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第206話 シャオランVSラビパンヘビィ

「イヤああああああ!? イヤああああああああああ!!」


 けたたましい悲鳴をあげながら、シャオランが逃げ回る。その身に纏うは”地の気質”。

 身体能力を大幅に向上させ、身体を鎧のように硬化する砂色のオーラを、今は全力で逃げることに使っている。


「アレ絶対『星の牙』だよぉぉぉ!! みんなもいないのに勝てるワケないよぉぉぉぉ!! 戦ったら絶対痛い目に合うぅぅぅぅぅ!! ヤダぁぁぁぁぁぁ!!」


「キーッ!!」


「わぁぁぁぁぁ!?」


 だが、そのシャオランを追いかけるラビパンヘビィも、相当な走力だ。全力で逃げ回るシャオランに、しっかりと追いついてくる。


「も、もうダメだぁぁぁ!! このまま逃げても、いずれ背中からぶん殴られるうううう!!」


 やがて大通りに出たところで、シャオランは全てを諦めた。

 ……逃げることについての、全てを。


「もうイヤだ! 戦うしかない! 死ぬほどイヤだけど、死ぬよりマシだぁ!!」


 叫びながらシャオランは殴りかかる。

 ラビパンヘビィに向かって、真っ直ぐと。


「キッ!」

「うわぁぁぁっ!?」


 しかしラビパンヘビィは右耳の拳を突き出して、シャオランを牽制する。

 

 シャオランは悲鳴を上げたが、間一髪で拳の直撃を避けた。

 ラビパンヘビィは引き続き、トントンと軽やかなステップを踏み、シャオランの攻撃を警戒している。


「こ、この距離は、ボクの間合いの外だ。距離を詰めないと……いややっぱり詰めたくないなぁ……帰ってくれないかなぁ……」


 そう言いつつも、シャオランはラビパンヘビィの懐に潜り込もうとする。


 しかし、ラビパンヘビィは両耳の拳を振るい、シャオランを近づけさせない。

 シャオランの身長と同じほどの大きさがあるラビパンヘビィの耳拳が、うなりを上げて飛んでくる。シャオランは思わず足を止めてしまう。


「くぅ……これじゃ近づけない……」


 ラビパンヘビィの耳拳は、打撃技としては超絶なリーチを誇っている。シャオランは非常にやりにくそうだ。


 ラビパンヘビィはシャオランの接近を止めると、今度は左の耳拳を素早く、真っ直ぐ、連続で突き出してくる。それはまさしくマシンガンジャブ。


「くっ……!」


 シャオランはその耳拳をガードして凌ぐ。なにせ、自身の背丈と同じくらいの拳が連続して放たれるのだ。ちょっとやそっと動いたくらいでは避けられない。


 ならばいっそ地に足をつけて踏ん張り、受け止めてしまおうというのだ。幸い、”地の練気法”を使ったシャオランならば、このラビパンヘビィのジャブくらいは受け止めきれる耐久力がある。


 シャオランに耳拳を浴びせ続けるラビパンヘビィ。

 しかしシャオランはこれに耐え続ける。

 ラビパンヘビィもしびれを切らし、今度は左耳のストレートを放った。


「い、今だ!」


 シャオランは素早く身を屈め、体全体を使ってラビパンヘビィのストレートを弾いた。ラビパンヘビィは軽く仰け反り、胴体ががら空きになる。


「もらったぁッ!」


 そのチャンスを逃しはしない、と素早く踏み込むシャオラン。

 しかしラビパンヘビィは素早く後退し、右耳のフックで迎撃してきた。


「ひぃ!?」


 重々しい風切り音と共に、ラビパンヘビィの剛拳が飛んでくる。

 素早く身を引いてフックを避けるシャオラン。

 しかし、これでまたラビパンヘビィとの距離を離されてしまった。


「あ、危なかったぁぁぁぁ……絶対殴られたと思ったぁぁぁ……。そ、それより、全然近づけないんだけど!」


 シャオランの流派は八極拳。

 肘や背中を使った、一撃重視の中国拳法。

 その特性ゆえに、至近距離の超近接戦闘を得意とする。

 シャオランは、生粋のインファイターなのだ。


 対してラビパンヘビィの戦闘スタイルは、人間でいうならアウトボクシング。相手のパンチが届かない、遠い間合いを保ちながら戦闘するスタイルだ。フットワークも軽く、耳拳のリーチも長い。シャオランをまったく近づけさせない。


