殺虫剤はなかなかに高級品で、お値段は一本で1200円ほどする。それが五本で、合計6000円。お会計が足りていないぞ本堂。


 持ってきた殺虫剤に、高周波ナイフで小さく穴をあける。

 そして、カブトリビュート目掛けて殺虫剤をまとめて投げつける。


「そらっ、せいぜい派手な葬式にしてやる……!」


 そう言うと本堂は、投げつけた殺虫剤の一つに電撃を飛ばした。

 電撃は見事に殺虫剤を撃ち抜き、爆発した。

 それに巻き込まれ、周りの殺虫剤も誘爆を起こす。

 カブトリビュートの身体が爆炎に包まれた。


「ギャアアアアアアッ!?」


 カブトリビュートが悲鳴を上げた。

 茎も触手も炎に包まれ、苦しそうにのたうち回っている。


 今すぐトドメを刺してカブトリビュートの息の根を止めてやりたいところだが、刃のような触手がやたらめったらに振り回され、近づくことができない。


「……だがこれは、もはや勝負はついたも同然か?」


 燃え上がるカブトリビュートを眺めながら、本堂は呟いた。



 ……だが、その見通しが甘かったことを、これより思い知らされることとなる。



 カブトリビュートが花弁を膨らませる。

 恐らくは毒液攻撃だろう。


「悪あがきのつもりか。喰らわんぞ」


 そう言って毒液攻撃に備える本堂。

 ……しかし、カブトリビュートが吐き出したのは、紫色の霧だ。

 その霧はモクモクと両者の頭上に立ち上り、あっという間に広がった。

 このアーケード街は天井も高く、二階にまで店が入っている場所も多い。


「この紫色の霧は…………いや、雲か、これは?」


 本堂が言う通り、カブトリビュートが吐き出したのは、どちらかというと『霧』ではなく『雲』だった。……そして、立ち上った紫色の雲から、毒々しい紫色の雨が降り出した。


「これはまさか、毒の雨か!?」


 そう判断するや否や、本堂はすぐさま”迅雷”を使用し、急いで紫色の雲の外を目指し、毒の雨から逃れようとする。


 しかし、降りしきる雨を全て回避するなど、いくらスピードに自信がある本堂だろうと不可能だ。その身にポツポツと毒液を食らってしまった。


 一方のカブトリビュートはといえば、毒の雨を浴びたことで、身体を包んでいた炎をきれいさっぱり消してしまった。


「ぬ……ぐ……!」


 雨から逃れると、本堂はうずくまって腕を押さえ出す。

 毒液を受けた箇所がビリビリと痺れ、力が抜けていくようだ。

 服の上からでも容赦なく染み込んで、本堂の身体を蝕んでくる。


 今はまだ、なんとか身体を動かせるが、あの雨を長時間浴びた暁には、本堂とて動けなくなるだろう。


 だが、これでハッキリと分かった。

 カブトリビュートは”大雨レインストーム”の星の牙だ。

 能力は、『毒の雨を降らせる能力』。


(……ここがアーケード街だから、まだ良かったのかもしれない。もしここが普通の屋外で、あの雲がもっと高いところに立ち上っていたら、周辺の人間にまで被害が及んでいたのでは……)


 ゆっくりと迫ってくるカブトリビュートを見ながら、本堂は思う。

 攻勢守勢は、先ほどと完全に逆転してしまった。


「……だがそれでも、もはやコイツをここから逃がすワケにはいかなくなったな」


 このマモノを放置したら。

 このマモノを好きに暴れさせたら。

 街と人々への被害は、甚大なものになるかもしれない。

 このマモノの、毒の雨の能力によって。


 本堂は懐からケースを取り出し、薬品を注射器にセットする。

 そして、自身の首筋に躊躇ちゅうちょなく打ち込んだ。

 わずかな痛みに顔をしかめる本堂。

 しかしすぐに、毒による痺れが緩和された。

 これでもうしばらくは動けるだろう。



「シャアアアアアアアッ!!」


「さて、どうしたものかな」


 回避不能の毒の雨を引き連れながら、カブトリビュートが迫ってくる。

 ……それでもなお本堂は、実に冷静そのものだった。

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