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第205話 接敵

 マモノが現れた十字市中心街を駆け抜ける日影、北園、本堂、シャオランの四人。空はどんより曇っており、街にはうっすらと灰色の霧がかかっている。


「おるぁッ!!」


 日影が『太陽の牙』を一薙ぎし、目の前にいたラビパンを三体まとめて仕留めた。彼の身体はごうごうと燃え盛っている。オーバードライヴ状態である。


「えーい!!」


 北園が発火能力パイロキネシスを使って、接近してくる植物のマモノ……トライヘッドの群れを焼き払った。


「ガァァァァッ!!」


 その北園の背後からワイバーンが飛来してきて、噛みつこうとしてきた。不意を突かれ、北園は反応が遅れてしまった。


「はっ!!」


 ……しかし、そのワイバーンの横から本堂が飛びかかり、ワイバーンの頭部に電撃の膝蹴りを入れた。


 もともと高い本堂の身体能力が、”迅雷”でさらに強化されている。そのため、高周波ナイフを使わない肉弾戦でも、本堂は高いダメージを叩き出せる。さすがにオーバードライヴ状態の日影や、練気法を使ったシャオランには及ばないが、超人的な運動能力を発揮するのは間違いない。


 本堂の膝蹴りを受け、ワイバーンはバランスを崩して墜落する。

 アスファルトの上に、仰向けになって倒れ込んだ。


「もらったぁぁぁぁッ!!」


 そのワイバーンに向かってシャオランが飛びかかり、『火の気質』を纏わせた拳をワイバーンの心臓に叩き込んだ。凄まじい衝撃と共にワイバーンの身体がUの字に曲がり、その下のアスファルトまで粉々に粉砕してしまった。


「し、仕留めたよ!」


「いやまったく、相変わらずえげつない威力だ。素手でよくやる」


「毎回毎回、すごく怖いんだけどね……って、アレ見て!?」


 そう言ってシャオランが指差した先には、ラビパンの群れがたむろしている。ラビパンの数は相当なものだ。恐らく三十体近くはいるだろう。


「あれなら、北園の発火能力パイロキネシスあたりで殲滅できるだろ。やってくれ」


「りょーかいだよ、日影くん!」


 そう言って北園は大きな火球を作り出し、ラビパンの群れに向かって投げつける。


 しかしラビパンたちは一気に散開し、波のように押し寄せてきた。


「あ、しまった!? 避けられた!」


「ちっ、そう上手くはいかねぇか。……本堂! シャオラン! アイツらを北園に近づけさせるな!」


「承知した」

「わ、分かった!」


 前衛三人がラビパンの群れへと突っ込んでいく。


 日影の『太陽の牙』がラビパンたちを薙ぎ払い、本堂の高周波ナイフが首をはね、シャオランの拳が吹っ飛ばす。特にシャオランが大活躍だ。ラビパンたちの拳を自慢の防御力で受け止め、確実に返り討ちにしていく。


 やがてラビパンの群れは旗色の悪さを感じ取ったか、一斉に逃げ出してしまった。


「あっ、こら! 待てーっ!」


「あ、おい!? シャオラン!?」


 逃げたラビパンの群れを追って、シャオランが走り去ってしまった。楽に勝てていたこともあり、調子に乗ってしまっているのかもしれない。


「世話が焼けるが、一人で突っ走るのはマズい! 追いかけるぞ!」


「ま、待って日影くん! あっちを見て!」


 一方の北園が指差した先には、トライヘッドやダンガンオオカブトの徒党に襲われている人々がいる。こちらもかなりの規模だ。それに、足を怪我して動けない怪我人もいるようだ。


