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第191話 逆転の一手

 六尾の狐となってパワーアップしたフウビ。

 そのフウビに対して、まだ対抗する手立てはある、と狭山は言う。

 彼の考えを聞くために、まずはフウビの攻撃を凌がなければならない。


 フウビが身体に風の渦を纏い始める。


「や、ヤバい、いきなりあの突進だ! 北園さんのバリアーでも受けきれないのに、どうやって凌ぐ……!?」


 焦りの表情を見せる日向。

 このままでは、狭山の考えを聞く前に蹴散らされてしまう。

 ……と、ここでシャオランが前に出た。


「こ、怖いけど、仕方ない! ……はぁぁぁぁッ!!」


 シャオランが全身に力を籠めると、身体から砂色のオーラが湧き上がった。

 いつもより色が濃いように見える。それだけ”地の気質”を集中させているのだろう。


「コォンッ!!」


 フウビが、目の前のシャオランにジェット突進を仕掛けてきた。

 それをシャオランは、真正面から受け止めた。


「くぅぅぅぅッ!!」


 シャオランは後ろへ大きく押されながらも、フウビを完全に止めてみせた。シャオランとフウビ、両者は取っ組み合ったまま膠着状態に入る。


「さ、さっきは面食らってやられたけど、そういう攻撃が来ると分かっていれば、防御のタイミングを合わせて受け止めることくらい……!」


「す……すげぇ……。やっぱシャオランって超人だわ……」


『うん。今のは自分も驚かされた。けど、シャオランくんの言う通りだ。フウビのジェット突進は確かにとんでもないスピードだが、まずは身体に風の渦を纏う必要があるらしい。つまり、使用してくるタイミングはある程度計れるということ。そしてそれこそが、フウビを撃破するためのポイントになる』


 そして狭山は、シャオランがフウビを抑えている間に、五人に作戦を説明した。五人もまた、狭山の考えを即座に理解し、行動に移る。

 少し前まで普通の社会で普通に生活していた若者たちが、ここまで戦闘への適応力を見せるのも、今まで積み重ねてきた戦いの経験あってのものだろう。


「えいっ!」


 まずは、北園が電撃能力ボルテージでフウビに攻撃を仕掛ける。

 狭山曰く、”暴風”の星の牙は、電撃に弱い者が多いらしい。

 フウビはまだ、シャオランとの取っ組み合いを続けている最中だ。


「コンッ!」


 フウビは北園の電撃を見ると、素早くシャオランから身を引いて電撃を避けた。そしてそのまま、北園に風の砲弾で反撃しようとする。


「させるかよッ!」

「喰らえ……!」


 しかし、フウビが風の砲弾を撃つより早く、日影と本堂がフウビに攻撃を仕掛けた。日影が『太陽の牙』を振り下ろし、本堂は電撃を流した高周波ナイフで斬りかかる。


 フウビは素早く跳んで二人の攻撃も避けた。

 だが、その避けた先には日向とシャオランが待ち構えている。

 フウビは二人から攻撃を受けないよう、警戒の目を向ける。


 そこに日影と本堂も合流。

 四人がフウビを取り囲む形となった。

 そして、その囲いの外側に北園がいる。


「えいっ!」


 北園が両手から稲妻を撃ち出す。

 フウビがそれを避ける。

 避けたその先に日向が待ち構えている。


「コンッ!」

「うわっと!?」


 フウビは、後ろ足で素早く日向を蹴り上げた。

 日向は『太陽の牙』の腹で、何とかその蹴り上げを受け流す。


「そらっ!」


 体勢を崩しながらも、日向がフウビに横斬りを繰り出す。


『太陽の牙』による一撃は、どれだけ軽くても『星の牙』にとっては致命傷になりうる。苦し紛れの横斬りだろうと、フウビはそれを喰らうワケにはいかない。素早く跳んで日向の攻撃を避け、再び囲いの内側に戻る形となった。