 しかしながらその拳の威力はまさにヘビー級。人間大の拳を軽々と振るってくるのだ。牽制のジャブだろうと、下手に食らえば交通事故さながらの大ダメージを受けることになる。


 近距離VS遠距離の格闘戦。

 にもかかわらず、両者のパワーはほぼ互角。

 シャオランにとっては、圧倒的に分が悪い勝負であった。


「打ち合いじゃ絶対に勝てない……。ヤツの懐に潜り込んで、『火の練気法』の一撃を叩き込むしかない! 潜り込みたくないけど! 今すぐヤツの半径30キロより外に退避したいけど!!」


 わめきながらも、慎重にラビパンヘビィとの距離を測るシャオラン。


 ……だがその時、今度はラビパンヘビィの方から打って出てきた。


「キーッ!!」

「うわぁぁぁ!?」


 慌てて後ろに跳んで、ラビパンヘビィから距離を取るシャオラン。

 先ほどまでシャオランが立っていたその場所に、ラビパンヘビィの右耳拳が振り下ろされ、道路が陥没した。


「キーッ! キーッ! キーッ!!」


「うわぁぁぁ!? わぁぁぁぁ!? わぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ラビパンヘビィのラッシュは続く。

 それを、シャオランは後ろに下がり続けて避ける。


 後ろに下がり続ければ、いずれは壁際に追い詰められる。だがそれでも、横に跳ぶのは駄目だ。

 巨大なラビパンヘビィの拳を横に跳んで避ければ、身体を引っかけられる可能性が高い。避ける際の動きが大きくなるのも難点だ。回避したところを狙い撃ちされるかもしれない。


 やがて建物の壁を背に、追い詰められてしまったシャオラン。

 すると、ラビパンヘビィの右耳拳に、無色透明のエネルギーが集中し始める。


「キィィィィィ……」


「あのエネルギーは……まさか、シンガポールでバオーバッシャーが使った、地震の振動エネルギー……!」


 つまり、ラビパンヘビィは”地震アースクエイク”の星の牙ということだ。


「あ、あんなの喰らったら……死ぬ!」(確信)


 そして、ラビパンヘビィがシャオランに飛びかかった。

 エネルギーを収束させた右耳を振りかぶって。


(あ、あれは間違いなく、ヤツにとっての渾身の一撃。あれを避けて隙を晒すことになっても、二撃目はすぐには飛んでこないはず……!)


 そう判断したシャオランは、身を投げ出すようにして真横に跳躍。

 ラビパンヘビィの右耳は空を切り、その先の建物の外壁に命中。


 瞬間、建物の壁が爆破されたかのように吹き飛び、巨大な風穴が空いた。


「ひぃぃぃぃ!? 人間に食らわせていい攻撃じゃないよぉぉぉぉ!?」


 シャオランの言うとおり、あんな攻撃、生身の人間が喰らえばひとたまりもない。

 泣き喚きつつも、シャオランは素早く体勢を整え、再びラビパンヘビィに向かって構える。


 攻撃を避けられたラビパンヘビィは、再び右耳にエネルギーを集中させ、シャオランにジリジリと近づいてくる。


「ま、またあの強打を使ってくるのか……だったら……はぁぁぁぁッ!!」


 シャオランが大きく息を吐き出す。


 すると、今まで彼が纏っていた砂色のオーラが消え去り、右拳に燃えるような赤色のオーラが集中し始める。”地の気質”から”火の気質”に切り替えたのだ。


(右耳で決めにかかるのが分かっているなら、逆にその攻撃の隙を突いて、この”火の気質”の拳を叩き込めるかも……! けどその間、”地の気質”は解くワケだからボクの防御力は落ちる…………やっぱりやめとこうかな……)


 シャオランとラビパンヘビィは、お互いの間合いを慎重に見定めている。

 ラビパンヘビィは軽やかなフットワークでシャオランの様子を窺い、シャオランはその場でジッと構えてラビパンヘビィを寄せ付けない。


 ラビパンヘビィはトントントン、とステップを踏み、シャオランの右側面に回り込むように移動する。……そして。


「キーッ!」


 右に大きく踏み込んだ瞬間、身体を回転させながら左の耳を振るってきた。フルスイングするかのようなフックがシャオランを襲う。


(……けどこれは、エネルギーを集中させた方の耳じゃない……!)