「クソっ、これじゃシャオランどころじゃねぇ……! あの怪我人を助けるためにも、三人で一気に突破する必要があるぞ……!」


「致し方ない。ここはもうシャオランの無事を祈って、俺たちはあの怪我人を助けよう」


「それしかねぇか! 行くぜ、北園!」


「う、うん。シャオランくんも何だかんだで強いし、きっと大丈夫だよね……!」



 その頃のシャオランは。


「やぁぁぁぁッ!」

「キーッ」


 強烈な回し蹴りで、文字通りラビパンたちを蹴散らした。

 逃げたラビパンをさんざん追いかけ回し、とうとう全滅させてしまった。


「よ、よし! ついにボクが、マモノの群れを全滅させたぞ! いやぁ、成長したなぁボク! これで最低限仕事はしたし、あとは少しくらいみんなに任せても、いいよね?」


 どうやらシャオランは、手ごろなマモノで功績を立てて、凶悪なマモノを他に押し付ける口実が欲しかったらしい。まだまだ、彼の臆病は治りそうにないようだ。


「……あれ? みんなは? そういえばここ、どこ……?」


 オマケに、どうやらシャオランはラビパンを追うのに夢中で、周りがよく見えていなかったらしい。他の仲間たちもついて来ているものだと思い込んでいたようだ。


「し、しまったぁぁぁぁ!? い、急いで戻らないと!」


 ……だがその時。

 不意に巨大な影がズシン、とシャオランの背後に着地した。


「…………え?」


 振り返るシャオラン。そこに立っているのは一体のマモノ。


 その立ち姿は巨大なラビパン、といったところか。

 身長が2メートル以上あるが。


 先端が拳となっている両耳は途中で折れ曲がって、両拳を地面につけているような状態となっている。その威容は、まさしくラビパンのボスといったところだ。


 このマモノの名前は『ラビパンヘビィ』。

 ラビパンたちを従える『星の牙』だ。


「キィィィィィ……!」


「……あわ、あわわわ、あわわわわわわわ……」


 ラビパンヘビィの瞳は、仲間を倒された怒りで燃えている。

 そしてシャオランは、己の軽率な行動がこのような窮地を招いてしまったことを、心から後悔した。




◆     ◆     ◆



 一方、こちらは日影たち三人。


 次々と現れるマモノを倒していくうちに、シャオランと別れた場所から随分と離れてしまった。今は広々としたアーケード街を駆け抜けている。


「シャオランくん、大丈夫かな……」


「シャオランは強い。雑魚相手ならまず負けないだろう。しかし問題は、単独で『星の牙』に遭遇してしまった時だな」


「そうだな……うん? おい、あそこを見ろ!」


 日影が指差した先には、倒れている人々の姿がある。彼らはみな怪我をしており、ぐったりとしているが、まだ息はあるようだ。


 北園はその中の女性の一人に駆け寄り、彼女の脚を治す……が、女性はまだ苦しそうな表情を浮かべている。顔色がひどい。


「ど、どうして? まだ他にも傷が……?」


「いや、これはおそらく毒じゃないか? 傷を治しても体調が快復しないこの様子は、北園がグラスホーンを治した時とよく似ている」


 そう言って本堂は、女性の容態を診始みはじめる。


 足に付着した女性の血に毒判別機を当てて、どの種類の毒が彼女を蝕んでいるのかを調べる。そしてその正体を掴むと、懐からケースを取り出し、薬を注射器にセットした。


「チクリとするぞ。耐えろ」


「は……はい。……んっ……」


 女性の腕に注射器の針を刺す。

 女性の顔色が、少しばかり良くなった。


「あ、ありがとうございます……」


「ああ。だが、あなたの毒がきれいさっぱり消えたワケじゃない。あなたを蝕んでいた毒はアコニチンと言う。これは元々有効な特効薬や解毒薬が存在しない毒だ。それでも、今打ち込んだ薬で症状を緩和したから、今のうちに頑張って安全な場所へ逃げてくれ。ちなみにアコニチンは、解毒薬は存在しないが自然回復で治せる。安全圏に辿り着いたら安静にしておくように」


「わ、分かりました……」


「よし、他の者も助けるぞ。手を貸せ、北園」


「りょーかいです!」


 北園が怪我を治療し、本堂が抗毒薬を打ち込む。

 数分もすると、毒にやられた人々はみな、自力で歩けるくらいには回復した。


「ありがとうございます! これでなんとか助かりそうです……!」


「構わん。ところであなた方は、いったいどのようなマモノにやられたんだ? 毒を持つようなマモノは、ここまで見てきたマモノの中にはいないはず……」


「それは、巨大な植物のような…………ああ!?」


 本堂の質問を受けていた女性が悲鳴を上げる。

 その視線の先には、植物の茎が絡まり合ったような巨大な植物のマモノがいた。


 主軸の茎を中心に、至る所から側軸が伸びている。それらはまるで触手のように太く、至る所にいばらのような棘が生えており、先端は刃物のように鋭い。その触手を使って、植物のマモノは這いずりながら移動しているようだ。