「えいっ!」


 再び北園が電撃を放つ。

 フウビがそれを避けると、再びその先にいる仲間が、やって来たフウビに攻撃を仕掛ける。


『いいぞ。その調子でフウビをかく乱し続けるんだ』


「簡単に言ってくれるけどよ、この素早いキツネを逃がさないってだけでも相当キツイぜ! よくもまぁこんな作戦考案しやがって!」


「コンッ!」


「うおっとぉ!? スイゲツか!?」


『それと日影くんは、その位置からだと、入り口を塞いでいるスイゲツがちょっかいをかけにくるだろうから、他のみんなの二倍は頑張らないといけない』


「はよ言え!!」


 日影が『太陽の牙』を振るってスイゲツを追い払う。

 ……と、そこへさらにフウビも、北園の電撃を避けて、こちらへとやって来た。


「おらッ、戻れ!」

「コンッ!?」


 フウビにも『太陽の牙』で斬りかかり、再び囲いの内側へと戻す。

 戻ってきたフウビに、北園がまた電撃を放つ。


「フゥゥゥゥゥ……!」


 フウビも分かってきた。

 この陣形において、もっとも厄介なのは北園だ。

 北園は、フウビが苦手とする電撃をちょくちょく撃ち込んできて、休む暇を与えない。


 彼女の電撃さえなければ、フウビは力を溜めて風を纏い、その風を一気に開放することで、衝撃波のように周りの四人を薙ぎ払うことだってできる。だから、北園が邪魔だ。


 フウビが身を低くして、風を身に纏い始める。

 この動作は、ジェット突進の構えだ。狙いは北園。

 もはや多少の痛手を受けてでも、まずはこの囲いを突破して、北園を仕留めにかかるつもりなのだろう。


「ジェット突進だ! 北園さん、突進が来るぞ!」

「その前に一発入れてみるか……!」


 本堂が地面に手をつき、濡れた地面に電撃を走らせる。

 電撃はフウビの足元へと到達し、その身体を包み込む。

 フウビは苦悶の表情を浮かべるが、もはや攻撃の手は止めない。


「コォンッ!!」


 フウビが北園に向かってジェット突進を仕掛けてきた。

 軌道線上にいた本堂が、ギリギリのところで突進を避ける。

 フウビはそのまま、北園に向かって真っ直ぐ突っ込む。


 北園は、その場から動けない。




 ……否。動かないのだ。


「この時を待ってたよ!!」


 北園は素早く地面に手をつき、両手から冷気を放出する。

 瞬間、足元の水たまりから巨大な氷柱つららが飛び出し、その鋭い先端がフウビに向かって襲い掛かった。


「コォンッ!?」

「きゃっ……!?」


 巨大氷柱の槍衾やりぶすまに、フウビは真正面から激突した。

 フウビの突進を受けた氷柱が、爆発したかのように砕け散る。

 フウビの突進の勢いはなおも衰えず、その先の北園をはね飛ばした。


 しかし、氷柱に激突したことで突進の威力も削がれていたのだろう。北園は素早く起き上がって、仲間たちの元へと走っていった。


「やったよ! 作戦成功だよ!」


『よくやってくれた、北園さん! 今のは相当なダメージになったはずだ!』


 これが、狭山が考えた対抗策だ。


 確かにジェット突進は凄まじく速く、そして威力も高い。しかし、事前に分かりやすい予備動作が入る上に、どうやら一直線にしか突撃できないらしい。恐らくは、あまりの速さにフウビ自身も突進のコントロールが効かないのだろう。