 このフックを掻い潜っても、本命の右耳に叩き潰される。

 そう判断したシャオランは、左耳のフックを後ろに跳んで避ける。


 フックを避けた隙に接近しようかと、シャオランが一歩踏み込む。

 それを見たラビパンヘビィは、再び素早くシャオランから距離を取った。やはり、そう簡単に近づけさせてはくれないらしい。


 再び互いの間合いの外で睨み合い、膠着状態に入る両者。


 シャオランの”火の気質”を纏った拳と、ラビパンヘビィの『地震の振動エネルギー』を纏った拳。両者の拳が、相手に叩きつけられる瞬間を今か今かと待ちわびている。


 ……その時、ラビパンヘビィが一瞬、足を踏み込んだ。

 ほんの一瞬であったが、シャオランはそれを見逃さない。


(……ヤツが打ってくる!)


 シャオランの予想通り、ラビパンヘビィは一気にシャオランとの距離を詰めてきた。そして、右耳の拳を引き絞る。必殺のストレートの構えだ。


(いける! これならヤツにカウンターを叩き込める! このタイミングなら避けようがない!)


 そう判断したシャオランは、地面を蹴ってラビパンヘビィに飛びかかる。

 流れるような動きで、シャオランはあっという間にラビパンヘビィに肉薄した。そして……。


「せやぁぁぁぁッ!!」


 気合の入った掛け声とともに、”火の気質”を纏った右拳を突き出した。



 ……が、手ごたえは無かった。


「えっ……!?」


 シャオランは驚愕の表情を浮かべる。


 今の一撃は、間違いなく決まるものだと思っていた。そう確信するくらいに、タイミングは完璧だった。


 避けられる可能性があるとしたら、それは、相手が事前にこちらが飛び込んでくることを知っていた場合くらいだ。


 ラビパンヘビィは、シャオランが接近してきたのと同時に後ろに下がり、シャオランの攻撃を避けた。つまり、先ほどの踏み込みはフェイント。右耳の拳はいまだにシャオランを狙って構えている。


 その瞬間、シャオランは悟った。己の失敗を。


『火の練気法』は、攻撃する箇所に赤いオーラを集中させる。それはつまり相手からしてみれば、攻撃に使う部位が丸わかりであるということ。ラビパンヘビィは、最初からシャオランの右拳にだけ注意していればよかったのだ。


 先ほどシャオランは、ラビパンヘビィの右耳に地震のエネルギーが集中していた時、そこだけを注意していればいいと判断した。その攻撃後の隙を突けばいい、と。それと同じことを、ラビパンヘビィは考えていたらしい。


 ……だが、今さら分かったところで、後の祭りだ。



「キーッ!!」

「ひっ……!?」


 ラビパンヘビィの、振動エネルギーが集中した拳が、シャオラン目掛けて飛んでくる。


 シャオランは今、『地の気質』を纏っていない。

 そんな体で、あの一撃を受ければどうなるか。


 咄嗟に”火の気質”を纏った腕を突き出し、ラビパンヘビィの攻撃を受け止めようとするシャオラン。だが……。


「あっぐあぁ!?」


 ラビパンヘビィの耳拳とかち合ったシャオランの右腕から、嫌な音が鳴り響く。


 そのまま、強烈なエネルギーの炸裂と共に、シャオランは吹っ飛ばされる。

 シャオランはその先の建物の壁に叩きつけられ、大きなクレーターを作る形で建物にめり込んだ。


「がはっ……!?」



 壁に叩きつけられたシャオランは、口から血飛沫を吐いて、倒れた。

 ラビパンヘビィは両耳を高らかに掲げ、勝利を宣言したのであった。

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