 主軸の茎の先端には、ひときわ大きな紫色の花弁が咲いている。

 その花弁が本堂たちの方を向き、開く。

 花弁の内側には無数の牙が生えていた。毒液混じりの唾液を垂らしている。


 この威圧感プレッシャーから察するに、まず間違いなく『星の牙』だろう。


「シャアアアアアアアッ!!」


「……また初めて見るマモノだな。この見た目はトリカブトか? 患者の身体から検出された毒は、トリカブトが持つ毒の一つであるアコニチンだったから、可能性は高いか」


「新種のマモノなら名前が必要だな。『カブトリビュート』とでも呼んでおこうぜ」


「とにかく、皆で戦おう! 他の人たちは逃げて!」


 ……だがその時、カブトリビュートが立ちはだかる方向とは別の場所から、大きな破壊音と、人々の悲鳴が聞こえた。強力なマモノが暴れまわっているような様子である。


「ちぃっ、あっちこっちで暴れ過ぎだぜ! 手が足りやしねぇ!」


「ふむ……。日影、北園。お前たちは向こうで暴れているらしいマモノを頼む。カブトリビュートは俺が相手をしよう」


「だ、大丈夫なの本堂さん!? 私の発火能力パイロキネシスも、日影くんの『太陽の牙』も無しで戦う気!?」


「ああ。植物のマモノには斬撃が有効なのだろう? なら、アレは俺でも勝機はある。それより、向こうの人々が危険だ。助けてやれ」


「もう迷ってる暇はねぇな……! いくぞ北園!」


「う、うん! 気を付けてね、本堂さん!」


「ああ」


 北園と日影、そして助けた人々を見送る本堂。

 それが終わると、ゆっくりとカブトリビュートの方に向き直った。


「シャアアアアアアアッ!!」


「さて、人々に毒を振りまく悪性腫瘍あくせいしゅようめ。この世から切除してやるから覚悟しろ」



◆     ◆     ◆



 本堂を残し、マモノが暴れているであろう場所に駆け付けた北園と日影。


 辿り着いた場所は、十字市で最も大きな駅、十字駅の正面広場だ。そこでは、巨大な青い鳥のマモノが暴れまわっていた。


「ケェェェェェン!!」


 猛禽類特有のけたたましい鳴き声がこだまする。


 その鳥のマモノは、羽根を広げれば電車一両分に匹敵するほどの横幅があり、蹴爪は普通自動車を掴み上げてしまいそうなほど大きい。まさに巨鳥と呼ぶにふさわしい貫禄がある。


「うわ、大きな鳥!? タカかな……?」


「……へぇ。アイツは確か……」


「知ってるの? 日影くん」


「見たことはある。オレがお前らと出会う前、オレはアイツに中国へと落とされたんだ。その後で調べて分かったが、アイツの名前は『フレスベルグ』っていうらしい。アレがあの時と同じ個体かは分からねぇが……。ちなみにアレはタカじゃなくてワシだ。」


 と、その時、フレスベルグが二人に気付いた。

 そして、ふわりと飛び上がり、二人の元へと飛来してきた。


「わ!? ぱ、発火能力パイロキネシス!」


 北園が火球を発射するが、フレスベルグはそれをヒラリとかわす。

 そして、その鋭い蹴爪で日影に掴みかかった。


「ぐっ!?」

「あ、日影くん!?」


 そしてフレスベルグは日影を掴んだまま、上空へと飛んで行ってしまった。


「きっと、日影くんを私から分断して、一人ずつ仕留めるつもりなんだ……! 私も空中浮遊で後を追いかけないと!」


 そう言って空中浮遊の準備を始める北園。

 ……しかし、その北園の九時の方向から、また別の何かが飛来してきた。


「な、何あれ……?」


 それは、言ってしまえば巨大なチョウチョのマモノだ。下手な家より大きな体躯を持っている。……いや、身体そのものは家ほど大きくはない。背中に生えている大きな羽が、体躯を巨大に見せているのだ。


 そしてその羽は、艶のある真っ黒な色彩に包まれている。

 まるで黒曜石のような、引き込まれる黒色だ。


 このマモノは、マモノ対策室のデータにあるマモノだ。

 名前を『アグニスモルフォ』という……のだが。


「うう……あのマモノ、まだ調べたことがない……。どんな能力を持ってるんだっけ……」


 北園はどうやら、あのマモノについてよく分かっていないようだ。強力な『星の牙』を相手に、事前知識が無いのは大きな痛手である。


「……けど、ここで日影くんを追いかけても、フレスベルグと挟み撃ちにされる……。このマモノは、ここで倒さないと!」


 そう言って北園が構えたのを見て、アグニスモルフォも戦闘態勢を取った。大きく羽を開き、黒い鱗粉が周囲に撒き散らされた。



◆     ◆     ◆



 そしてこちらは日影とフレスベルグ。

 フレスベルグは日影を掴み上げ、ビルの真上まで浮上した。


「コイツのこの脚の傷……オレが前につけてやったのと同じ……つまり、やっぱコイツはあの時の……!」


「ケェェン!!」


「うおっ!?」


 するとフレスベルグは、掴んでいた日影を放り投げてしまった。


 落下する先はビルの屋上だが、そこからすでに数十メートルもの落差がある。まともに叩きつけられたら無事では済まない。


「ちっ……再生の炎、”力を此処に(オーバードライヴ)”ッ!!」


 声と共に、日影がその身体に炎を宿す。

 そして空中で受け身を取り、ビルの屋上へと着地した。

 オーバードライヴにより跳ね上がった身体能力が、高高度からの着地を可能とさせた。


 日影を仕留め損ねたフレスベルグは、再び彼の元へと飛来する。


「ケェェェェェン!!」

「『お前を仕留めるのはこの俺だ』ってか? いいぜ、あの時の決着を付けるとするか!」


 言い終わるや否や、日影はフレスベルグに斬りかかった。




 別の場所では、日向もロードキラーと戦っている。

 予知夢の五人と『星の牙』。

 強大な怪物と、異能を持った人間による一対一タイマンが幕を開けた。

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