 ……ならば、待ち構えてしまえばよいのだ。


 北園が電撃攻撃を続けたことで、北園はフウビの注意を引き付けた。

 そして、フウビがしびれを切らして突っ込んできたところを、迎え撃つ。


 結果、フウビは頑丈な氷柱に自ら突進し、逆に大ダメージを受けた。

 フウビもまた『星の牙』ゆえ、その生命力は並大抵のものではないが、それでもかなりの痛手を負ったはずだ。その証拠に、身体がふらついている。


 この作戦の懸念点はただ一つ。フウビが北園の氷柱に突っ込んでも、氷柱をものともせずに突破し、北園を蹴散らしてしまうかどうか、だった。


 だが、この雨の中で北園の凍結能力フリージングは強化されている。そこにフウビ自身の耐久力を予測し、照らし合わせた結果、間違いなく成功するだろうと踏んだ。だから狭山はこの作戦を五人に提案した。


「間違いなく成功すると踏んだんですか? じゃあなんで成功率六割とかいう微妙な数値に設定したんです?」


 日向が狭山に疑問をぶつける。


『いやぁ、こういう緊迫したシチュエーションは、今まであまり見なかったからね。君たちがこういう場面でも絶望せずに立ち向かうことができるか、ちょっと見てみたかったんだ』


「どおりで作戦を提案する時、妙にノリが軽いような気がしてたんですよ……。『嘘をつかない』の信条はどこに行ったんですか」


『人生とは厳しいものでね。時には己の信念を曲げる選択を迫られることもあるんだ……』


「その忠言にケチはつけませんが、少なくとも信念を曲げるのは今じゃなくても良かったですよね!?」


『それに、あまり高い成功率に設定すると、逆に君たちが油断してしまうんじゃないかな、と思ったというのもある。……とはいえ、たとえ自分が100パーセント成功すると言っても、君たちは油断なく、間違いなく成功させたと信じているけどね』


「うーん……きっとその言葉は本心なんでしょうけど、先ほどのおこないのせいで信用できない……」


『おおぉう……。やっぱり嘘はつくものじゃないね。反省』


 さて、いよいよフウビを追い詰める時だ。

 まずは、日向と本堂が背後にいるスイゲツを牽制する。

 フウビと戦っている最中に割り込まれたら厄介だからだ。


「これでもくらえっ!」


「コンッ」


「二人掛かりでも攻撃を当てられんか。やはり素早いな……」


 日向と本堂を同時に相手取りながら、スイゲツは両名の攻撃をかすりもせず躱してみせる。


 だが、フウビとの距離は確実に開いていっている。

 その間に、残りの三人がフウビに総攻撃を仕掛ける手はずだ。


「コンッ!!」


 フウビが風の砲弾を撃ち出した。

 狙いは日影だ。猛スピードで、真っ直ぐ日影へと迫ってくる。


「おるぁッ!!」


 それに対して、日影は『太陽の牙』を投げつけた。


 日影の鍛え抜かれた右腕から投げ放たれた剣は、風を斬りながら一直線に飛んで行き、フウビの風の砲弾を打ち消しながら、フウビの胸へと突き刺さった。


「コンッ!?」


 フウビの胸から血が噴き出す。

 そして、フウビが怯んだ隙に、今度は北園が電撃能力ボルテージを仕掛ける。


「やぁぁぁーっ!!」

「コォン……ッ」


 電撃は、フウビの身体に直撃した。

 強烈な稲妻を受け、フウビの身体が痙攣する。麻痺を起こしたか。


「今だ、シャオラン!」

「う、うん! はぁぁぁ……ッ!」


 それを見たシャオランが、一気にフウビへと接近する。

 拳に宿すは、赤々とたぎる”火の気質”。

 フウビはシャオランの接近に感づくも、身体が動かない。


 シャオランが震脚を踏む。

 ちょうど、その足元に水たまりがあった。


 踏みつけられた水たまりは、シャオランの頭より高いところまで水しぶきを上げた。それほどまでに、シャオランの震脚は力強かった。


「……せやぁぁぁぁぁッ!!!」


 そして、シャオランの赤い拳が、フウビの身体へと叩きつけられた。


 フウビが、口から大量の血を吐いた。

 燃えるような波動がフウビの身体を、突風のように突き抜けていった。



「グ……コォ……ン……」


 フウビはもう虫の息だ。

 足取りはふらふらとしておぼつかない。今にも倒れてしまいそうだ。


「コォンッ!!」

「あ、くそ! スイゲツが!」


 三人の後ろから日向の声が聞こえた。

 と、同時にスイゲツが三人の間を掻い潜り、フウビへと走り寄った。


「コォン! コォーン!」

「コォーン……」


 フウビとスイゲツが向かい合い、なにやら鳴き声を交わしている。何かを話し合っているのだろうか。


 その一方で、五人も通信機で狭山の声に耳を傾けている。


『よし、これでフウビは弱りきった。あとはスイゲツだ。五人で一斉に攻撃したら、さすがのスイゲツも無傷とはいかないだろう』


 狭山の作戦では、フウビとスイゲツは同時に倒す予定だ。


 先ほど、ライコは死に際に、フウビに己の『星の力』を託した。そして、きっとフウビもスイゲツに対してそうするだろう。そうなれば、スイゲツはライコやフウビを越えてパワーアップしてしまう。


 ならば、力を託そうなどと考えないよう、仕留めきる一歩手前でフウビを生かし、スイゲツと同時に倒してしまおうという作戦だ。


「……あ、待って! フウビが何か仕掛けてくる!」


 北園が声を上げる。

 フウビは力を振り絞って立ち上がり、口元に風を凝縮させている。

 そして……。


「コォーンッ!!」


 ……竜巻状の風の奔流を撃ち出してきた。

 社へと伸びる石畳を剥がしながら、暴風が五人へと迫る。


「させないよっ! バリアーっ!!」


 北園が仲間たちの前へ出て、念動力サイコキネシスのバリアーを張った。そして、恐ろしい勢いで迫る竜巻を受け止める。


 北園の小さな身体がズザザザザ、とバリアーごと押し流されていく。

 それでも北園は必死にバリアーを維持している。

 やがて竜巻は消滅し、北園は仲間たちを守り切った。


「ふぅ……危なかった……」


「だいぶ押し流されたけど、北園さんのおかげで助かったよ」


「……あ、ちょっと待って! あれを見て!」


 シャオランが声を上げ、指を刺した。

 その指の先には、スイゲツに己の『星の力』を分け与えるフウビの姿があった。


「やばい! 止めないと!」


 ……しかし五人はフウビの風に押し流され、随分と距離を離された。今からでは、北園が遠距離攻撃を仕掛けようと、間に合いそうにない。


『先ほどのフウビの風攻撃は、これが狙いだったのか……! しかし、そうするとフウビが……!』


 フウビは今、尋常ではない深手を負っている。それこそ、『星の牙』となって生命力を底上げしているからこそ、耐えられるほどの深手だ。それが、星の力を捨て、元のキツネに戻ろうものなら……。


『フウビは、己の命を捨ててでも、娘に後を託したというのか……!』


 やがてフウビは、スイゲツに力の全てを分け与え終えた。フウビの身体から煙が立ち上り、大きかった体躯がどんどん縮んでいく。


 フウビの毛色も、薄緑から金色へと戻っていく。

 そして、やがて小さな、血まみれのキツネとなった。


 血に汚れた金色のキツネは、最後に娘を一目見ると、パタリと倒れた。

 吹き荒れていた風が、ピタリと止んだ。


 スイゲツの身体が震え始める。

 そして、その体躯がどんどん大きくなり始めた。


 スイゲツの身体は、あっという間に六尾だったフウビの大きさを越えて、ちょっとした小型トラックくらいの体格に変化した。キツネとして見れば、異常極まりない大きさである。


 そして、三本だった水色の尻尾は、今は九本に枝分かれしている。

 スイゲツは両親の力を譲り受け、水色の九尾の狐と化した。


「コォォォォーン……!!」



 スイゲツが一声鳴くと、シトシトと降っていた雨が、凄まじい豪雨へと変化した。まるで、母の死に涙しているかのように。

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